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AS樹脂(SAN)とABS・ABS/PCの選び方——JIS K 6927-1・K 6934-1の違いと発注での指定

この記事のポイント(結論先出し)
AS 樹脂(スチレン/アクリロニトリル共重合体・SAN)と ABS は、名前は近いが規格の上では別の材料である。JIS K 6934-1 は ABS を、スチレンとアクリロニトリルのコポリマーを主とする連続相の中に、ポリブタジエンを主とする弾性体が分散した材料と定めている[2]。AS 樹脂はその連続相にあたるコポリマーで(JIS K 6927-1・アクリロニトリル 10〜50%)[1]、衝撃を受け止めるゴムの相を持たない。落下や衝撃のかかる部品を、ABS から AS 樹脂に置き換えない。ABS/PC(PC/ABS)は PC と ABS の割合で性質が変わり[3]、JIS K 6934-1 の組成コードは ABS 以外の成分が質量分率 30% までの区分しかないので[2]、呼び方ではなく材料メーカーとグレードで指定する。難燃グレードは、ABS と PC/ABS で効く難燃剤の系統が違うという研究もあり[4]、置き換えのときは難燃の認定と含有化学物質の調査をやり直す。
この記事は、工業部品の材料として AS 樹脂、ABS、ABS とポリカーボネートのアロイ(ABS/PC、PC/ABS と書かれることが多い。この記事では PC/ABS と書く)を選び、成形品を発注するときに何を指定し、受け取るときに何を確かめるかをまとめたものである。3 つはどれもスチレン系の樹脂として扱われることが多く、図面の材質欄で取り違えやすい。
目次
AS 樹脂と ABS は、ゴムの相があるかどうかで分かれる
JIS K 6927-1(スチレン/アクリロニトリル(SAN)成形用及び押出用材料-呼び方)は、スチレンや置換スチレンと、質量分率 10% から 50% のアクリロニトリルからなるコポリマーに適用する、と定めている[1]。これが一般に AS 樹脂と呼ばれる材料である。一方、JIS K 6934-1(ABS 成形用及び押出用材料-呼び方のシステム及び仕様表記の基礎)は、ABS を、主としてスチレン(とアルキル基で置換したスチレン)とアクリロニトリルのコポリマーからなる連続相と、主としてポリブタジエンからなる弾性体の分散相からなる材料としている[2]。
つまり ABS は、AS 樹脂にあたるコポリマーの中にゴムの粒を散らした材料で、AS 樹脂にはそのゴムの相がない。JIS K 6934-1 は、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが 3 kJ/m² 未満のもの、分散相の弾性体の中のブタジエンが質量分率 50% 未満のもの、連続相の中のアクリロニトリルが質量分率 15% 未満のものには適用しない、とも定めている[2]。衝撃強さの下限が ABS の定義の一部になっているということである。
見た目にも差が出る。プラスチックの着色を扱った解説(1999 年)は、耐衝撃性を上げる目的でゴムを共重合した樹脂は乱反射で不透明になるが、ゴムとの屈折率が同じであれば透明性が得られる、と書いている[6]。ゴムの相を持たない AS 樹脂は透明な成形品に使われる材料で、ABS は一般に不透明である。透明な ABS と呼ばれるものは、屈折率を合わせるなどの手当てをした別の設計の材料と考え、通常の ABS と同じ扱いで置き換えない。
使ってはいけない所:衝撃のかかる部品を AS 樹脂にする
透明にしたい、コストを下げたい、という理由で ABS の部品を AS 樹脂に替える相談が出ることがある。規格の定義から分かるとおり、AS 樹脂には ABS のような衝撃を受け止めるゴムの相がない[1][2]。落下する、ぶつかる、ねじやスナップフィットで力がかかる部品を、衝撃の確認をせずに AS 樹脂へ置き換えてはいけない。置き換えるなら、実際の部品で落下や衝撃の条件を決めて確かめる。
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呼び方で表せること:SAN と ABS の比較
