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投稿日:2026年10月1日

米国の関税措置と、購入契約・価格の取り決め

この記事のポイント(結論先出し)

2026 年 10 月時点で確かめた範囲では、米国の追加関税は 1 年のうちに三つの根拠法を渡り、根拠が 2 回切り替わった。2 月 20 日に連邦最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を違法と判断し、2 月 24 日から 7 月 24 日までは通商法 122 条の 10% が、7 月 24 日からは通商法 301 条の関税が課されている[1]。日本の産品は、一般関税率が 12.5% 未満なら一般関税率と 301 条関税の合計が 12.5% になる[2]。発注側が契約で決めておくことは、誰が輸入者として関税を払うか、税率が変わったときに価格をどう動かすか、そして払い過ぎた関税が戻ったときに誰に帰属するかの三つである。還付を受けられるのは記録上の輸入者(IOR)であって、価格に関税を含めて払った買い手ではない[8]。

この 1 年で、根拠法が三つ入れ替わった

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米国向けの取引で関税の話がこじれる原因の多くは、税率そのものより「いつの、どの措置の話をしているのか」が当事者の間でそろっていないことにある。2025 年から 2026 年にかけての流れを、時点を区切って整理しておく。

まず、2025 年に発動された相互関税などは IEEPA を根拠にしていた。日本は 2025 年 7 月に、一般関税率と相互関税率の合計を原則 15% とすることで米国と合意していた[1]。ところが 2026 年 2 月 20 日、連邦最高裁は IEEPA に基づいて大統領が関税を課すことはできないと判断し、発動中の IEEPA 関税は 2 月 24 日に適用が止まった[8]。

同じ 2 月 20 日付で、大統領は通商法 122 条に基づく布告に署名している。122 条は、国際収支の問題に対処するため、議会の延長がない限り 150 日以内、最大 15% の一時的な輸入課徴金を認める規定で、布告は 2026 年 2 月 24 日午前 0 時 1 分から 7 月 24 日午前 0 時 1 分までの間、10% の課徴金を課すとした[3]。ジェトロの解説によれば、IEEPA の相互関税には一般関税率と合わせて 15% にとどめる「ノー・スタッキング」の仕組みがあったが、122 条の関税は一般関税率に単純に上乗せされる形だった[8]。

そして 7 月 23 日、米国通商代表部(USTR)は、強制労働で作られた産品の輸入を禁止していない、または効果的に禁止していないことを理由に、日本を含む 60 か国・地域に通商法 301 条の追加関税を課すと決めた[1]。適用は東部時間 7 月 24 日午前 0 時 1 分以降に輸入される貨物からで、それより前に船積みされ 7 月 28 日午前 0 時 1 分までに通関した貨物は対象外とされた[2]。122 条の期限と同じ時刻に切り替わったため、米国への輸入には切れ目なく追加関税がかかっている[1]。

措置(根拠法) 期間 日本の産品にかかる水準 還付
相互関税など(IEEPA) 2025 年〜2026 年 2 月 23 日 一般関税率と合わせて原則 15% 対象(輸入者が請求)
一時的な輸入課徴金(122 条) 2026 年 2 月 24 日〜7 月 24 日 一般関税率に 10% を上乗せ 対象外
強制労働を巡る措置(301 条) 2026 年 7 月 24 日〜 一般関税率が 12.5% 未満なら合計 12.5%、12.5% 以上なら追加なし —
分野別の措置(232 条) 別途継続 品目ごとに別の税率。301 条関税の対象外 対象外

表の 301 条の行は日本の場合で、国・地域によって 10% または 12.5% と扱いが違う。中国やベトナム、タイなどは、原則としてすべての輸入品に 12.5% が課される側に入っている[1]。また、232 条の追加関税がかかっている品目や、米国内で手に入らなくなるおそれのある原材料などは 301 条関税の対象から外され、具体的な品目は官報の付属書に載っている[1]。どの措置がどの品目にかかるかは、ジェトロが日米両政府の発表をもとにまとめた一覧(2026 年 8 月 26 日時点)などで、品目の関税分類番号を当てて確かめる[6]。

最初に決めるのは「誰が輸入者か」

関税を払う義務は、米国で輸入申告をする記録上の輸入者(Importer of Record、IOR)にある。取引条件をどう書くかで、これが自社なのか、相手なのか、自社の米国子会社なのかが決まる。インコタームズの各条件で費用と危険がどこで移るかは、英文の発注書の記事で整理したとおりで(英文の見積依頼・発注書の書き方)、関税の観点から押さえるべき点は次の二つである。

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一つは、関税込みの条件で買うと、関税の変動は価格の中に埋もれることである。売り手が輸入者を引き受ける条件で取引していると、買い手の手元に来る請求書には関税が別建てで出てこないことが多い。税率が下がっても上がっても、価格改定の交渉をしない限り請求額は動かない。

