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ねじ穴とインサートの図面指示と受入——ヘリサートの呼びと確かめ方

この記事のポイント(結論先出し)
ねじインサートは、樹脂や非鉄金属のような柔らかい材料に強く摩耗しにくいめねじを作ったり、つぶれたねじ穴を補修したりするために使う部品である[1]。図面では JIS B 0002-2 に従い、使うねじの呼びに記号 INS を続けて「M30×1.5INS」のように表し、組み立てた状態のめねじの呼び径は示さない[2]。インサートの外側のねじは中に入れるねじより大きいので[1]、一般のねじの下穴の規格(JIS B 1004)の値をそのまま使えない。発注では、インサートの種類と品番、取付穴を誰が決めるか、装着の条件、装着後の確認、補修に使ってよいかを書いておく。
目次
インサートを使う理由と、揉めやすいところ
NASA の締結部品の設計マニュアルは、インサートを、内側にねじがあり、外側のねじや突起で、ドリル穴・成形穴・タップ穴に固定される特殊な部品と説明している。用途は、樹脂や非鉄金属のような柔らかい材料に強く摩耗に強いタップ穴を作ること、そしてつぶれたねじ穴を補修することである[1]。同マニュアルによれば、航空宇宙産業では、柔らかい材料のタップ穴にインサートを入れ、小さな高強度の締結部品を使って重量を減らしている。インサートの外側のねじは中のねじより呼びでおよそ 1/8 インチ大きく、たとえば 10-32 のボルトが 5/16-18 のナットに相当するねじ穴に入る形になる[1]。
購買の場面で揉めやすいのは、次のような点である。
- 図面に「インサート入れのこと」とだけあり、種類も長さも決まっていない
- 取付穴(インサートを入れるためのねじ穴)の寸法を、一般のねじの下穴で加工してしまう
- 装着後に残すべきでない部分(取付け用の突起など)が残っている、または中に落ちている
- つぶれたねじ穴を、仕入先の判断でインサートを入れて直して納めてくる
どれも、インサートが「部品の中に組み込まれる別の部品」であることを図面と発注書で扱っていないことから起きる。
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インサートの種類と、使える材料
NASA のマニュアルは、インサートを外側にねじがあるものと、ねじ以外(ローレット、セレーション、溝、しまりばめ)で固定されるものに分け、前者をさらに 3 つに分けている[1]。
| 種類 | 固定のしかた | マニュアルにある特徴・制約 |
|---|---|---|
| ワイヤ式(線材をコイルにしたもの) | ひし形断面の耐食鋼線のコイルが外側と内側のねじを同時に作る。わずかに大きく作られ、タップ穴にしまりばめで入る | ゆるみ止めのため一部の巻きを変形させた型がある。取付け用の突起(タング)は装着後に切り欠きで折り取る。穴の拡大が最も少なく、ねじ穴の補修で最も使われる |
| セルフタッピング式 | 外側のテーパねじで自らねじを立てて入る(多くは中実のブッシュ形) | ねじを転造で成形する型は切りくずが出ないが、柔らかい材料にしか使えない |
| 中実ブッシュ式 | 内外とも普通のねじ。装着後にキーを打ち込むなどして回り止めする | ねじ山がつぶれた穴を補修する場面について、場所に余裕があればワイヤ式より好ましいとされる |
| 樹脂用の拡張式 | 外側の返しとスリットが、ねじを締めると広がって穴の壁に食い込む | ねじの無いインサートで最もなじみのある型 |
| 成形時に埋め込む型 | ローレットやセレーションで抜けと回転に抵抗する | セラミックス・ゴム・樹脂で、セルフタッピング式や普通のねじのインサートより高い抵抗を得られる |
| 超音波で入れる型 | 振動で穴の壁を局所的に溶かし、溝に「溶着」させる | 熱可塑性樹脂に限られる。溶ける範囲が小さいので、成形時に埋め込む型ほどの保持力はない |
この表から分かるのは、インサートの種類は母材の材料と、どれだけの保持力が要るかで決まるということである。樹脂部品で同じ「インサート」と書いても、成形時に埋め込むのか、成形後に超音波や熱で入れるのか、ねじ込むのかで、金型や工程、費用が変わる。見積の段階で種類が決まっていないと、仕入先ごとに前提が違う見積が並ぶ。樹脂成形品の寸法の決め方は樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱った。
