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投稿日:2026年10月2日

浸炭・窒化・高周波焼入れの有効硬化層深さ——表示記号と測り方、研削代の扱い

この記事のポイント(結論先出し)

硬化層深さは、処理(浸炭・高周波焼入れ・窒化)ごとに測定方法の規格が違い、同じ「深さ」でも何を区切りにし、どの方法で測ったかで数字が変わる[1][2][3]。規格はそれを表示記号で書き分けられるようにしているので、図面には記号ごと書く。深さは範囲で指定し、その幅は熱処理加工の規格が許す同一ロット内のばらつき[4][5][6]より狭くしすぎない。窒化は、化合物層と拡散層を分けて考え、「窒化層深さ」と「実用窒化層深さ」のどちらかを決める[3]。研削で仕上げる部品は、深さが研削前か後かを書く。深さは断面を切らないと分からないので、試験片の種類と頻度を発注時に決める。

「硬化層深さ 1.0 mm」がそろわない理由

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熱処理を外注した部品で、仕入先の成績書は「硬化層深さ 1.1 mm」、自社で切って測ったら「0.8 mm」ということが起きる。どちらかの測り間違いとは限らない。区切りの硬さ、測り方(硬さ試験か、腐食して色で見るか)、測った断面の位置、試験片が製品そのものか別の試験片かが違えば、同じ部品でも数字は変わる。

熱処理の種類ごとの指定の全体(処理の記号と品質の区分、硬さの範囲、浸炭の有効硬化層深さが 550 HV で区切られること、測る断面の協定など)は熱処理を図面で指定するで扱った。硬さそのものの試験方法は図面の硬さ指定にある。この記事は、硬化層深さに絞って、測定方法の違い、範囲の書き方、窒化の層の分け方、研削との関係、受入での確かめ方を整理する。

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深さの測り方は 3 つ、規格は処理ごとに 3 本

硬化層深さの測定方法の規格は、処理ごとに分かれている。浸炭(浸炭浸窒を含む)が JIS G 0557、炎焼入れと高周波焼入れが JIS G 0559 で、どちらも 2025 年 4 月に改正された[1][2]。窒化と軟窒化は JIS G 0562 で、1993 年制定のまま確認が続いている[3]。

測り方は大きく 3 つある。断面に硬さ試験のくぼみを表面から順に付けて硬さ推移曲線を描く方法、断面を腐食して色の変わった部分の深さを測るマクロ組織試験、金属顕微鏡で組織を見る顕微鏡試験である[1][3]。浸炭の規格では、マクロ組織試験は 5 % ナイタールで腐食し、20 倍を超えない拡大鏡で着色の状況を調べ、生地と違う色の部分の表面からの深さを全硬化層深さとして測る[1]。顕微鏡試験では、全硬化層深さがほぼ均一なら、間隔をあけて少なくとも 5 点を測って平均深さを決める[1]。

硬さで測る方法は、区切りの硬さを決めれば有効硬化層深さが出る。色や組織で見る方法は、生地との境目までの全硬化層深さを見る。両者は定義が違うので、同じ部品でも数字が一致しない。図面に「硬化層深さ」とだけ書くと、仕入先は手元の設備で測りやすい方法を選ぶ。

表示記号で書けば、方法まで決まる

規格は、測定方法と区切りを表示記号で書き分けられるようにしている。浸炭では、ビッカース硬さで測った有効硬化層深さが CHD、硬さで測った全硬化層深さが DC-H△-T、マクロ組織試験で測った全硬化層深さが DC-M-T である(△は試験力の記号)[1]。高周波焼入れでは、規格の例「HD-H0.3-E(450)1.5」が、試験力 2.9 N のビッカース硬さで測り、450 HV までの有効硬化層深さが 1.5 mm であることを表す[2]。窒化では「ND-HV0.3-P0.23」が、試験荷重 2.942 N のビッカース硬さで測った実用窒化層深さ 0.23 mm を表す[3]。

図面に記号ごと書けば、区切りの硬さ・試験の種類・試験力が一度に決まる。顕微鏡試験で測った場合の表示記号は、浸炭(G 0557)と高周波焼入れ(G 0559)では受渡当事者間の協定によるとされている[1][2]ので、顕微鏡で測らせるなら書き方も決めておく。窒化(G 0562)には、金属組織試験で測った窒化層深さの記号 ND-M-T が表に用意されている[3]。

