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PVDF(ポリふっ化ビニリデン)部品の発注——JIS K 6935 でのグレード特定、MFR の条件、溶剤・アルカリの注意

この記事のポイント(結論先出し)
PVDF(ポリふっ化ビニリデン)は、PTFE と違って熱で溶かして成形できるフッ素樹脂で、バルブ・軸受などの精密な成形品やライニングに使われる[4]。機械的性質はほかのフッ素樹脂より良好とされる一方、耐薬品性は三ふっ化・四ふっ化の樹脂よりやや劣る[5]。分子が極性を持つため、極性の有機溶媒には溶解・膨潤する[3]。ここが使ってはいけない所の第一である。発注では JIS K 6935-1(ISO 12086-1)の分類・仕様の書き方を手がかりにグレードを特定し[1]、MFR のような値は温度と荷重の条件と一緒に書く。規格は PVDF の MFR 試験に 230 ℃と 21.6 kg または 5.0 kg の荷重を挙げている[2]。
この記事は、配管部品・バルブ・ポンプ部品・ライニング・成形品など、工業用の部品材料としての PVDF を扱う。電池の材料や圧電フィルムとしての用途には立ち入らない。発注する側が、発注書と仕様書に何を書き、受け取るときに何を確かめるかに絞る。
目次
PVDF はどんなフッ素樹脂か
PVDF は、-CH2-CF2- を繰り返す構造を持つ樹脂である[5]。ライニング材料の解説(1968 年)は、この樹脂を「二フッ化樹脂(フッ化ビニリデン樹脂)」と呼び、引張強度・圧縮強度・衝撃強度などが大きく、低クリープ性、耐低温ぜい化性、耐摩耗性に優れることで知られるようになったと書いている。同じ解説は、耐薬品性はフッ素原子の数が少ないぶん三ふっ化・四ふっ化の樹脂より若干低下するのはやむをえないが、ほかのプラスチックと比べれば優れている、という趣旨を書き、ライニングとしては 0.5〜1 mm 以上の厚さにでき、ヒートシールもできることを特長に挙げている[5]。
フッ素樹脂の用途を紹介した解説(1993 年)は、PFA・FEP・ETFE・PVDF などは樹脂を加熱溶融させる加工法で精密な成形品が作れるので、シリコンウェハーのバスケット、バルブ、軸受、ギヤなどに使われていると書いている。化学装置の容器・処理槽・パイプの内面の耐食ライニングに FEP・PFA・PVDF の粉体やフィルムが使われていること、高濃度塩素やオゾンでの殺菌処理が容易なことから PVDF や ETFE の中空糸・多孔膜がフィルターに使われ始めていることも書いている[4]。
購買の立場で押さえるのは、PVDF が「溶融成形できる」「機械的に強い」フッ素樹脂だという点である。同じ 1993 年の解説は、PTFE は溶融温度が 327 ℃と高いうえに溶融粘度が異常に高いため押出しや射出といった溶融成形ができず、ブロックを作って切削加工するなどの方法がとられている、と書いている[4]。PTFE 部品の発注で指定することはPTFE(テフロン)部品の発注にまとめた。PTFE の切削品を PVDF の成形品に置き換えられるかという相談は、この違いから生まれる。
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使ってはいけない所:極性の溶剤/注意する所:強アルカリ・アミン
日本ゴム協会誌の総説(2020 年)は、PTFE や ETFE が完全に対称な分子構造をとって C-F の分極が相殺し合い、双極子モーメントがゼロになるのに対し、類似構造の PVDF は非対称構造があるため分子内双極子が生じ、有極性の高分子になる、と説明している。そのため、極性の有機溶媒の中では溶解・膨潤する、と書いている[3]。
これは発注の現場で次のような形で問題になる。PTFE や PFA の部品が使われていた溶剤のラインを、加工しやすさや強さを理由に PVDF に置き換えると、同じ「フッ素樹脂」でも溶剤に負けることがある。洗浄工程で極性の溶剤を流す設備も同じである。PVDF の部品に触れる液に有機溶剤が含まれるなら、溶剤の名前と濃度・温度を仕入先に伝え、樹脂メーカーの耐薬品データか、実際の液での浸せき試験で確かめる。
アルカリとアミンにも注意がいる。同じ総説は、フッ化ビニリデン(VdF)の水素は電子密度が低く正の電荷を帯びているため、塩基(特にアミン)がある環境では脱フッ化水素の反応が起きやすいと説明し、VdF を含む構造は高濃度のアルカリ・アミン環境下での使用に適さない、と書いている[3]。この記述はフッ素ゴムについての説明の中にあるが、反応の起点として挙げられているのは VdF の構造そのものである。PVDF は VdF を主成分とする樹脂で(ホモポリマーはほぼ VdF だけでできている)、強いアルカリやアミンを含む液に使うときは、同じ注意が当てはまるかを樹脂メーカーのデータで確かめておく。これは当方の注意喚起で、総説が PVDF 樹脂について直接そう書いているわけではない。
