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EU電池規則とバッテリーパスポート——電池を使う製品の調達

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点で、EU 電池規則(規則 (EU) 2023/1542)は 2024 年 2 月 18 日から適用されており、要件は電池の区分ごとに順に効いてくる[1]。調達の側から見て近いのは、2027 年 2 月 18 日に始まる三つ——全電池への QR コード、LMT 電池・2 kWh 超の産業用電池・EV 電池へのバッテリーパスポート、製品に組み込む携帯用電池の取り外し・交換の要件——である[1]。コバルト・天然黒鉛・リチウム・ニッケルのデューデリジェンス義務は、改正で 2027 年 8 月 18 日に延びた[2]。最初に決めるのは自社が持つ電池がどの区分か、EU で電池を上市するのは誰かで、そのうえで電池の仕入先から製造所単位のデータ・物質含有の証明・変更の連絡・交換用電池の供給を取り決めておく。
目次
最初に決める二つ:電池の区分と、上市する事業者
EU 電池規則は、2006 年の電池指令に代わる「規則」で、加盟国の国内法を介さず直接適用される。ジェトロのガイドブックも、規則は 2023 年 7 月 28 日に官報に公示され、2024 年 2 月 18 日から有効となって電池指令 2006/66/EC を置き換えること、要件の効き始める時期が電池の区分によって異なることを説明している[5]。欧州委員会の電池のページも、規則は 2023 年 8 月 17 日に発効し、適用は 2024 年 2 月 18 日から、要件は 2031 年にかけて段階的に始まると整理している[3]。
調達の担当者がまず手を止めて確かめたいのは、自社の製品に入る電池が規則のどの区分に当たるかである。規則の定義では、密閉され 5 kg 以下で、産業用に特に設計されたものでなく、EV 電池・LMT 電池・SLI 電池のいずれでもないものが「携帯用電池」、密閉され 25 kg 以下で、電動の車輪付き乗り物(電動アシスト自転車など)の駆動用に特に設計されたものが「LMT 電池(軽量輸送手段用電池)」になる[1]。「産業用電池」は産業用途向けに特に設計された電池、または 5 kg を超え EV・LMT・SLI のいずれでもない電池で、「EV 電池」は電動車の駆動用に特に設計された電池(L 区分の車両では 25 kg 超のもの)を指す[1]。
同じリチウムイオン電池でも、重さと用途で区分が変わり、区分ごとに課される義務と期日が違う。たとえば工場で使う搬送機器の電池パックは、5 kg を超えれば産業用電池に当たり、容量が 2 kWh を超えるとバッテリーパスポートの対象に入る。社内の品目マスタに、電池の化学系・質量・定格容量(kWh)・用途を持っておかないと、どの義務がかかるかを判定できない。品目マスタにどこまでの仕様を持つかは品目マスタにどこまで仕様を持たせるかで扱っている。
もう一つは、EU で電池を上市する事業者が誰かである。規則の「製造者」は、電池を製造する者、または設計・製造させて自らの名前や商標で販売する者を指し、「経済事業者」には製造者のほか輸入者・販売業者なども含まれる[1]。自社ブランドの製品に電池パックを組み込んで EU へ出す場合、電池そのものの適合と、電池を組み込んだ製品としての義務(後述の取り外し・交換など)の両方が、誰の名前で負われるのかを先に整理しておく必要がある。
2026 年 10 月時点の主な期日
次の表は、規則の本文(2023/1542)と改正規則(2025/1561)で確かめた期日である。「〜または実施法令の発効から○か月後のいずれか遅い日」とある要件は、欧州委員会の実施法令・委任法令の採択に連動して後ろへずれることがある。表の「規則が定める期日」は最も早い場合の日付と読む。
| 要件 | 対象 | 規則が定める期日 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 水銀の含有制限(0.0005 % 以下) | すべての電池(機器に組み込まれたものを含む) | 適用中 | 付属書 I[1] |
| カドミウム(0.002 %)・鉛(0.01 %)の含有制限 | 携帯用電池(鉛は亜鉛空気ボタン電池を 2028 年 8 月 18 日まで除く) | 鉛は 2024 年 8 月 18 日から | 付属書 I[1] |
| 分別回収マークの表示 | すべての電池 | 2025 年 8 月 18 日 | 第 13 条第 4 項[1] |
| 一般情報のラベル | すべての電池 | 2026 年 8 月 18 日または実施法令の発効から 18 か月後の遅い日 | 第 13 条第 1 項[1] |
