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強化ガラス JIS R 3206 を部品として発注——TI・TIII、穴加工の指定と自然破損(硫化ニッケル)の対策

この記事のポイント(結論先出し)
装置の窓・操作盤のカバー・製品の天板などに強化ガラスを使うとき、「強化ガラス 5 mm」とだけ書いて発注してはいけない。JIS R 3206 は建築・船舶の窓と家具に使う強化ガラスの規格で、破片の数、曲げ強度又は表面圧縮応力、厚さと寸法の許容差を決めているが、穴・切欠き・エッジの加工の規定は対応国際規格から削除しており、自然破損を防ぐヒートソーク処理も要求していない[1]。製品評価技術基盤機構(NITE)は、ガラスに入った硫化ニッケルの異物が相転移で膨らみ、強化ガラスが「何もしていないのに突然割れる」事故を調べ、ヒートソーク処理を行えば異物の残存が低減されること、破片が飛び散らない対策が望まれることを示している[5]。発注では種類(TI・TIII)と厚さ、穴と加工の図面、ヒートソーク処理の有無、破片の飛散対策を書き、人が近くにいる場所では割れたときの姿まで決める。
目次
「強化ガラス 5 mm」では何が決まらないのか
工作機械ののぞき窓、検査装置のカバー、ショーケースや操作盤の前面、製品の天板や棚板など、設備や製品の部品として板ガラスを買う場面は多い。注文書には「強化ガラス t5 300×400」と厚さと寸法だけが書かれやすい。強化ガラスは割れると粒状に崩れるので安全だと思われているが、どれだけ細かく割れるか、どれだけ強いか、穴の位置はどこまで許されるか、何もしていないのに割れる可能性をどこまで減らすかは、その一行では何も決まっていない。
この記事は、設備・製品の部品として強化ガラスと板ガラスを発注するとき、注文書と図面に何を書き、受け取るときに何を確かめるかを整理する。スマートフォンの保護ガラスや住宅の窓ガラスの交換の話ではない。透明な樹脂板で置き換えるなら、アクリル板(PMMA)JIS K 6718 の発注、ポリカーボネート(PC 樹脂)部品の発注、PET シート(A-PET・PETG)の発注で扱った。
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JIS R 3206 の範囲——建築・船舶の窓と家具
JIS R 3206(強化ガラス)は 2023 年に改正された規格で、主に建築用、船舶用の窓、及び家具用に使用する強化ガラスについて規定し、船用丸窓強化ガラスには適用しないとしている[1]。強化ガラスを、熱処理してガラス表面に強い圧縮応力層を形成し、破壊強さを増加させた板ガラスで、破損したときに細片となるもの、と定義している[1]。
装置ののぞき窓やカバーは、この規格が想定した用途とは限らない。それでも、破片の状態や強度の物差しとして JIS R 3206 を借りるのは有効である。借りるときは「JIS R 3206 に適合」と書くだけでなく、どの種類・どの厚さの規定を当てはめるのかを書き、用途が規格の範囲の外であることを仕入先と共有しておく。
種類と記号——破片の状態と、振り子衝撃
JIS R 3206 は強化ガラスを、形状(平面・曲面)と材料板ガラス(フロート・型板・光学薄膜付き・色焼付け)で分けたうえで、特性で 2 つに分けている[1]。
I 類(記号 TI):破片の状態の規定に適合するもの。
III 類(記号 TIII):破片の状態に加えて、振り子衝撃試験の破壊特性の規定にも適合するもの。
振り子衝撃試験の規定は、ガラスが破壊した場合は破壊後 3 分以内に最も大きい 10 個の破片の質量の合計が供試体の 65 cm2 分の質量を超えないこと、又は落下高さ 120 cm で破壊しないこと、である[1]。人がぶつかるおそれのある場所や、割れたときに大きな破片が落ちては困る場所なら、TIII を指定する理由になる。
| 項目(平面のフロート強化ガラス) | JIS R 3206 の規定 |
|---|---|
| 破片の個数(厚さの呼び 4〜12 ミリ) | 50 mm 角の中に 40 個以上。破片の長さは 100 mm を超えない |
| 破片の個数(3 ミリ、15〜19 ミリ) | 50 mm 角の中に 30 個以上 |
| 機械的強度 | 曲げ強度 120 MPa 以上(5 % 破損確率時強度)、又は表面圧縮応力が全測定点で 80 MPa 以上 |
| 厚さの許容差 | 3〜6.5 ミリ ±0.3 mm、8・10 ミリ ±0.6 mm、12・15 ミリ ±0.8 mm、19 ミリ ±1.2 mm |
| 欠け(外観) | 幅又は長さがガラスの厚さ以上のものがあってはならない |
表は JIS R 3206 の表 4・表 7・表 9・表 12 から、平面のフロート強化ガラスについて抜き出したものである[1]。破片の試験は、供試体の最長辺の中心から約 20 mm の位置をハンマかポンチで打って割り、端から 25 mm 以内と打った点から 80 mm 以内を除いた最も粗い部分で数える[1]。製品そのものを壊す試験なので、受入で毎回行うものではない。同じ条件で作ったことの記録と、製造ロットごとの試験成績を出してもらう形になる。
