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投稿日:2026年10月17日

応力除去焼なまし・溶接後熱処理 JIS Z 3700 の指定——保持温度と時間、要否の根拠、記録

この記事のポイント(結論先出し)

応力除去焼なましは「本質的に組織を変えることなく、内部応力を減らす」熱処理で[1]、発注書では JIS B 6911 の記号 HAR で名指しできる[2]。発注で決めることは二つの場面で違う。溶接構造(炭素鋼・低合金鋼)の溶接後熱処理なら、JIS Z 3700 が保持温度・保持時間・425 ℃以上の加熱・冷却速度・温度の測り方・記録を定めており、たとえば母材区分 P-1 の最低保持温度は 595 ℃、溶接部の厚さ 25 mm なら最小保持時間は 1 時間である[4]。溶接後熱処理が要るかどうか自体は、圧力容器なら JIS B 8265 のような製品の規格が決める[5]。焼入焼戻し鋼では、保持温度を素材の焼戻し温度より上げてはならないのが原則で[4]、ここを外すと強さが落ちる。機械加工部品の応力除去では、変形の許容値と記録を発注側が決めて書く[2]。

この記事は、溶接した構造物や、粗加工・矯正をした部品について、応力除去焼なまし(溶接後熱処理を含む)を発注する側の目線で書く。熱処理の種類全体の選び方ではなく、この処理を頼むときに何を書き、何を確かめるかに絞る。

まず用語をそろえる:応力除去焼なまし・溶接後熱処理・ひずみ取り

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JIS G 0201(鉄鋼用語(熱処理))は、応力除去焼なましを「本質的に組織を変えることなく、内部応力を減らすために、適切な温度へ加熱又は均熱した後、適切な速度で冷却する熱処理」と定めている[1]。似た用語に、残留応力の低減または軟化を目的として変態点以下で行う低温焼なましと、ひずみを除去するために荷重をかけながら変態点以下の温度に加熱保持して行うひずみ取り焼なましがある[1]。鋳物の内部応力を長時間放置して除く「枯らし」については、最近では一般に応力除去焼なましが行われる、という注釈が付いている[1]。

加工方法の記号では、JIS B 0122 が応力除去焼なましを HAR、熱処理ではないひずみ取りを ZS、枯らしを ZA としている[3]。JIS B 6911(鉄鋼の焼ならし及び焼なまし加工)も、加工の種類の記号として応力除去焼なまし HAR と低温焼なまし HAL を別々に挙げている[2]。発注書に「焼なまし」「アニール」とだけ書くと、軟化のための焼なましなど別の処理と取り違えられることがある。目的が応力を抜くことなら、記号で名指しする。熱処理の種類全体の選び方は熱処理の種類を目的から選ぶにまとめた。

溶接後熱処理(PWHT)は、溶接部に対して行う熱処理で、JIS Z 3700(溶接後熱処理方法)が炭素鋼と低合金鋼について方法を定めている[4]。以下、溶接構造の場面と、機械加工部品の場面を分けて書く。

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溶接構造:要るかどうかは製品の規格が決める

JIS Z 3700 は「どうやるか」の規格で、どの製品に溶接後熱処理が要るかは定めていない。要否を決めるのは、製品ごとの規格や法令、顧客の仕様である。圧力容器の構造を定めた JIS B 8265 は、附属書 S で溶接後熱処理の要否と方法を規定している[5]。

JIS B 8265 によると、母材区分 P 番号 1 の材料(グループ番号 1・2・3)では、溶接継手の厚さが 38 mm を超える場合、または 32 mm を超え 38 mm 以下で 95 ℃以上の予熱を行わない場合に、溶接後熱処理を行う[5]。一方で、オーステナイト系ステンレス鋼、二相ステンレス鋼、非鉄金属材料で作る圧力容器は、通常、溶接後熱処理を行わなくてもよいとされている(使用環境で求められる場合などを除く)[5]。厚さだけで要否が決まるわけではなく、使用環境や保有する物質でも要否が変わる[5]。

発注側としては、自社の製品に当てはまる規格・法令・顧客の仕様のどれが要否を決めているかを先に確かめ、図面か仕様書に「溶接後熱処理を要する(根拠:〇〇)」と書く。根拠を書いておくと、仕入先が厚さの判断や省略の条件を同じ規格で読める。

順番:耐圧試験の前、補修の後

JIS B 8265 は、溶接後熱処理は水圧試験の前に行い、通常は全ての補修溶接が完了した後に行うが、溶接後熱処理の後に補修溶接を行った場合には、その補修溶接について再度溶接後熱処理を行う、としている[5]。同じ規格は、一部の溶接継手の超音波探傷試験について、溶接後熱処理を行う場合は溶接後熱処理の後に試験を行うとも定めている[5]。工程表で、熱処理・非破壊試験・耐圧試験の順番を確かめる。非破壊試験の指定は非破壊検査を発注で指定するときで、溶接そのものの指定は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。

