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熱収縮チューブの選び方と指定——収縮比と収縮後の内径・肉厚、IEC 60684 と UL 224

この記事のポイント(結論先出し)
この記事は、電気機器や設備の部材として使う熱収縮チューブの話である。熱収縮チューブは、加熱すると管径が縮む管状の材料で、電気用途では主に電線の結束部や端末の絶縁・保護に使われる[1]。国際規格では IEC 60684(電気絶縁用の可とう性スリーブ)が試験方法(第 2 部)と、種類ごとの要求(第 3 部の個別シート)を定めていて、シートごとに収縮比、構造(単層か内面に接着層のある二層か)、難燃の有無、使える温度が違う[2][3][4]。しかも確かめた 2 つのシート(3-247・3-283)は、実際の寸法や肉厚を「使用者と供給者の合意」としている[3][5]。そこで仕様書には、被せる物の最大径と最小径、収縮後の内径と肉厚、長さ方向の縮み、材質と難燃、使う温度と電圧を書く。UL 認定品を求めるなら、UL 224 の対象が「乾燥・湿気のある場所の空気中で、機器内部の配線に使うもの」に限られる点を押さえる[6]。
目次
「φ10 の熱収縮チューブ」で何が決まらないか
熱収縮チューブは、製造の現場では「φ10 の熱収縮チューブ、黒、1 m」のように径と色と長さで手配されることが多い。だがこの「φ10」が、収縮する前の内径なのか、収縮させた後の内径なのかで、合う電線の太さはまったく変わる。収縮比が 2 倍のものと 3 倍のものでは、同じ「φ10」でも締め付けられる範囲が違う。材質も、ポリオレフィンの単層、内面に接着剤の層をもつ二層、ふっ素系など様々で、使える温度と難燃の性能が違う。
熱収縮チューブは電線の端末処理にも DIY の補修にも使われるが、この記事が扱うのは、電気機器・設備・ワイヤーハーネスの部材として熱収縮チューブを選び、仕様書で指定し、受け入れるときの話である。ハーネスとして発注するときの電線・端子・電気検査はワイヤーハーネスの発注で指定することで扱ったので、ここでは保護材としてのチューブに絞る。
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なぜ熱で縮むのか:架橋と「形の記憶」
日本ゴム協会誌の形状記憶ポリマーの解説は、収縮チューブを「加熱することによって,管径が縮小する管状の材料」とし、電気用途では主に絶縁保護の目的で、電線の結束部の絶縁、デバイスからの口出し線の保護、端末の絶縁などに用いられ、このほかパイプ類の保護防蝕や保護カバーにも使われると説明している[1]。形状記憶ポリマーは、目的の形に賦形し、変形させてその形を固定し、必要なときに加熱すると元の形に回復する、という過程で使われる[1]。
この「元の形」を覚えさせる手段の一つが架橋で、同じ協会誌の電子線加硫機の解説は、国内で工業用の電子線照射装置が使われ始めた 1960 年代半ばからの主な用途として、ポリエチレン電線や塩化ビニル電線の架橋、耐熱性チューブ・テープの製造と並んで、熱収縮性チューブの製造を挙げている[7]。形状記憶の過程に当てはめれば、架橋した細い管が「元の形」で、それを押し広げて固定したものが収縮前のチューブにあたり、被せて加熱すると元の細い径に戻ろうとする。
この仕組みから、購買の立場で押さえることが二つ出てくる。一つは、収縮後の内径は「元の形」の径までしか小さくならないことである。被せる物が元の径より細ければ、隙間が残る。もう一つは、縮むのは径方向だけではないことで、長さ方向にも寸法が変わる。IEC 60684-2 の 2025 年の改訂では、長さ方向の変化の試験を押し広げた状態のスリーブで行うことが明確にされた[2]。つまり長さの変化は、規格が試験の対象にしている品質項目である。
IEC 60684 の構成:試験方法と、種類ごとのシート
