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投稿日:2026年10月16日

黄銅(真鍮)板 C2801・C2680 の発注——JIS H 3100 の記号と質別、時期割れの防ぎ方

この記事のポイント(結論先出し)

黄銅(真鍮)の板と条は JIS H 3100 で規定され、C2801 は銅 59.0〜62.0%、C2680 は銅 64.0〜68.0% で残りがおもに亜鉛である[1]。規格の「特色」では、C2801 は強度が高く打ち抜いたままや折り曲げて使う部品向け、C2680 は展延性・絞り加工性・めっき性がよく深絞り用とされている[1]。発注は製品記号に質別まで書く。曲げ性は注文者が要求しないと受入の条件に入らず、硬さは要求しても参考値として報告される[1]。硬さで合否を決めたいなら、許容範囲を別に協定する。もう一つの注意は時期割れで、製造過程で残った引張応力によって起こる割れである[2]。棒の規格には時期割れ試験があるが、板の JIS H 3100 には時期割れの規定がない[1][3]。加工後の応力除去と使用環境を、発注側から仕入先に確かめる。

この記事は、端子・配線器具部品・銘板・深絞り部品などに使う黄銅の板と条(コイル状の帯)を発注するとき、C2801 と C2680 のどちらを選び、何を発注書に書き、受入で何を確かめるかをまとめる。棒材の快削黄銅 C3604 は銅合金の製品記号と質別の指定で扱ったので、ここでは板と条に絞る。

黄銅と真鍮:JIS の名前は「黄銅」

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「真鍮」と「黄銅」は同じ銅と亜鉛の合金を指して使われることが多い。ただし、JIS の伸銅品の規格と用語では「黄銅」の名前が使われていて、JIS H 3100 と JIS H 0500 の本文に「真鍮」という語は出てこない[1][2]。発注書と図面は、規格の名前と合金番号で書いておく。

JIS H 0500 は、黄銅を銅を主成分(59.0〜71.5%)とする亜鉛との合金(C2600〜C2801)と定義し、銅と亜鉛の割合によって 60/40 黄銅、65/35 黄銅、70/30 黄銅と呼ばれる場合もある、としている[2]。C2801 が 60/40 系、C2680 が 65/35 系、C2600 が 70/30 系に当たる。亜鉛以外の元素を加える場合の条件(亜鉛の量が他の各元素より多い、ニッケル 5% 以下、すず 3.5% 以下)も定義に入っている[2]。

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C2801 と C2680 を規格の値で並べると

JIS H 3100「銅及び銅合金の板及び条」の値を並べる[1]。引張強さは厚さ 0.30 mm 以上の板の値で、ビッカース硬さは規格が参考として示している値である。

項目(JIS H 3100) C2801 C2680
銅(Cu) 59.0〜62.0% 64.0〜68.0%
鉛(Pb)・鉄(Fe) 0.10% 以下・0.07% 以下 0.05% 以下・0.05% 以下
規格の用途例(参考) 打ち抜いたまま又は折り曲げて使用する配線器具部品、ネームプレート、計器板 スナップボタン、カメラ、まほう瓶などの深絞り用、端子コネクタ、配線器具
設定されている質別 O、1/4H、1/2H、H O、1/4H、1/2H、3/4H、H、EH、SH、ESH
引張強さ O 325 N/mm² 以上 275 N/mm² 以上
引張強さ 1/2H 410〜490 N/mm² 355〜440 N/mm²
引張強さ H 470 N/mm² 以上 410〜540 N/mm²
曲げ試験 1/2H(要求がある場合) 180°・内側半径 厚さの 1.5 倍 180° 又は W 曲げ・内側半径 厚さの 1 倍
ビッカース硬さ 1/2H(参考) 105〜160 HV 85〜145 HV

同じ質別なら C2801 のほうが強い。一方で、1/2H の曲げ試験の条件は C2801 が内側半径を厚さの 1.5 倍としているのに対し、C2680 は厚さの 1 倍で、C2680 のほうが小さい半径で曲げられることを前提にしている[1]。H では、C2801 の曲げ試験は 90° で内側半径が厚さの 1 倍、C2680 は 180° 又は W 曲げで内側半径が厚さの 1.5 倍である[1]。強く曲げる・深く絞る部品は C2680、打ち抜きや軽い曲げで強度が要る部品は C2801、というのが規格の特色の記述と合う選び方になる。

製品記号に質別まで書く

JIS H 3100 は、表の種類の記号の後に質別を示す記号を付けて製品記号とする[1]。P は板、R は条で、S の付いたもの(PS・RS)は特殊級である。普通級と特殊級は、寸法の精度(許容差または許容値)によって分類される[1]。C2801 と C2680 には、板の普通級(P)と、条の普通級(R)・特殊級(RS)がある[1]。導電用として使う場合は、P・PS・R・RS の後に C を付ける[1]。