JIS Z 3700 で決まっていること

JIS Z 3700 は、溶接後熱処理の方法を炉内加熱と局部加熱の 2 種類とし、温度・時間・加熱と冷却の速度・温度の測り方・記録を定めている[4]。発注で数値を自分で決める必要はないが、何が決まっているかを知っておくと、仕入先の手順書と記録を読める。主な値を次にまとめる。

項目(JIS Z 3700) 規定の内容 成り立つ条件
最低保持温度 595 ℃ 母材区分 P-1 の場合(表 1)。P-4 は 650 ℃、P-5 は 675 ℃
最小保持時間 厚さ 6 mm 以下は 1/4 時間、6 mm を超え 50 mm 以下は t/25 時間(25 mm なら 1 時間) P-1 の場合。t は箇条 6.2 の厚さ(mm)。50 mm を超える場合は別の式
加熱速度・冷却速度 加熱は 220×25/t ℃/h 以下(最大 220 ℃/h)、冷却は 280×25/t ℃/h 以下(最大 280 ℃/h)。いずれも 55 ℃/h より遅くしなくてもよい 425 ℃以上の温度の範囲。t は箇条 6.1 の厚さ(mm)
炉への出し入れ 入れるときの炉内温度、取り出すときの部材温度とも 425 ℃未満 炉内加熱の場合
保持中の温度差 85 ℃以下 炉内加熱は熱処理部全体、局部加熱は均熱幅全体
局部加熱の均熱幅 溶接金属の最大幅の両側に、それぞれ厚さの 2 倍以上を加えた範囲 一般の溶接部。管台溶接部は厚さか 50 mm の小さい方

表の値は JIS Z 3700 の箇条 7〜9 による[4]。保持時間と均熱幅に使う厚さは、完全溶込みの突合せ溶接なら母材の呼び厚さ、すみ肉溶接なら公称のど厚、というように溶接の形で決まり、余盛の厚さは含まない[4]。一方、加熱・冷却速度に使う厚さは、加熱される部分の構成部材の最大厚さである[4]。同じ「厚さ」でも使い道で定義が違うので、仕入先の手順書がどちらの厚さで計算しているかを見る。

危ない組合せ:焼入焼戻し鋼の保持温度

JIS Z 3700 は、焼ならし後焼戻し鋼または焼入れ焼戻し鋼の場合の保持温度は、通常、素材製造時の焼戻し温度を超えてはならない、としている(素材製造時の焼戻し温度を低く設定し、溶接後熱処理で焼戻しを行う場合を除く)[4]。焼戻し温度が表 1 の最低保持温度より低い鋼材では、最低保持温度と最小保持時間を受渡当事者間の協定で決めてもよいともしている[4]。

つまり、高い強度を焼戻しで作っている鋼材に、標準の温度で溶接後熱処理をかけると、素材の性質を変えてしまうおそれがある。調質鋼を使う溶接構造では、素材の焼戻し温度をミルシートなどで確かめ、熱処理の温度を設計と仕入先で協定する。JIS B 8265 も、溶接と溶接後熱処理に厳しい管理が必要な一部の材料について、熱処理を施した試験片で機械試験を行うことを求めている[5]。衝撃試験を仕様に入れるなら、熱処理後の状態で試験するかを決める。その指定はシャルピー衝撃試験の指定と合否判定で扱った。

もう一つ、異なる材料を溶接した部分には決まりがある。JIS Z 3700 は、二つの異なる P 番号・グループ番号の材料を溶接する場合は、溶接後熱処理温度の高い材料に対する規定によるとしている[4]。JIS B 8265 は、オーステナイト系ステンレス鋼などで作る圧力容器にフェライト鋼の部分を溶接する場合は、固溶化熱処理を行ってはならないとしている[5]。

記録として出させるもの

JIS Z 3700 の箇条 10 は、溶接後熱処理を行った場合に記録しなければならない事項として、事前に設定した熱処理の仕様(炉内加熱か局部加熱か)、加熱装置の種類と形式、温度の計測方法(熱電対の取付位置、または炉内温度と部材温度の関係)、炉に入れるときの炉内温度、保持温度と保持時間、加熱速度と冷却速度、取り出すときの部材温度などを挙げている[4]。発注書には「JIS Z 3700 の箇条 10 の記録(温度チャートを含む)を提出すること」と書けば、受入で同じ項目を確かめられる。

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機械加工部品の応力除去:変形と順番を決める

溶接構造ではない部品でも、粗加工の後や矯正の後に応力除去焼なましを入れることがある。JIS B 6911 は、焼ならし・焼なましの加工後に曲がりを矯正する場合には、矯正による残留応力が以後の機械加工及び使用上支障を生じないようにし、必要なときには応力除去焼なましを行う、としている[2]。

この規格は、変形について「以後の機械加工及び使用上支障を及ぼさない範囲内」とし、変形の許容値は受渡当事者間の協定によるとしている[2]。熱処理をすると部品は多少動くので、仕上げの加工代を残した段階で応力除去を入れ、その後に仕上げる、という工程の組み方がある。どの段階で入れるか、変形をどこまで許すかは、発注側が仕入先と決めて書く。

