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成形品のヒケ・ウェルドラインの受入基準——JIS K 6900の定義と、見た目と強さを分けた決め方

この記事のポイント(結論先出し)
射出成形品のヒケとウェルドラインは、どちらも外観の欠点として扱われやすいが、受入基準では分けて考える。ヒケは肉厚が変わるリブやボスに出る表面のくぼみで[1][2]、主に見た目の問題として基準を決められる。ウェルドラインは樹脂の流れが合流した跡で[1]、見た目の問題であると同時に強さの問題でもある。強さが 1/2 くらいに下がるとも言われ[3]、ゲートが 1 か所でもピンやコアの回りで必ず生じ、なくすことはできない[3]。しかも、溝を浅くして見た目をよくしても強さが上がるとは限らない(ある研究では溝は 2 µm 以上から 1 µm 以下に浅くなったが、強さは同等か若干低下した)[3]。だから、力のかかる場所にウェルドラインが来るかどうかは、目視の合否基準ではなく、金型を作る前の位置の確認と、ウェルドを含む部品の強さの確認で決める。
この記事は、樹脂の射出成形品を発注するときに、ヒケとウェルドラインの受入基準をどう決めるかをまとめたものである。外観の合否基準の一般的な決め方(欠点の定義・面の区分・見る条件・限度見本)は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱ったので、ここではヒケとウェルドラインに特有の点に絞る。
目次
まず言葉を規格の定義でそろえる
JIS K 6900(プラスチック-用語)は、ひけマーク(sink mark、shrink mark)を「成形品の表面のくぼみ」と定義し、注として、この欠陥はしばしば肉厚にかなりの変化がある部分で材料が金型から引っ込んで生ずる、と書いている[1]。ウェルドライン(weld line、knit line、weld mark)は「共に流れているプラスチックの二つ又はそれ以上の流体の融合によって形成される成形プラスチックの表面のこん(痕)跡」と定義されている[1]。ニットライン、ウェルドマークは同じものの別名である。
現場では「ヒケ」「ウエルド」「ウエルドライン」とさまざまに書かれる。外観基準書の欠点の名前は、この規格の言葉にそろえ、別名を括弧で添えておくと、海外の仕入先とのやりとりでも取り違えが減る。
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ヒケは、肉厚が変わる所に出る
射出成形品のヒケの仕組みを調べた研究(1981 年)は、ヒケが生じやすいのはリブやボスなど周囲より肉厚が厚くなる部分で、肉厚が均一な成形品は、保圧の時間が著しく短い成形条件でない限り通常ヒケは生じない、としている[2]。理由は、保圧の間はゲートから材料が送り込まれて冷えて縮む分を補うが、ゲートとリブの間の肉厚の中心が流れの止まる温度まで冷えた時点で補う道がなくなり、リブの付け根の冷え遅れた部分はそれ以後補われずに縮むからである[2]。研究は、ヒケを肉厚の変化による冷却の不均一に基づく局部的な体積収縮と結論している[2]。同じ研究は、この体積の変化がヒケかボイドの原因で、先に固まった外側の剛性が大きく変形しにくい場合は内部にボイドが、剛性が小さく変形が大きい場合はヒケが生じると考えている[2]。ボイドは JIS K 6900 で「す(鬆)」と呼ばれ、気体を含む取り囲まれた空洞と定義されている[1]。表面にヒケが見えないことは、厚い部分の中身が詰まっていることの証明にはならない。
発注側にとってのこの仕組みの意味は、ヒケの多くが図面の段階で決まっている、ということである。リブやボスの付け根が厚い形のまま「ヒケなきこと」と書いても、仕入先は保圧を上げる、時間を延ばすといった成形条件で抑えるしかなく、それはサイクルとコストに跳ね返る。ヒケを厳しく見る面があるなら、その面の裏側のリブ・ボスの肉厚について、図面を出す前に仕入先の意見を聞く。厚い部分の強さや気密が要る部品では、表面のヒケとは別に、断面を切るなどして内部のボイドも初回に確かめる。
ウェルドラインは「見た目」と「強さ」の二つの問題
PC/ABS の成形品のウェルドラインを調べた研究(2011 年)は、ウェルドラインを射出成形で溶けた樹脂が合わさった跡が出る現象とし、解決が非常に難しいこと、ゲートが 1 か所でも金型にピンやコアがあれば、その回りに樹脂が回り込んで再び合流するので発生することを書いている[3]。そして、ウェルドラインは製品の性能にも影響し、その部分の強度は 1/2 くらいに低下するとも言われている、製品が期待した性能を出せずに使用中に壊れることがある、と続けている[3]。ウェルドラインをなくすことは不可能なので、できる限り最小限にとどめる必要があり、金型の構造や成形条件で対処されてきた、とも書いている[3]。
