- お役立ち記事
- ADC12(JIS H 5302)の発注——成分の幅、ADC12Z との違い、熱処理・溶接・アルマイトの制約
ADC12(JIS H 5302)の発注——成分の幅、ADC12Z との違い、熱処理・溶接・アルマイトの制約

この記事のポイント(結論先出し)
ADC12 は JIS H 5302(アルミニウム合金ダイカスト)の Al-Si-Cu 系の種類で、規格が決めているのは化学成分の幅(銅 1.5〜3.5%、けい素 9.6〜12.0%、亜鉛 1.0% 以下、鉄 1.3% 以下など)である[1]。亜鉛の上限だけが 3.0% の ADC12Zは別の種類で、規格は耐鋳造割れと耐食性が ADC12 より劣るとしている[1]。ISO 系の Al Si11Cu3(Fe) は銅とけい素の幅が同じだが、亜鉛や鉛などの上限が違う[1]。ダイカストは高圧高速の充填で空気を巻き込むため、熱処理ができないとされてきた[3]。T6 処理・溶接・陽極酸化(アルマイト)を予定しているなら、記号だけで発注せず、製法と処理の条件を見積の前に仕入先と決める。
目次
ADC12 という記号で決まること
アルミニウム合金ダイカストの JIS H 5302 は、2006 年 7 月 20 日に改正され、2021 年 10 月 20 日に確認されている[1]。規格の表 1 は、ADC1・ADC3・ADC5・ADC6・ADC10・ADC10Z・ADC12・ADC12Z・ADC14 の JIS 独自の種類と、Al Si9 や Al Si11Cu3(Fe) など ISO の合金を基にした種類を並べ、参考として合金系と特色を書いている[1]。ADC12 は Al-Si-Cu 系で、特色は「機械的性質,被削性,鋳造性がよい」である[1]。
規格が数値で決めているのは化学成分で、機械的性質は協定である[1]。強度の確かめ方、鋳巣の許容、含浸といった発注の論点はダイカストを発注するとき決めることで扱ったので、この記事では ADC12 という材料の選び方と、記号だけでは伝わらない加工・処理の制約に絞る。
📄 実務で使うなら — 原価のつかみ方(全 5 章・無料サンプルあり)
成分の幅:ADC12・ADC12Z・Al Si11Cu3(Fe)
ADC12 と、取り違えやすい種類の化学成分を並べると次のとおりである(単位は質量 %)。
| 元素 | ADC12 | ADC12Z | Al Si11Cu3(Fe) | ADC10 |
|---|---|---|---|---|
| 銅 Cu | 1.5〜3.5 | 1.5〜3.5 | 1.5〜3.5 | 2.0〜4.0 |
| けい素 Si | 9.6〜12.0 | 9.6〜12.0 | 9.6〜12.0 | 7.5〜9.5 |
| 亜鉛 Zn | 1.0 以下 | 3.0 以下 | 1.7 以下 | 1.0 以下 |
| 鉄 Fe | 1.3 以下 | 1.3 以下 | 1.3 以下 | 1.3 以下 |
| マグネシウム Mg | 0.3 以下 | 0.3 以下 | 0.35 以下 | 0.3 以下 |
| マンガン Mn | 0.5 以下 | 0.5 以下 | 0.60 以下 | 0.5 以下 |
| ニッケル Ni | 0.5 以下 | 0.5 以下 | 0.45 以下 | 0.5 以下 |
| すず Sn/鉛 Pb | 0.2 以下/0.2 以下 | 0.2 以下/0.2 以下 | 0.25 以下/0.25 以下 | 0.2 以下/0.2 以下 |
| 表 1 の特色(参考) | 機械的性質、被削性、鋳造性がよい | ADC12 より耐鋳造割れ及び耐食性が劣る | 機械的性質、被削性、鋳造性がよい | 機械的性質、被削性、鋳造性がよい |
値は JIS H 5302 の表 1 と表 2 による[1]。表 2 に規定していない化学成分は受渡当事者間の協定によるとされている[1]。
表から読み取れることは三つある。一つ目に、ADC12 と ADC12Z の違いは亜鉛の上限だけで、規格の特色欄は ADC12Z を耐鋳造割れと耐食性で劣るとしている[1]。図面が ADC12 なのに「ADC12Z でも同じ」と読み替えられないよう、記号は末尾まで書く。