同じ規格は、加熱設備について、保持温度が目的温度に対して JIS B 6901 の保持温度許容差のいずれかのクラスに入るよう保持・調整できることを求め、加工品の品質の区分にかかわる保持温度許容差のクラスを明示しなければならないとしている[2]。加工方法の記録と品質の記録は保有し、必要なときに受渡当事者間で確認する[2]。納品の送り状か荷札には、加工の種類または記号、品質の区分、数量または質量、加工業者名、加工年月日を表示する[2]。熱処理を外注した部品の受入では、この表示で HAR が施されたことを確かめられる。硬さや測る位置を図面にどう書くかは熱処理を図面で指定するを参照してほしい。

受け取るときに確かめること

1. 処理の名前と根拠
応力除去焼なまし(HAR)か、溶接後熱処理か。溶接後熱処理なら、要否を決めた規格・仕様は何か。

2. 温度と時間
保持温度と保持時間が、JIS Z 3700 の表の値か、協定した値を満たしているか。焼入焼戻し鋼なら、素材の焼戻し温度を超えていないか[4]。

3. 加熱・冷却と温度の測り方
425 ℃以上の加熱・冷却速度、熱電対の位置、保持中の温度差が記録にあるか[4]。

4. 順番
補修溶接・非破壊試験・耐圧試験との順番が取り決めどおりか[5]。機械加工部品なら、仕上げ加工の前に入っているか。

5. 変形と表示
変形が協定した許容値に入っているか。送り状に加工の種類・品質の区分・加工年月日などの表示があるか[2]。

注文書の書き方の例

決まった様式は無い。発注側として書いておきたい内容を一例にまとめる。

「溶接部に溶接後熱処理を行う(要否の根拠:顧客仕様〇〇)。方法は JIS Z 3700 の炉内加熱による。母材は図面による(焼入焼戻し鋼・熱加工制御鋼の場合は保持温度を別途協定する)。補修溶接は溶接後熱処理の前に完了し、溶接後熱処理の後に補修した場合は再度行う。JIS Z 3700 の箇条 10 の記録と温度チャートを提出すること。機械加工部品は、仕上げ加工代を残した段階で応力除去焼なまし(JIS B 6911 の HAR)を行い、変形の許容値は図面による。」

よくある質問

ステンレスの溶接部品にも溶接後熱処理は要りますか

JIS Z 3700 の適用範囲は炭素鋼と低合金鋼である[4]。圧力容器では、オーステナイト系ステンレス鋼・二相ステンレス鋼・非鉄金属材料は通常溶接後熱処理を行わなくてもよいとされている(使用環境で求められる場合などを除く)[5]。ステンレスで熱処理を求められたら、何のための処理か、どの規格によるかを確かめる。

応力除去焼なましをすると硬さは変わりますか

JIS G 0201 の定義では、応力除去焼なましは本質的に組織を変えずに内部応力を減らす処理である[1]。ただし焼入焼戻し鋼では、保持温度が素材の焼戻し温度を超えると性質が変わるおそれがあるので、JIS Z 3700 は原則として焼戻し温度を超えないこととしている[4]。素材の熱処理の履歴を確かめてから温度を決める。

局部加熱で済ませてもよいですか

JIS Z 3700 は炉内加熱と局部加熱の両方を方法として定めている[4]。局部加熱なら、均熱幅(溶接金属の両側に厚さの 2 倍以上)と、温度の測定点の位置が規定どおりかを記録で確かめる[4]。製品の規格や顧客の仕様が炉内加熱を求めている場合は、それに従う。

まとめ

応力除去焼なましは組織を変えずに内部応力を減らす熱処理で、発注書では JIS B 6911 の HAR で名指しする。溶接構造の溶接後熱処理は、要否を製品の規格(圧力容器なら JIS B 8265 など)が決め、方法を JIS Z 3700 が定める。P-1 の最低保持温度は 595 ℃、厚さ 25 mm なら最小保持時間は 1 時間で、425 ℃以上の加熱・冷却速度、温度差、局部加熱の均熱幅、記録の項目も決まっている。焼入焼戻し鋼では保持温度を素材の焼戻し温度より上げないのが原則である。補修溶接・非破壊試験・耐圧試験との順番を工程表で確かめる。機械加工部品では、変形の許容値と入れる段階を発注側が決め、送り状の表示と記録で受け入れる。

同じ束では、内径を仕上げるホーニング、平面を仕上げるラップ加工、ブローチ加工、ローレット加工の発注も扱う。溶接構造用の鋼材そのものの指定はSM490 の発注での指定で扱った。

出典・参考資料

  1. JIS G 0201:2023 鉄鋼用語(熱処理)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 5 月 22 日改正)
  2. JIS B 6911:1999 鉄鋼の焼ならし及び焼なまし加工(追補 1:2010)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2010 年 8 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
  3. JIS B 0122:1978 加工方法記号(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1978 年 2 月 1 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
  4. JIS Z 3700:2022 溶接後熱処理方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
  5. JIS B 8265:2024 圧力容器の構造-一般事項(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 5 月 25 日改正)

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