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A5056・A5083 の発注——JIS H 4040 の棒と H 4000 の板、Mg量で変わる使用温度と寸法許容差

この記事のポイント(結論先出し)
A5056 と A5083 はどちらもマグネシウムを 4% 以上含む Al-Mg 系の合金だが、JIS で買える形が違う。A5056 は棒・線(JIS H 4040)と管(JIS H 4080)の規格に載り、板の規格 JIS H 4000 には載っていない。A5083 は板・棒・線・管・押出形材のそれぞれに規格がある[1][2][3][4]。引抜棒の A5056 は H32・H34・H38 で引張強さの下限だけが決まり、耐力の規定がない[1]。板の A5083P は耐力が常に適用され、曲げ試験は注文者が要求したときだけ適用される[2]。マグネシウムの多い合金は、65 ℃以上で使う場合にマグネシウム 3% 以下の合金に制限されると解説されている[5]。温度が上がる部品では、強さだけで選ばない。
目次
A5056 と A5083:どちらも Mg の多い 5000 系
JIS H 4040(アルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線)の化学成分は、5056 がマグネシウム 4.5〜5.6%、5083 が 4.0〜4.9% で、5083 はマンガン 0.40〜1.0% を含む[1]。板の規格 JIS H 4000 にある 5052 はマグネシウム 2.2〜2.8% なので[2]、5056 と 5083 は 5052 のほぼ倍のマグネシウムを含む。
規格の表 1 に参考として書かれた特性と用途も違う。JIS H 4040 は、5056 を「強度,延性に優れ,耐食性,切削加工性及び陽極酸化処理性がよい」とし、用途例を光学機器・通信機器部品・ファスナーなどとしている[1]。5083 は「非熱処理合金中で最高の強度があり,耐食性及び溶接性がよい」で、棒の用途例は一般機械部品など、板の用途例は船舶・車両用材、低温用タンク、圧力容器などである[1][2]。5056 は削って使う小物や締結部品、5083 は板や形材で組む構造物、というのが規格の描く使い分けになる。
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A5056 は「板」の JIS がない
見積で最初につまずくのがここである。JIS H 4000(板及び条)の表には 5052・5083 などが並ぶが、5056 は載っていない[2]。押出形材の JIS H 4100 にも 5056 は載っておらず、5083 は A5083S として載っている[3]。5056 が載っているのは、棒・線の JIS H 4040(押出棒 A5056BE、引抜棒 A5056BD、引抜線 A5056W)と、継目無管の JIS H 4080(押出管 A5056TE、引抜管 A5056TD)である[1][4]。
図面に「A5056」とだけあって形状が板の部品なら、仕入先は JIS 規格外の材料を探すか、別の合金を提案してくることになる。板から抜く部品で 5000 系の強さが欲しいなら A5083P、削り出しで 5056 を使いたいなら丸棒・角棒から削る前提で、材料の形を図面の責任者と確かめる。5052 の板の選び方はA5052 の発注で指定することで扱った。
規格値で比べる
次の表は、各規格の表 3(または表 4)から、よく使う形と質別の機械的性質を抜き出したものである。寸法の区分によって値が変わるので、区分も並べた[1][2][3]。
| 製品記号・質別(規格) | 寸法の区分 | 引張強さ N/mm² | 耐力 N/mm² |
|---|---|---|---|
| A5056BD-O(H 4040 引抜棒) | 径など 3 mm を超え 100 mm 以下 | 250 以上 320 以下 | 110 以上 |
| A5056BD-H34(H 4040 引抜棒) | 10 mm 以下 | 345 以上 | 規定なし |
| A5056BE-H112(H 4040 押出棒) | 断面積 300 cm² 以下 | 245 以上 | 100 以上 |
| A5083BD-O(H 4040 引抜棒) | 3 mm を超え 100 mm 以下 | 275 以上 355 以下 | 110 以上 |
| A5083P-O(H 4000 板) | 厚さ 0.8 mm を超え 40.0 mm 以下 | 275 以上 350 以下 | 125 以上 200 以下 |
| A5083P-H32(H 4000 板) | 厚さ 0.8 mm を超え 2.9 mm 以下 | 310 以上 380 以下 | 235 以上 305 以下 |
| A5083S-H112(H 4100 押出形材) | 厚さ 130 mm 以下・断面積 200 cm² 以下 | 275 以上 | 120 以上 |
表のほかの寸法区分と伸びは、それぞれの規格の表で確かめる。JIS H 4040 は、表に規定する径・厚さ・対辺距離・断面積以外の寸法の機械的性質は受渡当事者間の協定による、としている[1]。太い棒を買うときは、注文寸法が表の区分に入っているかをまず見る。
A5056 の硬い質別は、耐力が決まっていない
表のとおり、JIS H 4040 の引抜棒の A5056 は、H32(H12 と同じ欄)・H34・H38 の 10 mm 以下で、引張強さの下限(300・345・380 N/mm²)だけが規定され、耐力と伸びは「-」になっている[1]。強いほうの質別ほど、規格が保証する項目が少ない。
