ミルシートType 3.1を出せない仕入先を発注前に見抜く | newji

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投稿日:2026年8月26日

ミルシートType 3.1を出せない仕入先を発注前に見抜く

この記事のポイント(結論先出し)

EN 10204 の Type 3.1 は証明書の書式ではなく、発行体制の要件である。紙の上で「3.1」と書かれていても、発行部門が製造から独立していない・記載値が当該ロットの実測値でない、のいずれかに当てはまれば実質は 2.2 相当にとどまり、現品と紐付いていなければ区分以前に証明として機能しない。そしてこの差は、届いた証明書を読むだけでは検証できない。本記事では、3.1 を出せない仕入先を発注前に見抜くための確認方法を、現場で見つかる 3 つの危険パターンと 10 項目のチェックリストとして整理する。

発注書に「EN 10204:2004 Type 3.1」と書いた。届いた証明書にも 3.1 と書いてある。これで要求は満たされたはずです。

ところが不具合が起きて証明書を根拠に話をしようとした段階で、「その証明書は独立した検査部門が出したものではない」と反証されることがあります。紙の上では 3.1 でも、発行体制が伴っていなければ実質は 2.2 相当です。そして、その差は書式を眺めていても分かりません

前回の記事では EN 10204 の区分そのものを整理しました(EN 10204のミルシート区分を正しく理解する)。今回はその続きとして、Type 3.1 を出せない仕入先を発注前に見抜くための具体的な確認方法を扱います。

Type 3.1 の成立条件は書式ではなく体制にある

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EN 10204 は証明書のフォーマットを定めた規格ではありません。Type 3.1 の要件は、次の 3 つの条件が実際に成立しているかという体制と行為の側にあります。区分そのものの定義や 2.1・2.2・3.2 との関係は、前回の記事で整理しています。

なお国内規格では、EN 10204 に対応するものとして JIS G 0415「鋼及び鋼製品―検査文書」があります。1999 年制定・2014 年改正を経て、現行は 2024 年 6 月改正版です。国際規格 ISO 10474:2013 を修正して採用(MOD)したもので、日本産業規格で規定された鋼及び鋼製品の出荷にあたり、注文書の要求事項に従って注文者へ提出される検査文書を規定しています[1]

① 発行部門が製造ラインの指揮系統から独立していること

「品質管理部門が発行する」という記載だけでは足りません。その部門が製造部門の指揮下に置かれていないことが要件です。組織図上は別部門でも、品証責任者が製造部長の配下にいる、あるいは兼務している場合、独立性は成立していません。

② 記載された数値がその注文ロットの実測値であること

同じ鋼種の過去データや上流メーカーの代表値を転記したものは、Type 2.2 に相当します。3.1 が要求しているのは、出荷するその現品を試験して得た数値です。

ここで日本の鋼材調達に固有の事情があります。一般構造用圧延鋼材(JIS G 3101)では、注文時に検査文書の種類を指定しなかった場合、既定で 3.1 が適用されます。箇条 14「報告」に「注文時に特に指定がない場合,検査文書は JIS G 0415 の 5.1(検査証明書 3.1)による」とあります[2]。つまりこの鋼材では、こちらが何も指定しなくても、書類の上では 3.1 が出てくる建前になっているということです。「3.1 が届いた」ことは、体制を確認した結果ではありません。

