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相見積の比較表をExcelから移す——転記・数量の前提・採用後の単価をどう扱うか

この記事のポイント(結論先出し)
相見積の比較表を Excel で作ること自体に問題はない。詰まるのは表の外側で、各社の様式から数字を写す転記、数量の前提が違う単価の混在、採用した結果が単価表や品目の台帳に戻らないことの 3 か所である。数量の前提を取り違えたまま代金を決めると、取適法が買いたたきのおそれがある方法として挙げる「多量の発注を前提に見積りをさせ、その単価で少量を発注する」形に近づく[1]。表は「1 行=1 社×1 品目×1 数量帯×1 版」の縦持ちにすると、Excel のままでも詰まりの半分は減る。それでも件数が増えて転記と戻し作業が追いつかなくなったところが、システムに移す境目になる。
目次
Excel の比較表で、実際に何をしているか
相見積の比較表は、見た目は 1 枚の表だが、作るまでに担当者はいくつもの作業をこなしている。各社から届いた見積書を開き、品番と数量の前提を確かめ、単価・納期・最小発注数・送料の扱いを読み取り、表の決まった欄へ写す。単位が「個」と「セット」で違えば換算し、税抜と税込が混ざっていれば揃える。並べ終わったら上長の決裁を取り、採用先に連絡し、選ばなかった会社に断りを入れ、最後に社内の単価表や品目の台帳を新しい単価に書き換える。
この流れのうち、表計算ソフトが受け持っているのは「並べる」と「計算する」だけである。読み取り、換算、決裁の記録、採用後の書き換えは、すべて人が表の外でやっている。比較表の作り方そのもの、つまり単価の隣にどの項目を並べるかは見積比較表の作り方で整理しているので、ここでは表の外側の作業に絞る。メールと表計算で相見積を回すことの制度上の位置づけは相見積をメールとエクセルで回す限界で扱った。
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詰まるのは、表の外側の 3 か所
1. 各社の様式から数字を写す
見積書の様式は会社ごとに違う。単価が明細の 3 行目にある会社もあれば、合計金額しか書いていない会社もある。型代や治具代を単価に含める会社と、別の行に分ける会社がある。送料を「別途」と一言だけ書く会社もある。比較表を埋めるには、これを 1 社ずつ読み解いて決まった欄へ写さなければならない。
写し間違いは、比較表の中では見つからない。表の計算式は写した数字に対して正しく動くので、桁を 1 つ落としても表は整然としている。見つけるには、表を見るのではなく、元の見積書と 1 セルずつ突き合わせるしかない。品目が 3 つ、社数が 3 社なら突き合わせは 9 か所で済むが、品目が 20 になると 60 か所になる。確認の手間は件数に比例して増え、担当者の時間は増えない。
2. 数量の前提が違う単価が、同じ列に並ぶ
製造業の見積では、単価は数量で変わる。ある会社は 1,000 個以上の単価だけを書き、別の会社は 300 個の単価を書き、さらに別の会社は 100 個・500 個・1,000 個の 3 段階で書いてくる。これを「単価」という 1 つの列に写すと、前提の違う数字が横に並び、いちばん安く見える会社が実際にはいちばん高いことが起きる。
この取り違えは、比較を誤らせるだけで終わらないことがある。公正取引委員会のテキストは、買いたたきに該当するおそれがある方法の最初に、多量の発注をすることを前提として中小受託事業者に単価の見積りをさせ、その見積単価を少量の発注しかしない場合の単価として代金の額を定めることを挙げている[1]。違反行為事例としても、産業用機械の部品の製造委託で 1 個・5 個・10 個製作する場合の見積書を提出させたうえ、10 個製作する場合の単価で 1 個を発注した例が載っている[1]。この単価は 1 個製作する場合の通常の対価を大幅に下回るものだったとされている[1]。
比較表で数量帯を潰してしまうと、悪意がなくても同じ形に近づく。1,000 個の単価で比べて発注先を決め、実際の発注は 300 個なのに、代金まで 1,000 個のときの単価で決めてしまう、という流れである。発注先の選び方を誤るだけなら比較の失敗で済むが、問題になるのは 300 個の代金をどの数量の単価で決めるかである。公正取引委員会が令和 7 年度に勧告・指導した取適法の実体規定違反 7,228 件のうち、買いたたきは 1,006 件で、実体規定違反の小計の 13.9% を占めている[2]。支払遅延・減額に次ぐ件数で、珍しい違反ではない。
