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クロムめっき JIS H 8615・H 8617 の指定——工業用(硬質)と装飾、厚さ・硬さと三価クロム

この記事のポイント(結論先出し)
クロムめっきは目的で規格が分かれる。耐摩耗のために比較的厚く付ける工業用(硬質)クロムめっきは JIS H 8615、ニッケルの上に美観のために薄く付ける装飾用はニッケル-クロムめっきとして JIS H 8617 で扱う[1][2][3]。JIS H 8615 は硬さをビッカース 750 以上と定める一方、厚さとその許容差、表面粗さ、耐摩耗性、耐食性は「特に重視する用途だけ」協定で決める品質としているので、注文書に数値と試験方法を書かないと判定できない[1]。どちらの規格も、六価クロム浴か三価クロム浴かは定めていない。浴の種類が顧客の要求に関わるなら、別の文で書く[1][2][4]。
目次
この記事の範囲
クロムめっき(クロムメッキ。硬質クロム、ハードクロムとも呼ばれる)は、油圧シリンダのロッド、ロール、金型などの耐摩耗面と、水栓金具や外装部品の光った仕上げの両方で使われる。同じ「クロム」でも、前者は厚さ数十 μm の機能皮膜、後者は厚さ 0.1 μm 前後の仕上げ層で、指定の仕方がまったく違う。この記事は、その二つを分けて、発注する側が何を書き、何を確かめるかを整理する。
めっきの発注で共通に決める項目(有効面、膜厚の測り方の考え方、密着性の試験方法)はめっきの発注で指定することで扱った。装飾クロムの下地になるニッケルの等級と光沢・半光沢・二層の書き分けは、同じ束のニッケルめっき(JIS H 8617)の指定にまとめた。亜鉛めっきの上のクロメート(化成皮膜)はクロムめっきとは別の処理で、三価クロメート・化成処理の指定で扱っている。
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工業用と装飾用は、用語の定義から違う
JIS H 0400 は、装飾用クロムめっきを「製品の美観のために仕上げめっきとして行われるクロムめっき」、工業用クロムめっき(硬質クロムめっき)を「主として耐摩耗性を付与する目的で施した比較的厚いクロムめっき」と定義している[3]。工業用は JIS H 8615(工業用クロムめっき)が、鉄、鋼及び非鉄金属素地上に耐磨耗性などの工業用の目的で行った有効面の電気クロムめっきを対象にしている[1]。装飾用のクロムは単独の規格ではなく、JIS H 8617 の中で、下地のニッケル(と銅)と組み合わせた「ニッケル-クロムめっき」「銅-ニッケル-クロムめっき」の最上層として等級が決められている[2]。
記号も違う。工業用クロムめっきは、元素記号 Cr の前に工業用を表す I を付けて表す[1]。JIS H 0404 の表示例には「工業用クロムめっき 20 μm 以上」「工業用クロムめっき 50 μm 以上」を表すものがある[4]。装飾用は、Cr の後に普通めっき r、マイクロポーラスめっき mp、マイクロクラックめっき mc、クラックフリーめっき cf のタイプの記号を付ける[4]。図面の「クロムめっき」が、ICr なのか、Ni の上の Cr r なのかで、発注の中身は別物になる。
| 項目 | 工業用(JIS H 8615) | 装飾用(JIS H 8617 のニッケル-クロム) |
|---|---|---|
| 目的 | 耐摩耗性など | 防食並びに装飾 |
| クロムの厚さ | 協定(用途例 3〜100 μm) | 最小 0.1 μm(表 2) |
| 硬さ | ビッカース 750 以上(用途により協定) | 規定なし |
| 記号の例 | ICr 20 | Ni 25d, Cr 0.1mc など |
| 耐食性 | 重視する用途だけ協定(中性塩水噴霧) | 等級ごとにキャス 4〜24 時間などで規定 |
工業用の欄は JIS H 8615 の品質の規定と参考付表 1[1]、装飾用の欄は JIS H 8617 の表 2 と表 4[2]による。工業用の「3〜100 μm」は用途ごとのめっき厚さの例(参考)の範囲で、要求値ではない。
工業用クロムめっき:何が規格で決まり、何が協定か