IEC 60684-2 は、熱収縮スリーブを含む可とう性の絶縁スリーブの試験方法を定めた規格で、主に電気機器の導体や接続部の絶縁に使うものを対象にしている。ただし、そこで定める試験は品質を管理するためのもので、含浸や封止の工程その他の特殊な用途への適合を完全に確立するものではないことを認め、必要に応じて適切な含浸や適合性の試験で補うとしている[2]。最新版は 2025 年 5 月の第 4 版で、内径と肉厚の測り方の改訂、燃え広がりの試験方法 D の追加、接着層のはく離試験の試料の作り方の追加、摩耗試験の追加などが行われた[2]。
種類ごとの要求は、IEC 60684-3 の個別シートに分かれている。代表的なシートを比べると、違いが分かる。
| シート | 内容 | 呼びの収縮比 | 難燃 | 温度・色など |
|---|---|---|---|---|
| IEC 60684-3-247:2019 | ポリオレフィン、二層、中肉(タイプ A)と厚肉(タイプ B) | 3:1 | 無し | 100 ℃まで。通常は黒。内径は典型で 200 mm まで |
| IEC 60684-3-248:2007 | 汎用のポリオレフィン、二層。内層の接着剤に低温用と高温用(6 種類) | 2:1・3:1・4:1 | 有り | — |
| IEC 60684-3-283:2019 | ブスバーの絶縁用ポリオレフィン、中肉(タイプ A)と厚肉(タイプ B) | 2.5:1 | — | 100 ℃まで。通常は赤または茶 |
表は IEC のウェブストアに公開されている各シートの概要から引いた[3][4][5]。同じ「ポリオレフィンの熱収縮チューブ」でも、二層の接着層付きか、難燃か、何倍に縮むかで別の品になる。カタログの品番がどのシートに相当するのかを、仕入先に確かめておくと、指定が具体的になる。
二つのシートの概要は、寸法について同じことを言っている。3-247 は、サイズの範囲は附属書 A に目安として示すが、実際のサイズは使用者と供給者の間で合意するとし[3]、ブスバー用の 3-283 は、実際のサイズと肉厚は、取り付けた状態のチューブの電気的な強さと使用者の要求に応じて合意するとしている[5]。そのうえで、仕様に適合する材料は一定の性能水準を満たすが、特定の用途に材料を選ぶのは、その用途で十分な性能に必要な実際の要求に基づいてであって、この仕様だけに基づくのではない、とも書いている[3][5]。規格の番号を書けば寸法と用途への適合まで決まる、という作りにはなっていない。
寸法は「被せる物の径」から決める
熱収縮チューブの寸法の指定は、被せる物の側から考えると整理しやすい。以下は発注側の実務としての提案である。
1. 被せる物の最大径と最小径を測る
端子の圧着部、コネクタの胴、電線の被覆など、チューブが通る区間で一番太いところと、締め付けたいところの細さを図面に書く。
2. 収縮前の内径は「最大径より大きい」
収縮前の内径が最大径より小さいと、被せられない。作業のしやすさの余裕も見る。
3. 収縮後の内径は「最小径より小さい」
上で見たとおり、チューブは元の径までしか縮まない。完全に収縮させたときの内径(カタログの「収縮後内径」)が、締め付けたい部分の最小径より小さいことを確かめる。収縮比は、この 2 と 3 を両方満たせる倍率を選ぶことになる。
4. 収縮後の肉厚を指定する
絶縁としての強さは肉厚にかかわる。ブスバー用のシートが、肉厚を電気的な強さに応じて合意するとしているのはそのためである[5]。肉厚を「収縮後の値」で書き、カタログ値を図面に写しておく。
5. 長さは縮む前提で切る
長さ方向の変化を見込まずに部品の長さで切ると、収縮後に短くなり、端子や接続部が露出する。カタログの長さ方向の変化率を確かめ、切断長さを図面に書く。