耐食コーティングの解説(2002 年)は、PVDF は成形品やシートライニングが主流で、現在は耐食目的でコーティングされるケースは少なくなっており、強度の面でメリットがあるとし、外装用のフッ素樹脂塗料としての用途が多い、と書いている[6]。耐食の目的で「PVDF コーティング」を指定されたら、成形品やシートライニングとの比較を含めて設計と確かめる。
グレードは「分類の体系」で特定する
フッ素ポリマーの成形用・押出用材料には、JIS K 6935-1(ISO 12086-1 に一致)がある。この規格は、フッ素ポリマー材料の分類の体系を規定し、それを仕様作成のための基準として用いてもよいとしている。ホモポリマーと各種のフッ素モノマーから作るコポリマーを扱い、フッ素エラストマー(フッ素ゴム)は特別に除外している[1]。PVDF はこの規格の略語に「ポリふっ化ビニリデン」として載っている[1]。
同じ規格は、PVDF とそのコポリマーについて、機械的特性を引張降伏応力と引張弾性率で表すとしている(ほかのフッ素ポリマーは引張破壊応力などで表す)[1]。そして仕様の書き方の例として、押出し用の PVDF ホモポリマー(自然色の粒)について、融点 170〜180 ℃、試験温度 230 ℃・試験荷重 49.03 N(5 kgf)での MFR 5〜10 g/10 min、引張降伏応力 50〜55 MPa、引張破壊伸び 50〜100%、引張弾性率 2,000〜3,000 MPa、密度 1.7〜1.8 g/cm³ という特性を挙げ、それを「ISO 12086-PVDF-S, …」の形のコードで表す例を示している[1]。この特性を持つ材料は ASTM D 3222 ではタイプ II の PVDF と記述される、という参考もある[1]。
この例の数値は、規格が仕様の書き方を説明するために挙げた一例であって、PVDF の一般値ではない。ただ、何を並べれば材料が特定できるかの見本になる。発注では、樹脂メーカーの銘柄に加えて、この体系の項目(融点・MFR とその条件・降伏応力・弾性率・密度)のうち設計が前提にしているものを書いておくと、代替品を提案されたときに比べる基準が残る。代替グレードの承認の進め方は樹脂のグレード指定と代替グレードの承認で扱った。
MFR は条件と一緒に書く
MFR(メルトマスフローレイト)は、成形のしやすさの目安として見積や材料の比較でよく出てくる。だが、値は試験の温度と荷重で大きく変わる。JIS K 6935-2 は、溶融成形できるフッ素ポリマーの試験シートの成形と MFR の試験条件を表 7 で定めている[2]。
| フッ素ポリマー | 試験シートの成形温度 ℃ | MFR の試験温度 ℃ | MFR の試験荷重 kg |
|---|---|---|---|
| PVDF | 205 | 230 | 21.6 又は 5.0 |
| ETFE | 300 | 297 | 5.0 |
| ECTFE | 265 | 271.5 | 2.16 |
| PCTFE | 265 | 265 | 21.6 又は 31.6 |
| FEP | 325 | 372 | 2.16 又は 5.0 |
| PFA | 380 | 372 | 5.0 |
表は JIS K 6935-2 の表 7 から写した[2]。規格は、ほとんどの場合はこの表の荷重を使うことが望ましいが、測った MFR が規定の範囲に収まるよう、表 8 の荷重から選んでよいとしている[2]。PVDF は荷重が 21.6 kg と 5.0 kg の二通りで、同じ材料でも荷重が違えば値はまったく違う。見積書や材料表に「MFR 8」とだけあっても、比べられない。発注書と仕様書には「MFR(230 ℃・5.0 kg)」のように条件を添えて書き、代替品の比較でも同じ条件の値で並べる。
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表からはもう一つ、PVDF の加工温度がほかの溶融成形型フッ素樹脂よりかなり低いことも読み取れる。成形温度 205 ℃は、PFA の 380 ℃や ETFE の 300 ℃より低い[2]。フッ素樹脂の中では、比較的扱いやすい温度で成形できる材料である。
試験の前に置く時間
同じ規格は、PVDF の場合、成形後の再結晶による影響を最小にするため、試験前に 1 週間放置することを勧める加工業者がある、と備考に書いている[2]。これは試験片についての記述だが、成形した直後と時間がたった後とで性質が少し動く材料だということを示している。受入で寸法や物性を厳しく見る部品なら、成形から測定までの時間を仕入先と取り決めておくとよい(当方の提案)。
成形品の寸法と、食品・薬液に触れる部品
PVDF は射出成形や押出成形で部品になる[4]。成形品の寸法公差の決め方(収縮・測る状態の指定)は、樹脂の種類によらず共通の考え方で決められるので、樹脂成形品の寸法公差の決め方を参照してほしい。PVDF は結晶性の樹脂で、先の備考のとおり成形後の再結晶の影響が問題にされる材料なので[2]、寸法の測定時期と状態調節の条件を決めておくことが、とくに意味を持つ。
食品や飲料に触れる部品、医薬品の製造設備の接液部に使うなら、材料の性能とは別に、法規制への適合を確かめる手続きがいる。食品に触れる部品の確かめ方は食品に触れる部品の調達で扱った。
ゴムのシールとの組合せ
