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溶接記号は描いた規格で読み方が変わる——基線の上下・脚長とのど厚を仕入先と読み合わせる

この記事のポイント(結論先出し)
溶接記号は、図面を描いた側と溶接する側が同じ規格の同じ読み方をしていて初めて意味が通じる。JIS Z 3021:2016 は ISO 2553 の System B を基にしており、記号を基線の下に書くと矢の側を溶接する。欧州流の図面では同じ書き方が反対側を指すことがあり、すみ肉の寸法も、頭に何も付かない数字は脚長、「a」が付けばのど厚と読み方が分かれる。発注する側は、図面がどの規格で描かれているかを注記で明らかにし、矢の側と反対側、寸法の種類、全周・現場溶接、尾の指示を仕入先に読み返してもらう。記号の解釈が決まらないまま発注すると、後から不合格と言えなくなる。
目次
溶接記号は「描いた規格」で読み方が変わる
溶接記号は、矢、基線、基本記号、補助記号、寸法、尾で構成され、製図上で溶接継手の種類、位置、開先を表す記号である。JIS Z 3021:2016 はこれを定めた規格で、序文によると、2013 年に ISO 2553 が二つの方式を共存させる形に改正され、ISO 2553:1992 を基礎とする System A と、環太平洋地域で使われてきた規格を基礎とする System B が並んでいる。JIS はこのうち System B を基にしており、System A が必要な場合は ISO 2553 の System A によるとしている[1]。
二つの方式が併存している理由は、溶接学会誌の解説が分かりやすい。堀川は、溶接が手前(図面を見る者に近い側)にあるとき、日米流では溶接記号を基線の下側に付けるのに対し、欧州流は基線の上側に付けると説明している。そのうえで、同じ記号表示が異なる溶接箇所を指示することになり、場合によっては重大な齟齬を招きかねないと書いている[4]。日米と欧州の双方に過去の図面が大量にあるため一方に寄せられず、ISO の中に両方を併記する考え方が認められた経緯も紹介されている[4]。
発注する側にとっての意味ははっきりしている。記号そのものは同じ形でも、どちらの方式で描かれた図面かで溶接する側が逆になりうる。国内の仕入先どうしで JIS の図面をやり取りしている限り問題は起きにくいが、海外の顧客から来た図面を国内で作らせる場合、国内の図面を海外の工場に出す場合、海外製の溶接構造物を買う場合には、まず「この図面はどの規格の溶接記号で描かれているか」を確かめる必要がある。
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図面に規格番号を書いておく
機械製図の規格 JIS B 0001:2019 は、溶接に関する要求事項を溶接記号で指示する場合は JIS Z 3021 によるとしている[3]。さらに、JIS に規定した記号をその規定に従って使う場合は通常特別な注記を必要としないが、JIS 以外の公知の規格の記号を使う場合は、その規格番号を図面の適切な箇所に注記し、規格によらない記号を使う場合はその記号の意味を注記する、と定めている[3]。
裏を返せば、注記のない日本の図面は JIS で描かれたものとして読まれる。海外の顧客の図面を日本の仕入先に流すとき、図面に「溶接記号は ISO 2553 System A による」といった注記がなければ、仕入先は JIS の読み方で溶接する。発注側でできる対策は次の二つである(当方の提案)。
1. 図面か発注仕様書に、溶接記号の準拠規格を書く
JIS Z 3021、ISO 2553 の System A か System B、あるいは米国の規格など、どれで描いたかを一行で明記する。社内の図面でも、海外に出す可能性があるものは書いておく。
2. 規格が混在する図面は、断面図で補う
JIS Z 3021 自身も、記号表示だけでは不明確な場合は溶接部の断面図を描き、寸法を示すのがよいとしている[1]。重要な継手は断面図を付けておけば、方式の違いで読み違えても図で気づける。
JIS の溶接記号を読む順番
発注前に図面の溶接記号を確認するときは、次の順に読むと見落としが少ない。いずれも JIS Z 3021:2016 の規定である[1]。
1. 矢がどの継手を指しているか
矢は溶接される継手を示す引出し線で、製図上の継手を構成する可視線に接触していなければならない。溶接の内容が同じなら一本の基線に複数の矢を付けてもよい。レ形開先や J 形開先のように開先を取る側を示す必要がある突合せ溶接では、矢を折って開先を取る部材を指す。規格は、開先を取る部材が明らかな場合、どちらの部材でもよいときは折らなくともよいとしている。矢が折れていなければ、開先をどちらに取るかは図面から読み取れないことがあるので、開先を取る部材を決めたいなら折れ矢になっているかを確かめる。
