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耐摩耗鋼板の発注——JISの無いブランド材をブリネル硬さ(HBW)で指定し、溶接・切断の条件を決める

この記事のポイント(結論先出し)
耐摩耗鋼板には、SS400 や SM490 のような JIS の製品規格が無い。流通しているのは製造業者ごとのブランド材なので、ブランド名だけで発注すると、同等品に替えたときに何が同じで何が違うのかが決まらない。発注では、硬さの範囲をブリネル硬さ(HBW)で書き、試験方法(JIS Z 2243-1)と測る位置を添える[1]。ただし、硬さを上げた分だけ摩耗が減るとは限らず、ひっかき摩耗か衝撃摩耗か、相手の土砂・粒子がどれだけ硬いかで効き方が変わる[2]。硬い鋼は溶接で低温割れが起きやすく、予熱・水素の管理が要る[3]。寸法の許容差や検査文書も「規格どおり」とは書けないので、どの規格を準用するかを仕入先と決める[4][5]。
目次
この記事の範囲
耐摩耗鋼板は、ホッパー・シュート・ダンプの荷台・粉砕機のライナー・コンベヤの当て板など、土砂や鉱石・粉粒体がこすれる部分に使う、硬さを上げた鋼板である。この記事は、こうした部品の材料として耐摩耗鋼板を指定するとき、あるいは耐摩耗鋼板を使った製缶・溶接品を外注するときに、注文書と図面に何を書くかを扱う。
特定の製造業者の製品名は使わず、一般名で書く。製品ごとの成分や硬さの範囲は、それぞれの製造業者の資料で確かめてほしい。硬さの換算の扱いは硬さの換算(HRC・HV・HB)の扱いで、図面に硬さを書くときの一般論は図面の硬さ指定——試験方法・試験力・測る位置で扱っている。ここでは、耐摩耗鋼板に固有の論点に絞る。
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JIS が無いことから生じること
日本産業標準調査会の JIS 検索で規格名を調べても、耐摩耗鋼板という製品規格は見当たらない(2026 年 10 月確認)。製造業者の製品は、ブリネル硬さの公称値で「400 級」「500 級」のように呼ばれることがあるが、その区分の中身(硬さの範囲・保証する位置・板厚方向の硬さ・衝撃特性・化学成分)は製造業者ごとに違う。
JIS の鋼材なら、記号を書くと成分・機械的性質・寸法の許容差・検査文書の扱いがまとめて決まる。耐摩耗鋼板ではそれが起きないので、次のことが発注側に残る。
- ブランド名を書いた図面で、仕入先から「同等品」を提案されたときに、何をもって同等とするかの基準が無い
- 寸法の許容差・平たん度が、JIS G 3193 に合わせてあるのか、製造業者の独自の基準なのかが分からない
- ミルシートに何が載るかが製造業者ごとに違う
JIS G 3193(熱間圧延鋼板の形状・寸法・質量の許容差)は、その適用について「それぞれの製品規格に規定する」としている[4]。製品規格が無い耐摩耗鋼板では、G 3193 の値がそのまま当たるとは言えない。平たん度や板厚の許容差が組立や当て板の密着に効くなら、どの規格の値を準用するか、製造業者の基準のどの表によるかを書く。G 3193 の板厚の許容差の読み方は鋼板の板厚公差 JIS G 3193で扱った。
硬さは HBW で、範囲と測る位置を書く
耐摩耗鋼板の硬さは、ブリネル硬さで示されることが多い。ブリネル硬さ試験は JIS Z 2243-1 で、超硬合金球の圧子を押し込んでくぼみの直径を測り、試験力をくぼみの表面積で除した値に比例する値として求める[1]。表示は「600 HBW 1/30/20」のように、値・記号・圧子の直径・試験力のおおよその kgf・保持時間(規定と違う場合)を並べる[1]。従来の規格では鋼球を使う場合に HB や HBS と書いていた、と注記されている[1]。図面に「HB400」と書くより、「HBW 10/3000 で 360〜440」のように、試験条件まで含めて書くほうが誤解がない(値は例)。
試験面について、JIS Z 2243-1 は、平面で滑らかで、酸化スケールや異物・潤滑剤の付いていない表面とし、くぼみの直径を精確に測れるように仕上げることを求めている[1]。前処理では、過熱や冷間加工による表面の硬さの変化を最小限に抑える[1]。試験片の厚さは、くぼみの深さの 8 倍以上とされている[1]。受入で測るなら、黒皮(スケール)を落として測ること、研削で焼けを出さないことを、測る側と合わせておく。