ファスナーやピンのように、耐力を使って強度計算をしている部品で A5056 の H34 を指定しているなら、規格の値だけでは耐力が保証されない。必要な耐力を別に決めて注文書に書き、成績書に載せてもらうかを設計と決める。これは規格の要求ではなく、発注側の確認の提案である。O 材は耐力 110 N/mm² 以上が決まっている[1]。
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A5083P は耐力が常に適用、曲げは要求したときだけ
JIS H 4000 の 5.3.1 は、耐力を注文者の要求がある場合だけに適用する合金を列挙している。純アルミ系、3000 系、A5005P、A5052P、A6101P などで、A5083P は含まれていない[2]。A5083P の耐力は、注文の書き方にかかわらず規格の項目である。曲げ試験は、表のすべての合金で、注文者の要求がある場合だけに適用され、行った場合は曲げた部分の外側に割れを生じてはならない[2]。
曲げの内側半径も 5052 より大きい。A5083P の O 材の曲げ試験の内側半径は、厚さ 0.5 mm 以上 12.0 mm 以下で厚さの 2 倍である[2]。H32 では厚さの区分ごとに 2.5 倍から 5 倍まで大きくなる[2]。5052 の型で曲げていた部品を、材料だけ 5083 に替えると同じ R で曲げられないことがある。曲げの考え方は板金の曲げ加工でできないことで扱った。
JIS H 4000 は、H22 には引張強さの上限と耐力を適用しないとする注を、5083 の欄にも付けている[2]。H32 の代わりに H22 で納めたいと言われたら、上限と耐力の扱いが変わることを前提に承認する。
船舶用の H116・H321 と、LNG 用の A5083PS
A5083P には H116 と H321 の質別もある。JIS H 4000 は、船舶用に用いる質別 H116 又は H321 の材料は離腐食性の規定(5.6 a))によるとし、離腐食性は注文者の要求がある場合にだけ適用して受渡当事者間の協定による、としている[2]。また、特殊級の A5083PS は液化天然ガス貯槽の側板などに使用する場合に限る、と注記されている[2]。一般の機械部品の注文で H116 や A5083PS を指定する理由は、たいていない。
Mg の多さが効くところ:使用温度と溶接
1984 年の溶接学会誌に載った内田彰の概説では、Al-Mg 系の 5000 系が最も主要な溶接構造用の材料と位置づけられ、O 材どうしを健全に突合せ溶接すれば継手の効率は 100% になる、とされている[5]。同じ箇所に、Mg の多い合金は高い温度で粒界腐食が起きやすいので、使用温度が 65 ℃以上になるなら Mg が 3% 以下の合金(例として A5454・A5052)に限られる、という注意も書かれている[5]。
5056 も 5083 も、マグネシウムは 3% を大きく超える[1]。熱源の近くの部品、温水や蒸気が当たる部品、屋外で日射を受けて温度が上がる筐体などで「強いから 5083 に」「削りやすいから 5056 に」と置き換えるときは、使用温度をまず確かめる。どの温度でどの程度の影響が出るかは条件によるので、ここでは解説の制限を判断の入口として紹介するにとどめる。
同じ概説は、A5083 は最も代表的な溶接構造用アルミ合金で、通常は O 材が使われ、加工硬化材の H32 材や焼鈍を行わない H112 材も使われるが、それ以上の加工硬化材は粒界腐食の感受性が増すことと、溶接部の強さが結局 O 材なみになることから通常は使用されない、としている[5]。溶接部品で 5083 を使うなら、O・H32・H112 のどれかで考え、溶接部の強さは O 材の値で見るかを設計に確かめる。溶接方法の選び方と溶加材の組合せはTIG 溶接と MIG 溶接の違いと溶接棒・溶接ワイヤの規格で扱った。
寸法の許容差は「合金グループ」で表が替わる
JIS H 4040 と JIS H 4100 は、寸法の許容差の表を合金グループごとに分けている。Al-Mg 系では、マグネシウム量が 2.8% 以下の合金(5052 など)がグループ 1、2.8% を超える合金(5056・5083 など)がグループ 2 になる[1][3]。押出棒(長方形断面)では、同じ幅と厚さの区分でも、グループ 2 のほうが許容差の表の値が大きい。たとえば普通級で幅 30 mm を超え 50 mm 以下の幅の許容差は、グループ 1 が ±0.52 mm、グループ 2 が ±0.65 mm である[1]。
5052 の棒で引いていた公差を前提に、材料だけ 5083 に替えると、普通級の材料の許容差が広がる。許容差を詰めたいなら特殊級で注文するか、削り代を見込む。JIS H 4040 は、等級を寸法の許容差と形状によって普通級と特殊級に分け、棒では末尾に S が付く記号(A5083BES など)が特殊級である[1]。押出形材の JIS H 4100 では記号の付け方が違い、A5083S が普通級、A5083SS が特殊級になる[3]。押出形材の許容差の読み方はアルミ押出形材の寸法許容差にまとめた。
表面処理:5056 は陽極酸化の仕上がりで選ばれる