発注書に「C2801」とだけ書くと、質別(O から H まで)も寸法の等級も仕入先が選ぶことになる。たとえば「JIS H 3100 C 2801 P-1/2H」のように、形状と質別まで書く。規格は、板と条の 1 包装ごと・1 巻ごと・1 製品ごとに、規格番号と製品記号、寸法、製造番号、製造業者名を表示するとしている[1]。受入では、表示の製品記号が注文と一致するかを見る。

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曲げ性は要求しないと受入の条件に入らない。硬さは要求しても参考値

JIS H 3100 の機械的性質の箇条は、曲げ性と硬さは注文者の要求がある場合に適用し、曲げ性は曲げた部分の外側に割れを生じてはならないとしている[1]。割れの判定の対象にしない端部からの距離は製造業者の判断により、特に要求がある場合は受渡当事者間の協定による[1]。硬さは参考値として報告するとされ、表のビッカース硬さも参考の値である[1]。つまり硬さは、要求しても規格の上では合否の基準にならない。硬さで受け入れの合否を決めたいなら、許容範囲と測り方を受渡当事者間で別に協定する(当方の提案)。

プレスで曲げる端子や、曲げて使う配線器具部品の材料を買うなら、曲げ性の要求を発注書に書く。曲げる方向(圧延方向に対してどちら向きか)で割れやすさが変わるので、部品の曲げ線の向きも仕入先と共有する。曲げ試験と硬さ試験は、規格に規定した厚さの区分を外れるものには適用しない[1]。

時期割れ:板の規格には試験がない

黄銅を発注するときにいちばん注意したいのが時期割れである。JIS H 0500 は、時期割れを製造過程で材料中に残留した引張応力によって起こる割れと定義し、応力腐食割れの一種としている[2]。

日本金属学会誌に掲載された論文は、銅亜鉛合金は冷間加工のままの状態で用いると時期割れが発生する問題があること、時期割れは特定の腐食環境下において残留応力や外部からの引張荷重に起因して割れが発生する現象であることを述べている[4]。同じ論文の要約は、冷間加工した銅亜鉛合金は非常に高い時期割れ感受性をもつとしている[4]。

ここで規格の違いに注意したい。JIS H 0500 は、時期割れ試験を材料に実用上有害となるような残留応力が存在しているかどうかを調べる試験とし、伸銅品の JIS では環境面を考慮して、JIS H 3250(棒)、JIS H 3300(管)、JIS H 3320 にアンモニア試験だけが適用されている、と書いている[2]。棒の JIS H 3250 は、引抜棒は時期割れ試験を行って表面に割れを生じてはならない、としている(質別 O の引抜棒などは除く)[3]。一方、板と条の JIS H 3100 の品質の項目は、外観・化学成分・機械的性質・結晶粒度・導電率・水素ぜい性で、時期割れの規定はない[1]。

つまり、黄銅の板を規格どおりに買っても、材料の段階で時期割れの心配がないことが試験で確かめられているわけではない。さらに、時期割れの原因になる残留応力は、材料メーカーの圧延だけでなく、部品メーカーの曲げ・絞り・かしめでも生じる。発注側で確かめることをまとめる(当方の提案)。

  1. 部品の使用環境:アンモニアなど、黄銅の割れを促す物質にさらされるか。保管・輸送の環境も含める
  2. 加工の強さ:強い曲げ・深い絞り・かしめで、引張の応力が残る部位があるか
  3. 応力除去:加工後に応力除去の処理を行うか。行うなら条件と記録を仕入先に出させる
  4. 確認の試験:重要な部品なら、部品の段階で割れの有無を確かめる試験を行うか、方法と判定を協定する

JIS H 0500 は、応力除去を低温焼なまし、または問題となるような寸法変化を生じない機械的な処理によって、製品の残留応力を低減させる加工と定義し、低温焼なましを内部ひずみを除去するためまたは機械的性質を改善するために行う再結晶温度以下での熱処理と定義している[2]。加熱の条件は材料と部品で変わるので、規格の値として決まったものはない。仕入先の条件を出させて、試作で確かめる。

脱亜鉛腐食:亜鉛の多い黄銅で起こりやすい

黄銅のもう一つの腐食に脱亜鉛腐食がある。防食技術に掲載された解説は、市販の黄銅製品に認められるおもな腐食形態は孔食、応力腐食割れ(時期割れ)、脱亜鉛腐食であるとし、脱亜鉛腐食は黄銅中の亜鉛成分のみが選択的に溶出したように見える現象で、亜鉛 20% 以上を含む黄銅に起こりやすく、15% 以下の黄銅には通常起こりにくいといわれている、としている[5]。起こしやすい環境として、塩化物イオンを含み溶存酸素の少ないすき間部や析出物近傍、水の停滞した箇所、高温、炭酸ガス含量の高い軟水を挙げている[5]。