内面に接着剤の層をもつ二層品は、IEC 60684-3-248 のように内層の接着剤の種類(低温用・高温用)でも区分されている[4]。接着層の剥がれにくさ(はく離強さ)は IEC 60684-2 の試験項目にあり[2]、3-247 の 2019 年の改訂では、はく離強さの試料の最終の状態調節の温度が 200 ℃に変更された[3]。防水を目的にするなら、二層品であることと、その性能を確かめる試験の結果を求める。外郭の防水等級そのものの指定はIP 等級の指定を参照してほしい。
材質・難燃・温度・電圧
上の表のとおり、IEC 60684-3 のシートは難燃のものと難燃でないものを分けている[3][4]。難燃が要るかどうかは、製品の安全規格や顧客の仕様で決まるので、設計に確かめて「難燃」と書くか、相当するシートの番号を書く。使える温度もシートごとに示されていて、3-247 と 3-283 は 100 ℃までの使用に適するとされている[3][5]。これは汎用品の目安ではなく、それぞれのシートの品の話なので、高温になる場所では、品番ごとの定格温度を確かめる。
電圧の定格は、チューブの絶縁としての使い方の前提である。ただし、チューブの定格電圧があるからといって、チューブだけで製品の絶縁の要求を満たすとは限らない。製品の絶縁の構成と試験の電圧は、製品の安全規格が決める。完成品の絶縁を試験で確かめる方法は、同じ束の絶縁抵抗試験と耐電圧試験の指定で扱う。
UL 認定品を求めるとき:UL 224 の範囲
熱収縮チューブの UL の規格は UL 224(Extruded Insulating Tubing)で、2026 年 2 月 13 日に第 8 版が発行されている[6]。適用範囲は、熱硬化性・エラストマー・熱可塑性の高分子の押出しで作った、断面が通常丸いチューブで、熱収縮するものと架橋したものを含む[6]。使い方は、乾燥した場所・湿気のある場所の空気中で、カナダ電気規程と米国電気規程の下での電気機器・器具の内部配線に使うものに限られ、鋭いエッジ、引張り、圧縮、繰り返しの屈曲を受ける場所での使用は意図していない[6]。布のチューブや、機械的な保護だけに使うチューブなどは対象外である[6]。
したがって「UL 認定の熱収縮チューブ」を指定するときは、二つのことを確かめる。一つは、使う場所が UL 224 の想定の範囲(機器内部の配線の絶縁)に入っているかである。屋外の配管の防食や、鋭いエッジの当たる箇所の保護は、この想定から外れる。もう一つは、認定の中身で、会社名と品番を UL の認証データベースで全桁まで照合し、定格温度と定格電圧、難燃の区分を自社の使い方と突き合わせる。照合の手順はUL 認定部品を仕入先に確かめるにまとめている。
受入で確かめること
熱収縮チューブは、巻きや切り長さで納品される。受入では、品番・色・寸法の表示を発注と突き合わせるほかに、次を確かめておくと、後で揉めにくい。
収縮前の内径と肉厚
ノギスで測れる。収縮前の寸法がカタログと違えば、収縮後も違う。
試し収縮
初回や仕入先が替わったときは、実際の部品に被せて収縮させ、締め付け、肉厚、長さ方向の縮み、二層品なら接着剤のはみ出しと密着を見る。加熱の方法(熱風・炉など)と温度で仕上がりが変わるので、作業の条件も記録しておく。
試験の成績
難燃や絶縁の性能を求めるなら、IEC 60684-2 のどの試験で、どの条件で確かめた結果かを出してもらう。同じ「難燃」でも、燃え広がりの試験には方法が複数ある[2]。
試し収縮で合否を決めるなら、その基準(締め付けの有無、肉厚の下限、露出させてはいけない範囲)は発注の時点で書いておく。後から基準を加えると、取引の条件の問題になる。
仕様書・発注書に書く項目
| 区分 | 書くこと(提案) |
|---|---|
| 品物 | メーカーと品番、相当する規格(IEC 60684-3 のシート番号、UL 224 の認定など)、色 |
| 寸法 | 収縮前の内径、完全に収縮させたときの内径と肉厚、収縮比、切断長さ(長さ方向の縮みを見込んだもの) |
| 被せる物 | 通過する区間の最大径、締め付けたい部分の最小径、露出させてはいけない範囲 |