2. 記号が基線の上か下か
JIS では、継手の矢の側を溶接するとき、基本記号は基線の下側に配置される。基本記号が基線の上にあれば反対側を溶接する。規格は、基本記号が基線の上か下かで溶接される側が決まると注記している。プラグ、スロット、スポット、シームのように部材の接触面で溶接する場合は、基本記号を基線の中央に置き、矢の側・反対側とは無関係になる。
3. 基本記号と補助記号
基本記号は溶接の種類(I 形・V 形・レ形・U 形・J 形開先、すみ肉、プラグ、スポット、シーム、へり、肉盛など)を示し、基本記号の左右の向きは変えてはならない。補助記号は表面形状(平ら・凸形・凹形)、裏溶接、裏波溶接、裏当て、全周溶接、二点間溶接、現場溶接、仕上げ方法(チッピング C、グラインダ G、切削 M、研磨 P)などを示す。裏当てを取り外すか残すかも補助記号で区別される。
4. 寸法:左は断面、右は長さ
寸法は基線の基本記号と同じ側に記載し、断面寸法は基本記号の左、公称長さは右に書く。長さの記載がなければ継手全長にわたって溶接する。突合せ溶接で記号の左に寸法がなければ完全溶込み、部分溶込みのときは溶接深さに括弧を付けて記載する。断続溶接は、溶接要素の長さ、個数、中心間隔を右側に書く。
5. 尾
尾には、品質等級、溶接方法、溶接材料、溶接姿勢など、施工に必要な補足的指示を斜線で区切って書く。品質等級と溶接方法については、規格の注記が「適切な規格とは、受渡当事者間によって合意した規格とする」としている。溶接施工要領書(WPS)や溶接施工法承認記録(WPQR)などの文書を指示するときは、閉じた尾を使う[1]。尾に文書番号が書いてあるなら、その文書を仕入先に渡しているかどうかを発注前に確かめる。番号だけが図面にあり、中身が仕入先に届いていない例は珍しくない。
寸法の読み違い:脚長か、のど厚か
すみ肉溶接の寸法は、読み違えたときの影響がいちばん大きい。JIS Z 3021 は、すみ肉溶接の寸法は脚長で示して基本記号の左側に記載し、公称のど厚で示してもよいが、その場合は寸法の前に a を書くと定めている。規格の記載例では、脚長 z が 10 mm、公称のど厚 a が 7 mm の同じ溶接を、「10」とも「a7」とも書ける[1]。
用語の定義は JIS Z 3001-1:2018 にある。脚長は継手のルートからすみ肉溶接の止端までの距離、公称のど厚はすみ肉溶接に内包される最大の二等辺三角形から求めたのど厚で、設計に用いる値である[2]。有効のど厚の注記には、鋼構造設計基準では通常、等脚すみ肉を前提とし、すみ肉サイズの 1/√2 の値とすると書かれている[2]。
つまり等脚のすみ肉では、のど厚は脚長のおよそ 0.7 倍になる。設計者が「a7」のつもりで頭の a を書き落とし「7」とだけ書けば、JIS の読み方では脚長 7 mm、のど厚は約 4.9 mm の溶接になる。逆に、脚長 7 mm のつもりの図面を「のど厚 7 mm」と読めば脚長は約 10 mm になり、断面積は脚長の 2 乗に比例するので溶着金属の量はおよそ 2 倍、ひずみも入熱も増える。どちらに転んでも、図面上の数字は一つしかないので、受入検査で「図面どおりか」を判定できない。
| 図面の書き方(JIS Z 3021) | 意味 | 読み違えたときに起きること |
|---|---|---|
| すみ肉記号の左に「7」 | 脚長 7 mm(のど厚は約 4.9 mm) | のど厚 7 mm と読むと脚長約 10 mm。溶着量は約 2 倍 |
| すみ肉記号の左に「a7」 | 公称のど厚 7 mm(脚長は約 10 mm) | a を見落とすと脚長 7 mm。強度が設計より不足する |
| 突合せ記号の左に寸法なし | 完全溶込み | 「寸法がないから任意」と読むと部分溶込みで作られる |
| 記号の右に長さなし | 継手全長(二点間溶接記号があれば指示された二点間) | 断続溶接で済ませられる |
| 不等脚(脚長を二つ書く) | 小さいほうの脚長を先、大きいほうを後に書く | どちらの部材側が長いかは記号だけでは決まらない。規格の注記は、尾か詳細図で示すのがよいとしている |
| 記号が基線の下 | 矢の側を溶接 | 欧州流の図面として読むと反対側 |
不等脚の詳細について、JIS Z 3021 は大小関係などを尾に記すか、実形を示す詳細図によるのがよいとしている[1]。JIS Z 3001-1 も、実際ののど厚は設計のど厚の指示に依存すると注記している[2]。強度に効く継手は、脚長とのど厚のどちらで管理するのかを発注仕様書で一つに決めておく。