3. 採用した結果が、単価表と台帳に戻らない
比較表で発注先と単価が決まっても、それは比較表の中の話である。次に同じ品目を発注するとき、担当者が見るのは比較表ではなく、社内の単価表や品目の台帳であることが多い。比較表から単価表へ、単価表から発注書へと、同じ数字を 2 回写すことになる。
ここで起きるのは二つの事故である。一つは書き換え忘れで、新しい単価で合意したのに単価表は前回のまま、次の発注書に古い単価が載る。もう一つは書き換えの上書きで、新しい単価を入れた瞬間に前の単価が消え、いつ・どの見積で・いくらから変わったのかが分からなくなる。単価をどう持つかは購買単価の持ち方で扱ったので、ここでは「比較表から単価表へ戻す」1 回の作業に何が要るかだけを書く。取引先ごとの単価を一か所に置く方法は取引先ごとの単価を一か所で持つで扱う。
表の組み方を変える——横持ちから縦持ちへ
Excel のままでも、表の組み方を変えるだけで詰まりのいくつかは減る。多くの比較表は、行に品目、列に会社を並べる「横持ち」で作られている。人が眺めるにはこれがいちばん見やすいが、数量帯や版が増えると列が足りなくなり、別のシートに分かれ、最後はどの数字がどの見積から来たのか追えなくなる。
そこで、元データの表を「1 行=1 社×1 品目×1 数量帯×1 版」の縦持ちにし、横持ちの比較表はそこから集計して作る形に分ける。元データの表には次の列を置く。
| 列 | 入れるもの | 無いと何が起きるか |
|---|---|---|
| 依頼番号 | こちらが出した見積依頼ごとの番号 | 同じ品目の別の依頼の回答が混ざる |
| 取引先・品番 | 社内の取引先コードと自社品番 | 表記揺れで同じ会社・同じ品目が別行になる |
| 数量帯 | その単価が前提にしている数量(下限) | 前提の違う単価が同じ列に並ぶ |
| 単価・通貨・税 | 単価と、税抜か税込か、通貨 | 税込と税抜、円と外貨が比べられてしまう |
| 別建て費用 | 型代・治具代・送料など単価に含まれない費用 | 単価だけ安い会社が総額で高くなる |
| 納期・最小発注数 | 回答された納期と最小発注数・ロット | 必要数を超えて買うことに気づかない |
| 版と受領日 | その会社の何通目の見積か、受け取った日 | 古い見積の数字で決めてしまう |
| 元ファイル名 | 保存した見積書のファイル名 | 数字の出どころを確かめられない |
縦持ちにすると、数量帯が 3 段階の会社は 3 行、2 通目の見積を出してきた会社はさらに行が増えるだけで、列は変わらない。比較表は「依頼番号と数量帯で絞り込み、版はいちばん新しいものだけ」という条件で集計すれば作れる。前提の違う単価が同じ列に並ぶことは、構造の上で起きにくくなる。
最後の「元ファイル名」の列は、税務の保存とも関係する。国税庁は、見積書などに相当する電子データをやりとりした場合にはその電子データを保存しなければならず、受け取った場合だけでなく送った場合も対象になるとしている[4]。保存の対象になるのは比較表のもとになった各社の見積書データのほうなので、比較表の行から元のファイルへたどれるようにしておくと、数字の確認と保存の両方に使える。保存するファイル形式は問われず、PDF に変換したものやスクリーンショットでもよいとされている[4]。
数量帯のある見積は、比べる前に「総額」へ直す
数量帯の違う単価を比べる確実な方法は、単価を比べるのをやめて、実際に買う数量での総額に直すことである。下の表は、必要数 300 個の品目に 3 社から見積が届いた場面を想定した架空の例である。
| (架空の例) | 甲社 | 乙社 | 丙社 |
|---|---|---|---|
| 見積書に大きく書かれた単価 | 420 円(1,000 個以上) | 450 円 | 465 円 |
| 300 個のときの単価 | 480 円(300〜999 個) | 450 円(最小発注数 500 個) | 465 円 |
| 別建て費用 | なし | なし | 送料 1 回 3,000 円 |
| 300 個を 1 回買う総額 | 144,000 円 | 225,000 円(500 個を買うことになる) | 142,500 円 |
| 単価の見た目の順位 | 1 位 | 2 位 | 3 位 |
| 総額の順位 | 2 位 | 3 位 | 1 位 |