| 構造・材質 | 単層か二層(接着層付き)か、材質、難燃の要否 |
| 使用条件 | 使う温度、電圧、油や溶剤・屋外の光など、規格の試験で見ていない条件 |
| 記録 | 試験の成績(試験規格と条件)、ロットの表示、品番や材料を変えるときの事前連絡 |
よくある質問
Q. 「φ10」と書けば通じますか。
収縮前の内径か、収縮後の内径かが分からない。収縮前と収縮後の内径、収縮後の肉厚、収縮比を分けて書く。IEC 60684-3 のシートのうち 3-247 と 3-283 も、実際の寸法は使用者と供給者の合意としている[3][5]。
Q. 防水したいので熱収縮チューブを被せれば足りますか。
単層品は径方向に締め付けるが、隙間を埋める層が無い。防水を目的にするなら内面に接着層のある二層品を選び、はく離強さなどの試験結果を求める[2][3]。製品としての防水は、外郭の構造と IP 等級の試験で確かめる。
Q. UL 認定品なら、どこに使ってもよいですか。
UL 224 は、乾燥・湿気のある場所の空気中で機器内部の配線に使うことを想定し、鋭いエッジや引張り・圧縮・繰り返しの屈曲を受ける使い方を意図していない[6]。認定の範囲と定格を、自社の使い方と突き合わせる。
まとめ
熱収縮チューブは、架橋した管を押し広げて固定した材料で、加熱すると元の径まで縮み、長さ方向にも寸法が変わる[1][2][7]。IEC 60684-3 のシートは、収縮比・二層か単層か・難燃・温度で種類を分け[3][4][5]、確かめた 3-247 と 3-283 は実際の寸法を合意で決めるとしている[3][5]。仕様書には、被せる物の最大径と最小径から決めた収縮前・収縮後の内径と肉厚、切断長さ、材質と難燃、使う温度と電圧を書き、UL 認定品なら UL 224 の想定の範囲に入っているかを確かめる[6]。
同じ束では、測温抵抗体 Pt100 の指定、オイルシール JIS B 2402 の指定、ボールバルブと仕切弁の選び方も扱っている。電線そのものの選び方はVCTF・VCT・CV ケーブルの違いと選び方を参照してほしい。
出典・参考資料
- 中山和郎「形状記憶ポリマーの特性と応用」日本ゴム協会誌 63 巻 9 号(日本ゴム協会/1990 年)
- IEC 60684-2:2025 Flexible insulating sleeving – Part 2: Methods of test(概要)(国際電気標準会議/2025 年 5 月 9 日発行)
- IEC 60684-3-247:2019 Heat-shrinkable, polyolefin sleeving, dual wall, not flame retarded, thick and medium wall(概要)(国際電気標準会議/2019 年 8 月 8 日発行)
- IEC 60684-3-248:2007 General purpose, heat-shrinkable, dual wall polyolefin sleeving, flame retarded, shrink ratios 2:1, 3:1, 4:1(概要)(国際電気標準会議/2007 年 2 月 16 日発行)
- IEC 60684-3-283:2019 Heat-shrinkable, polyolefin sleeving for bus-bar insulation(概要)(国際電気標準会議/2019 年 8 月 20 日発行)
- UL 224 Extruded Insulating Tubing(規格の概要と適用範囲)(UL Standards & Engagement/第 8 版 2026 年 2 月 13 日)
- 河合禎「電子線加硫機」日本ゴム協会誌 50 巻 2 号(日本ゴム協会/1977 年)
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