JIS H 8615 の品質の規定で、どの用途でも満たすべきものは、外観(平滑で焦げ・こぶなど使用上有害な欠陥が無いこと。つや消し仕上げは必ずしも平滑でなくてよい)、密着性(はく離・膨れが無いこと)、硬さ(ビッカース硬さ 750 以上。用途によっては協定によってもよい)である[1]。一方、表面粗さ、最小厚さ及び許容差、ポーラスクロムの多孔率、耐磨耗性、耐食性は、いずれも「この品質を特に重視する用途に対してだけ適用し」、品質は受渡当事者間の協定による、とされている[1]。
つまり、図面に「硬質クロムめっき」とだけ書いた部品で規格が保証するのは、外観・密着・硬さまでで、何 μm 付いているかは規格の上では決まっていない。油圧シリンダのロッドのように摩耗代と寸法が効く部品では、最小厚さと許容差、仕上げ後の表面粗さを数値で書くことが発注側の仕事になる。
厚さの例と、めっき後の加工
JIS H 8615 の参考付表 1 は、用途ごとのめっき厚さの例を示している。油圧・空気圧機器用のシリンダ及びライナーやピストンロッドは 20 μm、プラスチック成形用の金型は 10 μm、鉄鋼加工用のロールは 50 μm、ディーゼル及びガスエンジン用のシリンダは 100 μm、計測用の工具は 3 μm などである[1]。厚さは用途で桁が変わるので、類似品の厚さを流用するときも、用途が同じかを確かめる。
めっきの前後に行う加工は記号で表せる。JIS H 8615 の表 1 は、バフ仕上げ(めっき前 1BF・めっき後 2BF)、ポーラス加工(1P・2P)、ラッピング(1GL・2GL)、超仕上げ(1GSP・2GSP)、液体ホーニング(1LH・2LH)、ブラスト仕上げ(1SB・2SB)、グラインダ加工(1G・2G)を挙げている[1]。めっきの呼び方は、めっき厚さの後に斜線を入れてこれらの記号を書き、最終表面粗さを括弧で添える[1]。2006 年の追補 1 で、この最終表面粗さの表記は中心線平均粗さ Ra75 に改められ、呼び方の例も「ICr20 / 1BF,2G,2BF(Ra75 1.6)」の形に置き換えられた[1]。
めっき後に研磨するなら、厚さの指定は研磨しろを考慮しなければならない、と規格は注意している[1]。図面に「めっき後 φ○○ h6」と仕上がり寸法だけを書く場合でも、研磨後に残る最小厚さを別に書かないと、研磨で削りすぎためっきを判定できない。めっき後に仕上げをしない部品では、めっき前の素地に、めっき後に要求される仕上げと同等かそれ以上の仕上げをしておかなければならない、とも書かれている[1]。めっきで素地の刃物きずや鋳巣は消えない。
厚さと硬さの測り方
厚さ試験は、原則として JIS H 8501 の顕微鏡断面試験方法を用いる[1]。協定によって、磁力式、電解式、触針走査の各方法や、マイクロメータまたはシリンダゲージでめっき前後の同じ箇所の寸法を測り、その差をめっき厚さとする方法(少なくとも 3 か所以上で測り、両面にめっきがあれば測定値の 1/2 とする)を使ってもよい[1][5]。軸物では、めっき前後の外径の差から厚さを出す方法が受入で使いやすいので、どの方法を使うかを注文書に書いておく。
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硬さ試験は JIS Z 2244 によるほか、少なくとも 5 か所以上を測ってその平均をめっきの硬さとし、試験荷重は原則 0.490 3 N 以上、保持時間は 15 秒以上とする[1]。めっきの厚さは、くぼみの対角線の長さの 1.5 倍以上でなければならず、硬さは「800 HV0.05」のように試験荷重を表す記号を付けて表示する[1]。薄いめっきの上で大きな試験力をかけた値は素地の影響を受けるので、成績書の硬さに試験力が書かれているかを見る。試験力の選び方の一般論は図面の硬さ指定にある。
工業用クロムの種類(参考)
JIS H 8615 の定義の参考には、普通クロムめっき以外に、割れなしクロムめっき、ポーラスクロムめっき、クラッククロムめっき、二重クロムめっきが挙がっている[1]。割れなしクロムは多少軟らかいがもろくなく、普通クロムより良好な耐食性を示し、一般に 25 μm 以上には厚くせず、研削仕上げをせず、高荷重の面には使わない、とされている[1]。ポーラスクロムは油の保持能力を改善するために多孔化したもので、多孔性の程度・種類・受入基準の測定法は指定される[1]。マイクロクラッククロムは、有効面全面で 1 cm 当たり 250 以上の不可視的な割れが存在するもの、マクロクラッククロムは 1 cm 当たり 250 以下のクラックをもつもの、と説明されている[1]。摺動面の油の保持を期待するなら、どの種類かを注文書で名指しする。