図面での表し方——JIS B 0002-2
JIS B 0002 は、製図におけるねじとねじ部品の表し方を 3 部で定めており、第 1 部が通則、第 2 部がねじインサート、第 3 部が簡略図示方法である[3]。第 2 部(JIS B 0002-2:1998、ISO 6410-2:1993 に対応)の要点は次のとおりである[2]。
- インサートの実形の図示は、カタログのような図解のためだけに使い、製図では避ける
- インサートは第 1 部による通常の図示で描く。外側の形は使用目的・材料・製造業者で大きく違い、ねじの無いものもあるが、すべて同じ方法で描く
- インサートにはできる限り簡略図示を使う
- 断面図では、インサートの輪郭(外側と内側の山の頂)を太い実線で示し、組み立てた状態のめねじの呼び径は示さない。インサート自体にはハッチングを施さない
- 表示は、該当する規格があればそれに従う。無い場合は、そのインサートに使うねじの呼び d×P に記号 INS を続ける(例:M30×1.5INS)。並目ならピッチは省略してよい
- 製造業者名やカタログ番号などの追加情報を付けてもよい
規格の表示の仕方は「中に入れるねじ」の呼びで書くので、INS の表示だけでは、どの種類・どの長さのインサートかは決まらない。規格が製造業者名やカタログ番号を付け加えてよいとしているのはこのためで、量産部品では、品番か、種類・長さ・ゆるみ止めの有無・材質を図面か仕様書で特定しておく必要がある。
取付穴は、一般のねじの下穴では作れない
JIS B 1004(ねじ下穴径)は、JIS B 0205-2 に定める一般用メートルねじを、切削によるねじ立てまたはこれに準じる加工で作る場合の下穴径を定めた規格である。下穴径の系列は、ひっかかり率(100%〜65%)によって 8 系列が決められている[4]。
インサートの取付穴は、中に入れるねじではなくインサートの外側のねじに合わせて作る。NASA のマニュアルが示すとおり外側のねじは中のねじより大きい[1]ので、M6 のインサートを入れる穴を、M6 のねじの下穴径とタップで加工しても入らない。取付穴の寸法は、インサートの仕様(製造業者が示す取付穴の寸法やタップ)に合わせて決めることになる。図面には、取付穴をインサートの仕様に従うことを明記するか、取付穴の寸法そのものを書いておく。どちらも書いていない図面では、加工する仕入先が穴を決めることになる。
ねじ穴そのものの深さや、ねじ部の長さ、公差域クラスの書き方はねじの公差域クラスとねじ穴の指定で扱っている。インサートを入れる穴でも、取付穴の深さと、インサートを座面からどれだけ下げて入れるかは別に決める。
図面・発注書に書くこと(実務の提案)
以下はどの規格の要求でもなく、インサートを含む部品を発注するときに決めておきたい事柄を並べた提案である。
1. インサートを特定する
種類(ワイヤ式・セルフタッピング式・中実ブッシュ式・成形時に埋め込む型など)、中に入れるねじの呼び、長さ、ゆるみ止めの有無、材質を書く。品番で指定する場合は、同等品への置き換えを認めるか、認めるなら誰が承認するかも書く。
2. 取付穴を誰が決めるかを書く
取付穴の寸法とタップを図面で指示するのか、インサートの仕様に従って仕入先が決めるのかを書く。後者なら、使った工具と寸法を記録に残してもらう。
3. 装着の条件を書く
座面からの位置、取付け用の突起を折り取って取り除くこと、装着後に母材の切りくずや突起の破片を残さないこと。ワイヤ式は突起を装着後に折り取る作りなので[1]、取り除いた破片が穴の中に残らないかを条件にしておく。
4. 表面処理との順番を書く
めっきや陽極酸化をする部品では、インサートを処理の前に入れるか後に入れるかを決める。処理の膜が取付穴やインサートのねじに入ると、入らない・ゆるいといった不具合の原因になりうるので、試作で確かめる。めっきの指定はめっきの発注で指定することで扱った。
5. 補修に使ってよいかを書く
ワイヤ式は、穴の拡大が最も少ないため、つぶれたねじ穴の補修で最も使われる[1]。便利な方法だからこそ、量産品の不良を仕入先がインサートで直して納めてよいかは事前に決めておく。認めるなら、どの部位で、何個まで、どう記録するかを決める。認めない場合に補修品を受け入れるかどうかは、特別採用(特採)を出してよい線の判断になる。
