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歯車の精度等級を指定するとき——JIS B 1702 の等級と、受入で何を測ってもらうか

この記事のポイント(結論先出し)
歯車の精度等級は、規格番号と年号を付けて「JIS B 1702-1:2016 ○級」のように書くのが規格の決まりで、1998 年版とは許容値が違う[1]。等級だけ書いても、測り方や測定項目は受渡当事者間で協定しなければ義務にならないと規格自身が述べている[1]。歯厚と歯当たりは規格の範囲外なので、図面か購買仕様書に別に書く[1]。両歯面かみ合いの等級(R30〜R50)は歯面の等級とは相関も互換性もなく[2]、射出成形プラスチック歯車には測定の温湿度まで含めた別の部がある[3]。受入でどの項目を何歯測ってもらうかを、発注の時点で決めておく[5]。
目次
歯車の精度等級を決める JIS は三つに分かれている
円筒歯車の精度等級は JIS B 1702 の規格群が定めている。第 1 部が歯面(ピッチ・歯形・歯すじ)、第 2 部が両歯面かみ合い、第 3 部が射出成形プラスチック歯車である。発注する側が最初に確かめるのは、図面に書かれた等級がどの部の、どの年の版の等級かである。
| 規格 | 対象 | 等級の表し方 | 適用範囲の主な条件 |
|---|---|---|---|
| JIS B 1702-1:2016 | インボリュート円筒歯車の歯面 | 1 級〜11 級 | 歯数 5〜1,000、基準円直径 5〜15,000 mm、歯直角モジュール 0.5〜70 mm、歯幅 4〜1,200 mm、ねじれ角 45°以下 |
| JIS B 1702-2:2022 | 両歯面かみ合い偏差 | R30〜R50(21 段階) | 基準円直径 600 mm まで、歯数 3 以上 |
| JIS B 1702-3:2020 | 射出成形プラスチック円筒歯車 | 歯面 PA1〜PA11、両歯面かみ合い PR30〜PR50(偶数) | 歯直角モジュール 0.1〜2.0 mm、基準円直径 1〜280 mm、歯幅 0.2〜40 mm |
表の内容は各規格の適用範囲と精度等級の箇条から取った[1][2][3]。第 1 部は表面性状(歯面の粗さ)を適用範囲の外としている[1]。適用範囲を超える歯車については、許容値の計算式を外挿して使ってはならず、許容値を受渡当事者間で協定しなければならないとしている[1]。大径・大モジュールの歯車を発注するときは、まず適用範囲に入っているかを確かめる。
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等級の書き方——年号を付ける理由
JIS B 1702-1 は、この規格による精度等級の指定または表示には規格番号と年号を含めなければならないとし、「JIS B 1702-1:2016 A級」(A は等級の数値)という書き方を示している。理由として、この規格の誤差の許容値は 1998 年版とは異なることを挙げている[1]。
発注の現場では、図面に「歯車精度 JIS 5 級」のように年号の無い書き方が残っていることがある。年号が無いと、仕入先はどの版の許容値で作り、どの版で検査するかを自分で選ぶことになる。古い版の等級のまま描かれた図面を現行の等級に読み替えるのは設計の判断なので、仕入先に任せずに設計部門に書き直してもらう。
等級は一つの歯車の中で項目ごとに変えてもよい。規格は、各精度項目に異なる等級を使ってよいとし、両歯面に同じ等級を使うのが通常だが、使用条件によっては片歯面ずつ異なる等級を使ってもよく、その場合は製品図に記載しなければならないとしている[1]。そして歯車全体の等級は、指定した測定項目の等級の中で最も精度の低いもので決まる[1]。たとえば「ピッチは 5 級、歯形は 7 級」と項目ごとに書いた歯車は、全体としては 7 級と評価される。
等級だけでは測り方は決まらない
JIS B 1702-1 の「歯面精度等級許容値の選択」は、こう書き出している。この規格は許容値を規定し、単体歯車の測定項目の推奨事項を記載する。特別な要求事項は契約時に協定しなければならない。いかなる測定方法及び仕様も、受渡当事者間で具体的な協定がなければ義務とはならない。推奨の範囲を超える特別な測定方法は、歯車を製造する前に協定する必要がある[1]。
つまり、図面に等級を書いただけでは、仕入先が何を測るかは決まっていない。規格は次の材料を用意している[1]。
- 測定項目の一覧(累積ピッチ誤差 Fp、単一ピッチ誤差 fp、全歯形誤差 Fα、全歯すじ誤差 Fβ、それぞれの形状誤差・勾配(傾斜)誤差、歯溝の振れなど)