二つ目に、ISO の合金を基にした Al Si11Cu3(Fe) は、銅とけい素の幅が ADC12 と同じで、特色欄の文言も同じだが、亜鉛・マグネシウム・マンガン・すず・鉛の上限が違う[1]。たとえば亜鉛 1.5% の溶湯は Al Si11Cu3(Fe) には入るが ADC12 には入らない。海外の仕入先から「ISO の同等材で作る」と言われたら、同じ規格の中でも別の種類であることを前提に、承認の手順を踏む。手順は同等材の指定と承認で扱った。
三つ目に、幅そのものが広い。銅は 1.5〜3.5% と 2 ポイントの幅がある。同じ ADC12 でも、仕入先や溶解のロットによって成分は規格の範囲の中で動く。成分が性質に効く用途なら、範囲を狭めた社内規格を協定するか、ロットごとの分析値を見て管理することになる。
地金と、成績書の出方
JIS H 5302 は、材料は JIS H 2118(ダイカスト用アルミニウム合金地金)によるとし、協定によって JIS H 2211 の鋳物用アルミニウム合金地金も使える、としている[1]。H 2118 では、ADC12 に対応する地金として、普通純度の AD 12.1 と高純度の AD 12.2 の二つの区分がある[2]。鉄の範囲は AD 12.1 が 0.6〜1.0%、AD 12.2 が 0.6% 以下と、製品の ADC12(1.3% 以下)より絞られている[2]。
成績書の出方は、地金とダイカストで違う。H 2118 は、製造業者は注文者に分析試験の結果を提出しなければならない、としている[2]。一方、H 5302 は、製造業者は注文者の要求がある場合に化学分析試験の試験成績書を提出する、としている[1]。地金の段階では分析結果が出ていても、ダイカストの仕入先から受け取るには求める必要がある。発注書に「溶解ロットごとの化学分析成績書を提出」などと書き、地金の区分(AD 12.1 か AD 12.2 か)を問うかどうかも決めておく。
表示も規定がある。ダイカストまたはそのこん包容器には、貼付ラベルなどの適切な方法で、規格番号と種類またはその記号、製造番号、製造業者名またはその略号を表示する[1]。受入では、製造番号と成績書の番号が対応しているかを見る。
熱処理ができない、とされてきた理由
強度を上げるために、ADC12 の部品に熱処理を追加したいという要求が出ることがある。日本鋳造工学会誌でダイカスト技術の歩みを解説した菊池は、高圧高速充填という製法から、ダイカストには空気の巻込みによる鋳巣が内在するため熱処理ができず、機械的強度に対する信頼性に欠けるものとされていた、と書いている[3]。同じ解説は、高速充填ダイカスト法で熱処理・溶接ができる方式として、1968 年に PF ダイカスト法が開発されたことを挙げている[3]。
熱処理で何が起きるかは、ADC12 の製品を調べた研究に記録がある。半谷らは、ADC12 のダイカスト製品から作った試験片で、520 ℃・2 時間のブリスター試験を行ったところ試験片全体に小さなふくれが発生し、切断して見た鋳巣は円形で、主にガス欠陥と考えられると報告している[4]。内部に閉じ込められたガスが、高温で膨らんで表面を押し上げる、ということである。ダイカストの鋳造欠陥の対策を整理した植原も、欠陥の一つとして「ふくれ」を挙げている[5]。
購買の立場で言えば、ADC12 の通常のダイカストに、後から溶体化処理や時効を足すことは前提にできない。熱処理や溶接が要る設計なら、それができる製法かどうかを見積依頼の段階で仕入先に問い、試作で確かめる。製法を変えると金型や設備が変わるので、量産が始まってからでは遅い。
🛠 見積依頼なら — 取引先はアカウント登録なしで、届いたメールのリンクから回答できる Newji one(製造業の見積・発注クラウド/サービス資料は無料)
溶接も、菊池の解説では熱処理と並べて「できる方式」の話として扱われており[3]、通常のダイカストで当然にできる加工とは書かれていない。補修の手段としての溶接も、規格の品質の項では原則として禁じられており、欠陥が小さく注文者が差し支えないと認めた場合だけの例外になっている[1]。
陽極酸化(アルマイト)とめっき
