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輸出梱包の木材を仕入先に指定する——ISPM No.15 の処理と表示

この記事のポイント(結論先出し)
輸出入の貨物に使う木箱・パレット・ダンネージは、国際基準 ISPM No.15 に従って樹皮を除いた材に承認された処理を施し、決められた形式のマークを付けることが求められる[1]。マークはシンボル・国コード・生産者/処理実施者コード・処理コード(HT・DH・MB・SF)で構成され、手描きは認められない[1]。日本でこのマークを付けられるのは、消毒証明実施機関に登録された木材こん包材生産者である[3]。仕入先に梱包を任せるときは、「ISPM No.15 適合」と一言書くだけでなく、対象外にできる材料か、処理方法、マークの位置、修理したときの扱い、記録の写しまで発注の段階で決めておく。
目次
梱包の木材が検疫の対象になる理由と、発注側が関わる場面
ISPM No.15 は、国際植物防疫条約に基づく国際基準で、生木から作られた木材こん包材の国際的な移動に伴って検疫有害動植物が侵入・まん延するリスクを下げる措置を定めている。対象には、クレート、木箱、荷箱、ダンネージ、パレット、ケーブルドラム、スプール・リールのような木材こん包材が含まれる[1]。基準は、木材こん包材が再利用・修理・再製造されることが非常に多く、部材ごとの本来の原産地を突き止めることが難しいため、すべての国が適用できる共通の措置を決めた、と理由を説明している[1]。
日本は 2007 年 4 月からこの国際基準に基づく対応を行っている。その後、新しい処理方法として誘電加熱処理(2013 年採択)とフッ化スルフリル処理(2018 年採択)が追加された[2]。
購買・調達の担当がこの基準に関わる場面は、大きく二つある。
- 輸出側:自社の製品や部品を海外へ送るとき、梱包を梱包業者や部品の仕入先に任せる場面。輸出用の木材こん包材は輸出先国の要求事項に従う必要がある[2]
- 輸入側:海外の仕入先から部品が木箱やパレットで届く場面。日本に入る木材こん包材も、処理表示の有無で扱いが変わる[5]
どちらも、梱包の中身ではなく「梱包の木材」が原因で貨物が止まる。部品の品質がよくても、梱包の表示が欠けていれば到着が遅れるので、梱包の仕様も発注条件の一部として扱う必要がある。
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規制の対象外になる木材——材料の選び方で手間が変わる
ISPM No.15 は、リスクが十分に低いとして次の品目を基準の規定から除いている[1]。
- 全てが厚さ 6 ミリメートル以下の薄い木材で作られた木材こん包材
- 接着剤・熱・圧力などで作った合板、パーティクルボード、配向性ストランドボード、ベニヤといった加工木材で全てが作られた木材こん包
- 製造工程で加熱処理されたワイン・蒸留酒用の樽
- 有害動植物が存在しない状態にする方法で加工・製造された木材から作られた贈答用の箱
- おが屑、かんな屑、木毛
- 貨物車両やコンテナに恒久的に装着された木製部品
日本の「輸出用木材こん包材消毒実施要領」も、ほぼ同じ品目を要領の対象外として列挙し、さらに「積荷が材木や板材で、積荷と同じ種類・品質の材で構成されるダンネージ」を加えている[3]。ただし要領は、樽と贈答用の箱について、輸入国の要求で特別の取決めがある場合はこの限りではないと但し書きを付けている[3]。
発注側から見ると、ここが最初の分かれ道になる。全体を合板やパーティクルボードで作った木箱にすれば、処理とマークの要件から外れる。一方、合板の箱でも、底に製材の角材(すり材)を付ければ、その角材は対象に戻る。「合板の箱だから大丈夫」と考えて、角材やパレット部分の表示を落とす例は、この取り違えから生まれる。梱包の図面や仕様書では、どの部材を何の材料で作るかを部材ごとに書いておくと確かめやすい。
