投稿日:2025年11月5日

製造業で成果を出すための改善提案書の書き方とプレゼン方法

はじめに

製造業の現場では、常に「もっと良くしたい」「無駄を減らしたい」「効率を上げたい」といった課題が山積しています。

その解決の第一歩となるのが「改善提案書」です。

本記事では、20年以上の製造現場経験、調達購買・生産管理・品質管理・工場長として培った知見をもとに、現場で本当に役立つ改善提案書の書き方と、経営層や現場へ納得感とインパクトを与えるプレゼンの方法について、実践的かつラテラルシンキングで深堀りして解説します。

また、バイヤーやサプライヤーなど、調達側・供給側双方の立場からも「伝わる提案・刺さる提案」とは何かを掘り下げていきます。

改善提案書が“刺さらない”理由を知る

現場の声が反映されていない

昭和から平成、そして令和へと時代が移る中で、いまだに「改善提案書が形骸化している」「上司が読まない」「結局何も変わらない」と感じたことはありませんか?

それは、提案書が“現場の本質”を捉えきれていない、もしくは経営視点のインパクトが薄いためです。

改善提案書は「書けば良いもの」ではなく「現場や経営を動かすパワーを持ったもの」に仕上げる必要があります。

アナログ文化の壁と立ち向かう

製造業の多くは、未だに根強い“アナログ文化”に覆われています。

定着した慣習や、口頭・紙ベースの伝達、縦割り志向など、変化に消極的な空気が改善アクションの阻害要因となることも少なくありません。

しかし、そうした土壌だからこそ、本当に現場を理解し、現場の言葉で語られた提案書は現実を大きく変える力を持ちます。

成果を出す改善提案書の黄金ルール

1.「現状認識」を徹底的に掘り下げる

多くの提案書が陥りがちな失敗が、“表層だけの現状分析”です。

現状の課題を把握する際、「いつ・どこで・誰が・どう困っているか」「どの工程や部品、取引でどんなロスが生じているか」など、5W1Hを漏れなく深掘りします。

例: 「〇〇工程で毎週水曜日の午前中に設備トラブルが発生。平均して1時間のダウンタイムが××万円の損失を生んでいる」

このように、数字や時系列、実作業の流れをきちんと明文化しましょう。

2.「なぜ?」を何度も繰り返す

問題の本質に迫るには、トヨタ式の「なぜを5回繰り返せ」が非常に有効です。

例:
– なぜ設備トラブルが発生するのか?
– なぜ部品の摩耗が早いのか?
– なぜ潤滑油の交換時期が守られていないのか?

このプロセスを徹底することで、根本原因が明らかになり、改善提案の説得力が格段に高まります。

3.「変化点」にピンポイントを絞る

提案書には“欲張り禁物”という金言があります。

「すべての問題を一度に解決したい」気持ちは痛いほど分かりますが、現実はリソースや人的制約が必ず立ちはだかります。

まずは「ここが動けば、全体が必ず良くなる」という“変化点”を見つけ、そこを深堀しましょう。

例: 「潤滑油の自動補充システムを導入すれば、交換時期漏れ問題の8割が自動解消される」

4.「見える化」&「数値化」で納得感を作る

経営層や他部門に提案を通すには、「ビジュアル」と「数値」が不可欠です。

パレート図・ヒストグラム・工程フロー・損失金額グラフなど、現状と効果が“一目で分かる”資料を添付します。

また、「導入コストに対して何ヶ月で回収可能か」「これだけの歩留まり改善が期待できる」とROI(投資利益率)の試算も必ず加えましょう。

バイヤーやサプライヤー目線の改善提案書

バイヤー(調達担当)の関心ポイント

バイヤーは以下のポイントに強い関心を持っています。

– 原価低減、品質向上、納期短縮
– サプライチェーン全体への波及効果
– 提案の実現性(QCD+現実的な導入シナリオ)
– 社内外の規格・ルールとの整合性

バイヤー向けの提案書では、「自社メリット」だけでなく、「サプライチェーン全体への波及効果」や「具体的な推進プロセス」まで落とし込むことで、提案が格段に刺さりやすくなります。

