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投稿日:2026年10月1日

排出量取引制度(GX-ETS)が始まった——素材の仕入先と値上げ協議で確かめること

この記事のポイント(結論先出し)

2026 年 10 月時点の整理である。GX 推進法に基づく排出量取引制度は 2026 年度に始まり、CO2 の直接排出量が前年度までの 3 年度平均で 10 万トン以上の事業者が対象になる[1]。経済産業省の説明資料は、対象を国内で 300〜400 社程度と見込み、業種別の割当て基準には鉄鋼・アルミニウム・化学・紙・ガラス・セメント・ゴム製品・自動車などが並ぶ[2]。対象かどうかは各事業者が自分で判定する[1]。発注側の論点は三つある。①素材の仕入先が対象かを確かめる、②制度を理由にした値上げの申し入れを、費用の種類と発生時期に分けて協議する、③自社が対象外でも、顧客から排出量のデータを求められる流れには別に備える。

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制度を執行する GX 推進機構のポータルサイトは、排出量取引制度の対象を CO2 の直接排出量が前年度までの 3 年度平均で 10 万トン以上の事業者とし、毎年度、届出を基に政府が排出枠を割り当て、対象者には排出実績量と同じ量の排出枠を保有することが求められると説明している[1]。排出枠に過不足があれば、排出枠取引市場などで取引できる[1]。

2026 年 4 月の事業者向け説明会で経済産業省が示した資料によれば、割当ては業種別のベンチマーク(目指すべき原単位の水準に基準活動量を掛ける方式)か、グランドファザリング(過去の排出量に削減率を掛ける方式)で計算する[2]。ベンチマークが用意された業種として、洋紙・板紙・ソーダ・カーボンブラック・有機化学工業品・石油精製・ゴム製品・板ガラス・ガラスびん・セメント・石灰・高炉・電炉普通鋼・電炉特殊鋼・アルミニウム・自動車・発電・貨物自動車運送・内航海運・航空運送が挙げられている[2]。部品や材料を買う側から見ると、仕入先の上流にある素材メーカーの多くがこの一覧に入る。

価格には上限と下限がある

同じ資料は、取引価格の過度な高騰や下落を避けるために排出枠の上下限価格を設けると説明している[2]。価格が高騰して義務の履行に支障が出る場合、排出枠が足りない事業者は上限価格を支払うことで不足分の保有義務を果たしたとみなされる[2]。期限までに枠を保有しなかった分には、上限価格の 1.1 倍の負担金がかかる[2]。上限と下限の具体的な額は告示で定められており、ポータルサイトの関係法令の一覧に告示が掲げられている[1]。

発注側にとっての意味は、仕入先が負う排出枠の費用に、制度上の天井があることである。ただし、仕入先がどれだけ不足するか、いくらで枠を調達するかは個社の削減の進み具合で変わる。発注側がこの仕組みから仕入先の原価への影響を自分で推計し、その数字を交渉の前提にするのは避けたほうがよい。

対象かどうかは、各社が毎年度判定する

ポータルサイトは、2026 年度にすべての事業者がすることとして「自らが制度対象となるか否かを判定」することを挙げている[1]。2026 年度の判定に使う年度平均排出量は、2023 年度から 2025 年度の CO2 直接排出量の平均で、カーボン・クレジットによる相殺は反映しない[2]。密接な関係にある会社と共同で届け出る場合でも、対象かどうかは各社単独の年度平均排出量で判定する[2]。したがって、仕入先から「うちは対象です」「対象ではありません」と聞いたとき、その答えは仕入先自身の判定であり、グループ会社の判定とは別であることを前提に受け取る。

算定の対象は CO2 の直接排出である。説明資料は、省エネ法・温対法の報告と比べて、排出量取引制度の算定対象を「CO2 直接排出」と整理している[2]。電気を大量に使う工程を持つ仕入先でも、自家発電などの燃焼が少なければ対象にならない場合がある。電力の値上がりを価格にどう映すかは、この制度とは別の論点として 電気料金の変動を仕入先の価格にどう反映させるか で扱う。

初年度だけ日程が特別になっている

2026 年度に対象となる事業者は、4 月 1 日から CO2 の直接排出量等を算定し、9 月 30 日までに対象である旨の届出と移行計画の提出を行う[1]。本来は対象年度のうちに排出枠割当ての基礎となる排出目標量などを届け出るが、2026 年度に限ってはこの届出が 2027 年度に回り、2027 年 9 月末に 2026・2027 年度の 2 年度分をまとめて届け出て、11 月末に 2 年度分の排出枠が割り当てられる[2]。排出枠は、毎年度の排出実績と同じ量を翌年度の 1 月 31 日に保有することが義務づけられている[2]。