ADC12 の部品にアルマイトをかけたい、という要求もある。菊池の解説は、陽極酸化についても、難しいといわれている ADC12 の陽極酸化の研究が 80 年代に行われ、現在では実用化されている、と書いている[3]。めっきについては、アルミニウムダイカストの工業化が 90 年代になされたとしている[3]。どちらも「できない」ではないが、展伸材と同じ条件・同じ外観で仕上がる前提にはしない方がよい。
発注では、表面処理の種類、色と外観の基準、膜厚、そしてダイカストの含浸を処理の前に行うかどうかを、ダイカストの仕入先と表面処理の仕入先の両方に伝える。めっきの指定の書き方はめっきの発注で指定すること、展伸材のアルミの合金と質別はアルミの合金番号と質別記号の指定で扱った。
ADC12 以外を選ぶとき
ADC12 は鋳造性と被削性に優れた汎用の種類だが、用途によっては別の種類が候補になる。規格の特色欄は、ADC5 を「耐食性が最もよく,伸び,衝撃値が高いが,鋳造性が悪い」、ADC6 を「耐食性は ADC5 に次いでよく,鋳造性は ADC5 より若干よい」、ADC3 を「衝撃値及び耐力が高く,耐食性も ADC1 とほぼ同等」としている[1]。ADC14 は「耐摩耗性がよく,湯流れ性がよく,耐力が高く,伸びが劣る」である[1]。
これらは参考の記述で、数値の保証ではない。屋外や水回りで使う、衝撃を受ける、摺動する、といった使い方がある部品なら、設計と仕入先の三者で種類を選び直すかどうかを話す。
鋳鉄の部品をダイカストに置き換えるとき
FC250 や FCD の部品を、軽くするためにアルミニウム合金のダイカストに替える検討では、鋳鉄の規格で決まっていたことが ADC12 では決まらない、という点から確かめる。鋳鉄側で何が決まっていたかはFC250(JIS G 5501)の発注とFCD 450-10(JIS G 5502)の発注で整理した。
1. 強さは記号で約束されない
FC250 は別鋳込み供試材の引張強さ、FCD は鋳造試験片の引張強さと伸びが規格の値だったが、JIS H 5302 は機械的性質も機械試験も受渡当事者間の協定にしている[1]。置き換えるなら、必要な強さを、どの部位の試験片で、どの頻度で確かめるかを新たに決める。
2. 熱処理と溶接を前提にできない
鋳鉄の部品で応力除去焼なましや補修溶接をしていた工程は、そのまま持ち込めない。ダイカストは空気の巻込みによる鋳巣が内在するため熱処理ができないとされてきた[3]。補修の溶接は、注文者が認めた場合の例外である[1]。
3. 鋳巣と気密は金型の設計で決まる
植原は、湯口・湯溜・ガス抜きの概要を決める鋳造方案の基本設計によって発生する欠陥の種類と位置の大要が決まり、金型の分割面の設計によってはガス抜きが難しくなって気密不良が著しく発生する、と書いている[5]。鋳鉄で気密を見ていた部品なら、その要求を金型を作る前に伝える。
4. 形状は作り直す前提で
同じ解説は、製品設計の不適当による欠陥の対策として金型の抜勾配を十分にとることを挙げ、充填の条件(湯口速度)を肉厚ごとに示した表を引いている[5]。砂型鋳物の部品図の肉厚・抜勾配・型の分割をそのまま流用せず、ダイカストの仕入先と形状を詰め直す。寸法許容差は指定がなければ JIS B 0403 が適用される[1]。
発注書に書くこと
1. 規格と種類の記号
「JIS H 5302 ADC12」と書く。ADC12Z や Al Si11Cu3(Fe) を認めるかどうかも書く[1]。
2. 成分の管理
規格の範囲で足りるか、範囲を狭めるか。表 2 にない元素を管理するなら協定する[1]。
3. 地金と成績書
地金の規格(H 2118 か、協定で H 2211 か)と区分。化学分析の成績書を求める、と書く[1][2]。
4. 熱処理・溶接の有無
予定しているなら、それができる製法かを見積の段階で確かめ、試作で検証する[3][4]。補修溶接は注文者が認めたときに限られる[1]。
5. 表面処理
陽極酸化やめっきの種類、外観と膜厚、含浸との順番。
6. 機械的性質・鋳巣・寸法
機械的性質は協定、寸法許容差は指定がなければ JIS B 0403[1]。具体的な書き方はダイカストを発注するとき決めることを参照。
よくある質問
ADC12 の引張強さの値を図面に書いてもよいですか
書くことはできるが、規格は機械的性質を協定にしている[1]。その値をどの部位から採った試験片で、どの頻度で確かめるかまで決めないと、受入の合否に使えない。