- 精度等級の区分と基準円直径ごとに、最小限必要な測定項目と、それに代えてよい代替の測定項目を示した表。どの区分の行にも累積ピッチ誤差と単一ピッチ誤差が入り、等級が細かい区分ほど歯形・歯すじを形状誤差と勾配誤差に分けて測る項目が並ぶ
- 測定する最少の歯数。ピッチ誤差は全歯、歯形と歯すじはおおむね等配の 3 歯
代替の測定項目は受渡当事者間で協定があれば使ってよく、どちらを使うかは使える測定機器で決めてよいとしている[1]。発注側から見ると、同じ等級でも仕入先の測定機によって出てくる記録の中身が違いうるということである。見積の段階で、どの項目を何歯測って記録を出せるかを確かめ、発注書に書いておく。
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規格の外にある項目は別に書く
規格の測定項目の表には歯厚と歯当たりが載っているが、注記で、歯厚はこの規格の規定範囲外、歯当たりの許容範囲と測定方法も規定範囲外なので受渡当事者間の協定に基づいて決めなければならないとしている[1]。また、満足な性能のために歯厚寸法や表面粗さの許容値が必要なら、そうした寸法と許容値を図面または購入仕様書に示すことが望ましいとしている[1]。
歯厚はバックラッシ(かみ合う歯車どうしの遊び)を決めるので、精度等級を満たしていても歯厚が外れていれば組立で困る。「等級を書いたから歯厚も見てくれるだろう」とは考えず、またぎ歯厚やオーバーピン寸法など、どの測り方で歯厚を指定するかを図面に書く。
両歯面かみ合いの等級は別の物差し
親歯車(両歯面かみ合い試験のために設計した、所要の精度をもつ歯車)と被検査歯車をばねで押し付け、遊びなしでかみ合わせて回したときの中心距離の変化を測るのが、両歯面かみ合い試験である。JIS B 1702-2 はこの偏差の等級を R30〜R50 の 21 段階とし、R30 が最も精度がよい[2]。
注意したいのは、規格自身が、この等級は JIS B 1702-1 などの精度等級とは相関も互換性もないと述べ、それを強調するために独自の記号(R30〜R50)を使っていることである。旧規格(JIS B 1702-2:1998)とも一般的な相関は無いとしている[2]。歯面の「6 級」と両歯面かみ合いの「R○○」を換算表で読み替えて発注しない。
この試験には、発注側が決めておくことがほかにもある[2]。
- 親歯車の許容値を含む歯の設計は、被検査歯車の受渡当事者間で合意しなければならない
- 取決めが無ければ、使う試験機は製造業者が選んでよい
- 等級の評価は最終製造工程の後に行う(試験自体は途中の工程で確認してもよい)
- 具体的な測定方法、結果の文書化、測定頻度、統計的手法の導入は、通常、受渡当事者間で合意する項目である
熱処理や仕上げ研削の前に測った値で合否を出していないかは、記録を受け取るときに確かめる。熱処理の指定そのものは熱処理の図面指定で扱っている。
プラスチック歯車は、測る環境まで指定する
射出成形のプラスチック歯車は JIS B 1702-3 が扱う。歯面の等級は PA1〜PA11、両歯面かみ合いの等級は PR30〜PR50 の偶数で、たとえば PA5 級と指定すると、単一ピッチ偏差、累積ピッチ偏差、歯形と歯すじの各偏差がいずれも PA5 級の許容値以下である必要がある。偏差項目ごとに等級を分けて指定することもできる[3]。
この部の注意事項は、発注書にそのまま写せる形になっている[3]。
- 等級判定には、測定の不確かさが明らかな測定機を使う必要がある
- 測定機名、歯車の支持方法、測定子の押付け力、測定子形状、測定日時、測定室温度、測定室湿度の七つを明記することが望ましい
- 成形状態が安定したものから選び、成形後、標準状態に保った測定室に 12 時間以上置いてから測ることが望ましい
- 測定子の押付け力は、歯の変形やきずを避けるため 10 N 以下にしなければならない
- 歯形と歯すじは、おおむね 90°ごとの 4 歯で測ることが多いが、ゲートの種類や位置によっては全歯が望ましい
- 歯先円直径、歯幅、歯厚は検査項目に入っていないので、動力伝達を重視する場合は別途指示し、公差範囲は受渡当事者間で協議する
附属書(参考)は、プラスチック歯車の歯面精度は金属歯車と違い温度と湿度に大きく影響され経時でも変化するとし、測定は通常、温度 23 ℃・湿度 50 % の標準雰囲気で行い、それ以外の環境で測るなら精度検査結果に温湿度を明示することに留意するとしている[3]。成形品の寸法の決め方全般は樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱っている。
受入で何を出してもらうか
