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相見積の断り方|そのまま使える文例と、伝えてはいけないこと

この記事のポイント(結論先出し)
相見積を取れば、選ばれない会社が必ず出る。断りの連絡は「気まずいから省くもの」ではなく、次の見積の質を決める工程である。連絡がないまま次の依頼を出せば、優先度を下げられるか、読めないリスクを織り込んだ高い数字が返ってくる。本記事では、断る側・断られる側それぞれの文例と、伝えてよいこと・伝えてはいけないことを整理する。
目次
断りの連絡を省くと、何が起きるか
見積を作る側の工数は、思われているより大きい。図面を読み、加工手順を組み、材料の手配先に当たり、社内の工数単価と突き合わせる。数時間から、複雑な部品なら数日かかる。
その工数を使って回答したのに何の連絡もなければ、相手は「この会社の依頼は結果が返ってこない」と学習する。次に依頼したとき、後回しにされるか、辞退される。断らずに済ませることは、短期的には気まずさを避けられるが、自社の調達力を削っている。
相見積そのものの設計については相見積とは|取適法で変わった取り方の注意点で扱っている。本記事はその後工程にあたる。
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断るときに伝えること・伝えないこと
| 項目 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 今回は見送る事実 | 必ず伝える | 相手が有効期限まで待つ状態を解消する |
| 見送りの理由(大枠) | 伝える | 次回の提案に活かしてもらえる |
| 次回も依頼したい意向 | あれば伝える | 関係を継続する意思表示になる |
| 他社の社名 | 伝えない | その会社との守秘の問題になる |
| 他社の見積金額 | 伝えない | 同上。価格交渉の材料に使うのも別の問題を招く |
| 「あと〇円下がれば」という条件 | 慎重に | 再交渉の意図なら断りではなく再見積として出す |
| 見積内容への評価 | 差し支えなければ | 技術的な指摘は相手にとって価値がある |
とくに気をつけたいのが 6 行目である。「他社はもう少し安い」と伝えて金額の再提示を促すのは、断りではなく交渉である。それ自体は問題ないが、断りの体裁で行うと相手は混乱する。再交渉するなら、条件を明示して再見積として依頼したほうがよい。
文例 1:価格を理由に見送る
件名:お見積の結果につきまして(BR-1042)
〇〇株式会社
△△様
お世話になっております。□□株式会社の△△です。
先日はお見積をいただき、ありがとうございました。
社内で検討いたしました結果、今回は他社へ依頼することとなりました。
今回は当初の目標価格との差が大きく、量産の見通しを踏まえた判断となりました。
ご対応いただいたにもかかわらず、申し訳ございません。
今後、仕様や数量の条件が変わる案件もございますので、その際は改めてご相談させていただければ幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします。
文例 2:納期を理由に見送る
件名:お見積の結果につきまして(BR-1042)
お世話になっております。□□株式会社の△△です。
お見積をいただきありがとうございました。
今回は客先の量産開始時期が動かせず、ご提示いただいた納期では間に合わないため、他社に依頼することといたしました。
価格および加工内容につきましては十分ご検討いただけたと受け止めております。
納期に余裕のある案件が出ましたら、改めてご相談させてください。
納期が理由の場合は、価格や技術に問題がなかったことを添えると、相手も自社の弱点を誤解しない。次回に向けて設備や工程を調整してもらえる可能性もある。
文例 3:仕様が合わずに見送る
お世話になっております。□□株式会社の△△です。
お見積ありがとうございました。
今回は、寸法公差の一部(穴位置 ±0.05)について貴社の標準工程では対応が難しいとのご回答をいただいたため、他社に依頼することといたしました。
同等の部品でも公差の緩いものが多くございますので、そちらは引き続きご相談させていただきます。
文例 4:社内の事情で案件そのものが止まった
お世話になっております。□□株式会社の△△です。
