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アイボルト JIS B 1168 の使用荷重と使い方——45度づりの条件、ねじ込み、受入の確認

この記事のポイント(結論先出し)
アイボルトの JIS B 1168 は、機械器具類のつり上げなど一般の荷役に使うアイボルトについて、使用荷重を「1 個による垂直づり」と「2 個による 45 度づり」の二つだけ定めている[1]。2 個で 45 度につる場合の使用荷重は、同じねじの呼びの 1 個の垂直づりと同じ数値で、しかも座面が相手と密着し、2 個のリングの向きが同じ平面内にあるときに限って適用される[1]。それ以外のつり方(リングの向きに直角な横引き、45 度を超える角度など)の使用荷重は、この規格からは出てこない。保証荷重は使用荷重の 3 倍で、表のねじ長さは、相手のめねじが鋳鉄か鋼のときに適用する寸法である[1]。発注では規格番号とねじの呼びに加えて、めっきの要否ともろさ除去の扱いを書き、受入では保証荷重・硬さ・寸法・ねじ・表面の検査を確かめる。つり上げの作業そのものは、クレーン等安全規則と玉掛け作業のガイドラインの範囲で行う[2][3]。
目次
アイボルトを「M12 の JIS 品」で手配するときに、決まっていないこと
アイボルトは、機械や装置、金型などに付けてクレーンでつり上げるための部品で、製品の出荷や据付け、保守のたびに使われる。部品としては単純に見えるので、「M12 アイボルト JIS 品」と書いて手配されることが多い。だが、アイボルトが安全に使えるかどうかは、アイボルトそのものの強度だけでなく、どの向きに、何個で、どんな角度で荷重をかけるか、相手側のめねじが何でできているか、座面がどう当たるかで決まる。JIS B 1168 の使用荷重は、その条件を限定したうえでの値である[1]。
購買の担当者が押さえたいのは三つある。一つは、規格が使用荷重をどの条件で与えているか。二つ目は、発注書で何を指定すればよいか。三つ目は、受け取ったアイボルトの何を確かめればよいかである。つり上げの作業の決まりは労働安全衛生の法令とガイドラインにあり、部品の規格とは別に守る必要がある。
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JIS B 1168 が定める使用荷重と、その条件
JIS B 1168 の適用範囲は、機械器具類のつり上げなど一般の荷役に用いるアイボルトである[1]。最新改正は 1994 年 3 月 1 日で、2024 年 10 月 21 日に確認されている[1]。規格は、ボルト 1 個による垂直づりと、2 個による 45 度づりの使用荷重を付表 1 で定め、45 度づりの値は「ざぐりなどを施しボルトの座面が相手と密着し、2 個のボルトのリングの向きが同一平面内にあるときの使用荷重」だと注記している[1]。
付表 1 の値から三つのねじの呼びを抜き出すと、次のとおりである。
| ねじの呼び | 垂直づり(1 個)の使用荷重 | 45 度づり(2 個につき)の使用荷重 | 保証荷重(1 個) | ねじ長さ l |
|---|---|---|---|---|
| M12 | 2.16 kN | 2.16 kN | 6.47 kN | 22 mm |
| M16 | 4.41 kN | 4.41 kN | 13.24 kN | 27 mm |
| M20 | 6.18 kN | 6.18 kN | 18.54 kN | 30 mm |
表の値はいずれも JIS B 1168 の付表 1 と表 1 による[1]。ほかのねじの呼び(M8〜M100×6)の値は規格の付表 1 で確かめる。ここで読み取ってほしいことが三つある。
2 個で 45 度につると、1 個あたりは半分になる
45 度づりの使用荷重は「2 個につき」の値で、数値は 1 個の垂直づりと同じである[1]。M12 なら、2 個のアイボルトで 45 度につったときに 2 個合わせて 2.16 kN まで、ということになる。1 個あたりに直せば、垂直づりの半分しか荷重をかけられない。「1 個で 2.16 kN だから、2 個なら 4.32 kN まで」と足し算してはいけない。荷の質量に直すと、2.16 kN はおよそ 220 kg(2.16 kN を重力加速度 9.8 m/s² で割った計算値)で、M12 を 2 個使って 45 度でつれるのは、この質量までである。
45 度づりの値には、座面とリングの向きの条件が付いている