処理の方法とマークの中身
樹皮の除去は全ての処理に共通
処理の種類に関わらず、木材こん包材は樹皮を除去した木材から作らなければならない。幅 3 cm 未満の樹皮の小片、または幅 3 cm 以上でも個々の表面積の合計が 50 平方センチメートル未満のものは残っていてもよいとされる[1]。臭化メチルとフッ化スルフリルで処理する場合は、樹皮が処理の効き方に影響するため、処理の前に除去しなければならない[1]。
承認された 4 つの処理
ISPM No.15 の付属書 1 は、次の 4 つの処理を承認している。条件は基準の本文から抜き出した要点で、運用の細部(温度センサーの数、ガス濃度の測定時点など)は付属書 1 に書かれている[1]。
| 処理コード | 処理 | 基本の条件 | 使えない場合 |
|---|---|---|---|
| HT | 従来の蒸気・キルンドライなどの熱処理 | 木材の断面全体(中心部を含む)が連続して最低 30 分間、少なくとも 56℃ | 寸法の上限は本文に無い |
| DH | 誘電加熱(マイクロウエーブ・高周波) | 木材の断面全体(表面を含む)が連続する 1 分間、少なくとも 60℃ | 厚さ 5 cm を超える材を 2.45 GHz で加熱する場合は、加熱の均一性を確保する装置構成が要る |
| MB | 臭化メチルくん蒸 | 最低 10℃以上、24 時間以上で、温度ごとの最低 CT 値(例:21℃以上で 650 g・h/m³)を達成 | 横断面の最も小さい寸法が 20 cm を超える木片を含むもの |
| SF | フッ化スルフリルくん蒸 | 木材 20℃以上で 48 時間以上(3000 g・h/m³)、または 30℃以上で 24 時間以上(1400 g・h/m³) | 20 cm を超える木片を含むもの、水分含有量 75%(ドライベース)超のもの |
臭化メチルについて基準は、オゾン層を破壊することが知られているとし、各国の植物防疫機関に承認済みの代替処理の利用を促すよう奨励している[1]。輸出先によっては使える処理が限られることもあるので、処理方法を指定したい場合は、まず輸出先の要求を確かめる。植物防疫所は主な国の要求を国別のページにまとめている[2]。
マークの構成と付け方
マークは、シンボル、ISO の 2 文字の国コード、植物防疫機関が割り当てる生産者/処理実施者コード、処理コードで構成される。国コードと生産者/処理実施者コードはハイフンで区切り、処理コードはその後ろに別の行で書くか、同じ行ならハイフンで区切る[1]。マークは長方形または正方形の境界枠で囲み、枠の内側には他の情報を一切入れない。生産者の商標などを添える場合は枠の外に置く[1]。
付け方について、基準は次の点を求めている[1]。
- 判読可能で、耐久性があり移動できないこと
- 使用時に見やすい場所で、なるべく向かい合った少なくとも両側に付けること
- 手描きでないこと
- 危険物のラベルに使われる赤色・オレンジ色を避けること
「なるべく両側」は基準の書き方だが、輸出先がこれを要件にしている場合もある。植物防疫所のアメリカ向けの情報は、マーク表示を輸出用木材こん包材の両側少なくとも 2 カ所に表示すること、としている[6]。仕入先には「両側」を推奨ではなく条件として伝えておくほうが、輸出先の違いで揉めにくい。
日本で付けるマークの番号は、実施要領の別紙 2 で形式が決まっている。国コードは JP、その後ろの 7 桁は、左から生産者の所在地を表す 3 桁、実施機関を表す 1 桁、生産者を表す 3 桁である[4]。受入や出荷前の確認では、この桁数と並びを見れば、少なくとも形式の誤りは拾える。
日本で表示できるのは誰か
日本では、消費・安全局長が登録した消毒証明実施機関が、消毒実施者の認定と木材こん包材生産者の登録を行っている[2]。実施要領によれば、認定消毒実施者は登録こん包材生産者の依頼で消毒を行い、自動温度記録装置による処理の記録など、消毒が適切に行われたことを示す「消毒実施記録」を生産者に交付する。登録こん包材生産者は、記録と目印を確かめたうえで、実施機関に登録したスタンプ等で表示する[3]。生産者は、登録したもの以外のスタンプ等を使ってはならず、消毒実施記録を保管し、表示の実績を帳簿に記録する[3]。