先日お見積をお願いした BR-1042 につきまして、客先の設計変更により案件が保留となりました。
お手数をおかけしたにもかかわらず、発注に至らず申し訳ございません。
再開の見通しが立ちましたら、速やかにご連絡いたします。
その際は改めてお願いできますと幸いです。
案件が止まった場合こそ、連絡を省きやすい。発注しないのだから伝えることがない、と考えてしまうためである。しかし相手は回答を待っている。止まったことを伝えるだけでも、相手は他の案件に工数を振り向けられる。
いつ連絡するか
断りの連絡でもう一つ重要なのがタイミングである。発注先が決まってから連絡するのが基本だが、決定に時間がかかる場合は途中経過を入れる。
決定まで時間がかかるとき
客先の承認待ち、予算の確定待ちなど、こちら側の事情で判断が遅れることは多い。見積の有効期限を過ぎてから「まだ決まっていません」と言われるのが、相手にとって最も困る。
お見積いただいた BR-1042 につきまして、現在客先の承認待ちとなっており、結果のご連絡が遅れております。
9 月末をめどに判断できる見込みです。
見積有効期限を過ぎる場合は、改めてご確認させていただきます。
途中で候補から外れることが決まったとき
最終決定を待たずに「この会社はない」と分かる場合がある。仕様が対応できない、納期がどうしても合わない、といったケースである。この場合は決定を待たずに伝える。相手は他案件に工数を回せる。
年度をまたぐとき
案件が翌期に持ち越される場合、そのまま放置すると相手の売上見込みに残り続ける。持ち越しの連絡を入れておくと、相手の期末処理が正確になる。
断られる側になったとき
自社が受注側として断られる場面もある。ここで理由を聞けるかどうかで、次の受注確率が変わる。
ご連絡ありがとうございます。今回はご縁がなく残念ですが、承知いたしました。
差し支えのない範囲で構いませんので、価格・納期・仕様のどの点が主な要因だったかご教示いただけますと、次回のご提案に活かせます。
今後ともよろしくお願いいたします。
聞き方のコツは、選択肢を示すことである。「理由を教えてください」と開いた形で聞くと、相手は答えづらい。価格・納期・仕様のどれか、という形なら一言で返せる。
断り方が法律の問題になる場面
個別の見積を見送ること自体は、何ら問題のある行為ではない。ただし取引が始まった後の一方的な扱いは別である。
取適法(2026 年 1 月 1 日施行[1])は、委託事業者の禁止行為として、代金の支払遅延、代金の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更およびやり直し、協議に応じない一方的な代金決定を挙げている[2]。
このうち断り方に関わるのが報復措置である。中小受託事業者が公正取引委員会や中小企業庁に事実を知らせたことを理由として、取引数量を減らしたり取引を停止したりする行為は禁止されている[2]。値上げの申し出を受けた後に取引を絞る、といった対応は、この観点から見られる。
また、価格が折り合わないことを理由に断る場合でも、協議自体に応じないのは別の問題になる。取適法では、代金に関する協議に応じないことや必要な説明を行わないことが禁止されている[3]。「今回は見送ります」と伝えるのは断りだが、「値上げには応じません」とだけ伝えて説明しないのは協議の拒否にあたりうる。
価格を理由に断るとき
他社より高いことを理由に断る場合、その価格がいまのコストを反映した結果である可能性を考えたい。公正取引委員会が 11 万名を対象に行った調査では、コスト上昇分の価格転嫁について、受注者側が協議の場を設けられた割合と実際に転嫁できた割合に開きがあることが示されている[5]。
単に「高い」と伝えるより、どの条件なら成立するかを示す方が次につながる。数量をまとめる、納期を延ばす、仕様を一部見直す——条件が動けば価格も動く。断ると同時に、次回の依頼で条件を変える意思があることを添えておく。
「断る」と「やり直させる」は違う
見積を受け取った後、内容に不足があって作り直してもらう場面がある。これ自体は通常の実務だが、発注後のやり直しは扱いが変わる。取適法は禁止行為の一つとして「不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止」を定めている[2]。
