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投稿日:2026年10月8日

外観検査をAIで自動化する前に決めること——画像の集め方、判定基準、人の最終判断

この記事のポイント(結論先出し)

外観検査を AI で自動化するときに最初に決めるのは、使う手法ではなく何を見逃してはいけないかと、どんな状況の画像が入ってくるかである[1]。工場は良品を作る場なので不良品の画像は集まりにくく[3]、まれな不良に十分な画像を用意するか、全体の平均の正しさを優先するかは両立しないことがある[1]。良否の境目(閾値)は人が決める[3]。撮る条件は、目視の比較で照明や背景を決めるのと同じように固定する[4]。人の最終判断を残すなら、AI の判定をそのまま承認しない仕組みにする[2]。仕入先から受け入れる部品の検査に使うなら、判定の基準を発注の前に合わせておく[5]。

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AI で外観検査を自動化する話は、技術の紹介や「AI でも完全には自動化できない」という一般論で語られることが多い。後者については外観検査が AI でも完全には自動化できない理由の記事がある。また、目視や官能検査の判定基準を言葉や見本で表に出すところは官能検査に AI を導入する前に整理すべきことの記事が扱っている。この記事はそこから一歩進めて、基準を表に出したあとで、発注側や現場が始める前に決めておくこと(見逃してはいけない不良、入ってくる画像の条件、閾値、運用中の監視)に絞る。外部の会社に開発を頼む場合も、自社で試す場合も、決めることは同じである。

産業技術総合研究所の機械学習品質マネジメントガイドライン(第 4 版)は、機械学習を使うシステムの品質を管理する特性を、5 分野 14 特性に整理している[1]。分野は、品質構造・データセットの設計(A)、データセットの品質(B)、機械学習モデルの品質(C)、ソフトウェア実装の品質(D)、運用時の品質(E)である[1]。以下では、このうち発注側が決めなければ外部の開発者には決められないものを、外観検査に当てはめて順に見ていく。

向く検査と、向かない検査

表面技術協会の誌上の解説は、画像検査に深層学習を使う場合の特徴として、「なぜ OK や NG なのか」という理由が明確に分かるわけではないこと、想定しない情報を学習することもあること、OK や NG の可能性を百分率で示すため閾値は人が決めなくてはならないこと、を挙げている[3]。製造現場に特有の問題としては、学習用に OK 画像と NG 画像を大量かつ同数そろえるのが難しいこと、新しい製品では OK 画像の準備も難しいこと、判定を間違えたときに現場の作業者が対応を迫られること、を挙げている[3]。

このことから、向き不向きは次のように整理できる。下の表は、出典の指摘を検査の条件に置き換えた目安である。

見るところ 始めやすい 難しい
製品の種類 同じ品番が長く流れ、良品の画像が日々たまる 新製品・多品種少量で、良品の画像もそろわない
不良の出方 「良品と違うもの」を拾えばよい まれな不良の種類まで見分けて記録する必要がある
撮る条件 置き方・向き・照明を固定できる 製品の姿勢や表面の光り方が毎回変わる
判定の基準 限度見本などで良否の境目が言葉と物で決まっている 検査員ごとに判定が割れ、基準が人の中にある
見逃しの重さ 見逃しても後の工程や人の確認で拾える 見逃しがそのまま客先や安全の問題になる

同じ解説は、著者の意見として、深層学習による画像検査は 90〜98%ぐらいの正答率までは達成できるがそれでは不十分な現場が多く、数%を上げて 100%にするのは至難の業だ、と書いている[3]。数字は検査によって違うが、「全部を AI に任せる」前提で計画すると、最後の数%で止まりやすいということである。最初は、人の検査を残したまま AI に一次の振り分けをさせる形から考えるほうが現実的である。