| QR コード | すべての電池 | 2027 年 2 月 18 日 | 第 13 条第 6 項[1] |
| バッテリーパスポート | LMT 電池・2 kWh 超の産業用電池・EV 電池 | 2027 年 2 月 18 日 | 第 77 条第 1 項[1] |
| 携帯用電池の取り外し・交換 | 携帯用電池・LMT 電池を組み込んだ製品 | 2027 年 2 月 18 日 | 第 11 条・第 96 条[1] |
| カーボンフットプリントの申告 | EV 電池・2 kWh 超の充電式産業用電池・LMT 電池 | 区分ごとの日付または委任法令等の発効から一定期間後の遅い日 | 第 7 条第 1 項[1] |
| 原材料のデューデリジェンス | 前々年度の純売上高 4,000 万ユーロ以上の経済事業者(グループで判定) | 2027 年 8 月 18 日(改正後) | 第 47 条・第 48 条[1][2] |
カーボンフットプリントの申告は、たとえば EV 電池なら「2025 年 2 月 18 日、または算定方法を定める委任法令か書式を定める実施法令の発効から 12 か月後のいずれか遅い日」から適用と書かれている[1]。いつから実際に求められるかは、欧州委員会がこれらの法令を採択した日付で決まるので、表の日付だけを社内の予定に写さないほうがよい。
バッテリーパスポートには何が載り、誰が更新するのか
第 77 条は、2027 年 2 月 18 日から、上市・使用開始される LMT 電池、2 kWh 超の産業用電池、EV 電池の一つひとつに「バッテリーパスポート」と呼ぶ電子記録を持たせることを定めている[1]。記録には電池の型式の情報と個々の電池に固有の情報(使用によって生じる情報を含む)が入り、付属書 XIII に従って、一般に公開する情報、通知機関・市場監視当局・欧州委員会だけが見られる情報、正当な利益を持つ者(修理・再製造・リサイクルの事業者など)だけが見られる情報に分けられる[1]。
パスポートは、第 13 条第 6 項の QR コードからたどれる固有識別子にひも付けられ、QR コードと識別子は ISO/IEC 15459 の各部(またはこれと同等のもの)に合わせることとされている[1]。そして、電池を上市する経済事業者が、パスポートの情報を正確・完全・最新に保つ責任を負う。この事業者は、他の事業者に書面で代行を認めることができる[1]。つまり、電池メーカーがパスポートを作ってくれるかどうかは契約で決まることで、規則は「上市する者」に責任を置いている。
パスポートは、エコデザイン規則に基づく他のデジタル製品パスポートと技術・意味・組織の面で完全に相互運用できるように作ることが求められている(第 78 条)[1]。欧州委員会が 2026 年 7 月 17 日に開設を告知したデジタル製品パスポートのページも、導入は一部の電池(産業用電池・LMT 電池・EV 電池)から始まり、その後に衣料・鉄鋼・建設製品などが続く見込みだと説明している[4]。さらに、2024 年 7 月に施行されたエコデザイン規則は、その第 78 条で電池規則第 77 条に第 10 項を加え、電池を上市する経済事業者が固有識別子をエコデザイン規則の登録簿(同規則第 13 条第 1 項)にアップロードすることを定めた[7]。エコデザイン規則は製品の情報をデジタル製品パスポートで提供させる枠組みで(第 9〜15 条)、製品グループごとの中身は今後の委任法令で決まる、とジェトロは整理している[8]。エコデザイン規則の側の仕組みはエコデザイン規則(ESPR)とデジタル製品パスポートで扱う。
調達の側で集めておくデータ
カーボンフットプリントの申告は「電池の型式ごと・製造所ごと」に作るものとされ、付属書 II は、算定が特定の製造所で特定の電池型式を作るのに使う部品表(BOM)・エネルギー・補助材料に基づくこと、とくに電池管理装置などの電子部品と正極材を正確に特定することを求めている[1]。調達の実務に置き換えると、セルや電池パックを買う相手に対して、次の点を最初から求めておくことになる。
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- 同じ型式でも、製造所が違えば別の申告になる。製造所の変更は事前に知らせる取り決めにする
- 正極材や電池管理装置の調達先が変わると算定が変わりうる。主要材料と電子部品の変更も連絡の対象に入れる
- パスポートの公開情報・限定公開情報のうち、仕入先が持っているデータ(化学系、定格容量、製造日、製造所など)を、どの形式で・いつまでに・誰の費用で渡すかを決める
仕入先にデータを頼むときの全般的な進め方(依頼の範囲、回答の確かめ方、回答しない仕入先の扱い)は、CO2 排出量のデータを頼む記事仕入先に CO2 排出量(CFP・Scope3)のデータを頼むときと共通する部分が多い。