ただし既定の扱いは鋼材規格ごとに違います。他の材料を発注するときは、その規格の「報告」条項を確認し、いずれにせよ発注書に区分を明示して指定するのが確実です。

③ 現品とロット番号で紐付き、後から追跡できること

証明書と現品が結びついていなければ、証明としての機能を持ちません。ロット番号が現品の刻印やタグと一致することが前提になります。

この 3 点はいずれも、届いた証明書を読むだけでは検証できません。発注前にサプライヤー側を見に行くしかないというのが、この規格の実務上の性質です。

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現場で見つかる 3 つの危険パターン

実際に監査で見つかるのは、次の 3 類型にほぼ集約されます。先に全体像を表で示します。

比較項目 パターン1
独立性が形だけ
パターン2
試験能力が無い
パターン3
追跡が切れている
満たせない成立条件 ① 発行部門の独立性 ② 当該ロットの実測値 ③ 現品との紐付け
典型的な兆候 品証責任者が製造部長の指揮下、または製造管理者と兼務 分析・試験を全て外注、または上流ミルの値を転記 商社経由で PDF が再作成され、ロット番号が落ちている
証明書だけで気づけるか 気づけない(署名者と製造責任者の照合が必要) 部分的に気づける(試験日・試験機関の記載欠落) 気づける(ロット番号の欠落・不一致)
実質的な区分 2.2 相当 2.2 相当 判定不能
不具合時に起きること 「独立した検査ではない」と反証され、根拠に使えない どのロットに問題があったか特定できない 対象ロットを絞れず、回収範囲が広がる
発注前の確認手段 組織図・職務権限規程・署名権限者一覧 試験設備の現物確認と校正記録 初回納入時の刻印・タグとの照合

パターン1|独立性が形だけになっている

典型的な兆候は、品証責任者が製造部長の指揮下にある、または製造管理者と兼務しているケースです。中小規模のメーカーでは人員上やむを得ない事情もありますが、EN 10204 の要件としては成立しません。

証明書の上では「3.1」の体裁が整っているため、署名者と製造責任者が同一人物になっていないかを照合するまで気づけません。

これを見逃すと、不具合発生時に「独立した検査ではない」と反証され、証明書が主張の根拠として使えなくなります。

パターン2|試験能力が自社に無い

典型的な兆候は、成分分析や引張試験を全て外部に出している、あるいは上流ミルの値をそのまま転記しているケースです。

外注試験そのものが問題なのではありません。問題は、外注した事実と試験機関名が証明書に現れないことです。試験日や試験機関の記載が無い証明書は、その数値がいつどこで得られたものか追えません。結果として、ロット固有の値ではなく代表値の転記になっている可能性があります。

この状態で不具合が起きると、どのロットに問題があったのかを特定できません

パターン3|商社を経由して追跡が切れている

典型的な兆候は、商社や加工業者を経由して証明書だけが転送されてくるケースです。

途中で PDF が再作成されていたり、ロット番号の記載が落ちていたりすると、現品との紐付けが切れます。ロット番号が現品刻印と一致しない、あるいはそもそも記載が無い証明書は、区分以前に判定不能です。

追跡が切れた状態で不具合が発生すると、対象ロットを絞り込めず、回収範囲が一気に広がります。

発注前に確かめる 10 項目チェックリスト

サプライヤー監査や事前確認で、実際に見るべき項目を 10 個に整理しました。

1. 組織図を実物で確認する
品証部門が製造ラインの指揮系統の外にあるか、組織図と職務権限規程まで見ます。

2. 署名権限者を突合する
Type 3.1 の署名者と製造責任者が別人か、署名権限者一覧で照合します。

3. 試験設備を現物で見る
成分分析・引張試験をどこで行っているか、設備と校正記録を実地で確認します。

4. 外注試験の扱いを決めておく
外部試験所を使う場合は、成績書の添付と機関名の記載を発注条件に含めます。

5. ロット定義を合意する
何をもって 1 ロットとするか、証明書の単位と現品の単位を揃えておきます。

6. 現品照合を初回に 1 回やる
初回納入時に、刻印・タグと証明書のロット番号を突き合わせます。ここで一度合っていれば、以降の運用に信頼が置けます。

7. サンプル証明書を先にもらう
発注前に過去の Type 3.1 を 1 通もらい、記載項目の欠落を確認します。試験日・試験項目・署名者が揃っているかを見ます。

8. 商社経由なら発行元を遡る
誰が発行した証明書なのか、原本の出所を書面で確認します。

9. 特別採用の経路を定める
規格外が出たときの判定と通知の手順、告知義務を契約に明記します。

10. 変更管理を条件化する
材料・工程・上流ミルの変更を事前通知させる条項を入れます。

監査で見る 4 つの観点

10 項目は、次の 4 つの観点に集約できます。監査の時間が限られている場合は、この 4 点だけを押さえます。

独立性(INDEPENDENCE)
品証が製造から切れているか。書式ではなく指揮系統を見ます。

試験能力(CAPABILITY)
その実測値を誰がどこで出したか。設備と校正記録まで遡ります。

追跡性(TRACEABILITY)
現品とロット番号が一致するか。初回納入で 1 回照合します。

変更通知(CHANGE CONTROL)
材料・工程・上流の変更を事前に知らせる契約にしておきます。

証跡を求められる範囲は広がっている

材料証明書の話は、いま単独の論点ではなくなりつつあります。

CBAM(EU 炭素国境調整メカニズム)が 2026 年 1 月から本格適用に入りました。制度を簡素化・強化する規則が 2025 年 10 月 8 日付で採択され、本格適用に合わせて適用されています[4]。排出量のデフォルト値に関する実施規則も 2026 年 1 月 1 日から適用されています[3]。EU 域内の輸入者(認可申告者)は、域外の事業者・施設から製品ごとの排出量データを集めて申告する必要があり、鉄鋼はその対象です[3]

