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へら絞り(スピニング加工)の発注で決めること——型に沿う面の寸法・保証厚さ・JIS B 8247

この記事のポイント(結論先出し)
へら絞り(スピニング加工)は、板や管を回転させてローラーを押し付け、オス型だけで中空の形を作る加工で、型の費用が低く少量の部品や試作に向く[1]。その代わり、加工条件が多く、合わないと破断やしわが出る[2]。発注で決めるのは、型に沿う側(多くは内面)の寸法、成形後の最小厚さと測る位置、表面の状態である。金属プレス加工品の普通寸法公差(JIS B 0408)はプレス機械で成形した品を対象にしているので[3]、へら絞り品にそのまま当てはまるとは言えない。図面に個別の公差を書くか、どの表で読むかを合意する。圧力容器の鏡板なら JIS B 8247 があり、成形後の実測厚さが保証厚さを下回ってはならない[4]。JIS B 8247 は、マルテンサイト系・析出硬化系のステンレスと、6061・7075 などのアルミ合金を鏡板の材料から除いている[4]。
目次
へら絞りは「型が片側だけ」の加工である
この記事は、照明の反射がさ、ダクトの部品、容器の胴や鏡板のように、回転対称の中空の金属部品をへら絞り(スピニング加工)で外注するときの話である。産業技術総合研究所の研究者の論文(2012 年)は、スピニング加工を、板やパイプなどの金属素材をモーターで回転させながら加工ローラーを押し付けて成形する塑性加工の一手法とし、人力によるスピニング加工をへら絞りと呼ぶ、と説明している[1]。JIS B 0111(プレス機械-用語)は、へら絞り盤を「旋盤に似た構造で,型に取り付けたブランクを高速回転し,工具を押し付けて成形する機械」と定義し、スピニングマシンともいう、としている[5]。
同じ論文は、スピニング加工の長所として、金型がオス側だけで済むので金型の費用が低いこと、切削加工と比べて材料の歩留まりが良いこと、加工に要する力が小さく装置が小型で騒音・振動が少ないことを挙げている[1]。一方で、1 個あたりの加工時間が数十秒から数分程度かかるので大量生産にはやや向かず、小ロットの多品種少量生産や単品の特注品、製品開発の試作で力を発揮する、とも書いている[1]。
発注側から見ると、へら絞りは「型代を抑えて、少量の丸物を作る」ときの候補である。同じカップ形状をプレスの深絞りで作ると、絞りの工程ごとに雄型と雌型の組が要る。数量と型代の兼ね合いで、どちらの工法が合うかが変わる。プレスで絞る場合の発注の注意は、同じ束の深絞り品の発注で扱う。
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加工条件が多く、合わないと破断・しわ・内面の凹凸が出る
へら絞りの品質は、加工する側の条件設定に大きく依存する。自動車部品の絞りスピニングを扱った論文(2010 年)は、絞りスピニングを、素材を回転させながら深絞りのような半径方向の絞りを行う最も難しい工程とし、適正な加工条件を設定しないと、主に破断としわが発生する、と書いている[2]。加工条件として、素材の材質、素材の寸法・形状(径と肉厚)、絞り比(素材径/マンドレル径)、金型ロールの形状と個数、移動速度、主軸の回転速度、送り速度などを挙げ、試行錯誤の試作だけで条件を決めるには多大な工数が要る、としている[2]。素材の加工性は金型ロールの形状を含めた加工条件に強く依存し、条件を適正化すると加工性が大幅に改善したことも報告している[2]。
管材を口絞りする場合の報告もある。アルミニウム合金管(A6063)を冷間でスピニング加工した研究(2018 年)は、目標形状に至るまでのパス回数を変えて比べ、パス回数が多いほど外面が剥離するような状態になり、内面の凹凸も大きくなったと報告している[6]。同じ研究は、管材のスピニング加工で口を絞るときにネック部を増肉させて強度を上げることも、スピニング加工を使う目的の一つだ、と書いている[6]。
ここから発注側が受け取ることは二つある。第一に、試作で良品が取れても、量産で加工者・機械・材料ロットが替わると品質が動きうる。条件を記録して変更を知らせてもらう取り決めが要る。第二に、内面の凹凸や外面の状態は、見た目だけでなく使い方によっては機能に効く。上の研究は、高圧の水素貯蔵容器のライナーではスピニング加工時に生じるしわなどの内面欠陥が容器の破損の原因になる可能性が問題になっている、と書いている[6]。内面の状態に要求がある部品は、図面にその要求と確かめ方を書く。
寸法は「型に沿う面」で書く
へら絞りでは、回転する型に素材を押し付けて密着させるので、製品は型と同じ形になる[1]。つまり、型に接する側の面(オス型を内側に置くなら製品の内面)が型で決まり、反対側の面は板厚と、その減り方の分だけずれる。相手部品とはまる寸法、容積を決める寸法は、型に沿う面の側で書くと、型の寸法で管理できる。
