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投稿日:2026年10月1日

普通公差(JIS B 0405)の等級指定——書いていない図面を受けたときの扱い

この記事のポイント(結論先出し)

普通公差は「書かなくても決まっている公差」ではなく、図面の注記で規格と等級を呼び出して初めて決まる公差である。JIS B 0405 に対応する国際規格は 4 つの公差等級を持ち、対象は除去加工と板金成形の部品に限られる[1]。等級が書いていない図面を受けたら、見積の前に等級を問い合わせ、回答を発注書か購買仕様書に書き残す。等級が決まっていないまま受入検査で不合格にしても、検査基準が明確でなかったとして受領を拒めない場合がある[8]。あわせて、幾何公差の普通公差(JIS B 0419)を使うか、どの年の版によるかも注記で決めておく。

普通公差は「図面に書いた注記」で決まる

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部品図の寸法のうち、はめあいや位置決めに効く寸法にだけ個別の公差を書き、残りの寸法は普通公差に任せる。この使い分けは図面の基本で、精密工学会誌の解説も、厳密に加工しなければならない箇所には個別の公差を指定し、それ以外の箇所は JIS B 0405 で規格化された普通公差によって指定されると説明している[4]。

購買や品質保証の立場で押さえておきたいのは、普通公差は自動では決まらないという点である。規格が用意しているのは等級ごとの許容差の表であり、その部品にどの等級を当てるかは図面の注記で決める。注記が無ければ、規格の表のどの列で判定するのかが決まらない。発注側が「普通公差でお願いします」と口頭で伝えても、仕入先がどの等級で見積り、どの等級で検査するのかは決まっていない。

規格の題名も確認しておく。機械製図の規格は引用規格として、「普通公差-第 1 部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」(JIS B 0405)と、「普通公差-第 2 部:個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差」(JIS B 0419)の 2 つを挙げている[5]。長さと角度の寸法を受け持つのが第 1 部、真直度や平面度のような形の狂いを受け持つのが第 2 部で、両者は別の規格である。図面の注記に「普通公差は JIS B 0405」とだけ書いてあれば、形の狂いについては何も呼び出していないことになる。

対象になる加工方法は限られている

JIS B 0405 の題名に対応する国際規格 ISO 2768-1 は、図面の指示を簡略にするための規格で、4 つの公差等級による普通公差を定め、金属の除去加工で作る部品と板金から成形する部品の寸法に適用すると説明されている[1]。精密工学会誌の解説も、この規格は板金成型・金属加工によって製作した部品に適用できると書いている[4]。

つまり、鋳物、樹脂の射出成形品、焼結品、溶接で組み立てた構造物などは、この規格が想定している加工方法ではない。こうした部品の図面に「普通公差 JIS B 0405」とだけ書いてあると、規格の適用範囲の外にある部品へ表を当てはめることになり、どこまでが許されるのかの議論が起きやすい。加工方法ごとの普通公差を別の規格や社内標準で決めているなら、その文書の番号を図面に書く。鋳物の受入基準の決め方は、同じシリーズの鋳物の材質と欠陥の受入基準で扱う。

板金部品には JIS B 0408(金属プレス加工品)もあり、JIS B 0405 とどちらで読むかは図面の注記で決める(プレス・板金品の普通公差の指定)。樹脂成形品は樹脂成形品の寸法公差の決め方、鍛造品は鍛造品の公差の指定で扱う。

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関係する規格の現在の状況

普通公差の国際規格は、いま改訂の途中にある。海外の仕入先と図面をやり取りするときや、古い図面を流用するときに効いてくるので、状況を表にまとめておく。

規格 対象 等級の数 状況(2026 年 10 月 1 日に ISO の公式ページで確認)
ISO 2768-1:1989 個々に公差指示のない長さ・角度寸法(除去加工・板金成形) 4 有効。2022 年に見直し確認済み。新しい ISO 2768 に近く置き換わる予定[1]
ISO 2768(第 2 版) 長さ・角度のサイズの一般指定に対する許容限界 — 発行手続き中。ISO 2768-1:1989 を置き換える[2]
ISO 2768-2:1989 個々に公差指示のない形体の幾何公差(主に除去加工) 3 廃止。新しい版は ISO 22081:2021[3]
JIS B 0405 / JIS B 0419 上の第 1 部・第 2 部に対応する題名の JIS 規格本文で確認 機械製図 JIS B 0001:2019 の引用規格に挙がっている[5]。現行の版は日本産業標準調査会または日本規格協会で確認する

