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塩水噴霧試験を仕様に入れるとき決めること——種類・時間・試験片・判定

この記事のポイント(結論先出し)
仕様書に「塩水噴霧試験 72 時間」とだけ書いても、条件は決まらない。JIS Z 2371 は試験の種類を三つ(中性・酢酸酸性・キャス)に分け、試験時間は製品規格か受渡当事者間の協定で決めるとしている[1]。対応する ISO 9227 は、試験片の寸法や種類、試験時間、結果の解釈は製品側の仕様で決めるものとし、塩水噴霧試験は材料を耐食性で順位付けしたり、長期の耐食性を予測したりするためのものではないと明記している[2]。発注側が書くべきなのは、試験の規格と版・種類・時間・試験片(平板か実物か、寸法と個数)・端面の保護と人工きずの有無・判定の方法と合格の線・試験の時期と頻度・報告書の項目の八つである。屋外の塩害を再現したいなら、塩水噴霧ではなく複合サイクル試験を検討する[5]。
目次
「塩水噴霧〇時間」だけでは何が決まらないか
めっき・化成処理・塗装の耐食性を仕入先に保証させるとき、図面や仕様書に「塩水噴霧試験 ○○時間で赤さびなきこと」と書く例は多い。しかし、この一文には、少なくとも次のことが書かれていない。どの種類の塩水噴霧試験か、試験したのは平板か部品そのものか、切断した端面を覆ったか、さびをどの面で数えるか、何点あれば不合格か、である。
JIS Z 2371(塩水噴霧試験方法)は、金属材料と、めっきなどの無機皮膜・塗膜などの有機被膜を施した金属材料の耐食性試験として、中性塩水噴霧試験・酢酸酸性塩水噴霧試験・キャス試験の三つを規定し、塩溶液、装置、装置の再現性の検証方法、試験片、試験条件、結果の表し方を定めている[1]。そのうえで試験時間は、試験する材料や製品規格で規定したものとし、規定がない場合は受渡当事者間の協定によるとしている[1]。推奨する時間として 2・6・24・48・96・168・240・480・720・1,000 時間の 10 段階を挙げているが、どれを使うかは規格が決めてくれるわけではない[1]。
この規格の基になった ISO 9227 も同じ立場をとる。最新版の ISO 9227:2022 は、装置・試薬・手順と試験槽の腐食性の評価方法を規定する一方で、試験片の寸法や種類、個々の製品に使う試験時間、結果の解釈は規定せず、それらは該当する製品の仕様で定めるとしている[2]。つまり、試験方法の規格を引用しただけでは合否は決まらない。条件の残りを書くのは発注側の仕事である。
なお、JIS Z 2371 の現行版は 2015 年の改正で、2012 年の ISO 9227 第 3 版を基にしている[1]。ISO 側はその後 2022 年に改訂され、2024 年に追補も出ている。海外の仕入先が「ISO 9227 に従う」と回答してきた場合は、どの版かを確かめておく。
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塩水噴霧試験は「品質の確認」に使い、寿命の予測には使わない
塩水噴霧の時間が長いほど屋外で長持ちする、と読まれることがあるが、規格はそう読むことを戒めている。ISO 9227:2022 の適用範囲は、塩水噴霧試験はいずれも、防食処理の有無を問わず金属材料の品質が維持されているかを確かめるのに適しているとしたうえで、異なる材料を耐食性で順位付けする比較試験や、試験した材料の長期の耐食性を予測する手段として使うことを意図していないと書いている[2]。また、皮膜のピンホールなどの欠陥を見つけるのに特に役立つとしている[2]。
塗膜についての JIS K 5600-7-1(耐中性塩水噴霧性)はさらに具体的で、塩水噴霧に対する塗膜の抵抗性と、ほかの環境での腐食に対する抵抗性とは直接の関係がほとんどなく、試験の結果は使われるすべての環境での腐食抵抗性の直接の指標にはならないとし、異なる試料の成績を塗料の腐食抵抗性の比の指標にしてはならないとまで書いている[3]。そのうえで、塗料や塗装系の品質のチェックとしては意味がある、としている[3]。
発注側の使い方に置き換えると、塩水噴霧試験は「承認したときと同じ品質の皮膜が、量産でも付いているか」を確かめる道具である。承認時の試料が 240 時間もった処理が、量産ロットで 96 時間しかもたなければ、皮膜に何かが起きている。一方で、「240 時間もつから屋外で何年もつ」という説明は、規格の上では成り立たない。