2 つの規格は同じ形の呼び方のシステムを使っているが、区分に使う性質が違う。次の表は、それぞれの規格の適用範囲と呼び方の項目を並べたものである[1][2]。
| 項目 | AS 樹脂(SAN)JIS K 6927-1 | ABS JIS K 6934-1 |
|---|---|---|
| 対応国際規格 | ISO 4894-1:1990 | ISO 2580-1:2002 |
| 組成の表し方(データブロック 1) | アクリロニトリル含有率のコード 1(10% を超え 20% 以下)・2(20% を超え 30% 以下)・3(30% を超え 50% 以下) | ABS 以外の成分の量のコード 0(5% を超えない)・1(5% 以上 15% を超えない)・2(15% 以上 30% を超えない)と、他成分モノマーの文字 |
| 区分に使う性質(データブロック 3) | ビカット軟化温度(4 区分)、MFR(4 区分) | ビカット軟化温度(6 区分)、メルトボリュームフローレイト(5 区分)、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ(5 区分)、引張弾性率(4 区分) |
| 流れやすさの測定条件 | MFR:220℃、98.07 N | メルトボリュームフローレイト:220℃、10 kg |
| 適用しないもの | (適用範囲はアクリロニトリル 10〜50% のコポリマー) | 衝撃強さ 3 kJ/m² 未満、弾性体のブタジエン 50% 未満、連続相のアクリロニトリル 15% 未満 |
AS 樹脂の呼び方に衝撃強さの項目がないのは、ゴムの相を持たない材料だからと読める。AS 樹脂の流れやすさは質量で測る MFR、ABS は体積で測るメルトボリュームフローレイトで区分していて、単位も違う。2 つの材料のデータシートを並べるときは、項目の名前が同じでも測り方が同じかを確かめる。
呼び方が同じでも、同じ性能とは限らない
どちらの規格も、同じ呼び方の材料が必ずしも同一の性能を示すとは限らず、特定の用途や加工方法のためのデータを与えるものではない、としている[1][2]。区分の境界近くの値は製造業者がどちらの範囲に入れるかを決め、その後の試験値が範囲から外れても製造の許容範囲ならコードを変える必要はない、という決まりも同じである[1][2]。呼び方は「どの程度の耐熱と流れやすさの材料か」を伝える手がかりにとどめ、発注で固定するのは材料メーカーとグレードである。その進め方は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認で扱った。
ABS は「何が混ざっているか」もコードで表す
JIS K 6934-1 のデータブロック 1 では、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン以外のモノマーやポリマーがどれだけ入っているかを 0・1・2 の数字で、何が入っているかをアクリル酸エステル(A)、無水マレイン酸などの酸無水物(M)、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド(P)の文字で表す[2]。耐熱を上げた ABS などは、ここで違いが分かることがある。
ここで押さえておきたいのは、組成のコードが ABS 以外の成分が質量分率 30% を超えない区分までしかないという点である[2]。ABS にほかの樹脂を多く混ぜたアロイは、この規格の呼び方では表しきれない。JISC の JIS 検索で、ABS と PC のアロイをまとめて呼ぶ成形材料の JIS も探したが、見当たらなかった。PC/ABS は、材料メーカーのグレードで指定する材料と考えておくのが実務的である。
PC/ABS は PC の弱点を補うアロイで、割合で性質が変わる
樹脂メーカーの研究者による解説(1995 年)は、PC は耐熱性、耐衝撃性、寸法安定性に優れる一方で、溶融粘度が高く大型や複雑な形の射出成形が難しいこと、成形品では耐衝撃性が厚さに大きく左右されること、−20℃以下で脆く割れることを問題に挙げ、PC/ABS はこれらを解消する方向のアロイだとしている[3]。同時に、PC と ABS の量の比で諸特性が変わり、低温でのアイゾット衝撃強度が ABS 含量約 30% で最大になるデータもある、と書いている[3]。