実施機関として登録されているのは、一般社団法人全国植物検疫協会と一般社団法人全国木材検査・研究協会の 2 機関で、認定消毒実施者と登録生産者の一覧は各機関のサイトに掲載されている[2]。仕入先が「自社で熱処理してスタンプを押している」と言う場合は、どちらかの一覧に載っている事業者かを確かめればよい。
仕入先・梱包業者への指定(実務の提案)
ここからは規格の要求ではなく、発注側として書いておくと揉めにくい項目である。購買仕様書の書き方の全体は購買仕様書の書き方で扱っている。
1. 出荷先と、要求の有無を書く
輸出用の木材こん包材は輸出先国の要求事項に従う必要がある[2]。発注書や梱包仕様書には「ISPM No.15 適合」と書くだけでなく、出荷先の国名を書き、仕入先が国別の要求を確かめられるようにする。
2. 部材ごとの材料を決める
合板などの加工木材で全体を作るのか、製材を使うのかを部材ごとに決める。製材を一部でも使えば、その部材に処理とマークが要る。
3. 処理方法を決めるか、任せるかを書く
輸出先の要求に処理方法の制限がなければ、どの承認された処理でもマークは付けられる。自社として処理方法をそろえたい場合(たとえば臭化メチルを避けたい場合)は、その旨を書く。
4. マークの位置と数を書く
「向かい合った 2 面以上、開梱前に外から読める位置」のように、位置と数を条件にする。ダンネージは積み込みのときに切断されることがあり、マークの全要素が残らない小片はダンネージに使うべきでないとされている[1]ので、切断して使う前提ならその扱いも決めておく。
5. 証跡を求める
登録番号と、処理のロットが分かる記録(消毒実施記録の写しなど)を、出荷の都度または求めに応じて出してもらう。登録生産者は記録の保管と帳簿の作成を求められている[3]ので、無理な要求ではない。
6. 修理・再使用の扱いを決める
ISPM No.15 は、修理・再製造・その他の変更がされていない処理済みの木材こん包材は、使用期間を通じて再処理やマークの付け直しを要しないとしている[1]。一方、構成部材のおよそ 3 分の 1 以下を交換したものを「修理」、それより多く交換したものを「再製造」と呼び、修理には処理済みの木材だけを使い、追加した部材にそれぞれマークを付ける必要がある。再製造では以前のマークを恒久的に抹消して、再処理し、新たにマークを付けなければならない[1]。通い箱やパレットを繰り返し使う運用では、壊れた板を誰がどの材で替えるかを決めておかないと、気づかないうちに要件から外れる。
7. 輸入する部品の梱包にも同じことを求める
海外の仕入先から木箱で届く部品は、日本側の植物検疫の扱いが表示の有無で変わる。処理表示がある木材こん包材は検疫措置が不要で届け出も要らないが、表示がない場合は植物防疫所への届け出と輸入検査が必要になる[5]。表示と無表示が混在すれば、無表示のものについて届け出と検査が要る[5]。輸入する部品の発注書にも、梱包の木材の条件を入れておく。
受入・出荷前に確かめること
出荷前の検品や受入で見るのは、次の点である。
- 製材の部材すべてにマークがあるか(合板の箱に付けた角材、パレットの桁、ダンネージを含む)
- マークが境界枠で囲まれ、国コード・番号・処理コードがそろっているか。枠の中に余計な情報が入っていないか[1]
- マークが判読でき、手描きでないか[1]
- 樹皮が残っていないか(許容される大きさを超えていないか)[1]
- 修理した形跡のある箱で、交換した板にマークがあるか[1]
マークや梱包の不備は、梱包の外観から確かめられる数少ない項目である。部品の外観基準と同じく、合否の条件は発注時に渡しておき、後から条件を足さない。部品側の外観の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱った。