時期 対象事業者がすること・国がすること 登録確認機関の確認
2026 年 4 月〜2027 年 3 月 2026 年度の CO2 直接排出量の算定 —
2026 年 9 月 30 日まで 制度対象である旨の届出(年度平均排出量など)、移行計画の提出 不要
2027 年 9 月末 2026・2027 年度分の排出目標量等の届出、2026 年度の排出実績の報告 必要
2027 年 11 月末 国が 2026・2027 年度分の排出枠を無償で割り当てる —
翌年度の 1 月 31 日 排出実績と同量の排出枠を保有。不足分は上限価格の 1.1 倍の負担金 —

表は GX 推進機構のポータルサイトと、経済産業省の説明会資料の日程から作った[1][2]。2026 年 10 月時点では、対象企業は届出と移行計画の提出を終えた段階で、排出枠の割当ても保有もまだ始まっていない。制度に伴う費用がいつ、どの形で発生するかは、この日程から読む。

発注側が確かめること——仕入先は対象か

購買の立場で最初にやるのは、仕入先のうちどこが制度の対象になりうるかの見当をつけることである。対象は事業者ごとの直接排出量で決まるため業種だけでは決まらないが、ベンチマークの業種一覧[2]は見当をつける手がかりになる。

確かめる手段は三つある。一つ目は移行計画である。説明資料によれば、移行計画のうち、前年度の CO2 排出量、2030 年度の排出量の目標、研究開発の内容、その他の取組(中期経営計画やサステナビリティレポートなど公表文書の URL を含む)は公表の対象で、投資計画の内容は個別には公表しない[2]。公表が始まれば、仕入先が対象かどうかと 2030 年度までの目標を、本人に聞かずに確かめられる。

二つ目は、温対法の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK 制度)である。こちらは排出量取引制度とは別の制度で、全事業所のエネルギー使用量の合計が原油換算で年 1,500 キロリットル以上の事業者などに、排出量の算定と国への報告を義務づけている[3]。エネルギー起源の CO2 には、燃料の使用だけでなく他人から供給された電気・熱の使用に伴う排出も含まれ、国は報告された情報を集計して公表する[3]。

三つ目は、仕入先に直接聞くことである。聞くときは「対象かどうか」だけでなく、判定の根拠にした 3 年度の直接排出量の水準、移行計画で掲げた目標、排出枠が不足したときの方針(削減か、枠の購入か)まで聞いておくと、後の値上げ交渉で話がかみ合う。部品単位の排出量データを求める場合の頼み方は 仕入先に CO2 排出量(CFP・Scope3)のデータを頼むとき にまとめた。

項目 排出量取引制度(GX 推進法) 算定・報告・公表制度(温対法)
対象になる事業者 CO2 の直接排出量の 3 年度平均が 10 万トン以上 エネルギー使用量の合計が原油換算 1,500 キロリットル以上の事業者など
算定の対象 CO2 の直接排出。他者に供給する電気・熱に係る排出を含む。小規模排出源の裾切りなし 温室効果ガス 7 種類。他者に供給する電気・熱に係る排出を除く
クレジットの使用 排出量の 10% が上限 上限なし
義務の中身 届出・移行計画・排出実績の報告・排出枠の保有 排出量の算定と報告
発注側が見られる情報 移行計画のうち公表対象の項目 国が集計・公表する排出量

表は、経済産業省の説明会資料にある「省エネ法・温対法との主な違い」の比較[2]と、環境省の制度概要[3]から作った。二つの制度は対象の線も数え方も違うので、仕入先の答えがどちらの制度の話なのかを取り違えないようにする。

制度を理由にした値上げの申し入れをどう受けるか

素材の仕入先から、排出量取引制度への対応費用を価格に反映したいという申し入れが来ることは想定しておくべきである。受けるときは、何の費用が、いつから、どの程度発生するのかを分けて聞く。

制度の費用には性質の違うものが混ざっている。算定や登録確認機関の確認にかかる事務の費用は、2026 年度から発生している。排出枠が不足したときの購入費用や負担金は、割当てと保有の日程から見ると、2026 年度分では 2027 年 11 月の割当て以降に具体化する[2]。削減のための設備投資は、移行計画に書く投資計画と結びつく[2]。申し入れの根拠がどれに当たるのかを確かめないまま一律に受けると、まだ発生していない費用を先に払うことになりうるし、逆に一律に断ると、必要な費用の転嫁まで止めてしまう。

断る側の注意も要る。取適法の対象取引で、仕入先が環境対策に関する法規制などに対応するためのコストが増えたとして代金への反映を求めたのに、十分な協議をせず一方的に代金を据え置いた事例は、公正取引委員会と中小企業庁のテキストで買いたたきの違反事例として挙げられている[5]。2026 年 1 月に施行された取適法では、仕入先から価格の協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることも禁止行為に加わった(第 5 条第 2 項第 4 号)[5]。協議の進め方は 仕入先から値上げの申し入れが来たら と 買いたたきと価格転嫁の協議応諾義務 で詳しく扱っている。