PVDF のバルブや継手には、ゴムの O リングやパッキンが組み合わされることが多い。樹脂を薬液に合わせて選んでも、シールのゴムが液に合っていなければ漏れる。ゴムの材料は、液に応じてフッ素ゴム(FKM)、EPDM、NBR から選ぶことになるが、それぞれ得意・不得意の液が違う。部品の発注書では、樹脂とシールの両方の材料を書き、どちらも同じ液の条件で確かめる。
発注書と仕様書に書くこと
ここからは規格の要求ではなく、発注する側としての提案である。
1. 材料とグレード
PVDF(ホモポリマーかコポリマーか)、樹脂メーカーの銘柄、設計が前提にしている特性(融点・MFR・降伏応力・弾性率・密度)。JIS K 6935-1 の分類の項目を手がかりにする[1]。
2. 値の条件
MFR は温度と荷重を添える[2]。機械的特性は試験方法と状態調節の条件を添える。
3. 接する液と温度
有機溶剤(とくに極性の溶剤)、アルカリ、アミンの有無と濃度・温度[3]。
4. 成形品の測定時期
成形から寸法・物性を測るまでの時間と状態調節。
5. 代替の承認
銘柄・グレードの変更は事前承認とする。
受け入れるときに確かめること
材料のロットの成績書では、銘柄とロット番号が注文どおりかを見たうえで、MFR が取り決めた条件(温度・荷重)での値かを確かめる。条件の違う値を規格値と比べない。成形品の受入では、測定の時期と状態調節が取り決めどおりかを見る。薬液や溶剤に触れる部品は、初回に実際の液での確認結果を出してもらい、溶剤を変えたときは改めて確かめる。
注文書の書き方の例
決まった様式はない。発注側として書いておきたい内容を一つの例にまとめる。
「材質:PVDF ホモポリマー(樹脂メーカー銘柄 ○○、自然色)。MFR は 230 ℃・5.0 kg の条件での値を材料の成績書に記載すること。接液:濃度○%の無機酸(常温)。極性の有機溶剤・強アルカリには触れない設計である。寸法測定は成形後○日以降、状態調節後に行うこと。銘柄・グレードの変更は事前に連絡し承認を得ること。」
よくある質問
PTFE の部品を PVDF に置き換えられますか
PVDF は溶融成形でき機械的に強いので、形の複雑な部品を成形品で作れる利点がある[4][5]。一方で耐薬品性は四ふっ化の樹脂より若干劣り[5]、極性の有機溶媒には溶解・膨潤する[3]。接する液を確かめてから判断する。
見積の MFR が仕入先ごとに違います。どれが流れやすい材料ですか
MFR は試験の温度と荷重で変わり、JIS K 6935-2 は PVDF に 21.6 kg と 5.0 kg の二通りの荷重を挙げている[2]。条件をそろえた値でないと比べられない。条件を確かめ、同じ条件の値を出してもらう。
PVDF のフッ素樹脂コーティングを指定されました
耐食コーティングの解説(2002 年)は、PVDF は成形品やシートライニングが主流で、耐食目的のコーティングは少なくなっていると書いている[6]。目的が耐食か外装の耐候か、膜厚はどれだけかを設計に確かめ、ライニングや成形品と比べて決める。
まとめ
PVDF は溶融成形できるフッ素樹脂で、機械的に強く、バルブ・軸受などの成形品やライニングに使われる。ただし分子が極性を持つため極性の有機溶媒には溶解・膨潤し、強いアルカリやアミンに使えるかは樹脂メーカーのデータで確かめる。グレードは JIS K 6935-1 の分類の項目を手がかりに特定し、MFR などの値は温度と荷重の条件と一緒に書く。成形後に性質が動くことを見込んで測定時期を決め、組み合わせるゴムのシールも同じ液の条件で選ぶ。
同じ束では、フッ素ゴム(FKM)、EPDM、NBR、スポンジゴムの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS K 6935-1:1996 プラスチック-ふっ素ポリマーのディスパージョン,成形用材料及び押出用材料-第 1 部:分類の体系と仕様作成のための基準(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1996 年 10 月 20 日制定・2026 年 6 月 22 日確認)
- JIS K 6935-2:1999 プラスチック-ふっ素ポリマーのディスパージョン,成形用及び押出用材料-第 2 部:試験片の作り方及び諸特性の求め方(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 12 月 20 日制定・2025 年 10 月 20 日確認)
- 安田智子・シメオンフリッツ「フッ素ゴムの特徴と最近の開発動向と用途」日本ゴム協会誌 93 巻 6 号(日本ゴム協会/2020 年)
- 松尾仁「役に立つフッ素樹脂」化学と教育 41 巻 10 号(日本化学会/1993 年)
- 塚本増能「ライニング用プラスチックとその特徴」材料 17 巻 179 号(日本材料学会/1968 年)
- 中村武房「フッ素樹脂を中心とした最近の耐食コーティング材料」色材協会誌 75 巻 5 号(色材協会/2002 年)
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