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投稿日:2026年10月26日

ぶりき(JIS G 3303)とティンフリースチール(JIS G 3315)の発注——すず付着量・調質度・後処理の指定

この記事のポイント(結論先出し)

この記事は、おもちゃや雑貨のブリキではなく、缶・ふた・容器の材料として鋼板を発注する場面を扱う。ぶりきは JIS G 3303、ティンフリースチール(TFS)は JIS G 3315 で、どちらも適用範囲は「主として飲料缶,食缶など」である[1][2]。ぶりきは種類(SPTE など)・鋼種(MR・L・D)・すず付着量(例 5.6/2.8)・調質度(例 T-4CA)・表面仕上げ(例 B)を並べて指定し、すず付着量は片面ごとの記号で、上面(コイルの外面)を先に書く[1]。TFS はすずの代わりに金属クロム層とクロム水和酸化物層を付けた鋼板で、付着量は規格で範囲が決まっているので、ぶりきのように付着量を選ぶ指定はない[2]。ぶりきの後処理は特に指定がなければ二クロム酸塩溶液中での電解処理になる[1]。検査文書は、あらかじめ注文者の要求がある場合に提出されるので、要るなら注文時に求める[1][2]。

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「ブリキ」で検索すると、昔のおもちゃや雑貨、缶の工作の話が多く出てくる。ここで扱うのは、製缶や容器の部材として、ぶりきやティンフリースチールのコイル・板を買うとき、あるいは缶やふたを外注するときに材料をどう指定するか、である。缶の印刷や内面塗装の工程の話、すずめっきを付けた電子部品の話は扱わない。すずめっき部品の指定は すずめっき JIS H 8619 の指定で扱っていて、そちらは食品缶のぶりきを範囲外にしている。役割を分けて読んでほしい。

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ぶりきとティンフリースチールの違い

JIS G 3303 では、ぶりきは原板の両面にすずめっきを施した鋼板及び鋼帯と定義されている[1]。原板(ぶりき原板)は、ぶりきとティンフリースチールに使われる、めっき前の冷間圧延低炭素鋼板である[1]。ティンフリースチールは、この原板の両面に電解クロム酸処理を施し、金属クロム層の上にクロム水和酸化物層を形成した鋼板及び鋼帯である[2]。つまり、同じ原板の上に、すずを付けるか、クロムの層を付けるかの違いになる。

項目 ぶりき(JIS G 3303) ティンフリースチール(JIS G 3315)
種類の記号 SPTE(電気めっき)・SPTH(熱せき)、原板は SPB SPTFS の 1 種類
適用厚さ SR 0.150〜0.60 mm、DR 0.140〜0.360 mm SR 0.150〜0.60 mm、DR 0.140〜0.360 mm
表面の層 すず。SPTE の標準付着量は片面 2.8・5.6・8.4・11.2 g/m² 金属クロム 50〜150 mg/m²、クロム水和酸化物(クロム量)5〜35 mg/m²(片面)
付着量の指定 記号で選ぶ。差厚めっきもある 規格の範囲で決まっている
後処理・塗油 後処理あり(指定がなければ二クロム酸処理)、塗油する 塗油する
検査文書 あらかじめ要求がある場合に提出 あらかじめ要求がある場合に提出

表の値は JIS G 3303 の表 1・表 4 と箇条 10・11・19、JIS G 3315 の表 1・表 3 と箇条 9・17 から抜き出した[1][2]。SPTE の表 4 の最小値は、2.8 なら 2.45 g/m² 以上、5.6 なら 5.05 g/m² 以上というように、記号より少し低い値で決まっている[1]。熱せきぶりき(SPTH)の付着量の規定は、片面ではなく両面の合計に適用される[1]。

ぶりきの指定の並べ方

JIS G 3303 の表示例は、ぶりきの板なら「SPTE MR 0.230×832W×760 5.6/2.8S T-4CA B」のように、種類の記号・鋼種・寸法・付着量の記号・調質度と焼なまし方法の記号・表面仕上げ区分の記号を並べる[1]。注文書もこの順に書いておくと、仕入先の読み違いが減る。

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鋼種(MR・L・D)

表 2 は原板の代表的な鋼種として三つを示している。MR は残留微量成分が少なく、容器その他広く一般の用途に使う。L は銅・ニッケル・クロム・モリブデンなどの残留微量成分が特に少なく、極めて優れた耐食性をもつ容器材料に使う。D はアルミキルド鋼で、深絞り加工やリューダース模様(加工で表面に出る筋模様)の出やすい加工の用途に使う[1]。これ以外の鋼種は受渡当事者間の協定による[1]。内容物が腐食しやすいか、深く絞るかで選ぶ。