申し入れを受けたときに聞く項目

1. 制度の対象かどうかと、その根拠。
3 年度平均の直接排出量の水準と、判定した年度を聞く。対象外なのに制度を理由にしている場合は、実際には電気料金や燃料費の話であることが多い。

2. 費用の種類。
事務の費用、排出枠の購入や負担金、削減のための投資のどれかを分けてもらう。

3. 発生する時期。
制度の日程と照らして、どの年度の費用なのかを確かめる。

4. 自社への配分の考え方。
工場全体の費用を、自社が買っている品目にどう割り振ったのかを聞く。

5. 今後の見直しの条件。
割当ての結果や枠の調達価格が分かった時点で、再協議する条件を決めておく。

これらは購買側の実務の提案で、制度が仕入先に説明を義務づけているものではない。ただし、根拠を聞かずに受ける・断るのどちらも後で説明がつかなくなるので、協議の記録として残しておく価値は高い。

契約に何を書いておくか

長期の購入契約や単価契約を結んでいる素材については、制度に伴う費用をどう扱うかを、値上げの申し入れが来る前に決めておくほうが揉めにくい。たとえば、原材料価格の変動と同じように、制度に起因する費用の変動を再協議の事由として明記しておく、算定の根拠資料として何を出してもらうかを決めておく、といった書き方が考えられる。価格の決め方そのものは市況の記事、たとえば 鋼材価格の改定と、購入契約で決めておくこと で扱う。

ここで注意したいのは、制度の費用を「全額仕入先の負担」と一方的に書くことである。協議を経ずにそうした条件を押しつければ、前述の買いたたきの議論と同じ問題が起きうる[5]。契約に書くのは、費用の負担割合そのものではなく、協議の入口と根拠資料の出し方にとどめるのが無難である。

自社が対象外でも、データは求められる

製造業の多くは直接排出量が 10 万トンに届かず、排出量取引制度の対象にはならない。それでも、取引先の排出量を集める動きは別に進んでいる。環境省の 1 次データ活用ガイドは、自社の Scope3 を算定する企業が、業界平均値ではなく仕入先から直接受け取った排出量データを使うことで、仕入先の削減努力を自社の算定に反映できると説明している[4]。その一つの形が、仕入先の組織全体の Scope1・2・3 の排出量を、売上金額などで自社への納入分に配分する方法である[4]。

つまり、自社の燃料と電気の使用量から出した排出量は、顧客から見れば「仕入先の 1 次データ」になる。上場している顧客がサステナビリティ開示のために取引先の数字を集める動きは サステナビリティ開示基準(SSBJ)と、サプライチェーンのデータ、EU 向けの輸出品で製品ごとの排出量を求められる動きは EU の炭素国境調整措置(CBAM)の本格適用と、輸出・調達の実務 で扱う。

自社が SHK 制度の対象であれば、すでに燃料と電気の使用量から排出量を算定している[3]。対象でなくても、燃料と電気の使用量を月単位で記録しておくことが、どの求めにも応える土台になる。

よくある質問

Q. 仕入先が「対象外」と言うなら、制度の影響は無いと考えてよいか。
その仕入先自身の義務は無いが、仕入先が使う鋼材や樹脂原料のメーカーが対象であれば、その費用が上流から価格に乗ってくる可能性はある。影響の有無を一段階だけで判断しない。

Q. 排出量取引制度の対象かどうかを、国の一覧で確かめられるか。
対象かどうかは各事業者が自分で判定する仕組みである[1]。移行計画の公表対象の項目[2]が公表されれば、それが実質的な確認手段になる。

Q. 電気料金の上昇も制度の費用として申し入れられたが、どう扱うか。
排出量取引制度の算定対象は CO2 の直接排出である[2]。購入した電気の料金の変動は、料金明細や燃料費調整額などの別の根拠で協議する。

まとめ

排出量取引制度は 2026 年度に始まり、CO2 の直接排出量の 3 年度平均が 10 万トン以上の事業者が、自分で判定して届出と移行計画の提出を行う[1]。排出枠には上下限価格があり、不足分の負担金は上限価格の 1.1 倍である[2]。2026 年度分の排出枠の割当ては 2027 年 11 月末で、保有の期限はその後に来る[2]。発注側は、素材の仕入先が対象かどうかを移行計画や SHK 制度の公表で確かめ、制度を理由にした値上げの申し入れは費用の種類と時期に分けて協議する。受けるにしても断るにしても、協議を経ずに一方的に決めないことが、取適法のうえでも記録のうえでも身を守る[5]。

出典・参考資料

  1. 排出量取引制度について(排出量取引制度ポータルサイト)(GX 推進機構/2026 年 10 月 1 日閲覧)
  2. 2026年度 GX推進法に基づく排出量取引制度に関する説明会(経済産業省 GX グループ/2026 年 4 月)
  3. 制度概要(温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度)(環境省/2026 年 10 月 1 日閲覧)
  4. 1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド(Ver1.0)(環境省/2025 年 3 月)
  5. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

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