処理 測定方法の規格 表示の例(規格による) 表示の桁
浸炭・浸炭浸窒焼入れ JIS G 0557:2025 CHD = 2.5 mm/DC-M-T2.2 mm で小数点以下 1 位[1]
高周波・炎焼入れ JIS G 0559:2025 HD-H0.3-E(450)1.5/HD-M-T3.2 mm で小数点以下 1 位[2]
窒化・軟窒化 JIS G 0562-1993 ND-HV0.3-T0.74/ND-HV0.3-P0.23 mm で小数点以下 2 位。薄い場合は μm も可[3]

桁の違いも見落としやすい。浸炭と高周波は mm で小数点以下 1 位に丸めるのに対し、窒化は小数点以下 2 位まで書く[1][2][3]。浸炭の部品の図面に「0.85 mm」と 2 位まで書いても、規格どおりに表示すれば 0.8 か 0.9 になる。図面の桁は、測定規格の表示の桁に合わせる。

深さは範囲で書き、幅は規格のばらつきを見て決める

熱処理加工の規格は、硬化層深さのばらつきの許容値を表にしている。基準は、加工品の深さが仕様による範囲で規定されていればその範囲の中央値で、単体内と同一ロット内に分けて決めている[4][5][6]。主な値を並べると次のとおりである。

処理と深さ(中央値) 単体内のばらつき 同一ロット内のばらつき
浸炭:有効硬化層深さ 0.5 mm 以下 0.1 mm 0.2 mm
浸炭:有効硬化層深さ 0.5 を超え 1.5 mm 以下 0.2 mm 0.3 mm
高周波:有効硬化層深さ 1.5 mm 以下 0.2 mm 0.4 mm
高周波:有効硬化層深さ 1.5 を超え 2.5 mm 以下 0.4 mm 0.6 mm
窒化:窒化層深さ 0.3 mm 以下 0.05 mm 0.10 mm
窒化:窒化層深さ 0.3 を超え 0.6 mm 以下 0.10 mm 0.15 mm

出典: 浸炭は JIS B 6914 の表 12[4]、高周波は JIS B 6912 の表 14[5]、窒化は JIS B 6915 の表 9[6]。全硬化層深さの許容値は別の行にあり、有効硬化層深さより大きい。

この表から読み取れるのは、加工の規格に合格した品物でも、同じロットの中でこの程度は深さが動くということである。たとえば浸炭で「有効硬化層深さ 0.8〜0.9 mm」と幅 0.1 mm で書くと、規格が同一ロット内に許すばらつき(0.3 mm)より狭い。そうした範囲を書くなら、規格の加工品質より厳しい要求であることを双方が分かったうえで、管理の方法と費用を見積の段階で話す必要がある(当方の提案)。下限だけを書くか、上限まで書くかは、部品の機能から設計部門と決める。

なお、浸炭の加工規格は、深さは有効硬化層深さか全硬化層深さのいずれかによる、としている[4]。範囲を書くときも、どちらの深さの範囲かを記号で示す。

高周波焼入れは「範囲」と「深さ」を両方図示する

高周波焼入れは、部品の一部だけを焼き入れることが多い。高周波焼入焼戻し加工の規格 JIS B 6912 は、表面硬さのばらつきを、目的とする硬化部範囲で焼入境界部を除いた範囲の測定値とし、硬化部範囲については受渡当事者間の協定による、としている[5]。硬化部範囲のばらつきも協定によるとされている[5]。

つまり、どこからどこまでを焼き入れるか、その境目がどれだけずれてよいかは、規格は決めていない。図面に焼入れ範囲を寸法で示し、範囲の端の許容(たとえば端からの距離の公差)と、範囲内の有効硬化層深さを書く。軸の段付き部や穴の近くで焼き割れが心配な部位は、焼き入れない範囲を明示する。

高周波焼入れの有効硬化層深さの区切りは、鋼の炭素含有率に応じた限界硬さの表で決まり、受渡当事者間の協定によって、要求された最小表面硬さに換算係数(通常 0.80)を掛けた値を使うこともできる[2]。協定でこちらを使うなら表示記号は DS で始まる形になる[2]。表の区切りは鋼の規格の炭素含有率の範囲の中央値で決まる[2]ので、材料の鋼種を変えると区切りも変わりうる。鋼種の指定の仕方は機械構造用鋼を材料指定するときで扱う。どちらの区切りかを記号で書いておくと、成績書の数字の意味が一つに決まる。G 0559 はロックウェル硬さで硬さ推移曲線を作ることも認めているが、その場合は受渡当事者間で協定した方法で行う[2]。