45 度づりの値は、座面が相手と密着していること、2 個のリングの向きが同一平面内にあることを前提にしている[1]。規格がざぐりなどで座面を密着させることを条件に書いている以上、45 度づりの値を使えるかどうかは、取り付け側の部品の設計(座面の平らさと大きさ、ざぐり)と一体で決まる。座面が浮いた取付けで 45 度づりの値を使う根拠は、規格にはない。リングの向きが荷重の方向とずれている場合、つまりリングの面に直角な向きに引く場合の使用荷重は、規格に書かれていない。
規格に書かれていない条件の使用荷重は、規格からは出てこない
JIS B 1168 が使用荷重を与えているのは、1 個の垂直づりと、上の条件を満たす 2 個の 45 度づりの二つだけである[1]。3 個・4 個でつる場合、45 度より寝た角度でつる場合、リングの向きがそろわない場合の値は、規格の表を読み替えて作ることはできない。そうしたつり方が必要な製品では、設計の段階で、つり具の構成(つり金具の種類、つり位置、つり角度)を決め、その条件での強度の根拠を設計者が示すことになる。メーカーのカタログにある角度ごとの値を、出典と条件を確かめずに一般値として図面や作業標準に書き写さない。カタログの値はそのメーカーの製品と試験条件を前提にしたものである。
保証荷重・材料・ねじ込みの寸法
JIS B 1168 は、ボルトを規定の方法で試験したとき、表 1 の保証荷重以下で破断したり、リングの部分に 0.5 % 以上の永久変形が生じたりしてはならないとし、保証荷重は使用荷重の 3 倍だと注記している[1]。保証荷重の試験は、めねじを切った取付け具にボルトを付け、リングに直径 1.5 d(d はねじの呼び径)の支え棒を入れて軸方向に引っ張り、保証荷重を 15 秒間加えるものである[1]。つまり保証荷重は、垂直に引いたときの値として確かめられている。
材料は SS400(JIS G 3101)又は S17C・S20C(JIS G 4051)で、SS400 はキルド鋼とし、とりべ分析で P 0.040 % 以下・S 0.045 % 以下のものとする注が付いている。そのうえで、鍛造で成形した後に 870〜920 ℃ で焼ならしを施してから機械加工を行うと定めている[1]。硬さは 62 HRB〜88 HRB である[1]。焼入焼戻しで硬さを上げた部品ではなく、焼ならした鋼で作る部品である。
ねじ込みについて、付表 1 の備考は、表のねじ長さ l は、アイボルトを取り付けるめねじの部分が鋳鉄又は鋼である場合に適用する寸法だとしている[1]。相手のめねじがアルミニウム合金や樹脂のインサートなど、鋳鉄や鋼以外の材料の場合は、この寸法をそのまま当てはめる根拠が規格にはない。そうした部品にアイボルトを付けるなら、めねじの強度を設計で確かめるか、ねじインサートを使うなどの手当てを図面で指定する。ねじ穴とインサートの指定はねじ穴とインサートの図面指示と受入で扱っている。
ねじは M8〜M64 がメートル並目ねじで公差は 6g 又は 2 級、めっきを施したねじの最大許容寸法は 4h 又は 1 級おねじの最大許容寸法とするとしている[1]。溶融めっきを施したねじの精度は、受渡当事者間の協定による[1]。ねじの公差域クラスの読み方はねじの公差域クラスの指定にまとめた。JIS B 1168 は締付けトルクを規定しておらず、45 度づりの値は座面が相手と密着していることを条件にしている[1]。取付けの管理(座面の密着をどう確かめるか、トルクを決めるか)は、製品の設計と作業標準で決めることになる。ボルトの締付けトルクの決め方はボルトの締付けトルクの決め方で扱っている。
めっきを指定するなら、もろさ除去まで書く
JIS B 1168 は、ボルトの表面を、機械加工を施した部分を除いて鍛造はだのまま又はショットブラストを施した状態とし、めっきその他の表面処理を必要とする場合は指定すると定めている[1]。そのうえで、電気めっきを施したものは、原則としてもろさ除去の処理を行うとしている[1]。製品の呼び方の例では、指定事項として「JIS H 8610 に規定する 2 種の 2 級」を示す記号が使われている[1]。ただし、1999 年に改正された現行の JIS H 8610(電気亜鉛めっき)は、めっきの等級を最小厚さによって 1 級〜 6 級の 6 等級に分け、記号は JIS H 0404 によるとしている[5]。1994 年の規格の例をそのまま写しても、今の規格の記号にはならない。めっきは現行の規格の等級と記号で指定する。