始める前に決めること 1:何を見逃してはいけないか

ガイドラインは、特性 A-0「問題構造の事前分析の十分性」として、データの分析だけでなく、品質の対象になる問題の要因や構造に十分な注意を払うことを求めている[1]。さらに、開発の最初にシステムの利用目的・想定する利用環境の範囲・達成すべき KPI を特定し、機能要件が達成されない場合に起こる被害などを列挙する(リスクアセスメントに対応する)手順を示している[1]。

外観検査なら、まず次の二つを分けて書く。

  • 見逃し(不良を良品と判定すること)が起きたら何が起きるか。客先への流出か、後の工程で拾えるか
  • 見すぎ(良品を不良と判定すること)が起きたら何が起きるか。廃棄や再検査の手間がどれだけ増えるか

ガイドラインは、運用時の監視について、フィルタリングで監視する場合にも「偽陽性は許容できるが偽陰性は許容できない」といった条件が付く場合がある、と書いている[1]。外観検査では多くの場合、見逃しのほうが重い。そうであれば、見すぎを多少許してでも見逃しを減らす側に閾値を寄せ、見すぎた分を人が見直す、という役割分担を最初から決めておく。

始める前に決めること 2:どんな状況の画像が入ってくるか

ガイドラインの特性 A-1「問題領域分析の十分性」は、運用時に入ってくる実データの性質を分析し、想定される全ての利用状況を覆っていることを求める[1]。例として、信号機の画像認識では表示の色・時間帯・天候といった独立した条件を書き出し、その組み合わせで状況を捉える方法を示している[1]。また、特性 A-2 の説明では、簡単な例でも組み合わせの総数が 1400 になり、実際の事例では 1 万のオーダーになることもあるので、粗い粒度で広く網羅しながら、危害や性能低下の可能性が高い細かい組み合わせには漏れなく対応する、という考え方を示している[1]。

外観検査に置き換えると、たとえば次のような条件を書き出す。

  • 品番・色・表面仕上げ(つや有り、つや無し、めっき面など)
  • 材料のロットや仕入先の違い
  • 置き方・向き・搬送の速さ
  • 時間帯や季節による周囲の明るさ
  • 欠点の種類(傷・打痕・異物・色むら・欠けなど)と、その大きさ

この書き出しが、後で「どの状況の画像が足りないか」を数える物差しになる。ガイドラインは、実環境で集めたデータだけでは見つけにくいまれな状況を特定することも、この段階の重要な作業だとしている[1]。

始める前に決めること 3:画像と不良サンプルの集め方

まれな不良を厚くするか、全体の平均を取るか

ガイドラインは、対応すべき状況の組み合わせの各々に抜け漏れなく十分な量のデータがあること(B-1 データセットの被覆性)と、データの中の各状況が実際の発生頻度に応じて抽出されていること(B-2 データセットの均一性)を対にして説明し、両者は両立することも相反することもある、としている[1]。まれで危険な状況を重点的に学習させると、他のケースの推論の確からしさが落ち、全体の平均性能が悪くなる可能性もあるという[1]。

外観検査では、まれだが流出させてはいけない不良をどこまで厚く集めるかを、上の「見逃しの重さ」から決める。不良品の画像が足りないことへの対応として、解説は、良品の画像だけで学習して外れたものを NG として検出する方法(半教師学習)や、学習済みのモデルを流用して必要な画像の枚数を減らす方法(転移学習)、画像の左右反転・回転などで見た目の学習画像を増やす前処理を紹介している[3]。ただし、良品だけで学習する方法でも、学習画像に対して NG の割合を決める値を現場で調整する必要がある、と注意している[3]。

正解の付け方(ラベル)を一本にする

ガイドラインの特性 B-3「データの妥当性」には、学習に使う測定値などの妥当性と、学習用に付けた正解値の妥当性(ラベリングの適切性)の 2 つの観点が含まれる[1]。要件や正解の付け方の方針が更新されたら、それに合わせてデータを整理し直す必要がある、とも書かれている[1]。