なお、輸出先国で不適合が見つかった場合の扱いは輸入国が決める。たとえば植物防疫所の中国向けの情報は、消毒済みのマークが要求に合わない場合や生きた有害生物が見つかった場合、消毒処理・廃棄処理・返送処理をさせ、その費用は荷主が負担するとしている[7]。誰が費用を負担するかは輸入国の手続とは別に、仕入先・梱包業者との契約で決めておく必要がある。
よくある質問
処理済みのマークがある古いパレットを、輸出にそのまま使えますか
ISPM No.15 は、修理や再製造などの変更がされていない処理済みの木材こん包材は、再処理やマークの付け直しを要しないとしている[1]。ただし植物防疫所の FAQ は、再利用した木材こん包材を輸出に使う場合の扱いは輸出先の国・地域によって異なるので、事前に植物防疫所か輸出先の政府機関に確かめるよう案内している[5]。板を替えている場合は、前の節の修理・再製造の扱いになる。
マークに有効期限はありますか
日本への輸入について、植物防疫所の FAQ は、処理表示に有効期間はないと答えている。ただし表示の確認が困難と判断された場合は除く[5]。古くて読めないマークは、期限の問題ではなく判読性の問題として扱われる。
中国の工場から届く木箱に、別の国のマークが付いていました
日本への輸入について、植物防疫所の FAQ は、処理表示があれば生産国に関わりなく使われていても問題はなく、届け出や輸入検査も要らないとしている。ここでも、表示の確認が困難と判断された場合は除かれる[5]。
マークの代わりに書類を付けることはできますか
日本への輸入については、輸出国政府が発行する植物検疫証明書に国際基準に基づく消毒の適切な記載があれば、処理表示の代わりとして扱うと FAQ にある。この場合は証明書を植物防疫所に提出する[5]。輸出先の国が同じ扱いをするかは国ごとに確かめる。
まとめ
輸出入の木箱・パレット・ダンネージは、ISPM No.15 に従って樹皮を除き、承認された 4 つの処理のいずれかを施し、境界枠で囲んだ決まった形式のマークを付ける。全体を合板などの加工木材で作れば要件から外れるが、製材の部材が一つでもあればその部材に表示が要る。日本で表示できるのは消毒証明実施機関に登録された生産者で、マークの番号は JP と 7 桁で構成される。仕入先や梱包業者には、出荷先の国、部材ごとの材料、処理方法を指定するかどうか、マークの位置と数、記録の写し、修理したときの扱いまでを発注の段階で書いておく。輸入する部品の梱包にも同じ条件を入れておけば、日本での輸入検査の手間を避けられる。防錆や梱包材の選び方は出荷時の防錆の指定、部品そのものの識別表示は部品の識別表示の指定、海外への発注書の書き方は英文の見積依頼・発注書で扱っている。
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出典・参考資料
- 国際基準No.15「国際貿易における木材こん包材の規制」(仮訳)(横浜植物防疫所/ISPM 15 の 2018 年出版版の仮訳)
- 木材こん包材の輸出入(植物防疫所)
- 輸出用木材こん包材消毒実施要領(農林水産省消費・安全局長通知/平成 15 年 10 月 16 日 15消安第2489号、令和 3 年 1 月 12 日一部改正)
- 輸出用木材こん包材消毒実施要領 別紙2 消毒済みの表示と表示方法(農林水産省消費・安全局)
- 木材こん包材 よくある質問集FAQ(植物防疫所/平成 26 年 7 月 31 日更新)
- アメリカ向け輸出用木材こん包材に関する情報(植物防疫所/令和 7 年 12 月 1 日更新)
- 中国向け輸出用木材こん包材に関する情報(植物防疫所/平成 27 年 3 月 27 日更新)
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