JIS B 0408 は「プレス機械で成形したもの」が対象
金属プレス加工品の普通寸法公差を定めた JIS B 0408 は、用語の定義の箇条で、絞りをプレス機械によってカップ形状にする加工としていて、その普通寸法公差を曲げとまとめて表にしている[3]。へら絞り盤は旋盤に似た構造の機械で[5]、この定義にはそのまま当てはまらない。図面に「普通公差は JIS B 0408 による」とあっても、へら絞り品にその表が当たるとは言えないので、次のどちらかにする(規格の要求ではなく、発注する側の実務の提案)。
1. 機能に効く寸法には個別の公差を書く
内径・外径・高さ・開口部の径など、組み付けと機能に効く寸法は、測る面(内か外か)とあわせて個別に書く。
2. 普通公差の扱いを合意して書く
「普通公差は JIS B 0408 の曲げ及び絞りの〇級を準用する」のように、どの表をどの等級で読むかを、合意したうえで図面か購買仕様書に書く。黙って規格番号だけ書くと、判定の段階で「この規格は対象外」と言われる余地が残る。
鏡板なら JIS B 8247 がある
圧力容器やタンクの端部に溶接する鏡板は、プレスで作ってもスピニングで作っても、JIS B 8247(圧力容器用鏡板)の対象になる。規格は、圧力容器に溶接して用いるプレス及びスピニング成形による鏡板について規定し、圧力を受けない容器に使う鏡板にも用途に応じて適用できる、としている[4]。種類は中央部の内半径 R とすみ部の丸みの内半径 r で次の 4 種類に分けられている[4]。
| 種類 | 記号 | 中央部の内半径 R | すみ部の丸みの内半径 r |
|---|---|---|---|
| 平鏡板 | FH | - | 3t 以上 |
| 皿形鏡板 | SD | 1.0D | 0.1D |
| 正半だ円体形鏡板 | ED | - | - |
| 近似半だ円体形鏡板 | AD | 0.904 5D | 0.172 7D |
表の D は呼び径(内径基準)、t は厚さである。正半だ円体形は、中心断面で (H-l)/D が 1/4 の半だ円体の形と定義されている[4]。JIS B 8247 は、外周長さの許容差を基準にする A 種と、内径の許容差を基準にする B 種を分けていて、たとえば呼び径 600 mm 以上 1 000 mm 未満・厚さ 6 mm 以上 9 mm 未満の B 種の内径の許容差は ±3 mm である[4]。高さの許容差は、呼び径 1 500 mm 以下なら呼び径の -0.625〜+1.25% とされている[4]。ほかの区分は規格の表 4・表 5 で確かめる。製品の呼び方は、種類の記号・呼び径・厚さ・材料の記号の順に書く(例:SD 1 500-9-SB410-A)[4]。
厚さは「保証厚さ」で約束する
JIS B 8247 は、使用する材料の規格に定められた最小厚さから、厚さと厚さ減少率を掛けたものを引いた厚さを保証厚さとし、成形後の実測厚さは保証厚さを下回ってはならない、と定めている[4]。そのうえで、鏡板は保証厚さを確保するため、加工方法などに応じて厚さ減少率を考慮して厚さを決定しなければならない、としている[4]。厚さの測定は、任意の 4 か所と、R と r のそれぞれ任意の 1 か所を、超音波厚さ計やマイクロメータなどで測る[4]。
鏡板以外のへら絞り品でも、この考え方はそのまま使える。素材の呼び厚さに公差を付けるのではなく、成形後に何 mm 以上あればよいかを決め、薄くなりやすい部位を含めて測る位置を書く。加工する側は、それを満たすように素材の厚さと加工条件を選ぶ。
材料と成形後の熱処理
JIS B 8247 は鏡板に使える材料の日本産業規格を列挙しているが、ステンレス鋼板・耐熱鋼板(JIS G 4304・G 4305・G 4312)のうちマルテンサイト系と析出硬化系を除き、アルミニウム合金の板(JIS H 4000)のうち 2014・2017・2024・2219・6061・7075・7204 を除く、としている[4]。鏡板の材料を強度だけで選んで 6061 や 7075 を指定すると、この規格の鏡板にはならない。また、成形後の熱処理の要否と方法、2 枚以上の素材を溶接して作る場合の溶接、検査成績書の提供は、いずれも受渡当事者間の協定による、としている[4]。必要なものは注文時に決めて書く。開先の寸法の許容差は、開先角度 ±3°、ルート面 ±1 mm である[4]。
なお、鏡板を使う圧力容器そのものが法令の規制を受ける場合は、鏡板の規格だけでなく、容器の設計と検査の要求が別にかかる。その確認は設計部門の事柄で、発注書には容器側から求められた条件をそのまま写す。
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図面と注文書に書くこと
ここまでの内容を項目として並べる(規格の要求ではなく、発注する側の実務の整理)。
1. 材料