高強度の鋼の水素ぜい性除去
鉄鋼製品などでめっき後の水素ぜい性除去が指定されている場合、めっき後少なくとも 4 時間以内に熱処理を行い、条件は協定による[1]。JIS H 8615 の附属書 4(参考)には表が 2 つある[1]。表 1 は疲労を受けないところで用いる製品などに対する条件で、引張強さ 1 051〜1 450 MPa は 190〜220 ℃・2 時間以上、1 451〜1 800 MPa は 6 時間以上、1 800 MPa 超は 18 時間以上とする[1]。表 2 はピーニングをしない製品と疲労強度の回復のための条件で、400〜480 ℃・1 時間以上とし、この温度ではクロムめっきと鉄鋼素地の硬さが低下することに注意しなければならない、と備考に書かれている[1]。ニッケルめっき(JIS H 8617)の附属書(参考)に載っている時間(1 051〜1 450 MPa で 8 時間以上など)とは値が違うので、別の規格の表を流用しない[2]。附属書 4 の表 1 と表 2 のどちらを使うかで素地の硬さが変わるので、焼入れした軸に硬質クロムを付けるなら、熱処理の経過(素地の硬さと引張強さ)を付記事項として渡し、条件を指定する[1]。熱処理の指定の書き方は熱処理を図面で指定するで扱っている。
装飾用クロム:下地のニッケルとクロムの種類で決まる
装飾用のクロムは、JIS H 8617 の表 2 で、下地めっき(ニッケルまたは銅とニッケル)と最上層のクロムの組合せとして等級が決まる。クロムの最小厚さは表のどの等級でも 0.1 μm で、等級を分けているのは主に下地のニッケルの厚さとタイプ、クロムの種類(普通 r・マイクロポーラス mp・マイクロクラック mc)である[2]。鉄鋼素地のニッケル-クロムめっきでは、1〜3 級が通常の屋内、9 級が腐食性の強い屋外を想定し、耐食性の試験もキャス 4 時間から 24 時間までと等級で変わる[2]。
マイクロポーラスクロムとマイクロクラッククロムには数の規定がある。JIS H 8617 の表 3 は、マイクロポーラスクロムの微小孔の数を 10 000 個/cm2 以上、マイクロクラッククロムの微小割れの数を 100 本/cm 以上としている[2]。工業用の JIS H 8615 の参考でマイクロクラッククロムを「1 cm 当たり 250 以上」と説明しているのとは、規格も数値も別なので[1]、どちらの規格の話かを混ぜない。微小孔・微小割れは、クロムめっきの上に銅めっきを析出させて、その分布を見る方法(両規格の附属書 2)で数える[1][2]。
装飾用で揉めやすいのは色調である。めっき面は鏡面に近く、見比べの条件で印象が変わる。外観の合否基準の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるを参照してほしい。光ったクロムではなく黒い外観を鋼部品に求めるなら、同じ束の黒染めの指定で、皮膜の防錆力の限界とあわせて比べる。
六価クロム浴か三価クロム浴か
JIS H 8615 も JIS H 8617 も、めっき浴の種類(六価クロムを使う浴か、三価クロムを使う浴か)を規定していない[1][2]。めっき皮膜は金属のクロムで、規格はその皮膜の品質を決めている。一方で、六価クロムを使う工程を避けたいという顧客の要求は増えている。2020 年に表面技術協会の論文誌に載った研究論文は、代表的なクロムめっき浴は高濃度の六価クロムを含み毒性が高く環境負荷が大きいこと、膜厚の薄い装飾用途の三価クロムめっき浴はすでに開発され実用化していること、硬度や耐摩耗性が求められる硬質クロムの用途では三価クロムめっき皮膜の物性や製膜速度は不十分で、六価クロムめっきの代替技術としては完成されていないことを述べている[6]。同じ論文は、濃厚塩化カルシウム水溶液を使う浴で、硬度や耐摩耗性が六価クロムめっきと同等の皮膜が得られたと報告しているが[6]、これは研究の報告であって、どの仕入先でも選べる工程という意味ではない。