すず付着量と差厚めっき

すず付着量の記号は片面の値で、板なら積み重ねた上面、コイルなら外面の記号を先に書き、斜線の後に下面(内面)の記号を書く[1]。両面が同じなら等厚めっき(例 5.6/5.6)、違えば差厚めっき(例 2.8/11.2)である[1]。差厚めっきでは、どちらの面が厚いかを見分けるために製品マークを付けることがあり、記号 S(薄めっき面の側端部に連続線)と A(幾何学模様または連続平行線)が決まっている。マークを付ける面と方法は注文時の確認事項とされている[1]。

差厚めっきで面を取り違えると、厚くしたかった側が薄くなる。缶の内面にどちらの面を使うかを、図面や作業標準で決めておき、注文書の記号の順番と合っているかを確かめる。

調質度と焼なまし方法

調質度は、ロックウェルスーパーフィシャル硬さ(HR30TSm)の値で区分する。SR の調質度は T-1 から T-5.5 までで、たとえば T-4 は厚さ 0.210 mm 以下で 62±4、DR は DR-7.5 から DR-10 までである[1]。硬さはめっき層を除去せずに測り、呼び厚さ 0.200 mm 未満は 15T スケールで測って表の換算で 30T の値にする[1]。時効が生じる材料は人工時効(通常 200 ℃×20 分)を行った後の値で区分する[1]。

ロックウェルスーパーフィシャル硬さは JIS Z 2245(ロックウェル硬さ試験)の方法で、30T は 1.5875 mm の球圧子・全試験力 294.2 N のスケールで、規格には薄い製品に対する HR30Tm・HR15Tm 試験の附属書もある[5]。受入で硬さを測り直すなら、同じスケールと同じ条件(めっきを除去しない、時効の扱い)で測らないと比べられない。硬さの指定と測り方の食い違いの扱いは図面の硬さ指定——試験方法・試験力・測る位置で扱った。

焼なまし方法は箱焼なまし(BA)と連続焼なまし(CA)で、記号は調質度の後に続けて書く(例 T-4CA)[1]。協定によって BA の記号を省略してもよい[1]。

表面仕上げ

電気めっきぶりきの表面仕上げは、B(ブライト)・BR(軽粗面)・R1(粗面)・R2(極粗面)・S(シルバー)・M(マット)がある[1]。原板の表面粗さの数値は参考値として示されているだけで、規定値ではない[1]。光沢や印刷の見え方が問題になる用途では、記号に加えて限度見本で合わせる。

後処理と塗油は「特に指定がなければ」で決まる

電気めっきぶりきは、すずめっきの後に化学的または電気化学的な処理を施す。特に指定のない場合、後処理はアルカリ金属の二クロム酸塩溶液中での電解処理(二クロム酸処理)とされ、ほかに無水クロム酸処理・りん酸処理などがあると注記されている[1]。電気めっきぶりきはめっき表面に塗油し、原板も特に指定のない限り塗油する[1]。TFS も表面に塗油する[2]。油種の例として CSO・DOS・ATBC が挙げられている[1][2]。

ここで発注側が確かめたいことは二つある。一つは、顧客や最終製品の要求で、クロム化合物を使った処理を避けなければならない場合である。指定がなければ二クロム酸処理になる規格なので、避けたいなら後処理の種類を注文書に書き、使っている物質の情報を仕入先から取る。含有化学物質の調査の進め方は含有化学物質の調査を仕入先に依頼するときで扱った。もう一つは塗油で、後工程の印刷・塗装・接着に影響するので、油種と、無塗油にする場合の保管条件を決める。

食品に触れる容器に使う場合

食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度は、2025 年 5 月 31 日に経過措置が満了し、2025 年 6 月 1 日時点で制度の対象となる材質は合成樹脂とされている[4]。ぶりきやティンフリースチールの鋼板そのものは合成樹脂ではない。ただし缶では、内面の塗膜や密封材のように合成樹脂を使う部分が組み合わさることがあるので、部材ごとに制度の対象かどうかを確かめる。確かめ方は食品に触れる部品の調達——ポジティブリスト適合の確かめ方にまとめた。