製品に組み込む携帯用電池の「取り外し・交換」
2027 年 2 月 18 日から適用される第 11 条は、電池を組み込んだ製品を上市する者に義務を課している。携帯用電池を組み込んだ製品を上市する者は、製品の寿命の間いつでも、最終利用者が電池を容易に取り外し・交換できるようにしなければならない[1]。「容易に取り外せる」とは、市販の工具で外せることを指し、特殊工具(製品に無償で添付する場合を除く)、専用工具、熱、溶剤を使わなければ外せない設計はこれに当たらない[1]。
例外もある。水がかかる環境で使い、洗えることを前提にした機器などは、安全のために必要な場合に限り、独立した専門家だけが交換できる設計にしてよい[1]。電源の継続が必要で、利用者と機器の安全のために電池と製品の恒久的な接続が要る場合なども義務から外れる[1]。欧州委員会は、第 11 条第 4 項に基づく追加の適用除外の申請を 2025 年 4 月 30 日まで受け付け、その募集は終了したと公表している[3]。
取り外し・交換とは別に、修理の義務もかかってくる。ジェトロの調査レポートによると、EU の修理する権利指令は、製造事業者に修理義務を課す製品の一覧(同指令の付属書 II)に、家電などと並んで「軽輸送手段(LMT)用バッテリー内蔵製品」を電池規則の番号とともに挙げている[6]。電動アシスト自転車などを EU へ出す場合は、電池規則と修理の義務の両方から、補修部品の扱いを考えることになる。
調達に直接効くのは、第 7 項と第 8 項である。携帯用電池や LMT 電池を組み込んだ製品を上市する者は、その機器の型式の最後の 1 台を上市してから少なくとも 5 年間、その電池を交換部品として、独立した専門家と最終利用者に合理的で差別のない価格で供給できるようにしなければならない。また、ソフトウェアを使って、互換性のある別の電池への交換を妨げてはならない[1]。
電池の仕入先との契約でこれを支えるには、量産が終わった後の補修用電池の供給期間と価格の決め方、電池の型式を変えるときの互換性の扱い、電池パックに認証用のチップやファームウェアがある場合に交換を妨げない作りになっているか、を決めておく必要がある。仕入先の型式の切り替えで補修用電池が手に入らなくなると、規則上の義務を負うのは製品を上市した側である。
原材料のデューデリジェンスは 2027 年 8 月へ
電池規則は、電池の製造に使うコバルト・天然黒鉛・リチウム・ニッケルの調達・加工・取引について、経済事業者にデューデリジェンス(人権・環境の悪影響を特定し、防ぎ、軽くするための手続き)を課している。当初は 2025 年 8 月 18 日から適用の予定だったが、2025 年 7 月 30 日に官報に載った規則 (EU) 2025/1561 が第 48 条第 1 項の日付を 2027 年 8 月 18 日に改め、欧州委員会がガイドラインを出す期限も 2026 年 7 月 26 日に改めた[2]。
この章の対象からは、前々年度の純売上高が 4,000 万ユーロ未満で、連結でもその額を超えるグループに属さない経済事業者が外れる[1]。この基準はデューデリジェンスの章についての除外であって、規則全体の除外ではない。物質の制限、ラベル、QR コード、取り外し・交換などは、規模にかかわらずかかる。
なお、電池規則の対象鉱物は、スズ・タンタル・タングステン・金を扱う EU の紛争鉱物規則(規則 (EU) 2017/821)とは別である。規則も、この章は紛争鉱物の規則による義務を妨げない、と書いている[1]。紛争鉱物の調査(CMRT)を仕入先に頼む進め方は紛争鉱物調査(CMRT)を仕入先に依頼するにまとめている。同じ調査票で電池の原材料まで答えが返ってくるとは考えないほうがよい。
電池の仕入先との取り決めに入れておくこと
ここまでを、発注仕様書や品質の取り決めに書く項目に落とすと、次のようになる。規則が直接求めているもの(左の根拠に条番号)と、それを支えるための実務の提案(根拠が「実務」のもの)を分けて書いている。
- 電池の区分と仕様:化学系・質量・定格容量(kWh)・用途を仕入先の書類で確かめ、区分(携帯用・LMT・産業用・EV・SLI)を社内で判定して記録する(定義:第 3 条)
- 物質の含有:水銀・カドミウム・鉛の制限値に適合している根拠(宣言と、必要に応じて分析結果)を受け取る(付属書 I)
- 表示:分別回収マーク、鉛やカドミウムの化学記号、ラベル、QR コードを電池本体に付けるのか、大きさの都合で包装・添付書類に付けるのかを決める(第 13 条第 7 項)
- パスポートのデータ:仕入先が持つデータの項目・形式・提出期限、更新の責任を誰が持つかを決める(第 77 条第 4 項)