見積書に大きく書かれた単価で並べると甲社が最安だが、実際に買う 300 個で総額を出すと順位が入れ替わり、丙社が最安になる。乙社は単価だけなら 2 位だが、最小発注数が必要数を上回るので、300 個だけ欲しい場面では総額がいちばん高い。比較表を作るときに「300 個のときの単価」の行を省いて「見積書に大きく書かれた単価」だけを写すと、甲社に 300 個を発注するときにも、代金を 1,000 個以上の単価 420 円のまま決めてしまいかねない。先に引いた取適法のテキストの例が問題にしているのは、この代金の決め方である[1]。
数量帯の付いた見積書を電子データで受け取ったときの保存についても、国税庁は扱いを示している。1 回の見積りに取引条件ごとの複数の見積金額が記録された見積書データを受け取った場合、検索のための記録項目である「取引金額」には、課税期間を通じて自社で一貫した規則性がある限り、どの見積金額を使ってもよいとしている[3]。例として、最も単純な取引条件の金額、実際に発注した金額、最も高い金額または低い金額で検索できるようにしておく方法が挙げられ、課税期間の途中でルールを変えないよう求めている[3]。比較表の運用と保存の運用で、同じ「数量帯のどの金額を代表にするか」を決めることになるので、両方を一度に決めておくとよい。
採用したあとに戻す先を、先に決める
比較が終わって発注先が決まったら、その結果を戻す先は少なくとも三つある。取引先ごとの単価表、品目の台帳に持っている仕入単価、そして最初の発注書である。Excel で回している現場では、この三つが別々のファイルにあり、担当者がそれぞれを手で書き換えている。
戻す作業を確実にするには、次の三点を決めておく。
1. 書き換えるのではなく、行を足す。単価表の前の単価を消さずに、新しい単価を新しい行として足し、どの依頼番号の比較で決まったかを書いておく。上書きすると、なぜその単価なのかを説明できなくなる。
2. 数量帯ごとに戻す。比較表で総額に直して決めた場合でも、単価表には「何個のときの単価か」を付けて戻す。300 個で比べて決めた単価を、数量の注記なしに単価表へ入れると、次に 1,000 個を発注する担当者がその単価を使ってしまう。
3. 決めた理由を残す。最安ではない会社を選んだとき、納期や品質を理由にしたとき、その理由を比較表の欄外ではなく記録として残す。内閣官房と公正取引委員会の指針は、価格交渉を行う都度協議内容を記録し、双方が確認して残すことを求め、人事異動があっても次回以降の交渉をスムーズに始められることを記録の利点に挙げている[5]。同じ指針は、記録の作成を目的化せず、担当者の上司とも共有するなど活用の方法を考えることも求めている[5]。比較の結論も、次の担当者が読める場所に置いてはじめて役に立つ。
Excel のままでよい場合
ここまで詰まる場所を書いてきたが、すべての現場でシステムに移す必要があるわけではない。次の条件がそろっているなら、Excel の比較表を続けるほうが合理的なことが多い。
相見積の件数が月に数件で、品目もそれぞれ 1〜2 点に収まっている。依頼先がいつも同じ 2〜3 社で、見積書の様式がだいたい揃っている。数量帯のある見積がほとんど無い。比較表を作る担当者と、単価表を書き換える担当者が同じ 1 人で、その人が元の見積書との突き合わせに時間を取れている。こうした状態なら、前に書いた縦持ちの元データ表と、行を足す単価表の運用だけで足りる。
反対に、品目が多く 1 件の見積で十数行になる、数量帯付きの見積が普通に届く、比較表を作る人と単価表を直す人が別、といった状態になると、転記と戻し作業のどこかで漏れが出る。漏れは表の中からは見つからないので、気づくのは発注書に古い単価が載ったとき、あるいは取引先から「その数量では見積りしていない」と言われたときになる。
システムに移すときに決めること
比較の作業をシステムに移すときは、画面を選ぶ前に次の四つを決めておくと、移したあとに Excel へ戻らずに済む。
比べる項目の定義。単価・納期・最小発注数・ロット・別建て費用・支払条件・有効期限のうち、どれを必須の回答項目にするか。Excel では会社ごとに書き方が違っても人が読み替えていたが、システムでは回答の欄そのものを揃えることになる。依頼書に書く項目は見積依頼書に書くべき項目と対応させる。
採用の単位。1 つの依頼で 1 社を選ぶのか、品目ごとに別の会社を選ぶのか。品目ごとに分けて採用する運用なら、依頼の段階から品目ごとに分けて出すか、採用の単位が品目ごとになっている道具を選ぶ必要がある。
採用後に何を更新するか。採用した単価が取引先別の単価に反映されるのか、品目の仕入単価まで変わるのか、発注書の単価は何を初期値にするのか。ここが Excel の「戻し作業」の置き換えになるので、道具ごとに違いを確かめる。
