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投稿日:2026年10月17日

SNCM439(JIS G 4053)の発注——JIS が保証しない強さ、焼入性・焼戻し温度の指定

この記事のポイント(結論先出し)

SNCM439 は JIS G 4053(機械構造用合金鋼鋼材・2026 年改正)のニッケルクロムモリブデン鋼で、ニッケル 1.60〜2.00%・クロム 0.60〜1.00%・モリブデン 0.15〜0.30% を含む[1]。ただし JIS が保証するのは化学成分・寸法・外観で、焼入れ焼戻し後の強さや硬さは規定していない。熱処理をして納める場合の機械的性質は受渡当事者間で協定する形である[1]。焼入性を保証した H 鋼の規格(JIS G 4052)にも SNCM439 の H 鋼は無い[2]。だから SNCM439 を選ぶ理由(太い部品でも芯まで焼きを入れたい、じん性がほしい)は、材料記号だけでは担保されず、熱処理の条件と、焼き入れた部品の硬さ・じん性の確かめ方を図面と発注書で決めて初めて形になる。焼入温度が高すぎると組織が粗くなり、同じ硬さでもじん性が下がる[4]。300℃前後の焼戻しは低温焼戻ぜい性の温度域に当たる[3]。

SNCM439 は「JIS G 4053 の材料」であって、調質品の規格ではない

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JIS G 4053 は、主として熱間圧延・熱間鍛造・熱間押出で作る機械構造用合金鋼鋼材の規格で、通常さらに鍛造や切削などの加工と熱処理をして使われる、と適用範囲に書いている(鋼管には適用しない)[1]。2026 年 5 月の改正版では種類が 40 あり、ニッケルクロムモリブデン鋼は SNCM220 から SNCM815 まで 11 種類、SNCM439 はそのうちの一つである[1]。

製造方法の箇条は、鋼材は熱間圧延のまま又は熱間鍛造のままとし、注文者の指定によって熱処理をしてもよい、としている。注記では、注文者の指定で熱処理をする場合は、受渡当事者間で機械的性質の値を協定することがある、と書いている[1]。検査の箇条で適合が求められているのは、化学成分、形状・寸法・質量とその許容差、外観である[1]。

この点は S45C や SCM435 と同じで、詳しい整理はS45C・SCM435 の材料指定で JIS が保証することで扱った。この記事では、SNCM439 を選ぶときに特有の判断——SCM440 との違い、太さと焼入れ、焼戻し温度とじん性、受入で何を確かめるか——に絞る。

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成分で比べる:SCM440・SNCM431・SNCM447 との違い

次の表は、JIS G 4053 の表 2(化学成分)から、SNCM439 と、置き換えの候補に挙がりやすい鋼種の主な元素を抜き出したものである[1]。りん・硫黄はどれも 0.030% 以下、けい素は 0.15〜0.35%、銅は 0.30% 以下で共通である。

種類の記号 C % Mn % Ni % Cr % Mo %
SNCM439 0.36〜0.43 0.60〜0.90 1.60〜2.00 0.60〜1.00 0.15〜0.30
SNCM431 0.27〜0.35 0.60〜0.90 1.60〜2.00 0.60〜1.00 0.15〜0.30
SNCM447 0.44〜0.50 0.60〜0.90 1.60〜2.00 0.60〜1.00 0.15〜0.30
SCM440 0.38〜0.43 0.60〜0.90 0.25 以下 0.90〜1.20 0.15〜0.30

表から読めることは三つある。第一に、SNCM431・SNCM439・SNCM447 は合金元素の範囲が同じで、炭素の範囲だけが違う。炭素が多いほど焼入れで得られる硬さは上がるので、どれを使うかは必要な硬さとじん性の釣り合いで設計が決める。第二に、SCM440 と SNCM439 は炭素の範囲がほぼ重なり、違いはニッケル(SCM440 は 0.25% 以下)とクロムの量である。第三に、モリブデンの範囲は 4 種類とも同じ 0.15〜0.30% である。

SNCM439 は機械構造用合金鋼の中では高価だが機械的性質に優れる鋼種だ、と新潟県工業技術総合研究所の技術トピックス(2017 年)は紹介している[4]。値段が上がる理由はニッケルである。だから仕入先から「SCM440 で代えられないか」と提案されることがある。その判断の材料は、次の焼入性とじん性の話になる。成分が近いから同じ材料、とは考えない。代替材の承認の進め方は同等材の指定と承認にまとめた。

太い部品で効くのは「質量効果」と焼入性

JIS G 0201(鉄鋼用語(熱処理))は、質量効果を「質量及び断面寸法(大小)が,焼入硬化層深さに及ぼす度合い」と定義し、質量や断面寸法のわずかな変化で焼入硬化層深さが大きく変わることを「質量効果が大きい」という、と注記している[3]。また焼入性倍数の注記で、合金元素の添加量とともに焼入性倍数は一般に増える、としている[3]。