受入で確かめること
インサートを入れたねじ穴は、装着した後のめねじで確かめる。JIS B 0251(メートルねじ用限界ゲージ)は、工作物のめねじを通り側と止り側のねじプラグゲージで検査することを定め、製造業者の検査部門は工場で使ったのと同じ種類のゲージを使うのがよいとしている[5]。同じ規格は、許容限界の近くに作られた工作物では製造部門と検査部門の間で疑義が起きがちだとして、規格の要求を満たすいずれかのゲージで満足していることが示されれば、その工作物を受け入れることを推奨している[5]。ゲージによる受入の考え方はねじの公差域クラスとねじ穴の指定で詳しく扱っている。
インサートに特有の確認項目は次のとおりである。
- 指定した種類・長さのインサートが入っているか(ロットごとに品番の記録と照合する)
- 座面から指定の位置にあり、飛び出していないか
- 取付け用の突起が取り除かれ、破片が穴の中に残っていないか
- ゆるみ止め付きの型なら、その機能が損なわれていないか
- 補修のために入れたインサートが、取り決めなく混じっていないか
基準は発注の時点で文書にしておき、受入で初めて条件を示すことはしない。受入後に不具合が見つかった場合の考え方は受領拒否・返品・やり直しのルールで扱っている。
よくある質問
図面に「M6 INS」とだけあります。これで発注できますか
JIS B 0002-2 の表し方としてはそれで成り立つが、表示は中に入れるねじの呼びで、インサートの種類や長さは決まらない[2]。見積を取る前に、種類・長さ・材質・品番を仕様書か注記で補う。
樹脂の部品にねじ穴を作りたいのですが、どの方法がよいですか
求める保持力と工程で決まる。NASA のマニュアルは、成形時に埋め込む型はセルフタッピング式や普通のねじのインサートより高い抜けと回転への抵抗を得られる一方、超音波で入れる型は熱可塑性樹脂に限られ、成形時に埋め込む型ほどの保持力はないとしている[1]。どの方法でも、必要な保持力を数値で決め、試作で確かめる。
仕入先から、同等のインサートに変えたいと言われました
図面に品番を書いている場合、置き換えは変更になる。種類・長さ・材質・ゆるみ止めの有無・取付穴が同じかを確かめ、必要なら試作品で装着とゲージ検査を行ってから承認する。量産前の承認の考え方は量産前に仕入先に何を出させるかで扱った。
ねじ穴の線の描き方も決まっていますか
JIS B 0002-1 は、見える状態のねじについて、山の頂を太い実線、谷底を細い実線で示すことなどを定めている[3]。インサートの断面では、外側と内側の山の頂を太い実線で示す[2]。図面全体の注記の書き方は図面の一般注記に何を書くかで扱う。
まとめ
ねじインサートは、柔らかい材料に丈夫なめねじを作り、つぶれたねじ穴を補修するための部品で、ワイヤ式・セルフタッピング式・中実ブッシュ式、樹脂向けの拡張式・埋め込み型・超音波型などがある。図面では JIS B 0002-2 に従って「M30×1.5INS」のように中に入れるねじの呼びで表すが、それだけでは種類や長さは決まらない。インサートの外側のねじは中のねじより大きいので、取付穴を一般のねじの下穴で作ることはできない。発注では、インサートの特定、取付穴を誰が決めるか、装着の条件、表面処理との順番、補修に使ってよいかを書き、受入では装着後のめねじをゲージで確かめ、インサートに特有の項目を見る。
出典・参考資料
- Fastener Design Manual(NASA Reference Publication 1228)(Richard T. Barrett/NASA/1990 年 3 月)
- JIS B 0002-2:1998 製図-ねじ及びねじ部品-第2部:ねじインサート(日本産業標準調査会 JIS 検索)
- JIS B 0002-1:1998 製図-ねじ及びねじ部品-第1部:通則(日本産業標準調査会 JIS 検索)
- JIS B 1004:2009 ねじ下穴径(日本産業標準調査会 JIS 検索)
- JIS B 0251:2008 メートルねじ用限界ゲージ(日本産業標準調査会 JIS 検索)
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