1/2 という数字は「とも言われている」という紹介で、材料と形と条件で変わる。成形品の物性の研究を総覧した解説(1996 年)は、ウェルドラインの強度には V ノッチ(表面の V 字の溝)や分子の配向、絡み合いなど様々な因子が関係している、としている[4]。ガラス繊維で強化した材料では、2011 年の研究[3]が紹介する報告によれば、繊維の向きでウェルドの強さが変わることもある。ガラス繊維強化の PPS で、あるメーカーのグレードの代表値でウェルドを含む試験片の引張強さが大きく下がる例はPPS 樹脂の選び方で扱った。自分の使うグレードと形で、ウェルドを含む強さを確かめるしかない。
見た目をよくしても、強さが上がるとは限らない
同じ 2011 年の研究は、PC/ABS の板の穴の回りにできるウェルドラインの溝の深さを表面粗さ計で測り、通常の射出成形品では 2 µm 以上だったのに対し、圧縮の動作を加えた射出プレス成形品では浅くなり、条件によっては 1 µm 以下になったと報告している[3]。外観上、ウェルドラインの低減に射出プレス成形が有効だったということである。一方で、穴に通した吊り環で引っ張る試験では、どちらの試験片もウェルドラインの上で破断し、射出プレス成形品の強さは射出成形品と同等か、圧縮量が増えるほど若干低下する傾向だった[3]。
これは 1 つの材料と形での結果だが、受入基準の作り方に直接効く。ウェルドラインの溝が見えないこと、浅いことを合格の条件にしても、それは強さを保証しない。見た目の基準と強さの確認は、別の項目として書く。
ヒケとウェルドラインの違いを並べる
| 項目 | ヒケ(ひけマーク) | ウェルドライン |
|---|---|---|
| JIS K 6900 の定義 | 成形品の表面のくぼみ[1] | 流れの融合で形成される表面の痕跡[1] |
| 出やすい場所 | リブ・ボスなど肉厚が厚くなる部分の表側[2] | 穴・ピン・コアの回り、複数の流れが出会う所[1][3] |
| 決まる段階 | 主に図面の肉厚、次に保圧の条件[2] | 主に金型(ゲートの位置と数、穴の配置)、次に成形条件[3] |
| 見た目の測り方の例 | 限度見本との比較、くぼみの深さの測定 | 限度見本との比較、表面粗さ計による溝の深さ(研究例:2 µm 以上と 1 µm 以下)[3] |
| 強さへの影響 | 主に外観の問題として扱える(厚い部分は内部のボイドも確かめる) | 1/2 くらいに下がるとも言われる[3]。見た目と強さは別に確かめる |
ヒケの深さの測り方には、規格で決まった方法はない。数値で合否を決めるなら、何で(ダイヤルゲージ、形状測定機など)、どの方向に、どの範囲を測るかを当事者で決めておく。決められないなら、見る条件をそろえたうえで限度見本で決める。
シボで隠れるのは見た目だけ
金型のシボ加工を扱った解説(2011 年)は、エッチングによるシボ加工が金型表面の質感の技術として本格的に使われ始めた 1950 年代後半には、成形品表面のウエルドライン、ヒケ、キズ等の技術上の問題点を消去する補足的な手段などとして利用されたにすぎなかった、と書いている[5]。今でも、ヒケやウェルドラインが目立つ面にシボを付けて目立たなくする相談はある。
シボで見えにくくなるのは表面の跡で、ウェルドラインの強さは変わらない。前節の研究が示したように、溝の見え方と強さは別である[3]。外観の対策としてシボを選ぶのは構わないが、強さが要る部品では、シボを付けたことでウェルドの確認を省かない。シボの指定そのものはシボ加工の指定で扱う。
使ってはいけない受け入れ方:力のかかる所のウェルドを目視だけで通す
ねじを受けるボスの根元、スナップフィットの爪、内圧のかかる容器の壁、ヒンジのように繰り返し曲がる所は、ウェルドラインが来ると壊れやすい場所である。こうした場所のウェルドラインを、外観の限度見本との比較だけで合格にしてはいけない。溝が浅く見えても強さは保証されない[3]。
発注側がやることは 3 つある。1 つ目は、金型を作る前に、ゲートの位置とウェルドラインの出る位置を仕入先に示してもらい、力のかかる所に来ないかを図面と照らすこと。仕入先が流動解析を使っていれば、その結果を見せてもらう。2 つ目は、ウェルドラインを避けられない場所について、ウェルドを含む実際の部品で、壊れる荷重や機能の試験を初回に行い、その方法と合格の条件を書いておくこと。3 つ目は、金型の修正、ゲートの変更、材料の変更、成形条件の大きな変更のときに、位置の確認と試験をやり直すこと。金型の試打ちの合格基準を発注時に書く考え方は射出成形の金型を発注するとき決めることで扱った。