表から読み取れることは 2 つある。1 つは、幾何公差の普通公差の国際規格(ISO 2768-2)がすでに廃止され、別の番号の規格に移っていることである[3]。海外の仕入先とのやり取りで規格の版が食い違う原因になりうるので、JIS の側でどの版が有効かは、発注側が自分で確かめておく必要がある。もう 1 つは、長さ・角度の普通公差の国際規格も置き換えの途中にあることである[1][2]。新しい版の中身は有償の規格本文でしか確かめられないので、この記事では数値や変更点には触れない。

JIS は、日本産業標準調査会のサイトで利用者登録(無料)をすれば全文を閲覧できる[7]。等級ごとの許容差の表は規格本文にあるので、発注側の担当者も一度は実物を開き、自社の図面で使っている等級の数値を手元に控えておくとよい。

等級が書いていない図面を受けたときの扱い

ここからは、等級の指定が抜けた図面を発注する側(または受け取った仕入先から問い合わせを受けた側)が、どう動けばよいかを順に書く。以下は規格の要求ではなく、実務の進め方としての提案である。

1. 見積を出す前に、等級を問い合わせる

等級が決まらないまま見積を取ると、仕入先は自分の判断で等級を仮定して値段を付ける。厳しい等級を仮定した仕入先は高く、緩い等級を仮定した仕入先は安くなるので、相見積を並べても同じ条件の比較にならない。見積依頼の時点で「普通公差の等級」を問い合わせ事項に入れ、回答が揃ってから見積を取る。設計部門が等級を決められない場合は、少なくとも「見積は〇〇級を前提とする」と前提条件を全社に同じ形で書いて送る。

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2. 回答は発注書か購買仕様書に書き残す

口頭やメールの往復で等級が決まっても、図面が古いままだと、次の発注で同じ問い合わせが繰り返される。図面の改訂が間に合わないときは、発注書の特記事項か購買仕様書に「図面番号〇〇の普通公差は JIS B 0405 の〇級による」と書く。図面に描かれない取り決めをどの書類で伝えるかは、購買仕様書の書き方で整理している。

3. 社内標準で決めている場合も、外へ出す書類に書く

設計標準で「当社の普通公差は〇級」と決め、図面には書かない運用の会社もある。社内で完結しているうちは困らないが、仕入先はその社内標準を見ていない。図面の注記か発注時の書類に、社内標準の内容そのものを書き写して渡す。産業技術総合研究所の講座資料も、個々に公差指示のない形体に対する幾何公差(JIS B 0419)について、自分たちの会社はどの等級を使っているのか、図面に表示する必要はあるのかを問いかけている[6]。この問いに社内で答えを持っていない会社は少なくない。

4. 図面の改訂は設計部門に返す

等級を書き足すのは図面の変更であり、購買が勝手に図面へ書き込むものではない。発注書で当座をしのいだら、図面番号と決めた等級を設計部門に返し、次の改訂で図面に入れてもらう。過剰仕様の外し方でも触れたとおり、個別の公差を整理するときは、等級の指定を図面に入れることが先になる。

等級が決まっていないことは、受入検査でも効いてくる

普通公差の等級は、値段だけでなく、受け取った部品を合格とするか不合格とするかの基準そのものである。取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)の対象となる取引について、同法のテキストは、受領を拒める場合を限定したうえで、委託内容が明示されていなかったり、検査基準が明確でなかったりしたために、給付の内容が委託内容と異なることが明らかでない場合には、委託内容と異なることを理由として受領を拒むことは認められないとしている[8]。同じ箇所で、発注後に検査基準を恣意的に厳しくし、従来の検査基準で合格とされたものを不合格とすることも認められないとしている[8]。

等級が書いていない図面で発注し、納品後に「この寸法は精密な等級で見るべきだった」と不合格にする流れは、この 2 つのどちらにも当たりうる。等級は発注の時点で明示しておく、というのが結論になる。受領拒否・返品・やり直しの線引きは受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかで詳しく扱っている。

普通公差の寸法をどこまで測るか

図面上の寸法の大半は普通公差なので、受入検査ですべてを測るのは現実的でない。どの寸法を毎ロット測り、どの寸法を初回だけ測るのかは、発注側と仕入先で事前に決めておく。初回品で全寸法を確かめる考え方は初回サンプル検査(FAI)の記事にまとめてある。測り方そのもの(どの測定機で、どこを基準に測るか)を合わせる手順は、同じシリーズの幾何公差の測定方法を仕入先と合わせるで扱う。

形の狂いは長さの等級では縛れない

長さの普通公差だけを指定した図面では、真直度や平面度などの形の狂いについて何も決まっていない、という点は見落とされやすい。産業技術総合研究所の講座資料は、JIS B 0024 の「独立の原則」として、幾何公差は特別な相互関係が指定されなければ、他の公差や寸法から独立して機能すると説明している[6]。長さの寸法が公差内に収まっていても、反りや曲がりまで許容内とは限らない、ということである。