JIS H 4040 と JIS H 4080 は、5056 の特性に「陽極酸化処理性がよい」を挙げている[1][4]。光学機器や通信機器の部品でアルマイトの外観をそろえたいときに 5056 が選ばれるのは、この性質による。処理業者には合金と質別を伝え、同じ部品で合金が混ざらないようにする。同じ外観を求める組立品で、ある部品は 5056、別の部品は 6000 系、といった組合せでは、合金が違う分だけ仕上がりの色がそろうとは限らないので、限度見本で合わせる(当方の提案)。処理業者に渡す情報(材質と質別、有効面など)は表面処理の種類と図面の記号にまとめた。
受け入れるときに確かめること
JIS H 4040 は検査の一般事項を JIS H 0321 によるとし、引張試験などは、特に注文者の要求がない限り、合金番号・製品区分・等級・質別・断面寸法の同じ棒又は線の一定質量ごとに検査ロットを作って試験片を採る、としている[1]。JIS H 0321 は、製造業者は注文者の要求があったときに、試験の成績・製造番号・製造年月・注文寸法・数量・現品の納入状態などを記載した明細書を提出する、としている[6]。成績書が要るなら注文時に求める。
成績書が届いたら、次の順で見る。
1. 規格番号と製品記号
板なら JIS H 4000 の A5083P、棒なら JIS H 4040 の A5056BD など、形に合った規格と記号になっているか。
2. 質別
H32 と H22、O と H112 のような 1 文字の違いまで、注文と一致しているか。
3. 引張強さと耐力
寸法の区分に合った規格値を満たしているか。A5056 の H34 の耐力のように規格に値がない項目は、別に決めた値と比べる。
4. マグネシウム
5056 は 4.5〜5.6%、5083 は 4.0〜4.9% に入っているか[1]。5052 や 5086 との取り違えはここで分かる。
注文書の書き方の例
決まった様式があるわけではない。ここでは書いておきたい内容を例にする。
「材質:A5083BES-O(JIS H 4040、押出棒・特殊級)、径 40 mm×長さ 2 000 mm。成績書を添付し、質別・引張強さ・耐力・伸び・化学成分を記載すること。合金・質別の変更は事前承認を要する。使用温度:常時 40 ℃以下。」
JIS H 4040 は、注文時の規格番号と製品記号の書き方の例として「JIS H 4040 A5083BES-O」を示している[1]。使用温度は規格の項目ではないが、仕入先が置き換えを提案するときの判断材料になるので書いておく。
よくある質問
A5056 の板で見積を取りたいのですが
JIS H 4000 に 5056 の板はない[2]。規格外の材料として仕様を決めて調達するか、板の A5083P に替えるかを、設計と決める。削り出しなら JIS H 4040 の棒から削る前提で見積を取る[1]。
A5083 は 5052 より強いので、置き換えてよいですか
強さは上がるが、曲げの内側半径が大きくなり[2]、寸法の許容差の合金グループも変わる[1]。65 ℃以上で使う部品では、マグネシウム 3% 以下の合金に制限されるという解説もある[5]。曲げ・公差・使用温度の三つを確かめてから決める。
A5056 の H34 の成績書に耐力が書かれていません
JIS H 4040 の引抜棒の A5056 の H34 には耐力の規定がない[1]。耐力が要るなら、値を決めて注文時に試験と記載を求める。
まとめ
A5056 と A5083 はマグネシウムの多い 5000 系で、5056 は削り物・ファスナー・陽極酸化の部品、5083 は板・形材の構造物が規格の描く使い分けである。A5056 には板の JIS がなく、棒・線と管で買う。A5056 の硬い質別は引張強さの下限だけで耐力の規定がない。A5083P の耐力は常に適用され、曲げは要求したときだけで、内側半径は 5052 より大きい。マグネシウムが 3% を超えるので、65 ℃以上で使う部品では合金の選び方に制限があると解説されている。寸法の許容差は合金グループ 2 の表になり、5052 から替えると広がる。形・質別・耐力の要否・使用温度を注文書に書く。
同じ束では、炭素鋼鋳鋼品 SC450、銅ブスバー、エキスパンドメタル、織金網の発注も扱う。アルミの合金番号と質別の基本はアルミは合金番号と質別で指定するにある。
出典・参考資料
- JIS H 4040:2023 アルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 12 月 20 日改正)
- JIS H 4000:2022 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 4 月 20 日改正)
- JIS H 4100:2022 アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 12 月 20 日改正)
- JIS H 4080:2023 アルミニウム及びアルミニウム合金継目無管(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2023 年 12 月 20 日改正)
- 内田彰「アルミニウム合金溶接技術・概説」溶接学会誌 53 巻 3 号(溶接学会/1984 年 4 月)
- JIS H 0321:1973 非鉄金属材料の検査通則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1973 年 3 月 1 日改正・2024 年 10 月 21 日確認)
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