窒化は層を分けて考える

窒化と軟窒化の深さは、浸炭や高周波と考え方が違う。窒化層深さの規格 JIS G 0562 は、層を次のように定義している[3]。

化合物層深さ
窒化物・炭化物・炭窒化物などを主体とする層の表面からの深さ。

拡散層深さ
化合物層を除いた、窒素・炭素などの拡散が認められる層の深さ。

窒化層深さ
表面から、窒化層と生地の物理的・化学的性質の差が区別できない点までの距離で、化合物層深さと拡散層深さの和。

実用窒化層深さ
表面から、生地のビッカース硬さまたはヌープ硬さより 50 高い硬さの点までの距離。

「窒化深さ 0.3 mm」と書いた図面は、このどれを指すのかが分からない。窒化層深さ(差が区別できないところまで)と実用窒化層深さ(生地+50 の硬さまで)では、後者のほうが浅く出る。表示記号は前者が T、後者が P で終わる[3]。

測り方にも決まりがある。硬さで測る場合、試験荷重は 2.942 N 以下とし、硬さ推移曲線の測定点の間隔は 0.1 mm 以下、隣り合うくぼみの中心間隔はくぼみの対角線長さの 2.5 倍以上とする[3]。試験品は製品そのものを用い、やむを得ない場合は製品と同一条件で処理した同一鋼種の鉄鋼材料を用いてもよい[3]。

窒化・軟窒化加工の規格 JIS B 6915 は、窒化層深さ試験を JIS G 0562 によるとし、金属組織で測る場合は一視野内の最大値を窒化層深さとし、化合物層深さは一視野内の平均値とする、と備考に書いている[6]。窒化加工品の化合物層については受渡当事者間の協定による[6]。軟窒化加工品には化合物層深さのばらつきの許容値があり、単位は μm である[6]。化合物層を要求するのか、厚さの範囲をどうするのかは、用途から設計部門が決めて図面に書く。書かなければ協定の中身が空のまま残る。

研削で仕上げる部品は「いつの深さか」を書く

熱処理の後に研削する部品では、研削で削った分だけ硬化層が薄くなる。片側の研削代が 0.2 mm なら、熱処理の直後に 1.0 mm あった有効硬化層深さは、完成品では 0.8 mm 前後になる。だから図面の硬化層深さが、熱処理の直後の値なのか、研削後の完成品の値なのかで、熱処理業者が狙う深さが変わる。

規格は、この区別を発注側に代わって決めてはくれない。実務の提案として、図面か仕様書に次を書く。

1. 深さの基準となる状態
「研削仕上げ後の完成品で CHD 0.8〜1.2 mm」のように、どの状態の値かを書く。

2. 熱処理段階の狙い値
熱処理と研削が別の仕入先なら、熱処理の発注では片側の研削代を足した深さで指示し、研削の発注では片側で削ってよい最大量を書く。

3. 確かめる時点
熱処理の後に代表試験片で確かめるのか、完成品を切って確かめるのか。

熱処理による変形を研削で取る場合は、変形が大きいほど削る量も増え、片側だけ深く削れて硬化層が局部的に薄くなることもある。変形の許容値は熱処理加工の規格でも受渡当事者間の協定とされている[4][5]。熱処理の段階での変形の上限と、研削の段階での削り代の上限を、つながるように決めておく。

断面を切らないと分からない深さを、どう受け入れるか

試験片の種類を決める

浸炭の測定規格は、試験片は通常、製品そのものを用いるとし、硬化層が薄い場合は協定によって階段状試験片(段差 0.05 mm または 0.10 mm で精密研削したもの)や傾斜面状試験片を使えるとしている[1]。ただし注記で、階段状や傾斜面状の試験片は断面での測定と異なる結果になる場合があり、断面測定に低い試験力を使うほうが選択肢として良い、としている[1]。浸炭の加工規格は、硬化層深さの検査は加工品のロットを代表する試験片によってもよいとしている[4]。

代表試験片は、製品と形が違えば冷え方も違うので、製品の深さと一致する保証はない。量産の立ち上げ時には、製品を切った値と代表試験片の値を並べて確かめ、差を記録しておくとよい(当方の提案)。測定規格の試験報告書の項目には、試験片が製品か同一鋼種の鋼材かの区分が入っている[1][2]。成績書でこの区分を必ず見る。