形の狂いにも何らかの上限を持たせたいなら、幾何公差の普通公差(JIS B 0419)を注記で呼び出すか、効く箇所に個別の幾何公差を入れる。注記で呼び出す場合も、長さと同じく等級の指定が要る。国際規格の側では ISO 2768-2 が廃止されて ISO 22081:2021 に移っているので[3]、海外の仕入先に出す図面では、どの規格のどの等級を意図しているのかを、規格番号と発行年まで含めて書いておくと解釈の違いが起きにくい。

用語の変化にも注意する

2016 年に改正・制定された寸法公差の JIS(JIS B 0420-1、JIS B 0401-1、JIS B 0401-2)では、従来の「寸法」が「サイズ」になるなど多くの用語が変わった[7]。古い社内標準や図面の注記と新しい規格とで言葉が違っていても、指している中身が同じとは限らないので、図面を流用するときは注記の文言も見直しの対象に入れる。

注記の書き方による違い

普通公差の注記にはいくつかの書き方があり、書き方によって後から決められる範囲が変わる。下の表は、注記の書き方ごとに、仕入先との間で決まっていること・決まっていないことを並べたものである(規格の要求ではなく、実務上の整理)。

注記の書き方 決まっていること 決まっていないこと 発注前にすること
何も書いていない 個別に公差を書いた寸法だけ 規格・等級・形の狂い 規格と等級を問い合わせて書面で確定
「普通公差による」だけ 普通公差を使う意図 どの規格か・どの等級か 同上
規格番号と等級 長さ・角度の許容差 形の狂い・どの年の版か 幾何公差の普通公差を使うかを確認
規格番号・発行年・等級、第 2 部の等級も併記 長さ・角度・形の狂い 対象外の加工方法の部品の扱い 加工方法が規格の対象かを確認

よくある質問

仕入先から「普通公差は中くらいの等級で見積もった」と言われたら、そのまま発注してよいか

仕入先の前提で問題が無いなら、その前提を発注書か購買仕様書に書き、発注側の条件として確定させてから発注する。前提を書かずに発注すると、後で不具合が出たときに、どの等級で作ることが合意されていたのかを示せない。

古い図面の注記に、現行の規格名と違う呼び方が書いてある

現行の規格の題名は「普通公差」である[5]。題名と違う呼び方の注記は、どの規格のどの版を指しているのかを設計部門に確かめる。流用する図面ほど、注記がいつの規格を前提に書かれたのかが分からなくなっている。

海外の仕入先から、ISO の規格で読んでよいかと聞かれた

JIS と ISO で題名が対応していても、版の違いや改訂の途中の状況(上の表)がある。「JIS B 0405 の〇級で読む」のか「ISO 2768-1 の〇級で読む」のかを、規格番号と発行年まで書いて回答する。どちらで読んでもよいと答えると、判定の基準が仕入先側に移る。

まとめ

普通公差は、図面の注記で規格と等級を呼び出して初めて決まる。JIS B 0405 に対応する国際規格は 4 つの等級を持ち、除去加工と板金成形の部品を対象にしている。等級が書いていない図面は、見積の前に等級を問い合わせ、回答を発注書か購買仕様書に残し、図面の改訂は設計部門に返す。等級が決まらないまま受入検査で不合格にすると、検査基準が明確でなかったとして受領を拒めない場合があるので、基準は発注の時点で明示する。形の狂いは長さの等級では縛れないため、幾何公差の普通公差を使うかどうか、どの年の版によるかも、あわせて注記で決めておく。

出典・参考資料

  1. ISO 2768-1:1989 General tolerances — Part 1: Tolerances for linear and angular dimensions without individual tolerance indications(国際標準化機構(ISO)/1989 年 11 月発行・2022 年見直し確認)
  2. ISO 2768 Geometrical product specifications (GPS) — Dimensional tolerancing — Tolerance limits for general specification of linear and angular sizes(第 2 版・発行手続き中)(国際標準化機構(ISO))
  3. ISO 2768-2:1989 General tolerances — Part 2: Geometrical tolerances for features without individual tolerance indications(廃止)(国際標準化機構(ISO)/1989 年 11 月発行)
  4. 中村太郎「もう一度復習したい寸法公差・はめあい」精密工学会誌 Vol.71, No.3(精密工学会/2005 年)
  5. JIS B 0001:2019 機械製図(無料プレビュー)(日本規格協会/令和元年 5 月 20 日改正)
  6. 北條恵司「機械設計製図の幾何公差(GPS)の基礎講座」(国立研究開発法人産業技術総合研究所/2023 年 4 月)
  7. 萩原正弥「締結用ねじの標準化―現状および今後の展望―」精密工学会誌 Vol.87, No.4(精密工学会/2021 年)
  8. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

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