もう一つは、還付を受けられるのは輸入者だけだという点である。ジェトロの解説によれば、IEEPA 関税の還付先は記録上の輸入者か、輸入概要書に記載された通知先(notify party)で、還付の申請ができるのは在米の輸入者か、輸入者に代わって輸入概要書を出した通関業者に限られる。日本の会社が還付を求めるときは、在米の取引先に相談する必要がある[8]。価格に関税を含めて払った買い手が、自分で米国税関・国境警備局(CBP)に請求することはできない。

払い過ぎた関税は、誰のものになるか

IEEPA 関税の還付は、CBP が 2026 年 4 月 20 日(米国時間)に運用を始めた電子の手続(CAPE)で進んでいる[8]。ジェトロによれば、9 月 11 日時点で還付が承認された額は約 1,347 億ドルに達し、最終清算済みの輸入申告を対象にした「フェーズ 3」の受付は 10 月 6 日から始まる。ただし、現時点でフェーズ 3 を申請できるのは、還付を求める訴訟を起こして国際貿易裁判所の命令を得た輸入者に限られる[4]。

ここで契約上の問題が出る。たとえば、自社が米国の顧客に「関税分を上乗せした価格」で納めていた場合、還付は輸入者である自社または米国子会社に入る。顧客から「上乗せした分を返してほしい」と言われたとき、契約に何も書いていなければ、返すかどうかは交渉次第になる。逆に、自社が関税込みの条件で仕入れていた部材について、仕入先が還付を受けても、自社に戻る保証はない。

いまから結ぶ契約では、次のどちらかを書いておく。

  1. 関税は別建てで請求し、還付は実額で精算する。請求書に関税額を分けて書き、還付を受けたら輸入申告番号ごとに相手へ戻す(または相手から戻してもらう)。精算の期限と、利息の扱いも決める
  2. 関税込みの固定価格とし、還付は輸入者に帰属させる。その代わり、税率が一定以上動いたときの価格見直しの条件を別に置く

どちらを選ぶにしても、輸入申告の記録と突き合わせられるようにしておくことが前提になる。CBP の報告では、二つの段階でつまずきが出ている[4]。申請のアップロードがエラーになった理由は、記録上の輸入者と申請者の不一致、輸入申告番号の不一致(桁数の誤りや存在しない番号)、CSV ファイルが公開の様式に沿っていないことなどである。アップロードの後で還付が却下された理由は、輸入日が再清算できる期間を過ぎていたこと、追加関税を示す関税分類番号(第 99 類)が輸入申告に書かれていなかったこと、別の申請で申告済みだったことなどである[4]。自社が輸入者でない取引でも、相手がどの申告番号で通関したかを出してもらえるようにしておかないと、精算の根拠が作れない。

税率が変わったときの価格の動かし方

根拠法が入れ替わるたびに価格を一から交渉し直すのは、売り手にとっても買い手にとっても負担が大きい。見積と契約に、関税の扱いを先に書いておく。

見積で関税を分けて出してもらう。本体価格、輸送費、関税(適用した措置と税率、前提にした関税分類番号)を別の行にする。見積の有効期限と価格変動の扱いは、参考見積と正式見積の違いの記事で書いた考え方がそのまま使える。

どの時点の税率で精算するかを決める。今回の 301 条関税は、船積みの時点と通関の時点の両方で適用の有無が決まった[2]。契約では「米国での輸入申告日に適用される税率」のように基準日を一つに決めておくと、措置が切り替わる前後の出荷で揉めにくい。

原産国と関税分類番号の責任を分ける。税率は原産国と関税分類番号で決まる。関税分類番号は品目の特性に基づいて正しく申告する必要があり、輸入者は合理的な注意(Reasonable Care)の義務を負う[5]。売り手は原産国と分類の根拠となる情報(材料・工程・図面)を出す、輸入者はそれを確認して申告する、という分担を書いておくとよい。原産地の考え方は 原産地規則と EPA の記事で詳しく扱う。

関税を下げるための「工夫」に巻き込まれない

関税が上がると、取引相手から違法すれすれの依頼が来ることがある。ジェトロが米国関税の相談窓口に寄せられた約 4,300 件の相談から注意点をまとめた資料には、発注側・受注側の担当者が知っておくべき事例が並んでいる[5]。

  • 商流を変えるだけ、単純な組立をするだけでは、原産地は変わらない。米国の非特恵の原産地は、経由国で「実質的な変更」があったかで判断され、名称・特徴・用途が新しいものに変わったかが基準になると一般に理解されている[5]
  • 税関用と請求用の 2 種類のインボイスを作ってほしい、という依頼には応じない。米国の課税価格は原則として実際に支払われる取引価格で、アンダーバリューに使われると知りながら別の価格のインボイスを作ると、虚偽申告に加担したとみなされるおそれがある[5]
  • グループ会社向けの価格を関税分だけ下げるときは、理由を説明できるようにする。関税評価の面と移転価格税制の面の両方から検証されうる[5]