測る位置と、曲線を 2 本とる場合

浸炭の測定規格は、前処理した面について 2 つ以上の測定域を測り、測定域の位置は受渡当事者間による協定が必要としている[1]。協定によって測定を 2 回行い、硬さ推移曲線を 2 本作って深さの平均値を採用してもよく、両者の差が 0.1 mm を超えるときは試験を繰り返す[1]。浸炭の深さが特定される場合に限り、限界硬さの前後 2 か所で 5 点ずつ測って内挿する方法(附属書 A)も使える[1]。

受入で成績書を受け取るなら、深さの数字だけでなく、硬さ推移曲線(表面からの距離と硬さのグラフ)と測った位置を添えてもらう。曲線があれば、区切りの硬さ付近で硬さがどう落ちているかが見え、数字の妥当性を自分で確かめられる。自社と仕入先で同じ試料を測って値が合わないときは、測定のばらつきそのものを確かめる手順が要る。その進め方は測定システム解析を仕入先に求めるときで扱う。

頻度と、外れたときの扱い

断面での測定は破壊試験なので、全数は確かめられない。熱処理加工の規格は、同一ロットを、同じロットの加工材料を用いて 1 回の加工で処理した加工品の一群などと定めている[4][6]。受入の頻度は、この「熱処理のロット」単位で決めるのが筋が通る。納品の単位と熱処理のロットが一致しないことが多いので、成績書と現品票で熱処理のロットを追えるようにしておく。

深さが外れたロットが出たときの扱い(全数再処理か、ロット全数の廃却か、特別採用か)も、発注時に決めておく。特別採用の判断の線は特別採用を出してよい線で扱っている。

基準は発注時に書く

取適法がかかる取引では、公正取引委員会のテキストが、検査基準があいまいなために委託内容との違いがはっきりしない場合や、発注後に検査基準を恣意的に厳しくして従来なら合格だったものを不合格にする場合には、それを理由に受領を拒めないとしている[7]。硬化層深さは、区切りと測り方を変えれば同じ品物の数字が動く。発注後に測り方を変えて「浅い」とすることは、この形に近づく。表示記号・範囲・状態・試験片・頻度は、発注の時点で書く。

よくある質問

仕入先の成績書が「有効硬化層深さ」なのに、自社はマクロ腐食で測っています

比べている深さの定義が違う。マクロ組織試験は全硬化層深さを測る方法で、有効硬化層深さは硬さの区切りで決まる[1]。どちらで管理するかを決め、図面の記号を直すか、受入の方法を合わせる。

窒化の深さは、浸炭と同じように 550 HV で区切ればよいですか

窒化には別の定義がある。窒化層深さは生地と区別できない点まで、実用窒化層深さは生地の硬さ+50 の点までの距離で[3]、550 HV という区切りは使わない。窒化した鋼の生地の硬さは鋼種と前処理で違うので、実用窒化層深さで指定するなら、測った生地の硬さも成績書に書いてもらう。

図面の深さを 0.05 mm 刻みで書いてもよいですか

浸炭と高周波は表示が小数点以下 1 位なので[1][2]、それより細かい刻みは規格どおりに測って表示した値と比べられない。窒化は小数点以下 2 位まで表示する[3]。

まとめ

硬化層深さは、浸炭・高周波・窒化で測定規格が分かれ、区切りと測り方を表示記号で書き分けられる[1][2][3]。図面には記号ごと書き、表示の桁もそろえる。範囲の幅は、熱処理加工の規格が許すロット内のばらつき[4][5][6]を見て決める。高周波は焼入れ範囲を図示し、窒化は化合物層・拡散層・窒化層深さ・実用窒化層深さのどれかを決める[3][5]。研削で仕上げる部品は深さがどの状態の値かを書き、試験片の種類・測る位置・頻度を発注時に決めておく[1][7]。

出典・参考資料

  1. JIS G 0557:2025 鋼の浸炭硬化層深さ測定方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 4 月 21 日改正)
  2. JIS G 0559:2025 鋼の炎焼入及び高周波焼入硬化層深さ測定方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 4 月 21 日改正)
  3. JIS G 0562-1993 鉄鋼の窒化層深さ測定方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1993 年 3 月 1 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
  4. JIS B 6914:2002 鉄鋼の浸炭及び浸炭窒化焼入焼戻し加工(追補 1:2010)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2010 年 8 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  5. JIS B 6912:2002 鉄鋼の高周波焼入焼戻し加工(追補 1:2010)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2010 年 8 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  6. JIS B 6915:1999 鉄鋼の窒化及び軟窒化加工(追補 1:2010)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2010 年 8 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  7. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

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