屋外の塩害に近い腐食を再現したい場合は、別の試験を検討する。ISO 14993:2026 は、中性の塩霧・乾燥・湿潤を繰り返す促進試験で、中性塩水噴霧試験のような一般的な促進試験に比べて、塩分を含む屋外環境で起きる腐食をより良く再現できる点を利点として挙げている[5]。ISO 16701:2025 は、湿度の変動と間欠的な塩水の吹付けを組み合わせた試験で、塩化物イオンの影響が大きい環境での相対的な耐食性の情報を与える一方、結果から幅広い環境での耐食性について大きな結論を出すことはできないとしている[6]。どちらにしても「試験の結果=寿命」にはならないので、複合サイクル試験を選ぶ場合も、承認時と量産時を比べる使い方が基本になる。
試験の種類を選ぶ:中性・酢酸酸性・キャス
三つの試験は、溶液の pH と温度、添加物が違う。JIS Z 2371 の試験条件は次のとおりである[1]。適用先の目安は ISO 9227:2022 の記述による[2]。
| 項目 | 中性塩水噴霧(NSS) | 酢酸酸性塩水噴霧(AASS) | キャス(CASS) |
|---|---|---|---|
| 噴霧室の温度 | 35 ℃±2 ℃ | 35 ℃±2 ℃ | 50 ℃±2 ℃ |
| 採取した噴霧液の pH | 6.5〜7.2 | 3.1〜3.3 | 3.1〜3.3 |
| 溶液の添加物 | なし(塩化ナトリウム 50 g/L±5 g/L) | 酢酸 | 酢酸+塩化銅(Ⅱ)二水和物 0.26 g/L±0.02 g/L |
| 噴霧液の採取量(約 80 cm² 当たり) | 1.5 mL/h±0.5 mL/h(三つとも同じ) | ||
| 装置の検証(鋼の照合試験片の腐食減量) | 48 時間で 70 g/m²±20 g/m² | 24 時間で 40 g/m²±10 g/m² | 24 時間で 55 g/m²±15 g/m² |
| 主な適用先(ISO 9227) | 金属とその合金、金属皮膜、化成皮膜、陽極酸化皮膜、金属上の有機皮膜 | 銅+ニッケル+クロム、ニッケル+クロムの装飾めっき。アルミの陽極酸化皮膜・有機皮膜にも | AASS と同じ |
中性塩水噴霧の適用先がいちばん広いが、ISO 9227 は装飾クロムめっきのように酢酸酸性やキャスの試験が特に役立つ皮膜も挙げている[2]。仕様書には「JIS Z 2371 の中性塩水噴霧試験」のように、規格番号と試験の種類を両方書く。種類を書かずに時間だけ書くと、キャス試験の 24 時間と中性塩水噴霧の 24 時間を取り違えるおそれがある。
試験片を決める:平板か、実物か
JIS Z 2371 は、試験片を 150 mm×70 mm×1 mm の平板とするのが望ましいとしつつ、受渡当事者間の協定によって他の寸法や製品そのもの、製品から切り出した部材を使ってもよいとしている[1]。ここが決まっていないと、仕入先は処理槽に一緒に流した平板で試験し、発注側は部品の角やねじ部のさびを問題にする、というすれ違いが起きる。
決めておくことは三つある。一つ目は、試験に使うのが平板か部品かである。平板は条件がそろうので比較に向くが、部品の角・穴・溶接部・かしめ部のように皮膜が薄くなりやすい場所は再現されない。二つ目は、切断面の扱いである。規格は、皮膜のある製品から試験片を切り出すときは端面周辺の皮膜を壊さないように切り出し、協定がない限り端面を塗料やワックス、粘着テープなどで保護するとしている[1]。三つ目は、人工きずを付けるかである。損傷部からの腐食の進み方を見る場合は、素地が出るまで切り込みきずを入れるが、その作り方は協定によるとされている[1]。
置き方も条件の一つである。平板は鉛直線に対してできる限り 20°(15°〜25°の範囲)で保持するが、製品から切り出した部材の場合の角度は協定によるとされている[1]。部品で試験するなら、「どの面を上に向けて置くか」を図で示しておくとよい(当方の提案)。
塗膜の場合は、JIS K 5600-7-1 が、試験を補う情報として、①素地と表面調整、②塗装の方法、③試験前の乾燥・焼付けの条件、④乾燥膜厚と測定方法(単層か多層か)、⑤試験前にスクラッチを付けるか(付けるなら種類と位置)、⑥試験時間、⑦塗膜をどう検査し、どの特性で評価するか、の 7 項目を挙げ、規格・製品の文書・受渡当事者間の協定のどれかで補うことを求めている[3]。塗装品の発注では、この 7 項目がそのまま仕様書の記入欄になる。塗装の仕様全体の決め方は塗装の仕様の決め方の記事で扱っている。