外観検査では、検査員によって良否の判定が割れている画像に、どちらの正解を付けるかが問題になる。ここで基準が割れたまま画像を集めると、AI は割れた基準をそのまま学ぶ。正解を付ける前に、欠点の定義・見る面・見る条件・限度見本を決め直す。決め方は外観の合否基準を仕入先と決める記事に書いた。

始める前に決めること 4:撮る条件を固定する

解説は、画像はハレーション(光の反射で白く飛ぶこと)などちょっとした影響を受けやすく、学習用の画像と実運用の結果から人が問題点を推理し、環境を整えなければならない、と書いている[3]。前処理の工夫として、画像上の輝度の影響を除く、検査対象の背景をマスキングする、といった取り組みも挙げている[3]。

人が目で見比べる検査でも、条件は規格で決めている。表面の色を目で比べる方法を定めた JIS Z 8723 は、作業面の照度を 1,000〜4,000 lx の間とし、均斉度(照明の範囲内の最小照度と最大照度の比)を 80%以上とすること、一般に用いるブースの内装を明度 L* 約 45〜55 の無光沢の無彩色とすることを定めている[4]。自然昼光で比べる場合は、少なくとも 2,000 lx の照度で、太陽の直射光は避ける、としている[4]。

条件(JIS Z 8723 の色の視感比較) 規格の値 画像で検査するときに決めること
作業面の照度 1,000〜4,000 lx 照明の種類・位置と明るさ。外光を遮るか
均斉度 80%以上 撮る範囲の中の明るさのむら
ブースの内装 明度 L* 約 45〜55 の無光沢の無彩色 背景の色と反射。映り込みを防ぐ
自然昼光で比べる場合 少なくとも 2,000 lx・直射光を避ける 時間帯で明るさが変わる場所に置かない

規格の数値は目視で色を比べるためのもので、カメラの検査にそのまま当てはまるわけではない。ただ、「照明と背景と明るさのむらを決めて固定する」という考え方は同じである。学習用の画像を撮った後に照明を替えると、AI にとっては別の状況になる。撮る装置と条件を決めてから画像を集め始める。

始める前に決めること 5:判定基準と人の最終判断の残し方

閾値は人が決め、記録に残す

解説が書くとおり、AI は OK・NG の可能性を百分率で示すので、どこで線を引くかは人が決める[3]。決めた閾値と、その値にした理由(どの画像で試し、見逃しと見すぎがそれぞれ何件だったか)を記録する。閾値を後から変えるときも、同じように記録する。

AI の判定をそのまま承認しない

総務省・経済産業省の AI 事業者ガイドライン(第 1.2 版)も、AI の判定を人が鵜呑みにして承認してしまうこと(自動化バイアス)に注意を促し、承認するときは理由を人が自分で考えることを対策に挙げている[2]。ガイドラインの対策の中身は、生産計画・在庫管理に AI を使うときの記事で詳しく扱った。外観検査で言えば、次のようになる。

「最終判断は人」と決めても、AI が OK と出したものを人が流し見で通すだけなら、実際には AI が判断している。人の確認を残すなら、何を人が見るか(AI が NG とした物だけか、OK の中から抜き取りも見るか)を決め、AI の判定を見る前に人が判定する場面を一部に残すといった工夫を考える。ガイドライン(産総研)は、運用時の出力の監視の方式として、人による全数又はサンプリングの監視、自動監視、フィルタリングを挙げている[1]。

運用中に性能が落ちることを前提にする

ガイドラインは、運用状況の情報を継続的に取得して記録を保存すること(E-0)と、運用開始時の品質が運用期間中を通じて維持されること(E-1)を、品質の特性に含めている[1]。材料や仕入先が替わる、照明が劣化する、新しい品番が加わる、といった変化で、入ってくる画像は少しずつ変わる。人が見直した結果(AI の判定と人の判定が違った件)を残しておけば、性能の低下に気づく手がかりになる。