JIS B 1702-1 は、判定基準について、協定で特定した例外がない限り規格の許容値・方法・定義を用いるとし、測定の不確かさと許容値の適用方法については JIS B 1757-1 などを参照するとしている[1]。JIS B 1757-1 は、歯車形の基準器を使って歯車測定機を評価し、測定機の測定不確かさを見積もる方法を定めた規格である。ただし、その要求事項は生産歯車の受入検査への使用を意図したものではなく、生産歯車の測定不確かさの見積りは適用範囲外としている[4]。受入でこの規格の手順を仕入先に求めるのではなく、仕入先の測定機がどのように評価されているかを確かめる材料として使う。
発注書と購買仕様書には、次を書いておくとよい。
- 精度等級(規格番号と年号つき)と、項目ごとに等級を分けるならその内訳
- 測定する項目(標準か代替か)と、測る歯数・歯面
- 歯厚の指定方法と許容値、歯当たりの確認方法(規格の範囲外の項目)
- 測定の時期(熱処理・仕上げの後か)と、提出する記録(測定線図か数値か)
- プラスチック歯車なら測定環境と置き時間、押付け力
- 両歯面かみ合い試験をするなら親歯車の仕様と、その手配をどちらがするか
中小受託取引適正化法(取適法)がかかる取引では、検査の基準が明確でないため委託内容と違うとはっきりしない場合や、発注後に基準を恣意的に厳しくした場合に、それを理由とした受領拒否は認められないと、公正取引委員会と中小企業庁のテキストは説明している[5]。歯車でいえば、測定項目と測定条件を後から足して不合格にすることがこれにあたりうる。測定データの出し方の決め方は三次元測定(CMM)のデータを仕入先に求めるときで、測定のばらつきの確かめ方は測定システム解析を仕入先に求めるときで扱う。データムの取り方が食い違うときの考え方は幾何公差の測り方を仕入先と合わせるが参考になる。
よくある質問
仕入先から「この形状だとピッチは全歯測れない」と言われた
規格の最少測定歯数はピッチ誤差について全歯である[1]。測れないなら、協定で代替の測定項目を決めるか、両歯面かみ合い試験など別の方法に切り替えるかを、製造前に決める。受入の段階で「測れなかったが合格」とするのは避ける。
軸受やハウジングの精度が悪いと、歯車の等級は意味がないのでは
歯車単体の等級は、組み付けた状態のかみ合いの良さを保証するものではない。歯車を支える軸受の指定は軸受を型番で買うとき・指定するときで扱う。組立品としての要求は、歯車単体の図面とは別に購買仕様書に書く。
まとめ
歯車の精度等級は、規格番号と年号を付けて書く。1998 年版とは許容値が違うので、年号の無い等級は設計に確かめる。等級だけでは測り方は決まらず、測定項目・歯数・時期・記録は受渡当事者間で協定する。歯厚と歯当たりは規格の外なので図面か仕様書に別に書く。両歯面かみ合いの R 等級は歯面の等級と換算できない別の物差しで、親歯車の仕様は合意事項である。プラスチック歯車は温湿度・置き時間・押付け力まで書く。どれも発注の時点で書面に残す。
出典・参考資料
- JIS B 1702-1:2016 円筒歯車-精度等級-第1部:歯車の歯面に関する誤差の定義及び許容値(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2016 年 4 月 20 日改正・2021 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1702-2:2022 円筒歯車-精度等級-第2部:両歯面かみ合い偏差の定義及び許容値(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2022 年 3 月 22 日改正)
- JIS B 1702-3:2020 円筒歯車-精度等級-第3部:射出成形プラスチック歯車の歯面及び両歯面かみ合いに関する偏差の定義並びに許容値(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2020 年 10 月 20 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1757-1:2012 歯車測定機の評価方法-第1部:歯車形の基準器を用いる方法(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2012 年 1 月 20 日制定・2021 年 10 月 20 日確認)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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