判定の方法を決める:「さびなきこと」は判定基準にならない
JIS Z 2371 は、試験結果の表し方を、腐食面積(レイティングナンバ)、腐食減量、腐食生成物を取り除く前の外観、取り除いた後の外観、腐食欠陥の数と分布、腐食の発生までの時間、顕微鏡観察による変質、引張強さなどの機械的特性の変化の 8 つから選ぶとしている[1]。どれで判定するかを決めていなければ、同じ試験をしても合否は人によって変わる。
めっきや化成処理の部品でよく使われるのは、腐食面積を数値にするレイティングナンバである。JIS Z 2371 の附属書は、評価対象面として少なくとも 5,000 mm² を選び、標準図と比べて最も近いナンバで判定し、端面から生じた腐食欠陥は評価から除くとしている[1]。ナンバと腐食面積率の対応の例を挙げる[1]。
| レイティングナンバ | 腐食面積率 |
|---|---|
| 10 | 0.00 % |
| 9.8 | 0.00 % を超え 0.02 % 以下 |
| 9 | 0.07 % を超え 0.10 % 以下 |
| 5 | 1.00 % を超え 2.50 % 以下 |
(規格の表から一部を抜き出した。全体は JIS Z 2371 附属書 JC の表 JC.1 を参照。)レイティングナンバ 10 は肉眼で識別できない腐食を示す[1]。めっきについては JIS H 8502(めっきの耐食性試験方法)も、腐食の状態をレイティングナンバ標準図表と照合して評価する方法と、質量減少による方法を定めている[4]。仕様書には、たとえば「JIS Z 2371 附属書 JC のレイティングナンバで 9.8 以上」のように、評価の方法と合格の線を数字で書く。
もう一つ決めておくのは、何を「腐食」として数えるかである。亜鉛めっきや三価クロメートの部品では、皮膜そのものの腐食生成物と、素地(鉄)が腐食した生成物とが出る。どちらの発生までの時間で判定するのかを書かないと、仕入先と発注側で同じ写真の読み方が分かれる(当方の提案)。化成処理の指定は三価クロメート・化成処理の指定の記事で扱う。
装置の状態と報告書:試験所によって結果が変わる
塩水噴霧試験は、同じ条件のはずでも装置によって腐食の進み方が違うことがある。JIS Z 2371 は、試験結果の再現性と繰返し性を確認するため、鋼の照合試験片を使って装置を定期的に検証しなければならないとし、連続的な使用状況では適切な検証の期間は通常 3 か月であると注記している[1]。検証の基準値は上の表のとおりで、照合試験片の腐食減量がこの範囲に入っていれば装置は正常とみなす[1]。
試験報告書について、規格は記載事項を挙げ、そこに照合試験片の種類と腐食減量、噴霧液の採取量・塩濃度・pH、試験片の角度、試験片の位置を入れ換えた回数、試験結果の表し方などを含めている(受渡当事者間の協定で一部を省略してもよい)[1]。発注側としては、少なくとも照合試験片の直近の検証結果、噴霧液の採取量と pH、試験片の写真を報告書に入れてもらうと、結果を後から比べられる(当方の提案)。仕入先の試験と自社の試験で結果が割れたときに、どちらの装置が規格の範囲にあったかを確かめる材料になる。
発注書・仕様書に書くこと
以上をまとめると、塩水噴霧試験を受入や仕様に入れるときに書く項目は次のとおりである(当方の提案)。
- 試験規格と版(JIS Z 2371 か ISO 9227 か、その年版)
- 試験の種類(中性・酢酸酸性・キャス)
- 試験時間
- 試験片(平板か部品か、寸法、置き方、何個か)
- 端面の保護と人工きずの有無
- 判定の方法と合格の線(レイティングナンバ、腐食の発生までの時間など)と、何を腐食として数えるか
- 試験の時期と頻度(承認時だけか、量産で定期にか)
- 報告書に入れる項目と、試験片の写真
7 番目の頻度は、時間と結びつけて考える必要がある。たとえば 480 時間は 20 日、1,000 時間は約 42 日かかる。出荷前に毎ロット試験して合否を待つ運用は、納期の点で現実的でないことが多い。承認時に長時間の試験を行い、量産では月ごとや処理槽の管理と組み合わせた定期の試験にする、という形を仕入先と相談して決める。
