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投稿日:2026年10月2日

発注の状況を担当者しか知らない——休みや異動で止めないための持ち方

この記事のポイント(結論先出し)

「あの発注は担当者に聞かないと分からない」という状態は、担当者の能力ではなく情報の置き場所の問題である。発注の一覧は個人の表計算ファイル、回答された納期は個人のメールや電話のメモ、取引先との細かな取り決めは記憶の中、という置き方では、担当が休んだ日に誰も答えられない。金融庁の内部統制の実施基準は、職務を適切に分掌することで、業務を特定の者に一身専属的に属させて組織としての継続的な対応が困難になる問題を克服できる、と書いている。対策は大きく 4 つで、①案件ごとに「状態・次にやること・期限・相手の窓口・約束」の 5 つを共有の場所に書く、②取引先ごとに主と副の担当を決める、③取引先とのやりとりの入口を個人ではなく共有にする(ただし共有の ID は使わない)、④不在のときに誰が何を代わりにしてよいかを決める。担当が 1 人しかいない会社ほど、この 4 つが効く。

「担当者に聞かないと分からない」は、どこに情報があるかの問題

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購買の担当者が 1 人か 2 人の会社では、発注の状況はたいてい担当者の手元にある。発注の一覧はその人の表計算ファイル、取引先が回答した納期はその人のメールの受信箱、「この品番は 3 か月ごとに単価を見直す」といった取り決めはその人の記憶の中である。担当者は全部を把握しているので、普段は何も困らない。

困るのは、その人がいない日である。製造部から「あの部品はいつ入るのか」と聞かれても、誰も答えられない。取引先から「納期を 1 週間ずらしてよいか」と電話が来ても、受けた人は判断できない。担当者が戻るまで待つか、休み中の担当者に電話をかけることになる。

この状態は、担当者が仕事を抱え込んでいるから起きるのではない。発注の状況を書く場所が、最初から担当者個人の道具にしか用意されていないから起きる。交代のときに何を引き継ぐかは購買担当の引き継ぎで抜けるもので扱った。この記事は、交代の前の、普段の持ち方を扱う。普段から共有の場所に置いてあれば、急な休みや異動のときに引き継ぐものは少なくなる。

属人化で実際に困る場面

1. 納期の問い合わせに答えられない
製造部や営業からの「いつ入るか」に、担当者以外が答えられない。答えられないまま生産の計画が組まれ、入荷が遅れて初めて問題が表に出る。

2. 同じものを二重に発注する
担当が休んでいる間に急ぎの依頼が来て、別の人が発注する。実は担当者が先週発注済みだった。発注の一覧が個人のファイルにあると、ほかの人は確かめようがない。

3. 取引先からの申し入れが止まる
値上げの申し入れや協議の求めが担当者宛てのメールで届き、担当者が不在の間、誰も読まない。返事が遅れたこと自体が、取引の問題になることがある。申し入れへの対応は仕入先から値上げの申し入れが来たらで扱っている。

4. 承認が止まる
発注の承認者が 1 人に決まっていて、その人が出張中だと、急ぎの発注が出せない。代わりに承認してよい人が決まっていないので、承認を飛ばして発注してしまうこともある。

金融庁の企業会計審議会が示す内部統制の実施基準は、統制活動の説明のなかで、職務を複数の者の間で適切に分担または分離させることが重要だとし、適切に職務を分掌させることは、業務を特定の者に一身専属的に属させることにより、組織としての継続的な対応が困難となる等の問題点を克服することができる、と書いている[1]。上場会社の財務報告のための基準だが、「一人に属させると、組織として続けられない」という指摘は、規模に関係なく購買の現場に当てはまる。発注・検収・支払の職責をどう分けるかは発注する人と検収する人を分けるで扱っている。

担当者の頭の中にあるものを、5 つの欄に出す

発注の状況のうち、担当者にしか分からないものは何かを書き出すと、だいたい次の 5 つに収まる。これを案件(発注や見積依頼)ごとに、共有の場所に書いておく。

欄 頭の中にある例 書き方の例 書かないと起きること
状態 「あれは先週送った」「回答待ち」 送付済み・受注確認済み・出荷済み・入荷済み 二重発注、出したつもりの発注が出ていない
次にやること 「金曜に納期を確認する」 納期の確認、図面の改訂版を送る、単価を確定させる 担当がいない日に、誰も次の手を打たない
期限 「月末までに返事が要る」 日付で書く(「今月中」と書かない) 期限が過ぎたことに誰も気づかない
相手の窓口 「〇〇さんに電話すれば早い」 取引先の担当者名、部署、代表の連絡先 誰に聞けばよいか分からない
約束 「次の発注で端数を調整する約束」 回答された納期、単価の取り決め、口頭で合意したこと 約束が守られず、取引先との信頼が崩れる