規格番号と種類の記号、質別や調質、素材の形(円板か管か)。管から口絞りする場合は、その管の規格も。材料の手配をどちらがするか。
2. 寸法
型に沿う面の側で書いた寸法と公差。普通公差をどの表で読むか。真円度が要るなら、その測り方(内径を何か所測って最大と最小の差を取るか)。
3. 厚さ
成形後の最小厚さ、測る位置と方法。管の口絞りで増肉させたいなら、その部位の厚さの下限。
4. 表面
ローラーの跡、外面の剥離、内面の凹凸の許容。研磨などの仕上げが要るなら、その範囲と方法。
5. 熱処理・溶接・検査成績書
成形後の熱処理(焼なましなど)の要否、溶接のある構成なら溶接の条件、検査成績書の項目。
6. 型
型の費用と所有。数量が少ない場合、型を仕入先の所有にして型代を抑える取り決めもある。量産前の試作で使う型の扱いは、同じ束の簡易金型(試作型)の発注で扱う。
材料の鋼種とステンレスの指定はステンレスの発注で指定すること、アルミはアルミは合金番号と質別で指定する、溶接を含む場合は溶接を含む部品の発注で指定することにまとめた。
へら絞りが向かない形
へら絞りは回転させて成形するので、基本は軸対称の丸物である。先の論文は、これまでのスピニング加工で成形できる丸物以外の製品は、手間のかかる板金溶接や型代の高価なプレスで作らざるを得なかったと書き、楕円や多角形、偏心などの異形の形状を成形する機械と方法を開発した経緯を報告している[1]。異形の成形ができる機械はあるが、どの仕入先でもできるわけではない。丸物でない形をへら絞りで頼むときは、その形の実績を仕入先に確かめる。
精密な切り口や穴が要る部品は、へら絞りの後に機械加工や抜きを組み合わせる。精密な打抜きはファインブランキング、管材を曲げて作る部品はパイプ曲げの記事で扱う。
よくある質問
数量が何個までなら、プレスよりへら絞りが安いですか
一律の個数は言えない。へら絞りは型がオス側だけで型代が低いが、1 個あたりの加工時間は数十秒から数分程度かかる[1]。型代と加工費の合計を、プレスの深絞りと同じ数量で比べる。仕入先に両方の見積を、型代と単価を分けて出してもらう。
へら絞り品の図面に「普通公差は JIS B 0408 による」とあります
JIS B 0408 の絞りは「プレス機械を用いて」成形することとして定義されている[3]。へら絞り品にその表を当てるなら、どの表をどの等級で準用するかを合意して書く。機能に効く寸法は個別の公差にする。
鏡板を 6061 で作れますか
JIS B 8247 は、JIS H 4000 のうち 6061 などを鏡板の材料から除いている[4]。6061 で成形すること自体ができるかは別として、その鏡板は JIS B 8247 の鏡板にはならない。圧力容器の設計がこの規格の鏡板を前提にしているなら、材料は規格の範囲から選ぶ。
まとめ
へら絞り(スピニング加工)はオス型だけで中空の丸物を作る加工で、型代が低く、少量の部品や試作に向く。加工条件が多く、合わないと破断・しわが出て、管の口絞りではパス回数が多いと内面の凹凸が大きくなる。寸法は型に沿う面の側で書き、JIS B 0408 は「プレス機械で成形したもの」が対象なので、個別の公差を書くか準用を合意する。厚さは成形後の最小厚さと測る位置で約束する。鏡板なら JIS B 8247 があり、成形後の実測厚さが保証厚さを下回ってはならず、マルテンサイト系・析出硬化系のステンレスや 6061・7075 などのアルミ合金は材料から除かれている。熱処理・溶接・検査成績書は注文時に決めて書く。
出典・参考資料
- 荒井裕彦「ロボット技術を用いたスピニング加工(へら絞り)―手作りの現場密着型ものづくり―」Synthesiology 第 5 巻 第 2 号(産業技術総合研究所/2012 年 5 月)
- 寺田耕輔・高橋進・田口直人「絞りスピニング加工における破断発生メカニズムとその予測手法」塑性と加工 第 51 巻 第 592 号(日本塑性加工学会/2010 年 5 月)
- JIS B 0408:1991 金属プレス加工品の普通寸法公差(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1991 年 2 月 1 日改正・2025 年 6 月 20 日確認)
- JIS B 8247:2016 圧力容器用鏡板(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2016 年 11 月 21 日改正)
- JIS B 0111:2017 プレス機械-用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2017 年 7 月 20 日改正)
- 南條郁弥「Al-Mg-Si 系合金のスピニング加工性」ぷらすとす 第 1 巻 第 12 号(日本塑性加工学会/2018 年 12 月)
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