サプライヤー目線の”伝わる提案”

サプライヤー側がバイヤーに提案する際に重要なのは、「バイヤーが本当は何を求めているか」を知ることです。

単なる新製品の紹介やコストダウン案だけではなく、

– どんな工程・品質課題に悩んでいるのか
– どのようなサポート体制を求めているのか
– 競合との差別化ポイントは何か

これらを徹底して調査し、「これが解決できれば、バイヤー部門のKPIがこう向上します」という視点で、現場が実感できるストーリーとして提案書をまとめましょう。

実践的な改善提案書フォーマット

1. 表紙・タイトル

「〇〇工程の〇〇改善提案書」「〇〇原材料購買におけるコストダウン施策提案」など、具体性を持たせます。

2. 現状分析・課題の明確化

「事実データ」「図解」「現場写真」でリアリティと臨場感を持たせましょう。

3. 原因分析

なぜ、をとことん掘り下げます。現場ヒアリングログや、故障履歴、品質データ等のエビデンスも重要です。

4. 改善案の概要・具体策

– どう進めるか(実施手順・期間・必要資材/コスト)
– 効果試算(改善前後の数値)
– 想定されるリスクと対策

5. コスト・効果・ROI試算

必ず表やグラフで示し、「この提案は損得でいえば得になる」ことをデータで証明します。

6. 推進体制・スケジュール

現場のキーマンや、必要な社内協力・外部サポート等を具体明記しましょう。

7. 添付資料

– 図面やレイアウト
– 仕様書、カタログ
– 過去のトラブル報告書や事例

8. まとめ

「現場と経営両方にどんなメリットがあるか」を一文で改めて明示しましょう。

よくある失敗とその回避法

理想論だけで“現実味”がない

机上の空論、現場を理解していない表現では絶対に不信感を持たれます。

現場作業者や購買・品証・生産技術・物流担当など多様なステークホルダーへのヒアリングや、小さな現場実験による検証を必ず挟みます。

ROIの根拠が弱い

期待効果やコスト削減額の見積もりが大雑把だったり、甘かったりすると、すぐに突っ込まれます。

第三者や関連部署に再確認してもらい、数字や想定条件の妥当性を固めましょう。

“やらされ提案”になっている

管理部門に「改善提案出せ」と言われて…という“やらされ案件”ほど、魂を感じない書類になりがちです。

小さな現場の「不」や「困り事」から出発し、自分の言葉で真剣にまとめることが大切です。

納得を得るプレゼンの鉄則

現場・部門・経営へ“伝える順番”を考える

最初に関わる現場リーダーや当事者の賛同を得て、次に部門長、最後に経営層へ段階的に持ち込むのがポイントです。

現場→部門→経営の順で「なぜ必要か」を少しずつ内容をアップグレードして伝えていきます。

「誰の課題をどう解決するか」を一言で言えるように

プレゼンの冒頭で、「〇〇さんの〇〇の困りごとを、こう変えるための提案です」と一言でまとめましょう。

これだけで聴き手の”本気度”は劇的に上がります。

現場の温度・泥臭さをストーリーで語る

現場写真や苦労話、働く人の声などを資料に織り交ぜ、“リアルさ”と“納得感”を高めます。

「机上の理屈」より「現場の叫び」をプレゼンの真ん中に据えるのが、製造業プレゼンの鉄則です。

対話方式で“壁打ち”を繰り返し磨きこむ

一人で資料を練るのではなく、同僚や現場リーダーと何度も“壁打ち”をして、リアルな疑問や異論・反論を事前に洗い出しましょう。

強い提案書・プレゼン資料は、必ず現場の対話から生まれます。

まとめ

改善提案書やプレゼンテーションは、「現場の課題を自分事として本気で考え、数値や現実に立脚し、経営全体にメリットを与えるもの」でなければなりません。

昭和的な「やらされ改善」や形骸化したペーパーワークから一歩進み、現場も経営も納得・共感して「やりたい!」と思える行動提案に変えていく――。

この一歩が、あなたの現場を、そして日本のものづくりをきっと進化させます。

ぜひ、現場で明日から「伝わる改善提案」にチャレンジしてください。

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