同じ解説は、ノート型パソコンや携帯電話機のように小さく軽く薄くなる製品で、耐熱性と強度と流れやすさの釣り合いのよさに加え、成形品の外観のよさと反りの小ささ、コストの点から PC/ABS が採用される例が多いとしている[3]。OA 機器のハウジング、カメラ部品、自動車部品への広がりも挙げられている[3]。
発注側にとっての意味は、「PC/ABS」という名前だけでは割合が決まらず、割合で衝撃も耐熱も流れやすさも変わる、ということである。PC の比率が高いグレードは PC に近い性質を、低いグレードは ABS に近い性質を持つと考え、承認したグレードを図面と購買仕様書で固定する。PC 単体の部品で起きやすい、薬品と応力の重なりによる割れや、厚さとノッチで衝撃強さが落ちる話はポリカーボネート部品の発注で扱った。PC を含む以上、PC/ABS でも触れる薬品と力の条件は仕入先に伝えて確かめる。
PC/ABS は混ざり合わないアロイ
PC/ABS と PPE/HIPS の熱分解を比べた研究は、PC/ABS を非相溶性(混ざり合わない)のアロイとして扱い、熱分解の挙動は組成に応じてほぼ足し合わせで説明できたとしている[5]。PC と ABS が別々の相のまま存在する材料なので、成形の流れ方で相の形が変わり、樹脂が合流するウェルドラインのまわりでは特に構造が複雑になる。PC/ABS の成形品のウェルドラインを調べた研究では、引張試験の試験片はウェルドラインで破断している[8]。力のかかる場所にウェルドラインが来ないかを、金型を作る前に仕入先と確かめる。合否の決め方は成形品のヒケ・ウェルドラインの受入基準で扱う。
難燃グレードは、ABS と PC/ABS で効く難燃剤が違う
ABS と PC/ABS の難燃性を調べた研究(2008 年)は、熱分解などの測定から、ABS ではハロゲン系の難燃剤が有効で、PC/ABS ではりん系の難燃剤と金属-有機錯体が優れた結果を与えたと報告している[4]。ABS の主な分解生成物がスチレンで、ポリスチレンに効く難燃剤がよく効いたこと、PC/ABS ではりん化合物と錯体で燃えるときに表面に炭化層ができ、総発熱量も少なくなったことを理由に挙げている[4]。これは研究室での配合の比較で、市販グレードの配合をそのまま表すものではないが、材料の系統が違えば効く難燃の仕組みも違うことは分かる。
実務では、難燃の ABS を難燃の PC/ABS に置き換える(またはその逆の)提案が来たら、難燃剤の系統が変わる前提で次の 2 つをやり直す。1 つは燃焼性の認定で、部品の厚さで必要な区分が取れているかを認定書類で確かめる(UL 認定部品を仕入先に確かめる)。もう 1 つは含有化学物質の調査で、前の材料の回答を流用しない。
色を付けるときの注意
着色剤の解説(1983 年)は、ABS にはフタロシアニン系を除いて使える有機顔料がほとんどなく、耐熱性が足りないか ABS の変色を進めるためだとしている[7]。有機顔料や染料を使う場合は耐熱性が限界ぎりぎりのことが多く、ABS のグレードによって染顔料の耐熱の挙動も変わるので十分注意が要ること、ABS は塗装されることも多いので塗料の付着を妨げないことが重要なことも書いている[7]。ABS の部品で色の指定をするときは、色番号だけでなく、塗装するかどうかと、成形の温度条件を仕入先と共有しておく。着色の方法の選び方と指定は樹脂の着色とマスターバッチの指定で扱う。
発注書・購買仕様書に書くこと
1. 材料の種類
AS 樹脂(SAN)か、ABS か、PC/ABS か。略称だけでなく名前でも書き、取り違えを防ぐ。可能なら JIS K 6927-1・K 6934-1 の呼び方も添える。
2. 材料メーカーとグレード、色
PC/ABS はグレードで固定する。着色の方法も書く。
3. 部品に求める性質
衝撃(落下の高さや使う温度の下限)、耐熱、透明かどうか、燃焼性の区分と厚さ。
4. 使う環境
触れる薬品とその触れ方、屋外かどうか、使う温度の範囲。
5. 成形の取り決め
ゲートとウェルドラインの位置、外観の基準、塗装するかどうか。
6. 変更の連絡
材料メーカー・グレード・難燃剤・着色剤・成形条件・生産場所を変えるときは事前に承認を得ること。