このうち「約束」の欄は、法令の記録とも重なる。取適法(中小受託取引適正化法)の対象になる製造委託では、委託した側は取引の経緯を記録して 2 年間保存しなければならず(7 条記録)、公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、給付の内容を変更させた場合の内容と理由や、代金の額に変更があった場合の増減額と理由を、記録事項として挙げている[2]。テキストはさらに、記録事項は事実が生じたり明らかになったりしたときに速やかに記録し、中小受託事業者別に記録しなければならないとしている[2]。担当者が手帳に書いて、月末にまとめて表に写す運用では、この「速やかに」を満たしにくい。何を記録し、どう残すかは発注の記録を 2 年どう残すかにある。

5 つの欄は、担当者が自分のために書くメモとしてではなく、ほかの人が読んで動ける形で書く。「例の件」「いつもの」と書かない。品番、取引先、日付で書く。

取引先ごとに「主」と「副」を決める

担当を取引先ごとに 1 人の名前で決めていると、その人が休んだ日にその取引先は担当者不在になる。取引先ごとに主の担当と副の担当を決め、副の担当は普段から案件の一覧を見ておく。月に一度、主と副で一覧を一緒に見る時間を取るだけでも、副の担当が「この取引先で今動いている案件」を知っている状態になる。

担当が 1 人しかいない会社なら、副の担当は購買以外の人でよい。上長や、製造の側で部品の入荷を気にしている人が、少なくとも一覧を開いて読める状態にしておく。

取引先との決まりごとを担当者だけが知っている状態も避けたい。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、注文書に毎回書く事項を共通事項としてまとめて明示する方法を説明するなかで、委託事業者においては年に 1 回、社内の購買・外注担当者に対し、共通事項の内容について周知徹底を図ることが望ましい、と書いている[2]。取引先と取り決めた条件は、担当者の知識ではなく、社内の購買に関わる人が共有しておく前提の情報として扱われている。

取引先とのやりとりの入口を、個人から共有へ

担当者のメールの受信箱に取引先とのやりとりが溜まっていく状態は、属人化の一番の原因である。国税庁は、注文書・見積書・請求書などに相当する電子データをやりとりした場合、受け取った場合だけでなく送った場合にも、そのデータを保存する必要があると説明している[3]。電子メールで受け取ったデータについては、検索できる状態で保存する必要があるので、添付された電子メールをメールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えない、としている[4]。担当者の受信箱にしか無いやりとりは、属人化の面でも、保存の面でも、会社のものになっていない。保存の置き場所の設計は前出の記録の記事にあるので、ここでは日々の入口の作り方に絞る。

入口を共有にする方法はいくつかある。発注や見積依頼の送り元を、購買の共有のメールアドレスにする。取引先から届いた注文請書や納期回答は、案件ごとの共有フォルダや、発注の記録に添付して残す。電話で受けた回答は、受けた人がその場で 5 つの欄に書く。

ここで間違えやすいのが、共有の入口と、共有の ID を混同することである。1 つのアカウントのパスワードを担当者全員で使い回すと、誰が送ったのか、誰が直したのかが分からなくなる。情報処理推進機構(IPA)の中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインは、共有 ID はなるべく使わないようにし、やむを得ず使う場合は共有 ID を利用したユーザーを特定可能とする仕組みを整備するよう勧めている[5]。共有するのは受信箱やフォルダや記録であって、ログインの ID ではない。ID を 1 人 1 つにする運用は購買システムのアカウント管理で扱っている。

不在のときに、誰が何を代わりにしてよいかを決める

情報が共有されていても、代わりに動いてよい範囲が決まっていなければ、結局は担当者の戻りを待つことになる。決めておくのは次の 4 つである。

  1. 納期の問い合わせへの回答:副の担当が、記録を見て答えてよい
  2. 急ぎの発注:副の担当が出してよい金額の上限と、事後に担当へ知らせる方法
  3. 取引先からの変更の申し入れ(納期・数量):その場で承諾してよい範囲と、担当の判断を待つ範囲
  4. 承認:承認者が不在のときに代わって承認する人