測る位置も書く。表面で保証する製品なのか、板厚の中心まで保証する製品なのかで、摩耗が進んだあとの寿命が変わる。保証が表面だけか板厚方向にも及ぶかを製造業者の資料で確かめ、必要なら注文書に「板厚中心の硬さ ○○ 以上」と書く(当方の提案)。
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| 決めること | 書かないと起きること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 硬さの範囲と試験方法 | 「400」が下限か公称値か分からない。HRC で測られて換算で比べることになる | JIS Z 2243-1、HBW 10/3000、360〜440 |
| 測る位置 | 表面だけ硬く、中まで減ると急に摩耗が進む | 表面(スケール除去後)と板厚中心 |
| 衝撃特性 | 岩や塊が当たる部分で割れる | シャルピー吸収エネルギー(試験温度・値)を製造業者の保証値で記載 |
| 寸法・平たん度 | ライナーが浮く、ボルト穴が合わない | JIS G 3193 の表 ○ を準用、または製造業者の基準の表 ○ |
| 同等品の判断 | 別ブランドに替わって寿命が変わる | 「同等品は硬さ・衝撃特性・成分の資料を提出し承認を得る」 |
硬くすれば摩耗が減る、とは限らない
硬さの数字だけで選ぶと、期待した寿命にならないことがある。粉体工学研究会誌に掲載された土砂による金属摩耗の総説は、土砂による摩耗を、土砂や岩の硬いエッジが金属面をひっかいて生じる「ひっかき摩耗」と、土砂や岩が衝突して金属面を破壊する「衝撃摩耗」の二つに大別し、実際の現場はこれらが混じり合い、その割合は作業条件によって異なるとしている[2]。
同じ総説は、研磨紙による摩耗試験で、純金属と焼なました鋼の耐摩耗性はビッカース硬さにほぼ比例するが、熱処理によって硬さを増した場合の耐摩耗性の向上は、その比例関係よりかなり小さいという研究を紹介している[2]。さらに、粒子の硬さが低い場合には金属の硬さに関係なく耐摩耗性がよく、石灰砂や石英砂のようにモース硬さ 5〜7 の範囲になると、金属の硬さによって耐摩耗性にはっきりした差が出る、という実験も紹介されている[2]。
発注に置き換えると、次のことが言える。
- 相手の粒子が柔らかいなら、高い硬さの材料に替えても差が小さいことがある
- 相手が石英砂のように硬いなら、材料の硬さの差が寿命に出やすい
- 塊が当たる衝撃摩耗が主なら、硬さを上げると欠けやすくなる側も考える
材料を変える前に、何がどのように当たって減っているのかを、摩耗した現物で確かめる。摩耗の形(筋状に削れているか、えぐれているか)と、扱う物の硬さを仕入先と共有すると、材料の提案の質が変わる(当方の提案)。
溶接・熱切断では低温割れに注意する
耐摩耗鋼板を溶接して組む製品では、溶接の条件を発注の段階で決めておく必要がある。溶接学会誌の講座は、低温割れを溶接後に溶接部が冷えてから発生する割れとし、発生要因として炭素当量・拡散性水素量・拘束度と応力集中・溶接入熱量と予熱を挙げ、一般に硬い組織ほど割れの感受性が高いとしている[3]。
同じ講座は、水素の拡散係数が大きい 100 ℃以上に保つ時間が長いほど水素がよく逃げて割れにくくなり、溶接前に予熱を行うのはそのためだと説明している[3]。水素源は溶接材料だけでなく、大気中の水蒸気や開先内の水分・油分もあり、高湿度の環境では水分がなくても水素量が増えること、吸湿した溶接棒は乾燥させる必要があること、気温が 0 ℃以下になると予熱温度を高くしなければ割れを防げない場合があること、補修溶接では本溶接よりも予熱を高くする必要があることも挙げている[3]。
耐摩耗鋼板の予熱温度・入熱の範囲・使う溶接材料について製造業者の推奨がある場合は、外注先の溶接施工要領がそれに沿っているかを確かめる。注文書には「溶接は製造業者の推奨条件(予熱温度・入熱・溶接材料)に従い、施工要領を事前に提出」と書いておく。溶接を含む部品の指定全体は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。
ガス切断やプラズマ切断も熱が入る加工である。切断の方法と、切断面の仕上げ(グラインダで除去する範囲)を、製造業者の推奨があればそれに合わせて決めておく。曲げ加工をするなら、製造業者が示す最小曲げ半径と曲げの向きを確かめる。曲げの限界の考え方は板金の曲げ加工でできないことも参考になる。
ミルシートに何を載せてもらうか