全周溶接・現場溶接・二点間溶接の落とし穴
全周溶接記号は、矢と基線の交点に付けて、継手を回る連続した溶接を示す。JIS Z 3021 は、始点と終点が同じでない場合、溶接の種類が異なる場合(すみ肉と突合せが混じる場合など)、寸法が異なる場合には全周溶接記号を使ってはならないとしている。継手の全箇所を連続しないで溶接するときの指示に使わないことが望ましいとも注記している[1]。図面で全周記号が使われているのに、途中で継手の形が変わる部品があれば、それは記号の誤用で、仕入先によって解釈が割れる。
始点と終点が異なる周溶接は、二点間溶接記号で示し、始終点を明確に示さなければならない。現場溶接は、矢と基線の交点に現場溶接記号を加えて示し、据付け場所など工場建屋外で施工する溶接を意味する[1]。現場溶接の記号が付いた継手は、工場ではなく据付け場所などで溶接する指示である。購入品の範囲を決めるとき、現場溶接の継手が仕入先の範囲に入るのか、据付け側の範囲なのかを見積の段階で確かめておかないと、どちらも溶接しないまま現場に届く。
複数の作業を順に指示するときは基線を重ねる多段基線を使い、最初の作業を矢尻に最も近い基線で示す[1]。裏はつりと裏溶接のように順序が品質に関わる継手は、多段基線で書かれているか、施工要領書で順序が決まっているかを見る。
「任意形状開先溶接記号」は開先を仕入先に任せる記号
JIS Z 3021 には、所要の溶接品質だけを規定する突合せ溶接を表す任意形状開先溶接記号がある。この記号が使われたとき、開先と溶接法は、所要の品質に合致するよう施工者が決める[1]。規格は、機材の異なる別の工場では別の溶接施工要領書によってよく、製図を工場ごとに書き直さなくてもよいと注記している[1]。
仕入先の設備に合わせて開先を選べるので便利な記号だが、発注側から見ると、開先と溶接法の決定を仕入先に渡すことになる。この記号を使うなら、求める品質(完全溶込みか、溶接深さはいくらか)を寸法と尾で明確にし、仕入先が選んだ開先と施工要領書を量産前に出させて承認する、という手順をセットにする。量産を始める前に何を出させるかは量産承認の記事で整理している。
非破壊試験の記号も図面に書ける
JIS Z 3021 には、国際規格にない附属書 JA(規定)として溶接部の非破壊試験記号がある。放射線透過試験 RT、超音波探傷試験 UT、磁粉探傷試験 MT、浸透探傷試験 PT、渦電流探傷試験 ET、目視試験 VT、漏れ試験 LT などの試験方法記号と、全線試験を表す丸印、部分試験(抜取試験)を表す三角印などの補助記号がある。記号は溶接記号の尾に書く、基線を追加して書く、溶接記号と別に試験記号だけを書く、のいずれかで表示し、基準名や仕様書、要求品質等級などは尾に書く[1]。
附属書 JA は ISO 2553 に規定されていない JIS 独自の追加である[1]。海外の仕入先に出す図面に JIS の非破壊試験記号を書いても、相手が知らなければ伝わらない。海外向けには試験記号を仕様書の文章で書き直しておくほうが確実である。試験の方法・範囲・合否基準の決め方は非破壊検査を発注で指定する記事で、各試験の原理は非破壊試験の基礎の記事で扱う。
単位と寸法の書き方
JIS Z 3021 は、製図には寸法の単位を明示し、複数の単位で併記してはならないとしている。必要があれば換算表を当該製図に掲載する[1]。インチ系の図面をミリに書き換えて国内に出すとき、溶接寸法だけ元のインチ値が残っていることがある。溶接記号の寸法は図の寸法線と離れた場所に書かれるので、単位の書き換え漏れが起きやすい。
記号の解釈が決まらないまま発注すると不合格と言えない
溶接記号の読み方が仕入先と食い違ったまま作られた部品を、後から「図面と違う」と言えるかどうかは、図面の指示が明確だったかどうかにかかる。中小受託取引適正化法(取適法)の適用を受ける取引では、公正取引委員会のテキストが、委託内容が明示されておらず、又は検査基準が明確でないため、給付の内容が委託内容と異なることが明らかでない場合は、委託内容と異なるとして受領を拒むことは認められないとしている。検査基準を恣意的に厳しくして委託内容と異なるとする場合、取引の過程で受託側が提案して確認を求め委託側が了承した内容に基づいて作ったのに委託内容と異なるとする場合も、同様に認められない[5]。
溶接記号に当てはめると、方式の注記がない図面、a の付け忘れで脚長かのど厚か判断できない寸法、全周記号の誤用などは、どれも「委託内容が明示されていない」側に入りうる。仕入先から「この記号はこう読んでよいか」と確認され、それを了承していれば、了承した内容が基準になる。受領拒否・返品・やり直しの範囲は受領拒否・返品・やり直しの記事で整理している。