- カーボンフットプリントの算定用データ:製造所ごとのデータを出してもらう前提を置く(第 7 条・付属書 II)
- 変更の事前連絡:製造所、正極材、電池管理装置、セルの型式を変えるときの連絡期限と承認の手順(実務)
- 補修用電池の供給:最後の 1 台の上市から 5 年以上、合理的な価格で供給できる体制(第 11 条第 7 項を支える実務)
- 交換を妨げない作り:認証チップやファームウェアで互換電池を拒む設計にしないこと(第 11 条第 8 項)
- 原材料の調査への協力:2027 年 8 月に向け、コバルト・天然黒鉛・リチウム・ニッケルの調達経路の情報提供に協力すること(第 48 条を支える実務)
項目が増えると、取引のたびにメールで確かめるやり方では漏れる。量産前に仕入先から何を出させて承認するかの考え方は量産承認で仕入先に何を出させるかと同じで、電池の場合はこの 9 項目を承認の書類に足すと考えると整理しやすい。
よくある取り違え
電池を買って組み込むだけだから関係ない
第 11 条の取り外し・交換と補修用電池の供給は、電池の製造者ではなく、電池を組み込んだ製品を上市する者の義務として書かれている[1]。組み込む側こそ、設計と調達の両方で手当てが要る。
バッテリーパスポートは電池メーカーが作るもの
正確に保つ責任は「電池を上市する経済事業者」にあり、他社に書面で代行させることはできる、という作りである[1]。自社の名前で電池パックを EU に出すなら自社が責任者で、仕入先に頼む範囲は契約で決める。
中小企業なので適用されない
売上高 4,000 万ユーロ未満の除外は、デューデリジェンスの章についてだけである[1]。物質の制限や表示などは対象から外れない。
期日は決まっているので、それに合わせればよい
カーボンフットプリントやラベルの要件は、欧州委員会の委任法令・実施法令の発効に連動する「いずれか遅い日」の書き方になっている[1]。デューデリジェンスのように、改正で期日そのものが動いた例もある[2]。欧州委員会の電池のページや官報で、採択の状況を確かめ続ける必要がある[3]。
まとめ
EU 電池規則は適用が始まっており、2027 年 2 月 18 日に QR コード、バッテリーパスポート、携帯用電池の取り外し・交換が始まる[1]。原材料のデューデリジェンスは改正で 2027 年 8 月 18 日に延びた[2]。調達の側では、電池の区分と上市する事業者を先に決め、仕入先とは製造所単位のデータ、物質含有の証明、変更の事前連絡、補修用電池の供給、交換を妨げない作りを取り決めておく。期日の多くは委任法令などの採択に連動するので、欧州委員会の公表を確かめながら社内の予定を置き直していく[3][5]。
出典・参考資料
- Regulation (EU) 2023/1542 concerning batteries and waste batteries(電池及び廃電池に関する規則)(EU 官報 L 191/2023 年 7 月 28 日)
- Regulation (EU) 2025/1561 amending Regulation (EU) 2023/1542 as regards obligations of economic operators concerning battery due diligence policies(EU 官報/2025 年 7 月 30 日)
- Batteries(電池)(欧州委員会 環境総局/2026 年 10 月 1 日閲覧)
- New Digital Product Passport (DPP) web page launched(欧州委員会 域内市場・産業・起業・中小企業総局/2026 年 7 月 17 日)
- 自己宣言のための CE マーキング適合対策実務ガイドブック(日本貿易振興機構/2023 年 10 月)
- EU 循環型経済関連法の最新概要——エコデザイン規則(ESPR)、修理する権利指令(R2R 指令)、包装・包装廃棄物規則(PPWR)案(日本貿易振興機構/2024 年 11 月)
- Regulation (EU) 2024/1781 establishing a framework for the setting of ecodesign requirements for sustainable products(エコデザイン規則)(EU 官報/2024 年 6 月 28 日)
- EU のエコデザイン規則、7 月 18 日から施行(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2024 年 7 月 16 日)
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