JIS G 0415(鋼及び鋼製品-検査文書)は、日本産業規格で規定された鋼及び鋼製品の出荷のための検査文書を定める規格で、その他の金属製品に適用される場合があると注記している[5]。この規格の検査証明書 3.1 は、受渡検査の試験結果を載せて製造業者が発行する文書で、試験単位と試験方法は製品仕様や注文書によるとされ、妥当性は製造部門から独立した検査代表者が確かめる[5]。
JIS の製品規格が無い耐摩耗鋼板では、どの項目を受渡検査で試験するかが規格で決まっていない。注文書に、検査証明書 3.1 に載せる項目(化学成分、硬さとその試験条件、衝撃試験を保証する製品ならその結果、溶鋼番号)を書いておく。商社経由や切板で買う場合は、製造業者の文書の写しを付けることと、切板と元の鋼板の対応が分かる表示を残すことを求める。ミルシートの区分の読み方は EN 10204 のミルシート区分を正しく理解するを参照してほしい。
発注書に書くこと
様式は決まっていない。書いておきたい内容を一つの例にまとめる。
「材料:耐摩耗鋼板(製造業者 ○○ の ○○ または承認を得た同等品)/硬さ:JIS Z 2243-1、HBW 10/3000 で 360〜440(表面・スケール除去後)/寸法:t12×1,500×3,000 mm、許容差は ○○ による/検査文書:JIS G 0415 検査証明書 3.1(化学成分・硬さの結果を記載、製造業者発行の写し)/加工:切断は ○○ 切断、切断面は ○ mm 除去/溶接:製造業者の推奨条件に従い、施工要領を事前に提出」
例の硬さの値は書き方の例で、実際の値は選ぶ製品の資料と用途で決める。「同等品は承認を得る」を書いておくと、仕入先が勝手にブランドを替えることを防げる(当方の提案)。
よくある質問
Q. 図面に「HRC 40」と書いてあるのですが、そのままでよいですか。
耐摩耗鋼板の製品資料がブリネル硬さで出ているなら、換算で比べることになる。JIS Z 2243-1 は、ブリネル硬さを他の硬さスケールに正確に換算する一般的な方法はないと注記し、換算した場合は換算の基準と方法を試験報告書に書くことを求めている[1]。換算に頼らず、試験方法をそろえて書き直すほうがよい。換算の扱いは硬さの換算の記事で扱った。
Q. 硬い材料に替えれば交換の頻度は必ず下がりますか。
下がるとは限らない。総説が紹介する実験のとおり、相手の粒子の硬さや、ひっかきか衝撃かで効き方が変わる[2]。まず摩耗した現物と扱う物の条件を確かめる。
Q. 一般構造用の鋼板に肉盛りをするのと、耐摩耗鋼板を使うのはどちらがよいですか。
部品の形、交換の方法、補修を現場でするかで変わるので、一般論では決められない。どちらでも、溶接による低温割れの管理は要る[3]。
まとめ
耐摩耗鋼板は JIS の製品規格が無いブランド材なので、硬さの範囲・試験方法・測る位置、寸法の許容差の基準、同等品の判断のしかたを注文書に書く。硬さを上げた分だけ寿命が延びるとは限らず、摩耗の形と相手の粒子の硬さで効き方が変わる。溶接・熱切断では低温割れに注意し、予熱と水素の管理を製造業者の推奨に沿って決める。ミルシートに載せる項目も、規格に任せず注文書で決める。同じ束では、耐候性鋼 SMA の発注、工場で使うグレーチングの発注、ぶりきとティンフリースチールの発注も扱っている。
出典・参考資料
- JIS Z 2243-1:2018 ブリネル硬さ試験-第 1 部:試験方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2018 年 2 月 20 日制定・2022 年 6 月 20 日確認)
- 畠昭治郎「土砂による金属摩耗について」(粉体工学研究会誌 第 11 巻 第 6 号/1974 年)
- 糟谷正「溶接部の低温割れ感受性と防止」(溶接学会誌 第 70 巻 第 6 号/2001 年)
- JIS G 3193:2025 熱間圧延鋼板及び鋼帯の形状,寸法,質量及びその許容差(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 4 月 21 日改正)
- JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品-検査文書(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 6 月 20 日改正)
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