こうした依頼は、仕入先からも顧客からも来る。断る理由を社内で共有しておき、窓口の担当者が一人で判断しなくてよい状態にしておく。

国内の仕入先へ、関税の負担を押し付けない

米国の顧客から値下げや関税分の負担を求められたとき、その分を国内の部品の仕入先に転嫁したくなる。ただし、相手が取適法の対象になる取引先なら、一方的に代金を下げることはできない。2026 年 1 月の改正で、仕入先から価格協議を求められたのに応じない、必要な説明をしないといった形で一方的に代金を決めることが禁止行為に加わった(第 5 条第 2 項第 4 号)[7]。逆に、仕入先が自社の対米輸出の採算悪化を理由に値上げを申し入れてくる場合もある。申し入れの受け方は 値上げの申し入れが来たらで、受付から記録までの手順を書いた。

米国向けの製品の部材を誰から買うか自体を見直す動きもある。調達先を分ける判断と費用は チャイナプラスワンの記事で扱う。

契約書に書く項目の一覧

基本取引契約か個別の発注書のどちらかに、次の項目を入れておく。基本契約と個別契約の役割分担は 基本取引契約書の記事を参照してほしい。

1. 輸入者と取引条件。米国で誰が輸入者になるか、インコタームズのどの条件か。

2. 関税の表示。関税を別建てにするか、価格に含めるか。含める場合は前提にした措置と税率を書く。

3. 税率の基準日。輸入申告日など、どの時点の税率で精算するか。

4. 税率が変わったときの見直し。何ポイント以上動いたら協議するか、協議の期限。

5. 還付の帰属と精算。還付が出たら誰のものか、戻すならいつまでに、利息はどうするか。

6. 原産国と関税分類の情報提供。売り手が出す資料と、輸入者が確認する範囲。

7. 書類の保存と開示。輸入申告番号、インボイス、原産地の根拠資料をどちらが何年持ち、求められたら出すか。

よくある質問

301 条関税の対象かどうかは、何で確かめればよいか

USTR の官報の付属書に、対象外となる品目が関税分類番号で載っている[2]。232 条の対象品目かどうかで扱いが変わるため、まず自社の品目の分類番号を確定させてから、付属書と照らす。

122 条の関税で払った分も戻ってくるか

戻らない。ジェトロの解説は、232 条の関税と 122 条の関税は還付の対象にならないとしている[8]。還付の対象は IEEPA に基づいて徴収された関税である。

今後また税率が変わったらどうするか

この記事は 2026 年 10 月時点で確かめた情報で書いている。措置は短い間隔で変わってきたので、契約の条文は特定の税率ではなく「適用される措置と税率」を参照する形にしておき、取引のたびに最新の発表を確かめる。

まとめ

米国の追加関税は、2026 年 2 月に IEEPA から 122 条へ、7 月に 122 条から 301 条へと根拠法が移った[1]。日本の産品は一般関税率と合わせて 12.5% が基準になっている[2]。税率は今後も変わりうるので、発注側が手当てすべきなのは税率の予想ではなく契約の形である。誰が輸入者になるか、関税を別建てにしてどの時点の税率で精算するか、還付が出たら誰のものか。この三つを決め、原産国と関税分類の根拠となる情報を出し合う分担を書いておけば、次に措置が変わったときにも交渉をやり直さずに済む。

出典・参考資料

  1. 米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2026 年 7 月 24 日)
  2. Notice of Actions in Section 301 Investigations of Acts, Policies, and Practices of Various Economies Related to the Failure of Each Economy to Impose and Effectively Enforce a Prohibition on the Importation of Goods Produced with Forced Labor(米国通商代表部/2026 年 7 月)
  3. Imposing a Temporary Import Surcharge To Address Fundamental International Payments Problems(Proclamation 11012)(米国官報/2026 年 2 月 25 日)
  4. 米税関、IEEPA関税還付「フェーズ3」の申請受け付けを10月6日から開始(日本貿易振興機構 ビジネス短信/2026 年 9 月 17 日)
  5. 米国関税措置に関連する留意点 ~意図せず不正行為を行わないために~(日本貿易振興機構/2026 年 2 月)
  6. 米国トランプ政権の関税政策の要旨(日本貿易振興機構/2026 年 8 月 26 日)
  7. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  8. 米国関税措置への対応(IEEPA関税還付プロセスの解説)(日本貿易振興機構/2026 年 4 月 17 日時点の情報に基づく解説)

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