試験の条件を後から厳しくしないことも大事である。発注したあとで試験時間を延ばしたり、判定の線を上げたりして不合格にすると、受け取りを断ることや作り直しを求めることの扱いが問題になる。条件を変えるなら、次の発注分から適用するか、費用と納期を合意してから行う。考え方は受領拒否・返品・やり直しの記事で整理している。めっきの種類・膜厚の指定はめっきの発注で指定することの記事、出荷までの防錆は出荷時の防錆の指定の記事で扱う。
よくある質問
Q. 仕入先の成績書に「塩水噴霧 72 時間 異常なし」とあります。これで足りますか。
足りないことが多い。試験の種類、試験片(平板か部品か)、端面の扱い、何を見て「異常なし」としたのかが分からないからである。JIS Z 2371 が推奨する試験時間の中に 72 時間は入っていない[1]。試験時間は製品規格か協定で決めるものなので推奨値以外でもよいが、なぜその時間なのかと、判定の方法を合わせて確かめる。
Q. 塩水噴霧 500 時間もつ処理なら、屋外で何年もちますか。
規格からは言えない。ISO 9227 は、塩水噴霧試験を長期の耐食性の予測に使うことを意図していないとしている[2]。屋外の塩害に近い評価が要るなら、複合サイクル試験や暴露試験を別に検討する[5]。
Q. 仕入先が社内の試験機で試験しています。第三者の試験所に出すべきですか。
まず、社内の試験機が照合試験片で定期的に検証されているかを確かめる[1]。検証の記録があり、承認時に第三者の試験所と同じ試料で結果を比べておけば、量産の定期試験は社内の試験機で行う形にしやすい。紛争になりそうな部品や顧客の指定がある部品は、承認時だけでも第三者の試験所を使う。
Q. 試験後にさびを落としてから判定するのですか。
どちらで判定するかを決めておく。JIS Z 2371 は試験後の試験片を約 1 時間静置してから洗い流す手順を定め、結果の表し方として、腐食生成物を取り除く前の外観と取り除いた後の外観を別の選択肢にしている[1]。
まとめ
塩水噴霧試験は、試験の方法を規格が決め、試験時間・試験片・判定は発注側と仕入先が決める試験である[1][2]。「何時間」だけを書かず、種類・試験片・端面と人工きず・判定の方法と線・頻度・報告書の中身まで仕様書に書く。結果は寿命の予測ではなく、承認時と量産の品質が同じかを確かめる道具として使う。屋外の塩害を評価したいなら、複合サイクル試験を検討する。
出典・参考資料
- JIS Z 2371:2015 塩水噴霧試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2015 年 6 月改正)
- ISO 9227:2022 Corrosion tests in artificial atmospheres — Salt spray tests(国際標準化機構(ISO)/2022 年 11 月発行)
- JIS K 5600-7-1:1999 塗料一般試験方法-第 7 部:塗膜の長期耐久性-第 1 節:耐中性塩水噴霧性(JIS 検索)(日本産業標準調査会)
- JIS H 8502:1999 めっきの耐食性試験方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月改正)
- ISO 14993:2026 Corrosion of metals and alloys — Accelerated testing involving cyclic exposure to salt mist, dry and wet conditions(国際標準化機構(ISO)/2026 年 5 月発行)
- ISO 16701:2025 Corrosion of metals and alloys — Corrosion in artificial atmosphere — Accelerated corrosion test involving exposure under controlled conditions of humidity cycling and intermittent spraying of a salt solution(国際標準化機構(ISO)/2025 年 6 月発行)
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