発注前に仕入先と読み合わせる手順
溶接記号の食い違いは、図面を渡す前後の数十分で防げる。次の手順を、溶接を含む部品の見積依頼か発注の時点で行う(当方の提案)。
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1. 準拠規格を確認する
図面の注記を見て、JIS Z 3021 か、ISO 2553 のどちらの方式か、その他の規格かを特定する。書かれていなければ設計部門に確かめ、図面か仕様書に追記する。
2. 仕入先に重要継手の解釈を書き戻してもらう
強度に効く継手について、溶接する側、継手の種類、完全溶込みか部分溶込みか、脚長とのど厚の値、溶接長さを、仕入先の言葉で一覧にして返してもらう。図面の記号と照らして、一つでも食い違えばその場で直す。
3. 尾で参照している文書を渡す
閉じた尾に WPS などの文書番号があれば、その文書を図面と一緒に渡すか、仕入先の WPS で置き換えることを合意する。
4. 現場溶接と全周溶接の範囲を決める
現場溶接の継手を誰が溶接するのか、全周記号の継手が本当に一周連続しているのかを確認する。
5. 合意した解釈を記録に残す
読み合わせの結果を議事録か仕様書の改訂で残す。量産後に担当者が替わっても、同じ解釈で作り続けられる。
溶接方法、溶接技能者の資格、管理責任者、検査の指定は溶接を含む部品の発注で指定することの記事にまとめた。図面の一般注記に何を書くかは図面の一般注記の記事、海外の工場に図面を出すときの注意は中国の工場に図面を出す記事で扱う。
よくある質問
Q. 海外の顧客の図面に溶接記号があるが、方式の注記がない。どう判断すればよいか。
A. 記号の形だけで方式を推測しない。顧客に準拠規格を確認し、回答を図面か仕様書に追記してから仕入先に渡す。JIS B 0001 は、JIS 以外の公知の規格の記号を使う場合は規格番号を注記するよう定めているので、注記の追加を依頼する根拠にもなる。確認が取れるまでは、重要継手の断面図を付けてもらうのが確実である。
Q. すみ肉の寸法は脚長とのど厚のどちらで指示するのがよいか。
A. JIS Z 3021 ではどちらも使える。脚長は完成品をゲージで直接測りやすく、のど厚は強度計算に直結する。大切なのは社内で一つに決め、のど厚で書くときは必ず a を付けることである。受入検査で何を測るのかも、同じ量で決めておく。
Q. 仕入先から「この記号はこう読んでよいか」と確認された。了承してよいか。
A. 内容を設計部門に確認してから回答する。取適法のテキストは、受託側が提案して確認を求め、委託側が了承した内容に基づいて作られたものを委託内容と異なるとして受領を拒むことは認められないとしている。了承した解釈が、以後の基準になると考えて回答する。
まとめ
溶接記号は、JIS Z 3021 が基にする ISO 2553 の System B と、欧州流の System A で、記号を基線の上下どちらに書くかの意味が逆になりうる。発注する側は、図面がどの規格で描かれているかを注記で明らかにし、矢の側と反対側、完全溶込みか部分溶込みか、脚長かのど厚か、長さ、全周・現場溶接、尾の文書を仕入先に読み返してもらう。JIS 独自の非破壊試験記号は海外では伝わらないことがあるので文章で補う。記号の解釈が決まらないまま発注すると、後から図面と違うと言えなくなるので、読み合わせの結果を記録に残しておく。
出典・参考資料
- JIS Z 3021:2016 溶接記号(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2016 年 9 月 20 日改正・2026 年 6 月 22 日確認)
- JIS Z 3001-1:2018 溶接用語-第1部:一般(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2018 年 2 月 20 日改正・2022 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 0001:2019 機械製図(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2019 年 5 月 20 日改正・2024 年 6 月 20 日確認)
- 溶接関連規格の国際化の動向(堀川浩甫/溶接学会誌 73 巻 1 号/2004 年)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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