C2801 も C2680 も亜鉛を 30% 以上含む合金である。水に触れる部品、湿った環境で使う部品なら、黄銅で問題がないかを設計者に確かめる。棒の規格 JIS H 3250 には、耐脱亜鉛腐食用の種類と脱亜鉛腐食試験があるが[3]、これは棒の話で、板の C2801 と C2680 にはない。

めっきの下地として使うとき

JIS H 3100 は、C2680 の特色に「めっき性がよい」、黄銅 C2600 にも「めっき性がよい」と書いている[1]。端子や装飾部品では、黄銅にニッケルめっきやすずめっきをかけることが多い。めっきの種類・膜厚・測る場所の指定はめっきの発注で指定することで扱っている。型番が同じまま材料やめっきが変わったときに通知させる取り決めはコネクタを調達するときで扱っている。

成績書と鉛

成績書は、受注のときに注文者が求めた場合に出るものとされている。JIS H 3100 は、提出する成績書に載せるのを受渡当事者間で同意した試験と検査の成績としている[1]。成績書が要るなら、載せてほしい項目(化学成分、引張試験、要求した場合は曲げ試験の結果)を発注書に書く。

鉛の上限は、C2801 が 0.10%、C2680 が 0.05% である[1]。製品の仕向け先で含有化学物質の調査票を求められるなら、規格の上限値だけでなく、ロットの分析値や調査票の様式も仕入先に求める。調査の進め方はRoHS への適合を仕入先から確かめるで扱っている。

発注書に書く項目

黄銅の板と条を買うとき、発注書か購買仕様書に書く項目をまとめる(当方の提案)。

  1. 規格番号と製品記号(例:JIS H 3100 C 2801 P-1/2H、C 2680 RS-H)。合金番号だけで終わらせない
  2. 寸法と等級(普通級か特殊級か)。条なら厚さ×幅
  3. 曲げ性が要るなら、その要求と曲げる方向。硬さで合否を決めたいなら、要求に加えて許容範囲と測り方の協定
  4. 加工後の応力除去の有無と条件、時期割れの確認をどう行うか
  5. 使用環境(アンモニア・水・塩化物など)を仕入先に伝える
  6. 成績書の要否と記載項目、含有化学物質の調査票

同じ束では、純銅の選び方を無酸素銅 C1020 とタフピッチ銅 C1100 の違いで、耐食性で選ぶ鋼種を二相ステンレス SUS329J4L の選び方で扱っている。銅の価格の決め方は銅を含む部品の価格の決め方にまとめた。

よくある質問

Q. 図面に「真鍮板 t1.0」としか書いていない。
A. 合金番号と質別が決まっていない。部品の加工(打ち抜き・曲げ・絞り)と使用環境を設計者に確かめ、C2801 か C2680 か、質別は何かを決めてから発注する。

Q. C2801 で曲げたら割れた。
A. 曲げ性は注文者の要求がある場合に適用されるので、要求していなければ受入の条件に入っていない。質別と曲げ半径、曲げの向きを確かめ、必要なら質別を下げるか C2680 に替えることを設計者と相談する。

Q. しばらく置いておいた部品に割れが出た。
A. 時期割れの可能性がある。加工で残った引張応力と保管環境を確かめる。板の規格には時期割れの試験がないので、加工後の応力除去の有無と、部品の段階での確認方法を仕入先と決める。

Q. 黄銅の板の成績書に硬さが載っていない。
A. JIS H 3100 では硬さは注文者の要求がある場合に適用され、要求しても参考値として報告される。硬さの値を載せたいなら注文時に要求し、合否に使うなら許容範囲を別に協定する。

まとめ

黄銅(真鍮)の板と条は JIS H 3100 で規定され、C2801 は 60/40 系で強度が高く、C2680 は 65/35 系で絞り加工性とめっき性がよい。発注は製品記号に質別と等級まで書き、曲げ性は要求しなければ受入の条件に入らず、硬さは要求しても参考値なので、合否に使うなら許容範囲を別に協定する。時期割れは製造過程で残った引張応力による割れで、棒の規格には試験があるが板の JIS H 3100 にはない。加工後の応力除去と使用環境を仕入先と確かめる。亜鉛の多い黄銅では脱亜鉛腐食にも注意し、成績書と含有化学物質の資料は注文時に求める。

出典・参考資料

  1. JIS H 3100:2018 銅及び銅合金の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2018 年 3 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS H 0500:1998 伸銅品用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1998 年 8 月 20 日制定・2023 年 10 月 20 日確認)
  3. JIS H 3250:2021 銅及び銅合金の棒(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 1 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  4. Cu-30 mass%Zn 合金の時期割れ感受性に及ぼす添加元素の影響(吉村泰治・金井恵子・喜多和彦・井上明久/日本金属学会誌 66 巻 9 号/2002 年)
  5. 黄銅の脱亜鉛腐食(能登谷武紀/防食技術 33 巻 2 号/1984 年)

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