ADC12 の部品を T6 処理したいと言われました
ダイカストは鋳巣が内在するため熱処理ができないとされてきた経緯があり、熱処理・溶接ができる方式として別の製法が開発されている[3]。ADC12 の製品を 520 ℃ で加熱した試験では全体に小さなふくれが出ている[4]。処理を前提にするなら、製法を含めて仕入先と決め、試作で外観と寸法を確かめる。
仕入先から「ADC12 の代わりに ADC12Z で」と提案されました
亜鉛の上限が 1.0% から 3.0% に上がる別の種類で、規格は耐鋳造割れと耐食性が ADC12 より劣るとしている[1]。使用環境と、割れの出やすい形状かどうかを設計に確かめ、認めるなら文書で承認する。
まとめ
ADC12 が規格で決めているのは化学成分の幅で、機械的性質と機械試験は協定である。ADC12Z は亜鉛の上限だけが違う別の種類で、ISO 系の Al Si11Cu3(Fe) も銅とけい素の幅は同じだが他の元素の上限が違う。化学分析の成績書は、地金では提出が決まっているが、ダイカストでは求めないと出てこない。ダイカストは空気の巻込みによる鋳巣のため熱処理ができないとされてきたので、T6 処理・溶接・陽極酸化を予定するなら、製法と処理の条件を見積の前に決め、試作で確かめる。鋳鉄の部品から置き換えるなら、強さの確かめ方・熱処理と溶接の工程・気密の要求・形状を、ダイカストの前提で決め直す。
出典・参考資料
- JIS H 5302:2006 アルミニウム合金ダイカスト(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 7 月 20 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 2118:2006 ダイカスト用アルミニウム合金地金(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 7 月 20 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
- 菊池政男「20 世紀における我が国の鋳造技術の進展 VI. ダイカスト技術の進展」鋳造工学 Vol.72, No.12(日本鋳造工学会/2000 年)
- 半谷禎彦ほか「ADC12 アルミニウム合金ダイカスト製品中の鋳巣量及び形状に及ぼす圧縮処理の影響」鋳造工学 Vol.78, No.11(日本鋳造工学会/2006 年)
- 植原寅藏「ダイカスト品の鋳造欠陥対策」鋳物 Vol.61, No.12(日本鋳造工学会/1989 年)
ダイカスト筐体の生産先選びと、後加工・表面処理の段取りを相談する
newji の OEM/ODM 生産では、金属・樹脂・ダイカストの筐体の調達・製作を対応範囲に含み、品質要求・数量・納期・コストをもとに国内外のサプライヤーネットワークから案件ごとに生産先を選定します。試作品で寸法・外観・機能を検証して量産に向けた課題を洗い出し、量産開始後は工程内検査・出荷前検査の体制を構築します。金属加工の切削・研削・旋削や、アルマイト・めっきなどの表面処理もご相談いただけます。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
FREE DOCUMENT — サービス資料(PDF・無料)
見積依頼から比較まで、
ひとつの画面にまとめる方法
Newji one は、製造業の調達・受発注に特化したクラウド/AIエージェント。見積依頼・発注書作成・進捗管理・承認をひとつの画面に集約し、AIが比較と異常検知を担当。最後の「GO」だけ人が押す仕組みです。
▶ 見積依頼から比較までをひとつの画面にまとめる方法を、資料で見る(PDF・無料)
- 見積〜発注〜納期を一元管理。催促・転記のムダをゼロに
- AIが相見積もり比較と異常検知。あなたは判断だけに集中
- 取引先は「招待」で完全無料。自社コストだけで取引先ごとデジタル化
※ 取引先から招待された企業様は完全無料でご利用いただけます
見積・発注クラウド Newji one
受発注が増えるほど、入力・確認・催促が重くなる。
受発注管理を“仕組み化“して、ミスと工数を削減しませんか。
見積・発注・納期まで一元管理できます。