受け入れるときに確かめること
AS 樹脂、ABS、PC/ABS は、成形品になると見た目や手ざわりで見分けにくい。初回は、注文したメーカーとグレードの材料で成形されたかを材料のロットの記録で確かめる。透明の部品なら透明性、衝撃が要る部品なら決めた落下や衝撃の確認の結果、難燃の部品なら認定書類の型番とグレードの一致を見る。量産に入ってからは、寸法と質量のように手早く測れる値をロットごとに記録しておくと、材料の変化に気づきやすい。
よくある質問
AS 樹脂と ABS、どちらが硬いですか
ゴムの相の有無で性質の方向が違う。ABS は衝撃を受け止めるゴムの相を持ち、規格でも衝撃強さの下限が定義に入っている[2]。AS 樹脂はその相を持たない[1]。「硬い」の意味(剛性か、割れにくさか)を決めてから、同じ試験方法の値で比べる。
PC/ABS は PC より割れにくいのですか
PC の弱点である厚さによる衝撃強さの変化や低温での脆さを解消する方向のアロイとされるが、性質は PC と ABS の割合で変わる[3]。使う温度の下限と厚さの条件で、候補のグレードを実際の部品で確かめる。
ABS の難燃グレードを PC/ABS に替えるとき、何をやり直しますか
燃焼性の認定と、含有化学物質の調査である。ABS と PC/ABS では効く難燃剤の系統が違うという研究があり[4]、配合が変わると前の結果は使えない。
まとめ
AS 樹脂は JIS K 6927-1 のスチレン/アクリロニトリル共重合体で、ABS は JIS K 6934-1 で、その共重合体の連続相にポリブタジエンの弾性体が分散した材料と定められている。AS 樹脂は衝撃を受け止めるゴムの相を持たず、透明な成形品に使われる一方、落下や衝撃のかかる部品を ABS から置き換えてはいけない。ABS の呼び方の組成コードは ABS 以外の成分 30% までなので、PC/ABS は呼び方ではなくメーカーとグレードで指定する。PC/ABS は PC の成形性・厚さ依存・低温脆性を補うアロイだが、割合で性質が変わり、混ざり合わない相を持つのでウェルドラインの位置にも注意が要る。難燃グレードは系統で効く難燃剤が違うので、置き換えのときは認定と化学物質の調査をやり直す。
同じ束では、変性 PPE の選び方、シボ加工の指定も扱う。
出典・参考資料
- JIS K 6927-1:1997 プラスチック-スチレン/アクリロニトリル(SAN)成形用及び押出用材料-第1部:呼び方(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1997 年 7 月 20 日制定・2026 年 6 月 22 日確認)
- JIS K 6934-1:2006 プラスチック-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)成形用及び押出用材料-第1部:呼び方のシステム及び仕様表記の基礎(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 3 月 25 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- 大谷郁二「ポリマーアロイ-PC/ABS の詳細検討-」成形加工 7 巻 6 号(プラスチック成形加工学会/1995 年)
- 水野孝志郎ほか「ABS および PC/ABS アロイの難燃性」マテリアルライフ学会誌 20 巻 1 号(マテリアルライフ学会/2008 年 2 月)
- 上野智永・東尾悠司・石川朝之・武田邦彦「PPE/HIPS アロイとの比較における PC/ABS アロイの熱分解」高分子論文集 64 巻 9 号(高分子学会/2007 年 9 月)
- 森本彰「プラスチック副資材の理論と実際(8)-着色剤-」成形加工 11 巻 5 号(プラスチック成形加工学会/1999 年)
- 鈴木茂「カラーマスターバッチ」日本ゴム協会誌 56 巻 8 号(日本ゴム協会/1983 年)
- 納土賢悟ほか「射出プレス成形における成形品ウエルドラインの評価」成形加工 23 巻 1 号(プラスチック成形加工学会/2011 年)
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