過去の比較表の扱い。過去の比較表を新しい仕組みへ移し込む必要は、たいていない。過去分は見積書の元ファイルと一緒に PDF で保存し、新しい依頼から新しい仕組みで回す。移行の順番はExcel の購買業務をシステムに移す順番で扱う。見積依頼そのものをメールの添付から外す方法は見積依頼をメール添付で出さないに分けた。
よくある質問
比較表そのものも保存しなければなりませんか
国税庁が保存を求めているのは、取引に関してやりとりした見積書や注文書などに相当するデータで、受け取ったものと送ったものの両方である[4]。社内で作った比較表は相手とやりとりしたデータではないので、保存の義務として挙げられている書類には当たらないと読める。ただし、決めた理由を説明する資料として、比較表は元の見積書と一緒に残しておくほうがよい。
選ばなかった会社の見積書は捨ててよいですか
国税庁は、連絡ミスによる誤りや単純な書き損じがあるもの、事業の検討段階で作られた正式な見積書前の粗々なもの、取引を希望する会社から一方的に送られてくる見積書などは保存の必要がないとしている[3]。こちらから依頼して返ってきた見積書は、選ばなかったとしてもこれに当たらないので、比較表に使った見積書は残しておく。
数量帯ごとの単価を全部取るのは、相手の負担になりませんか
なる。数量帯は、実際に発注する可能性がある数量に絞って依頼するのがよい。使う見込みのない大きな数量の単価を取って比較の材料にすると、先に書いた買いたたきのおそれがある方法に近づく[1]。必要な数量帯を先に決め、それだけを依頼書に書く。
見積の内容が後から変わったら、比較表はどうしますか
比較表を直すのではなく、新しい版の見積を受け取り、元データの表に行を足す。公正取引委員会のテキストは、見積書の提出後に作業内容が当初の予定を大幅に上回ることになった場合、当初の見積単価で発注すれば十分な協議が行われたとはいえず買いたたきに該当するおそれがあるとし、申出の有無にかかわらず最終的な作業内容を反映した再見積りを取って単価を見直す必要があるとしている[1]。版の列があれば、どの版の数字で決めたかがあとから分かる。
まとめ
相見積の比較表を Excel で作ることは、件数が少ないうちは十分に回る。詰まるのは表の中ではなく、各社の様式から写す転記、数量の前提が違う単価の混在、採用した単価を単価表と台帳へ戻す作業の 3 か所である。数量帯を潰したまま代金まで決めると、多量の発注を前提にした単価で少量の代金を定めるという、取適法のテキストが買いたたきのおそれがある方法として挙げる形に近づく[1]。
Excel のまま続けるなら、元データを「1 行=1 社×1 品目×1 数量帯×1 版」の縦持ちにし、実際に買う数量の総額で比べ、採用した単価は上書きせず行を足して戻す。それでも転記と戻し作業が担当者の時間を超えるようになったら、比べる項目・採用の単位・採用後に更新するものの三つを決めたうえで、比較の作業をシステムに移すとよい。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください【令和 6 年 1 月以降用】(国税庁/令和 5 年 7 月)
- 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(内閣官房・公正取引委員会/令和 5 年 11 月 29 日・令和 8 年 1 月 1 日改正)
比較した結果を、単価表へ手で戻さない
この記事で扱った項目のうち、Newji one では、見積依頼に届いた各社の回答を比較テーブルで並べて見比べ、比較表を PDF で出力できます。回答を採用すると、その取引先の単価・リードタイム・最小発注数・ロットと品目の仕入単価が更新され、変更の履歴が残ります。採用した回答から、そのまま発注を作ることもできます。ただし、品目の仕入単価は数量の前提を持たない 1 つの値です。数量別単価も品目に 1 組しかなく、取引先ごとには分かれません。採用した回答が数量別単価を含んでいれば差し替わりますが、含んでいなければそれまでに登録されていた段(以前の採用分や手入力の分)が残るので、別の取引先の段階が表示されていることもあります。発注するときは、数量に合った単価になっているかを確かめてください。なお、採用できるのは 1 つの見積依頼につき 1 社です。品目ごとに別の会社を選ぶ場合は、依頼を分けて出してください。
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