見積段階でのやり直し依頼は、条件を追加したなら金額の見直しもセットにする。前述のとおり、見積後に発注内容が増えたのに金額を据え置くことは買いたたきに当たる[4]。「見積をもう一度お願いします」と伝えるとき、何が変わったのかを明記しておけば、この問題は避けられる。
先日のお見積につきまして、下記の条件を追加させていただきたく、再度のお見積をお願いいたします。
・寸法検査成績書の提出を追加
・梱包を個別梱包に変更
追加分は金額に反映していただいて構いません。
お手数ですが、よろしくお願いいたします。
相見積のマナーとして押さえたい 5 点
1. 依頼していない会社に結果を伝えない
当たり前のようだが、社内で情報が回るうちに、依頼していない取引先へ「今回は他社になった」と伝わることがある。守秘の観点で避ける。
2. 断りの連絡は依頼した経路で行う
メールで依頼したならメールで返す。電話だけで済ませると記録が残らず、社内でも共有されない。
3. 期限を過ぎた回答も受け取る
期限後に届いた見積を無視すると、相手は届いたかどうかも分からない。採用しない場合でも受領の連絡はする。
4. 見積内容を他社に見せない
比較のために社内で使うのは当然だが、相手の見積書そのものを他社に見せるのは論外である。金額を口頭で伝えるのも同じ問題を含む。
5. 次の依頼までの間隔を空けすぎない
断ったきり 2 年連絡がなければ、担当者も変わり関係は切れる。定期的に依頼を出すか、少なくとも案件がない旨を伝える機会を持つ。
よくある質問
電話とメール、どちらで断るべきか
依頼した経路に合わせるのが基本である。ただし長い付き合いの取引先で、金額が大きい案件だった場合は、電話で一報を入れてからメールで正式に伝える形が丁寧である。電話だけで済ませると社内に記録が残らないため、必ず文面も送る。
理由を聞かれたら、どこまで答えるか
価格・納期・仕様のどれが決め手だったかまでは答えてよい。具体的な金額差や他社名は伝えない。「もう少し詳しく」と重ねて聞かれた場合も、「社内の判断ですので」と留めて構わない。
何度も断っている相手に、また依頼してよいか
問題ない。ただし毎回断っているなら、条件が合っていない可能性が高い。数量帯や納期の前提が相手の得意分野とずれていないか、一度見直す。相手にとっても、勝てない案件の見積を作り続けるのは負担になる。
断った後に、やはり依頼したくなったら
正直に経緯を伝えて再依頼する。第一候補が対応できなくなった、という事情はよくある。隠して「新規案件です」と装うより、事実を伝えたほうが相手も条件を判断しやすい。ただし急ぎの依頼になることが多いので、納期の相談は早めに行う。
社内で連絡が止まる仕組みを潰す
断りの連絡が抜けるのは、担当者の意識の問題であることは少ない。多くは仕組みの問題である。
誰が連絡するか決まっていない——見積を集めたのは調達、発注先を決めたのは設計、という分担だと、結果連絡が宙に浮く。依頼した人が返す、と決めておく。
依頼した先の一覧が残っていない——メールで個別に依頼していると、何社に出したかが手元に残らない。3 社に出したつもりが 4 社目を忘れる。依頼時点で一覧を作る。
決定が非公式に共有される——「あそこに決まったらしい」で話が進み、正式な決定通知がないまま次工程へ移る。決定の記録がないと、連絡すべき相手も特定できない。
これらは書式やマナーで解決するものではなく、依頼と結果を同じ場所で管理できているかの問題である。件数が増えるほど、記憶と個別メールでは追えなくなる。
まとめ
相見積の断りは、取引を終わらせる連絡ではなく、次の取引の条件を作る連絡である。伝えるのは、見送る事実・大枠の理由・次回の意向の 3 点でよい。他社の社名と金額は伝えない。
そして、断りの連絡を出す前提で相見積を設計しておくと、依頼する社数も自然と現実的な範囲に収まる。回答を受け取ったまま放置する会社が増えるほど、次に見積が集まらなくなる。
出典・参考資料
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
- 下請法 知っておきたい豆情報 その12(公正取引委員会 中部事務所)
- 「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(公正取引委員会/令和 7 年 12 月 15 日)
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