代わりに承認する人を決めるときは、発注した本人が自分の発注を承認する形にならないようにする。IPA のガイドラインは、特定の役職員等への権限の集中によるシステムの不正利用や権限の濫用を防ぐために、アクセス権限を見直すルールを定め、付与の状況を管理するよう勧めている[5]。不在の間だけ権限を広げたなら、戻ったときに元に戻す。紙と印鑑の承認からシステムの承認に移すときの決め方は紙と印鑑の発注承認をシステムに移すときで扱う。

毎週、取引先別・期限順の一覧で見る

担当者ごとに一覧を分けると、担当者が休んだ週はその人の一覧を誰も開かない。一覧は取引先別と期限順で並べ、担当者の名前は列の一つとして持つ。週に一度、購買に関わる人が同じ一覧を見て、期限を過ぎたもの、期限が近いもの、次にやることが空欄のものを拾う。納期を過ぎた発注の一覧の作り方は納期を過ぎた発注の一覧をどう作るかで扱う。

表計算ファイルで共有するなら、1 つのファイルを共有の場所に置き、各自がコピーを持たない。コピーが増えると、今度は「どれが最新のファイルか」という問題が起きる。その対処は「どれが最新のファイルか分からない」を無くすにまとめる。

担当が 1 人の会社でも、ここまではできる

購買の担当が 1 人しかいない会社では、属人化は避けられないように見える。だが、5 つの欄を共有の場所に書く、取引先とのやりとりを共有の入口に集める、休んだ日に誰が一覧を開くかを決める、の 3 つは、人を増やさなくてもできる。担当者 1 人の会社がシステムに移すかどうかの判断は購買担当が 1 人の会社が、システムに移すかどうかで扱う。

よくある質問

担当者が「自分のやり方で回っているので、共有の場所に書くのは二度手間だ」と言います

二度手間に感じるのは、自分用の記録と共有の記録を別々に持とうとするからである。共有の場所に書いたものを自分の記録として使う形にすれば、手間は増えない。最初の 1 か月は、担当者が休んだ日に何が起きたかを記録しておくと、共有の必要性が具体的に見えてくる。

取引先が担当者の携帯電話に直接連絡してきます

直接の連絡をやめてもらう必要はないが、受けた内容は 5 つの欄に書く決まりにする。あわせて、取引先には購買の代表の連絡先と、担当者が不在のときの連絡先を知らせておく。取引先の側から見ても、担当者 1 人にしか連絡がつかない状態は不安である。

共有のメールアドレスにすると、誰が返事をするかで揉めます

受けた順や取引先ごとに、誰が返事をするかの決まりを作る。返事をした人は、どの案件に返事をしたかを記録に残す。返事をした人が分からない状態は、共有の ID を使い回している状態と同じ問題を生む。

まとめ

発注の状況を担当者しか知らない状態は、情報の置き場所が担当者個人の道具にしか無いことから起きる。案件ごとに「状態・次にやること・期限・相手の窓口・約束」の 5 つを、ほかの人が読んで動ける形で共有の場所に書く。取引先ごとに主と副の担当を決め、取引先とのやりとりの入口を個人の受信箱から共有へ移す。共有するのは受信箱や記録であって、ログインの ID ではない。不在のときに代わりにしてよい範囲と、代わりに承認する人を決め、一覧は担当者別ではなく取引先別・期限順で毎週見る。担当が 1 人の会社でも、この持ち方は人を増やさずに始められる。

出典・参考資料

  1. 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
  2. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  3. 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください【令和 6 年 1 月以降用】(国税庁/令和 5 年 7 月)
  4. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
  5. 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第 4.0 版(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)/2026 年 3 月)

発注の状況を、担当者以外も同じ画面で追う

この記事で扱った項目のうち、Newji one(製造業の見積・発注クラウド)では、取引先ごとに自社の担当者を割り当て、発注の一覧を「自分の担当」と全件で切り替えて見られます。発注には下書きから検収完了までのステータスがあり、納期が今日までの発注や未送付の発注をすぐに絞り込めます。ステータスの変更、希望納期や備考の修正、発注の分割、取引依頼による数量や納期の変更は、誰がいつ何を変えたかが発注ごとの履歴に残ります。権限は管理者・マネージャー・メンバーの 3 つです。なお、発注書のメールは送信専用のアドレスから届くため、取引先がそのメールに返信しても担当者には届きません。取引先との連絡の窓口は別に決めておく必要があります。

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