発注側が決めることは 2 つある。一つは、工程で六価クロムを使ってよいかどうかを注文書に書くこと。もう一つは、浴を替えるときは事前に知らせてもらう取り決めである。工業用で三価の浴を求める場合は、硬さ・厚さ・耐摩耗性を JIS H 8615 の試験で確かめる条件を付け、試作で確認してから量産に入る。顧客から含有化学物質の調査票が来たときの進め方はRoHS への適合を仕入先から確かめるで扱っている。
注文書に書くこと
JIS H 8615 の箇条 12 は、発注者が書く基本事項を、めっきの記号、めっきの有効面(図面に指示するか、印を付けた実物見本を提示する)、外観(最終表面粗さ、光沢など。限度見本を提示するとよい)、検査方法の 4 つとし、付記事項を、素地材料の熱処理の経過、下地めっきのある場合の種類と厚さ、必要とするめっき品質とその試験方法、許容できるめっき表面の欠陥の種類・大きさ・範囲及び場所としている[1]。密着性の試験は、JIS H 8504 のと石試験、曲げ試験、引張試験のいずれかによる[1]。
素地については、加工業者は有効面に肉眼で見える欠陥(最終仕上げに有害な孔、割れ、皮膜)があるかを調べ、見つかったらめっきの前に発注者に注意する、と備考にある[1]。同じ備考は、加工業者は肉眼で観察できない表面欠陥でめっきが不良となってもその責任を負わない、とも書いている[1]。鋳物や溶接部のある部品に硬質クロムを付けるなら、素地の欠陥の扱いを先に決めておく。
よくある質問
Q. 「ハードクロム 20 μm」と書けば、規格上の厚さの保証になりますか。
JIS H 8615 は最小厚さと許容差を「特に重視する用途だけ」協定で決める品質としている[1]。20 μm が最小厚さなのか平均なのか、研磨の前か後か、どの方法で測るかまで書いて初めて判定できる。
Q. 装飾クロムの部品で、クロムの厚さを指定する必要はありますか。
JIS H 8617 の表 2 ではクロムの最小厚さは 0.1 μm で固定され、性能は下地のニッケルとクロムの種類で決まる[2]。指定すべきなのは等級(または下地の厚さとタイプ、クロムの種類)である。
Q. 工業用クロムの耐食性は、何で確かめますか。
重視する用途に限り協定で決める品質で、試験は JIS H 8502 の中性塩水噴霧試験方法による[1]。時間と判定は注文書に書く。
まとめ
クロムめっきは、耐摩耗の工業用(硬質)が JIS H 8615、美観の装飾用が JIS H 8617 のニッケル-クロムめっきで、用語の定義も記号も違う[1][2][3][4]。工業用は硬さ 750 HV 以上が規定で、厚さ・許容差・粗さ・耐摩耗・耐食は協定で決めるので数値と試験方法を書き、めっき前後の加工は記号で表す[1][5]。装飾用は下地のニッケルとクロムの種類で等級が決まる[2]。浴が六価か三価かは規格が決めていないので、工程の要求として別に書く[6]。
出典・参考資料
- JIS H 8615:1999 工業用クロムめっき(追補 1:2006 を含む・JIS 検索)(日本産業標準調査会/2006 年 3 月追補・2025 年 10 月確認)
- JIS H 8617:1999 ニッケルめっき及びニッケル-クロムめっき(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 0400:1998 電気めっき及び関連処理用語(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1998 年 11 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS H 0404:1988 電気めっきの記号による表示方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1988 年 3 月改正・2025 年 10 月確認)
- JIS H 8501:1999 めっきの厚さ試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正・2023 年 10 月確認)
- 吉兼祐介ほか「濃厚塩化カルシウム水溶液からの硬質 3 価クロムめっき」表面技術 71 巻 12 号(表面技術協会/2020 年 12 月)
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