受入基準書に書くこと
外観基準書の一般的な項目に、ヒケとウェルドラインのために次を足す。
1. 面の区分ごとの扱い
意匠面ではヒケ・ウェルドラインを限度見本で判定し、隠れる面では判定しない、のように区分ごとに決める。
2. ヒケの判定方法
限度見本か、測るならその道具・方向・範囲。強さや気密が要る厚い部分は、内部のボイドの確かめ方(断面の観察など)とその時期も。
3. ウェルドラインの位置
図面に許す位置(または許さない範囲)を示す。位置が動いたら変更の連絡の対象にする。
4. ウェルドラインの見た目の判定
意匠面での長さや見え方を限度見本で。数値にするなら溝の深さの測り方。
5. ウェルドを含む強さの確認
力のかかる場所について、試験の方法・荷重・合格条件と、いつ行うか(初回・変更時・定期)。
6. 基準を渡す時期
発注の時点で渡す。後から厳しくするなら次の発注分から。
受け入れるときに確かめること
初回は、承認したゲートの位置で成形されているか、ウェルドラインが決めた位置に出ているかを、部品を見て確かめる。多数個取りの金型ならキャビティごとに見る。ウェルドを含む強さの試験は、決めたとおりに行われ、結果が記録されているかを見る。量産に入ってからは、ヒケとウェルドラインの見え方を限度見本で定期的に見て、見え方が急に変わったら成形条件や材料の変化を疑い、仕入先に確かめる。
よくある質問
「ヒケ・ウェルドなきこと」と図面に書いてよいですか
勧めない。ウェルドラインはピンやコアがあれば必ず生じ、なくすことはできない[3]。ヒケも肉厚の変化がある形では出やすい[2]。どの面で、どこまでを許すかを決め、強さが要る場所はウェルドの位置と強さの確認で決める。
ウェルドラインの溝が浅ければ、強さも大丈夫ですか
そうとは限らない。ある研究では、溝が浅くなった成形品の強さは同等か若干低下していた[3]。見た目と強さは別々に確かめる。
ヒケは成形条件で消せますか
保圧の条件で小さくできることはあるが、仕組みとしては肉厚の変化による冷え方の違いで出る[2]。同じ体積の変化は、外側の固まり方によっては表面のヒケではなく内部のボイドとして現れる[2]ので、ヒケが消えたら厚い部分の内部も確かめる。条件で無理に抑えるとサイクルやほかの不具合に影響しうるので、厳しく見る面があるなら図面の肉厚の段階で仕入先と相談する。
まとめ
ヒケは JIS K 6900 で成形品の表面のくぼみ、ウェルドラインは流れの融合でできる表面の痕跡と定義されている。ヒケはリブやボスなど肉厚が変わる所に出て、多くは図面の段階で決まるので、厳しく見る面があるなら図面を出す前に相談する。同じ縮みは内部のボイドとしても現れうるので、厚い部分は表面だけで判断しない。ウェルドラインはピンやコアがあれば必ず生じ、強さが 1/2 くらいに下がるとも言われる。溝を浅くしても強さが上がるとは限らず、シボで隠れるのも見た目だけなので、力のかかる場所のウェルドは目視の基準で通さず、金型の前の位置の確認と、ウェルドを含む部品の強さの確認で決める。基準は発注の時点で渡し、金型・ゲート・材料・条件を変えたら確認をやり直す。
同じ束では、AS 樹脂と ABS/PC の選び方、樹脂の着色とマスターバッチの指定、変性 PPE の選び方も扱う。
出典・参考資料
- JIS K 6900:1994 プラスチック-用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1994 年 1 月 1 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- 丸山照法・日部恒「非晶性高分子材料を用いた射出成形品のヒケ現象」高分子論文集 38 巻 4 号(高分子学会/1981 年 4 月)
- 納土賢悟ほか「射出プレス成形における成形品ウエルドラインの評価」成形加工 23 巻 1 号(プラスチック成形加工学会/2011 年)
- 泊清隆「成形品物性」成形加工 8 巻 6 号(プラスチック成形加工学会/1996 年)
- 渡邊豊彦「成形用金型へのシボ加工技術について」成形加工 23 巻 11 号(プラスチック成形加工学会/2011 年)
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