外部の会社に開発を頼むとき

ガイドラインには、業務委託契約で開発する場合の留意点が書かれている。機械学習の開発では依頼開始時に明確な KPI や受け入れ条件を決めるのが難しい場合が多いので、予備的な実験段階(PoC)の目的(出口条件)や次の段階へ引き渡す成果物を、依頼者と開発者の双方で合意し、段階の区切りで確認する、といった施策を挙げている[1]。訓練用データの準備でも、生データを依頼者が用意すると決めるだけでは足りず、前処理を誰がどう行い、その目標を達成した証拠を誰が残して確認するのかを決める必要がある、という例を示している[1]。また、提示されたテスト用のデータを訓練に使うような「検証を通すことだけを重視した行為」は避けなければならない、と明記している[1]。

発注側としては、試す段階の出口条件(どの状況の画像で、見逃しが何件以下なら次に進むか)と、評価に使う画像を学習に使わないことを、最初の段階で書面にしておく。運用後のデータの取り方と保存の仕組みも、開発の範囲に入れておく[1]。

仕入先から受け入れる部品の検査に使うとき

受入検査を AI に置き換えると、これまで人が合格にしていた物を AI が不合格にすることがある。公正取引委員会のテキストは、取適法の対象取引で受領を拒めない場合として、委託内容が明示されていなかったり検査基準が明確でなかったりして、給付が委託内容と異なることが明らかでない場合、そして発注後に検査基準を恣意的に厳しくして、従来の検査基準で合格とされたものを不合格とする場合を挙げている[5]。

AI の閾値を変えて判定が厳しくなるのは、基準を変えたのと同じ結果になりうる。仕入先の部品に使うなら、AI で何を不良とするかを限度見本と言葉で合わせ、発注の前に合意しておく。受領拒否と返品の線は受領拒否・返品・やり直しの記事で扱っている。

よくある質問

まず何から試せばよいか

一つの品番、一つの工程から始める。ガイドラインが示すとおり、試す段階の出口条件を先に決め[1]、人の検査を残したまま AI の判定を並べて記録し、見逃しと見すぎの件数を数える。この記録が、閾値を決める根拠にも、続けるかやめるかの判断にもなる。

官能検査(においや手触りなど)にも使えるか

画像で捉えられる性質かどうかが先に問題になる。においや手触りは画像に写らないので、別のセンサーや別の方法を考えることになる。どの技術が合うか分からないときは、目的と確かめ方を書き出すところから始めるのは、振動の測定と解析を頼むときの記事やCFD解析を外部に頼むときの記事と同じである。

生産計画や在庫の判断にも AI を使いたい

検査とは任せ方が違う。何を AI に任せ何を人が決めるかは、生産計画・在庫管理に AI を使うときの記事で扱っている。

まとめ

外観検査を AI で自動化する前に、何を見逃してはいけないかと、どんな状況の画像が入ってくるかを書き出す。不良品の画像が少ないことを前提に、まれな不良を厚く集めるか全体の平均を取るかを決め、正解の付け方を一本にする。撮る条件を固定し、閾値は人が決めて理由と一緒に残す。人の最終判断は、AI の判定をそのまま承認しない形で残す。仕入先の部品の受入検査に使うなら、判定の基準を発注の前に合わせる。

出典・参考資料

  1. 機械学習品質マネジメントガイドライン 第 4 版(Revision 4.1.0)(産業技術総合研究所 デジタルアーキテクチャ研究センターほか/2023 年 12 月 12 日)
  2. AI 事業者ガイドライン(第 1.2 版)本編(総務省・経済産業省/令和 8 年 3 月 31 日)
  3. 画像検査への AI の応用についての現状と将来に関する考察(成田 浩久・舘山 武史・永野 佳孝・藤本 英雄/表面技術 71 巻 7 号/2020 年)
  4. JIS Z 8723:2000 表面色の視感比較方法(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2000 年 5 月 20 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
  5. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

目で見ている検品を、画像の AI で効率化したいとき

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