締結用部品の電気めっきを定める JIS B 1044(2024 年改正)は、水素ぜい化(めっきの工程で鋼に入った水素による割れ)の防止策を硬さ別に示しているが、その表は焼入焼戻しを施した締結用部品を対象にしたものである[4]。焼ならしで作る JIS B 1168 のアイボルトに、その硬さ別の区分をそのまま当てはめてもよいかは、規格どうしの関係からは読み取れない。JIS B 1168 自身が原則としてもろさ除去を行うと書いている以上、めっきを指定するときは、もろさ除去の処理を行うかどうかと、その条件を発注書に書いておく。JIS H 8610 も、めっき後の水素ぜい性除去が指定されている場合には、めっき後少なくとも 4 時間以内に熱処理で除去を行い、熱処理の条件は受渡当事者間の協定によるとしている[5]。指定しなければ、この処理は前提にならない。めっきの発注の全体はめっきの発注で指定することで扱った。
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発注書に書くこと
JIS B 1168 は、ボルトの呼び方を、規格番号又は規格名称、ねじの呼び、指定事項によるとしている[1]。発注書では、少なくとも次を書く。
- 規格番号(JIS B 1168)又は規格名称(アイボルト)
- ねじの呼び(例:M12)
- 表面処理を求める場合は、その種類と記号、もろさ除去の処理の要否と条件
- 材料を指定する場合は、規格の材料(SS400・S17C・S20C)のどれか(SS400 には規格の注の条件が付く)
- 受渡検査の項目と、保証荷重検査を形式検査の成績で確認して省略してよいか
- 試験成績表(材料のとりべ分析の化学成分など)の提出の要否
JIS B 1168 は、ねじの呼び M16 以上のボルトには、原則として座の円筒部などにねじの呼びと製造業者の略号を表示するとし、包装の外面には規格名称、ねじの呼び、数量・指定事項、製造業者名又は登録商標を表示するとしている[1]。M16 以上で表示の無いアイボルトが届いたら、規格に適合した品かどうかを確かめる手がかりが一つ欠けていることになる。
同じ装置の中で使う小さな締結部品も、規格の版と附属書の扱いで同じような食い違いが起きる。小ねじは小ねじ(JIS B 1111)の種類と指定で、位置決めや抜け止めに使うピンは平行ピン・スプリングピンの規格と選び方で扱っている。
受入で確かめること
JIS B 1168 は、検査を形式検査と受渡検査に分け、受渡検査の項目を保証荷重検査・硬さ検査・形状寸法検査・ねじ検査・表面状態検査としている[1]。保証荷重検査は、受渡当事者間の協定によって形式検査の保証荷重検査の成績を確認することで省略してもよいとされている[1]。材料検査は形式検査の項目で、原則として試験成績表による確認とし、とりべ分析による化学成分が規定の材料に適合しなければならないとしている[1]。
受入の実務では、まず包装の表示と製品の表示(M16 以上)で、規格と呼びが発注どおりかを確かめる。次に、ねじはねじ用限界ゲージで確かめ、めっき(溶融めっきは除く)を施したねじに対する通りねじリングゲージは 4h 又は 1 級用を用いる[1]。表面状態は目視で、使用上有害な割れ、きず、かえり、さびなどの欠陥がないことを見る[1]。リングの部分の変形や、座面の傷・つぶれも見る。保証荷重検査の成績で代える場合は、どのロットの成績なのかを成績書で確かめる。
受入の基準は発注の時点で書面にしておく。受け取った後で基準を厳しくして不合格にすると、取適法の受領拒否ややり直しの問題になりうる。扱いの全体は受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかを参照してほしい。
つり上げの作業は、法令とガイドラインで決まる
アイボルトを付けた製品をクレーンでつり上げる作業には、クレーン等安全規則がかかる。同規則は、玉掛用具であるワイヤロープの安全係数を 6 以上(第 213 条)、フック又はシャックルの安全係数を 5 以上(第 214 条)でなければ使用してはならないとし、安全係数は切断荷重の値をかかる荷重の最大の値で除した値だとしている[2]。フック、シャックル、リング等の金具で変形しているもの又はき裂があるものは玉掛用具として使用してはならないとし(第 217 条)、玉掛けの作業を行うときは、その日の作業を開始する前にワイヤロープやフック、シャックル、リング等の金具の異常の有無を点検しなければならないとしている(第 220 条)[2]。玉掛け用ワイヤロープの選び方と安全係数の計算はワイヤーロープ(JIS G 3525)の種類と指定で扱っている。アイボルトの名は、つり荷の下への立入禁止を定めた第 29 条に出てくる。同条は、ワイヤロープ等を用いて一箇所に玉掛けをした荷がつり上げられているときを立入禁止の場合の一つとし、当該荷に設けられた穴又はアイボルトにワイヤロープ等を通して玉掛けをしている場合を除くとしている[2]。