穴・切欠き・エッジは、規格に頼らず図面で決める
装置の部品では、ねじで固定する穴、配線を通す切欠き、角の面取りが要ることが多い。ところが JIS R 3206 の附属書(対応国際規格との対比)は、対応国際規格の ISO 12540 が規定しているエッジ加工、穴・切欠き加工などについて、JIS としては不要であり削除した、と明記している[1]。熱的耐久性の規定も同じく削除している[1]。
つまり「JIS R 3206 に適合」と書いても、穴の位置、穴と縁の距離、エッジの仕上げは何も約束されない。図面で、穴の径と位置、エッジの加工(糸面取り・平磨きなど)を指定し、仕入先からその形状で強化できるかの確認をもらう。防火設備用の耐熱強化ガラスを定めた JIS R 3223 は、その定義の注記で、材料板ガラスを切断後にエッジを特殊研磨し、熱処理して圧縮応力層をつくる、と工程の順を書いている[3]。強化ガラスの形と穴は熱処理の前に決まる、と考えて、受け取ってから自社で穴をあけたり切ったりする前提にしない。
何もしていないのに割れる——硫化ニッケルとヒートソーク処理
強化ガラスには、外から力を加えていないのに割れる事故がある。NITE の平成 23 年度の製品安全業務報告会の資料は、テレビ台の天板(厚さ 8 mm)の強化ガラスが割れてテレビが落ちた事故を取り上げ、同様の事故が 111 件報告され、「何もしていないのに、突然割れた」不意の破損がほとんどだった、としている[5]。破片を調べると、直径約 0.17 mm の異物が見つかった[5]。
資料の説明では、原料を溶かすときにステンレスなどの金属粒子が溶けたガラスに混じって硫化ニッケルの液滴ができ、硫化ニッケルには高温で安定な α 相と低温で安定な β 相があるため、製造の過程で低温で不安定な α 相のまま残る。市場に出た後に β 相へ変わるときの体積の膨らみで亀裂が生じ、それが進んで割れる[5]。この事故品では、ヒートソーク処理(強化した後のガラスを加熱して、異物を含むガラスを先に割って取り除く処理)は行われていなかった[5]。
NITE は製造事業者に対して、強化ガラスはヒートソーク処理を行えば異物の残存が低減されるので処理を行うことが望まれる、また、強化ガラスは安全ガラスといわれているものの破損時には内部応力が一気に解放され破片が飛び散るので、飛び散らない対策が望まれる、と述べている[5]。ここで言われているのは「低減」であって、ゼロになるとは書かれていない。
JIS R 3206 にはヒートソーク処理の要求がない(規格の本文と附属書に該当する規定は見当たらなかった)[1]。人の頭上や顔の高さにあるカバー、人が手を置く天板、割れると設備の停止や品質事故につながる窓では、注文書に「ヒートソーク処理品」と書き、処理の条件と記録を出してもらう。そのうえで、割れても破片が飛ばない構造(飛散防止フィルム、合わせガラス、枠での保持)を設計で用意しておく。
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傷と局部的な熱も、遅れて割れる原因になる
同じ NITE の資料は、ほかの事例として、ほうろう両手なべのガラスぶたが使用前に突然割れた事故を挙げ、ふた枠のワッシャーのバリがガラス表面に接触して傷が入り、その傷が進展して割れたとしている。再発防止はバリの管理の徹底である[5]。資料は、強化ガラスの断面を表面の圧縮応力層と内側の引張応力層で示し、傷が通常では問題とならない振動や温度変化で進展し、ガラス全面が一瞬にして割れて粉々になる、と破損の仕組みを説明している[5]。なべのふたをずらして使い局部的に過熱された事例も挙げている[5]。
装置の部品に置き換えると、固定金具やねじの座面のバリ、金属枠との直接の接触、ヒーターやランプの近くの局部的な熱が、割れの原因になりうる。図面には、ガラスと金属の間に入れる緩衝材(パッキン)と、熱源との距離を書いておく。組付けを仕入先に任せるなら、金具のバリ取りを作業標準に入れてもらう。
強化ガラス以外の選択肢
倍強度ガラス(JIS R 3222):表面圧縮応力を 20〜52 MPa とした熱処理ガラスで、破損したときには材料板ガラスに近い割れ方になる。主に建築物の外壁と開口部に使うものとされている[2]。粒にならない代わりに大きな破片になるので、枠で保持して落とさない設計と組み合わせる。
合わせガラス(JIS R 3205):2 枚以上の板ガラスの間に中間膜を挟んで全面を接着したガラスで、耐貫通性に優れ、万一破損した場合でも破片がほとんど飛散しない、と規格の注釈が説明している[4]。主に建築物、船舶の窓、家具に使うものとされる[4]。割れたときに破片を飛ばしたくない窓なら候補になる。
強化していない板ガラス(JIS R 3202):フロート板ガラスと磨き板ガラスの規格で、2011 年版に 2022 年の追補が加わった形になっている[6]。厚さの許容差は、3〜6.5 ミリが ±0.3 mm、8・10 ミリが ±0.6 mm などと定められている[6]。強化していないガラスは割れると鋭い大きな破片になるので、人の近くでは使い方を限る。