寸法・形状と外観で決まっていること

板の幅と長さの許容差は、カットエッジの板で指定寸法に対してプラス 3 mm・マイナス 0 mm で、協定によって同じ幅でマイナス側に移してもよい[1][2]。板の直角度は 0.20% 以下、コイルの横曲がりは長さ 1,000 mm について 1.0 mm 以下、平たん度は反り 30 mm 以下・耳のび 2.5 mm 以下・中のび 5 mm 以下である[1][2]。厚さの許容差は呼び厚さに対する百分率で決まっていて、カットエッジでは縁から 10 mm 以上内側に適用する[1]。

外観は、使用上有害な欠点(きず・くぼみ・しわ・さびなど)があってはならないとしたうえで、コイルは欠点を除去する機会がないため若干の欠点を含むことがあるとし、板にしたときに欠点を含む板の比率が任意の 1 コイルについて 10% を超えてはならない、と決めている[1][2]。コイルで買って自社で切るなら、この 10% は規格に適合した状態として届く可能性がある。それで困る用途なら、板で買うか、受入の基準を別に協定する。

検査文書と注文時の確認事項

両規格とも、あらかじめ注文者の要求のある場合に、製造業者は検査文書を注文者に提出しなければならず、種類は特に指定のない場合 JIS G 0415 の検査証明書 3.1 によるとしている[1][2]。検査証明書 3.1 は、製造業者が受渡検査の結果を記載し、製造部門から独立した検査代表者が妥当性を確認する文書である[3]。すず付着量・調質度(硬さ)の結果が要るなら、注文時に求めておく。商社や加工業者を通して買う場合は、製造業者の文書の写しを付けるかどうかも書く。

JIS G 3303 の箇条 18 は、注文時に確認することが望ましい事項として、種類の記号、鋼種、すず付着量と製品マーク、寸法、調質度、焼なまし方法、表面仕上げ、コイルの内径と最大外径、1 包装または 1 コイルの最大・最小質量、総質量、用途・加工方法などを挙げている[1]。「望ましい」なので義務ではないが、発注書の項目をそろえるときの手がかりになる。TFS の JIS G 3315 の箇条 16 も、すず付着量を除いて同じ並びになっている[2]。

発注書の書き方の例

様式は決まっていない。書いておきたい内容を一つの例にまとめる。

「材料:JIS G 3303 SPTE MR 0.200×○○W×○○ 2.8/5.6A T-3CA B(缶の内面は 5.6 側)/後処理:○○処理(二クロム酸処理以外を希望する場合はその旨)/塗油:DOS/検査文書:JIS G 0415 検査証明書 3.1(すず付着量・硬さの結果を記載)/包装:1 包装 ○○ kg 以下」

例の記号はあくまで並べ方の例で、付着量・調質度・仕上げの値は、缶の設計と内容物で決める。差厚めっきで「どちらの面を内面にするか」を書き添えるのは規格の項目ではなく、取り違えを防ぐための書き方である(当方の提案)。

よくある質問

Q. ティンフリースチールは、ぶりきより錆びにくいですか。
規格はどちらが錆びにくいかを決めていない。表面の層の種類と量が違う材料なので、内容物・塗装の有無・使い方を前提に、容器としての試験で比べる。

Q. 「ブリキ板」と書いて注文しても通じますか。
通じても、何が届くかは決まらない。種類・鋼種・付着量・調質度・仕上げのどれかが欠けていると、仕入先の標準で作られる。最低でも表示例の並びで書く。

Q. 原板(SPB)だけを買うことはありますか。
JIS G 3303 は原板も対象にしていて、表示例にも原板のコイルの書き方がある[1]。原板の外観の欠点の比率は、ぶりきやティンフリースチールにした後のコイルを板にしたときで判断すると決められている[1]。

まとめ

ぶりきは、種類・鋼種・すず付着量・調質度と焼なまし方法・表面仕上げを表示例の順に並べて指定する。差厚めっきは上面(外面)を先に書く決まりなので、どちらの面を缶の内面にするかと合わせて確かめる。ティンフリースチールはクロムの層の付着量が規格で決まっているので、ぶりきとは指定の項目が違う。後処理と塗油は指定しなければ規格の既定で決まり、検査文書は求めなければ出てこない。同じ束では、耐候性鋼 SMA の発注、軽量形鋼 SSC400 の発注、耐摩耗鋼板の発注も扱っている。

出典・参考資料

  1. JIS G 3303:2022 ぶりき及びぶりき原板(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
  2. JIS G 3315:2022 ティンフリースチール(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
  3. JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品-検査文書(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 6 月 20 日改正)
  4. 食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年6月1日以降)(消費者庁)
  5. JIS Z 2245:2021 ロックウェル硬さ試験-試験方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)

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