玉掛けの業務に就く人の資格も同規則が定めている。第 221 条は、労働安全衛生法施行令第 20 条第 16 号の業務について、玉掛け技能講習を修了した者などでなければ就かせてはならないとし、第 222 条は、つり上げ荷重が 1 t 未満のクレーン等の玉掛けの業務に就かせるときは特別の教育を行わなければならないとしている[2]。
厚生労働省(当時の労働省)が 2000 年に示した「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」(基発第 96 号)は、共通事項として、玉掛用具の選定に当たっては必要な安全係数を確保するか又は定められた使用荷重等の範囲内で使用すること、つり角度は原則として 90 度以内であることを挙げている[3]。2 本でつる場合は、荷が回転しないようにつり金具が荷の重心位置より上部に取り付けられていることを確かめるとしている[3]。なお、ガイドラインに出てくる「アイボルト形のシャックル」は、「ワイヤロープのアイにシャックルのアイボルトを通すこと」とあるとおりシャックルの一部の呼び名で、JIS B 1168 のアイボルトの使い方を定めた記述ではない[3]。ガイドラインの「つり角度」と JIS B 1168 の「45 度づり」の角度の取り方が同じとは限らないので、規格の付表 1 の図とガイドラインの図 1 を並べて確かめる。
購買の担当者がこれらを覚える必要はない。ただ、製品にアイボルトを付けて納めてもらうとき、つり方(何個で、どの角度で、何につるか)を設計と仕入先がどう決めたかを、発注書や図面の注記で確かめておくと、納入後の据付けや保守の作業者がアイボルトの条件を外したつり方をする危険を減らせる。
よくある質問
アイボルトを 4 個付けた製品は、4 個分の使用荷重までつれるか
JIS B 1168 は、1 個の垂直づりと 2 個の 45 度づりの使用荷重しか定めていない[1]。4 個でつる場合に 4 個が均等に荷重を分け合うとは限らず、規格の表から 4 個分の値を作ることはできない。4 点でつる製品は、つり具の構成と角度を設計で決め、その条件での強度の根拠を設計者に示してもらう。
アルミ合金の部品にアイボルトを付けてよいか
付表 1 のねじ長さは、相手のめねじが鋳鉄又は鋼である場合に適用する寸法である[1]。アルミ合金のめねじに同じねじ長さで付けたときの強度は、規格では保証されていない。めねじの強度を設計で確かめるか、ねじインサートなどの手当てを図面で指定する。
めっきしたアイボルトに、もろさ除去は必要か
JIS B 1168 は、電気めっきを施したものは原則としてもろさ除去の処理を行うとしている[1]。めっきを指定するなら、もろさ除去を行うかどうかとその条件を発注書に書いておく。
まとめ
JIS B 1168 のアイボルトの使用荷重は、1 個の垂直づりと、座面が密着しリングの向きがそろった 2 個の 45 度づりの二つだけで、45 度づりは 2 個合わせて 1 個の垂直づりと同じ値である[1]。保証荷重は使用荷重の 3 倍で、ねじ長さは相手のめねじが鋳鉄か鋼のときの寸法である。規格に書かれていないつり方の値は設計で根拠を示し、発注書には規格番号・ねじの呼び・表面処理ともろさ除去の扱い・受渡検査の項目を書く。つり上げの作業は、クレーン等安全規則と玉掛け作業のガイドラインの範囲で行う[2][3]。
出典・参考資料
- JIS B 1168:1994 アイボルト(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/1994 年 3 月 1 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
- クレーン等安全規則(昭和四十七年労働省令第三十四号)(e-Gov 法令検索(デジタル庁)/2026 年 4 月 1 日施行の改正を反映した版で確認)
- 玉掛け作業の安全に係るガイドラインの策定について(基発第 96 号)(労働省労働基準局長/2000 年 2 月 24 日・厚生労働省掲載)
- JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月 20 日改正)
- JIS H 8610:1999 電気亜鉛めっき(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
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