注文書と図面に書くこと
以下は規格の要求ではなく、発注側の実務としての提案である。
- 種類強化(TI か TIII)・倍強度・合わせ・強化していないフロートのどれか。強化なら材料板ガラス(フロート・型板など)。
- 厚さの呼びと寸法厚さの呼び(例: 5 ミリ)と辺の長さ。許容差を規格より詰めるなら数字で。
- 穴・切欠き・エッジ径・位置・縁からの距離・エッジ仕上げを図面で。強化後の追加工はしない前提であること。
- ヒートソーク処理要否と、行うなら処理の記録。
- 割れたときの姿飛散防止フィルム、合わせガラス、枠での保持のどれで対処するか。
- 試験成績破片の状態、曲げ強度又は表面圧縮応力の試験成績をロットごとに。
- 取付けの条件金属との接触を避ける緩衝材、ねじの締付け、熱源との距離。
受け取るときに確かめること
受入では、ひびがないこと、欠けがガラスの厚さ未満であること、つり跡の位置(厚さ 6 ミリ以下ならエッジから 8 mm 以内)など、JIS R 3206 の外観の項目を見る[1]。強化の工程でできる光学ひずみ(ゆがんで見える、虹色の干渉しまが見える)は、規格が参考として特性を挙げているもので[1]、のぞき窓で見え方が問題になるなら、許せる程度を限度見本で決めておく。外観の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱った。試験成績とヒートソーク処理の記録は、ガラスの製造ロットと紐づけて保管する。
よくある質問
Q. 強化ガラスは割れても粒になるので安全ですか。
A. 粒になること自体は規格の性質だが、NITE は破損時に内部応力が一気に解放されて破片が飛び散るとして、飛び散らない対策が望まれるとしている[5]。人の近くでは、飛散防止フィルムや合わせガラスと組み合わせる。
Q. 受け取った強化ガラスに穴を追加できますか。
A. 前提にしない。JIS R 3223 の定義が示すように、切断とエッジ加工は熱処理の前の工程である[3]。追加の穴が要るなら、図面を直して作り直す。
Q. ヒートソーク処理をすれば自然破損は起きませんか。
A. 言い切れない。NITE の資料が書いているのは、処理によって異物の残存が「低減される」ことである[5]。割れたときの対策を残しておく。
Q. ガラスを両面テープで枠に貼ってよいですか。
A. 人の頭上や人の近くにあるガラスは、テープだけで保持せず、枠や押さえ金具などの機械的な保持と併用する。超強力両面テープの JIS Z 1541 も、荷重の一部を負担することができるテープと規定しており、荷重のすべてを受け持つものとはしていない[7]。テープの種類の選び方は両面テープの指定で扱っている。
まとめ
部品として強化ガラスを買うときは、JIS R 3206 の種類(TI・TIII)と厚さ・破片・強度の規定を物差しにしつつ、規格の範囲が建築・船舶の窓と家具であること、穴・切欠き・エッジの加工は規格から外されていること、ヒートソーク処理は求められていないことを踏まえて、図面と注文書で足りない分を書く。硫化ニッケルによる自然破損はヒートソーク処理で減らせるがゼロではないので、割れたときに破片を飛ばさない設計(フィルム・合わせガラス・枠)を併せて用意する。
出典・参考資料
- JIS R 3206:2023 強化ガラス(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2023 年 6 月 20 日改正)
- JIS R 3222:2023 倍強度ガラス(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2023 年 6 月 20 日改正)
- JIS R 3223:2017 耐熱強化ガラス(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2017 年 3 月 21 日制定・2026 年 10 月 20 日確認)
- JIS R 3205:2025 合わせガラス(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2025 年 1 月 20 日改正)
- ガラス製品の事故について(平成 23 年度 製品安全センター製品安全業務報告会 資料)(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)/2011 年度)
- JIS R 3202:2011 フロート板ガラス及び磨き板ガラス 及び追補 1(2022)(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2022 年 1 月 20 日改正)
- JIS Z 1541:2009 超強力両面粘着テープ(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2009 年 12 月 21 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
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