発注の場面に置き直すと、細い試験片で得られた硬さが、太い軸の芯でも出るとは限らない、ということである。SNCM439 を選ぶ設計の多くは、この「芯まで焼きを入れたい」を理由にしている。ところが JIS G 4053 は焼入性を検査の項目にしていない[1]。焼入性を保証した H 鋼の JIS G 4052:2026 を見ても、ニッケルクロムモリブデン鋼の H 鋼は SNCM220H と SNCM420H の 2 種類で、SNCM439 の H 鋼は無い[2]。

ここから発注で押さえることが出てくる。焼入性そのものを材料の段階で裏付けたいなら、一端焼入方法(ジョミニー試験・JIS G 0561)の結果の提出を、受渡当事者間の協定として求めることになる[5]。これは規格の要求ではなく、発注側の提案である。もう一つの方法は、材料ではなく熱処理した部品で確かめることだ。必要な位置(表面からの深さや芯)の硬さを図面に書き、試し焼きの部品を切って測る。硬さを書くときの試験方法と測る位置の指定は図面の硬さ指定で扱った。

焼入温度を上げすぎると、同じ硬さでもじん性が下がる

新潟県工業技術総合研究所は、直径 38 mm の SNCM439 を 800〜950℃の各温度から油冷し、600℃で 2 時間焼き戻した試験片の硬さと組織を調べている。硬さは焼入温度にかかわらず 330〜360 HV0.5 で大きな違いは無かったが、推奨焼入温度(820〜870℃)より高い温度で焼き入れたものは組織が粗くなり、組織が粗くなると硬度が同じでも耐衝撃性(じん性)が低下するので注意が必要だ、と書いている[4]。熱処理前の試験片の硬さは約 260 HV だった[4]。

この結果は、受入の考え方に直結する。硬さの検査に合格しても、焼入温度が適切だったことは分からない。じん性が性能に入る部品——衝撃を受ける軸、歯車、高い荷重を受ける締結部品——では、硬さに加えて、熱処理の条件(焼入温度・保持時間・冷却・焼戻し温度)の記録を出してもらうか、シャルピー衝撃試験で確かめるかを決める。シャルピー衝撃試験を指定するときの書き方はシャルピー衝撃試験の指定で扱った。

焼戻し温度で起きること:ぜい性と疲労

JIS G 0201 は焼戻ぜい性を、特定の温度で焼き戻すか、その温度から徐冷するときに起きるぜい性とし、500℃前後の焼戻しで生じるものと、さらに高い温度で焼き戻したあとの徐冷で生じるものを高温焼戻ぜい性、300℃前後に焼き戻した場合にみられるものを低温焼戻ぜい性と呼ぶ、と注記している。このぜい性は、シャルピー吸収エネルギーの遷移曲線を高温側へ移す[3]。同じ規格の附属書の用語の項は、450〜550℃の範囲で起きる可逆的焼戻ぜい性について、りん・すず・アンチモン・ひ素などの微量元素の偏析によって起こり、一般に十分な量のタングステン又はモリブデンの添加で回避される、と説明している[3]。SNCM439 はモリブデンを含む鋼種だが、モリブデンが入っていれば焼戻し温度をどこにしてもよい、という意味ではない。

疲労でも焼戻し温度は効く。日本材料学会誌の論文(2008 年)は、SNCM439 を四つの焼戻し温度で熱処理し、109 回までの回転曲げ疲労試験を行った。433 K(約 160℃)と 573 K(約 300℃)で焼き戻した試験片は階段状の S-N 曲線を示し、106 回を超える高サイクル域で内部の非金属介在物を起点とする内部破壊を起こした。一方、773 K(約 500℃)と 893 K(約 620℃)で焼き戻した試験片は表面からの破壊だけで、疲労限度がはっきり現れた[6]。

二つを合わせると、「硬さを上げたいから低めの温度で焼き戻す」という判断には、低温焼戻ぜい性の温度域と、長寿命域での内部破壊という二つの注意が付く[3][6]。焼戻し温度は仕入先任せにせず、図面か熱処理指示書で設計が決める。熱処理の指定の書き方は熱処理を図面で指定する、熱処理の種類の選び方は熱処理の種類を目的から選ぶで扱った。

使ってはいけない組合せ:高強度にしてから酸洗・めっき

JIS G 0201 は水素ぜい化を、取り込まれた水素で延性やじん性が下がる現象とし、一般に高張力鋼などで生じる場合が多く、溶接・酸洗・電気めっきなどで生じることが多く、引張応力があると割れに至る場合が多い、と注記している[3]。SNCM439 を高い硬さに調質した部品に、ぜい化の対策なしで酸洗や電気めっきをかけるのは避ける組合せである。めっきをするなら、素地の硬さを処理業者に伝え、ベーキングの要否を含めて条件を決める。めっきの発注での指定はめっきの発注で指定することで扱った。

注文時に提示すること、受入で確かめること

JIS G 4053 は、注文者が注文時に少なくとも提示しなければならない情報として、鋼材の形状、種類の記号、寸法、熱間圧延棒鋼の用途(一般鍛造用・直接切削用・冷間引抜用・その他)を挙げている[1]。用途によってきずの扱いが変わり、たとえば直接切削用丸鋼の呼称寸法からのきずの深さは、径 16 mm 以上 50 mm 未満で呼称寸法の 3% 以下(最大 1.0 mm)、50 mm 以上 100 mm 未満で 2% 以下(最大 1.5 mm)である[1]。削り代はこのきずの深さを見込んで決める。