調達側が押さえるべきなのは、実測値とデフォルト値のどちらで報告するかによって、求められる証跡の重さが変わる点です。ジェトロの算定実務マニュアルによれば、申告した排出量は認定検証者の検証を受けるのが原則で、デフォルト値を使って報告する場合に限り第三者検証が不要とされています[3]。実測値で通すなら、サプライヤーから受け取ったデータが第三者の検証に耐えなければなりません。前駆体のサプライヤーに対しては、CN コード・製品名・原産国・重量・報告期間・特定体化排出量といった項目を具体的に照会することが想定されています[3]

材料の成分や機械的性質だけでなく、製造時の排出量まで遡って、検証に耐える形で証明を求められる構図です。ミルシートで起きていることと構造は変わりません。「数値が書かれているか」ではなく「その数値を誰がどう出したか」が問われるという点で同じです。

これに伴い、発注側からのサプライヤー監査・証跡提出の要請が増えています。供給側では、組織図・校正記録・試験成績書をあらかじめ「証跡リスト」として整備しておく動きが広がっています。逆に言えば、監査を申し入れたときにすぐ資料が出てくるかどうかが、体制の実在を測る目安になります。

では、検査データの改ざんや隠蔽はなぜ起きるのか。日本品質管理学会・日本科学技術連盟・日本規格協会が 2018 年に共催した緊急シンポジウムの報告書は、多くの事例を横断して共通する発生メカニズムを示しています[5]。通常時は業務の効率化のためにルール化と下位担当者への権限委譲が進み、上位管理者は責任範囲から次第に切り離される。そこへ想定外の問題が起きると、情報を上げるべき下位の担当者は自分の責任・権限の範囲で何とかしようとし、どうにもできないと分かって初めて上位に報告する。受け取る上位の管理者も、通常と異なる状況で自分が対処すべきという認識が薄く、必要な処置を取らない ── という構造です[5]

同じ報告書は、トラブルの原因として「知識不足」「スキル不足」「意図的不順守(まあ、いいか)」「意図しないエラー(うっかり)」の 4 つを挙げ、それぞれに対策が要るとしています[5]。ここから調達側が引き出せる結論は明確です。不正は書式の不備としてではなく、「異常が起きたときに情報が上がる仕組みがあるか」という体制の問題として現れます。証明書のフォーマットを点検しても検出できないのはこのためです。監査で確かめるべきは、規格外品が出たときの判定と通知の経路、そして変更管理が実際に動いているかどうかになります。

まとめ

Type 3.1 は書式ではなく体制の要件です。証明書のフォーマットは真似できますが、製造から独立した品質管理部門・自社の試験能力・現品まで届く記録の 3 つは真似できません。

監査で確かめるべきは紙ではなく、この 3 点が実在するかどうかです。発注前の 1 回の確認が、不具合が起きたときに主張できる範囲を決めます。

出典・参考資料

  1. JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品―検査文書(日本規格協会)
  2. JIS G 3101(一般構造用圧延鋼材)規格案/箇条 14「報告」(2023 年 7 月 26 日 鋼材規格三者委員会 資料 4/日本鉄鋼連盟・PDF)
  3. EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル(2026 年 3 月/日本貿易振興機構・PDF)
  4. EU 炭素国境調整メカニズム(CBAM)の簡素化規則の解説(2026 年 2 月/日本貿易振興機構)
  5. 緊急シンポジウム「”品質立国日本”を揺るぎなくするために ~品質不祥事の再発防止を討論する~」事業報告書(2018 年 2 月/日本品質管理学会・日本科学技術連盟・日本規格協会・PDF)

※ 出典リンクは 2026 年 8 月 26 日時点でリンク到達性を確認しています。

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