検査文書は、注文者から要求された場合に提出するもので、注文時に特に指定がなければ JIS G 0415 の検査証明書 3.1 になる[1]。求めないと出ないので、注文時に求めておく。検査証明書の区分の読み方はEN 10204 のミルシート区分にまとめた。成績書が届いたら、次の順で見る。

1. 種類の記号
SNCM439 か。SNCM431・SNCM447 との取り違えは記号の 1 文字で起きる。

2. ニッケル・クロム・モリブデン
ニッケルが 1.60〜2.00% に入っているか[1]。SCM440 との取り違えは、ニッケルの値で分かる。

3. 炭素
0.36〜0.43% に入っているか[1]。

4. 協定した項目
調質材で買う場合は、協定した機械的性質の値と試験の結果。焼入性を協定した場合は、一端焼入試験の結果。

熱処理をした部品で受け入れる場合は、材料の成績書だけでは足りない。熱処理の条件の記録と、図面で決めた位置の硬さ、必要ならシャルピー衝撃試験の結果を、部品のロットと結び付けて出してもらう。

発注書の書き方の例

決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を一つの例にまとめる。

「材質:SNCM439(JIS G 4053)、熱間圧延丸鋼、直接切削用、径 60 mm。検査文書(検査証明書 3.1)を添付し、化学成分を記載すること。焼入れ焼戻しは図面の指示による(焼入温度・焼戻し温度は熱処理指示書による)。熱処理後の硬さは図面指示の位置で測定し、熱処理条件の記録とともにロットごとに提出すること。他鋼種(SCM440 などを含む)への置き換えは事前承認を要する。」

よくある質問

SNCM439 のミルシートに引張強さが載っていないのは、不足ですか

不足ではない。JIS G 4053 は鋼材を熱間圧延・熱間鍛造のままとし、検査で適合を求めているのは化学成分・寸法・外観である[1]。強さが必要なら、熱処理後の部品で確かめるか、熱処理をした材料で機械的性質を協定して買う[1]。

SCM440 に替えても同じ硬さが出れば問題ありませんか

表面の硬さが同じでも、太い部品の芯の硬さやじん性が同じとは限らない。質量効果は断面寸法によって焼入硬化層深さが変わる度合いであり[3]、SNCM439 と SCM440 はニッケルとクロムの量が違う[1]。置き換えるなら、実際の寸法の部品で芯の硬さと必要なじん性を確かめ、設計の承認を取る。

焼戻し温度は、仕入先の標準でよいですか

焼戻し温度は、低温焼戻ぜい性の温度域[3]や、長寿命域での破壊の形[6]に関わる。硬さだけを指定して温度を仕入先に任せると、硬さは合っても狙いと違う状態の部品が届くことがある。じん性や疲労が性能に入る部品では、設計が温度を決めて書く。

まとめ

SNCM439 は JIS G 4053 のニッケルクロムモリブデン鋼で、JIS が保証するのは化学成分・寸法・外観であり、焼入れ焼戻し後の強さは規定されていない。SNCM431・SNCM447 とは炭素の範囲だけが違い、SCM440 とはニッケルとクロムが違う。SNCM439 を選ぶ理由が太い部品の焼入れやじん性なら、H 鋼が無いことを前提に、焼入性の確かめ方か、熱処理した部品での確かめ方を決める。焼入温度が高すぎると同じ硬さでもじん性が下がり、300℃前後の焼戻しは低温焼戻ぜい性の温度域に当たる。高い硬さにした部品の酸洗やめっきは水素ぜい化に注意する。検査文書は注文時に求め、ニッケルの値で取り違えを見る。

同じ束では、みがき棒鋼 SGD(合金鋼のみがき棒鋼も含む規格)、冷間圧造用炭素鋼の SWRCH・SWCH、硬鋼線材・軟鋼線材の SWRH・SWRM、ステンレスのもらい錆も扱う。

出典・参考資料

  1. JIS G 4053:2026 機械構造用合金鋼鋼材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2026 年 5 月 20 日改正)
  2. JIS G 4052:2026 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H 鋼)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2026 年 5 月 20 日改正)
  3. JIS G 0201:2023 鉄鋼用語(熱処理)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 5 月 22 日改正)
  4. 新潟県工業技術総合研究所 技術トピックス「ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM439)の硬さと金属組織」(新潟県/2017 年 5 月)
  5. JIS G 0561:2020 鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2020 年 12 月 21 日改正)
  6. Kazuaki SHIOZAWA, Nobuhiro SHIBATA, Yasuhiro MARUYAMA, Effect of Tempering Temperature on Very High Cycle Fatigue Behavior in Low-Alloy Steel, SNCM439(材料 57 巻 9 号 pp.905-912)(日本材料学会/2008 年)

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