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分納を Excel の発注台帳で追う限界——回ごとの受領日をどこに持つか

この記事のポイント(結論先出し)
1 本の発注を何回かに分けて納めてもらうとき、Excel の発注台帳が崩れる原因はほぼ一つに絞られる。台帳の 1 行が「発注 1 本」で、分納の「回」を持つ場所がないことである。そのため残数の列を上書きし、何日に何個届いたかは備考欄とメールに散っていく。ところが法令が回ごとに求めるものは多い。取適法の対象取引では、支払期日の起算日は給付を受領した日で[1]、7 条記録には受領した給付の内容と受領した日を残す必要がある[1]。システムに移すときに先に決めるのは、画面の使い方ではなく「回をどこに持つか」(発注を分けるのか、1 本の発注の下に納入の予定を並べるのか)と、移行の時点で分納の途中にある発注をどう扱うかの二つである。分納が月に数件で担当が 1 人なら、Excel でも行の作り方を変えれば回る。
目次
いま Excel とメールで、分納をどう回しているか
分納の管理を Excel で始めると、たいていは次の形に落ち着く。発注台帳の 1 行が 1 本の発注で、品番・数量・単価・希望納期・取引先の列が並ぶ。分けて納めてもらうことが決まると、備考欄に「3 回に分けて納品」と書き、入荷のたびに「入荷済数」と「残数」の列を書き換える。何日に何個届いたかは備考欄に追記するか、納品書の紙を発注書の控えと一緒に綴じておく。回ごとの日程は、仕入先とのメールで「今週 400、来週 300、月末に残り 300」と決まる。
この形は、分納が珍しいうちは困らない。発注の大半は 1 回で納まり、分納は年に何件かの例外だからである。困り始めるのは、分納が当たり前になったときだ。長いリードタイムの部品を年間の数量でまとめて発注し、月ごとに引き取る。量産立ち上げで、初回だけ少量を先に入れてもらう。仕入先の生産能力の都合で、数回に分けてしか出せない。こうした取引が増えると、1 行 1 発注の台帳に、回の情報を無理に詰め込むことになる。生産管理の用語を定めた JIS Z 8141 は、分納制度を「多量の注文量を,発注者の要請に基づき数回に分割して納入する方式」と定義し、生産の平準化と在庫低減のメリットがあるとしている[6]。発注する側が望んで始める方式である以上、回を記録する仕組みも発注する側が用意することになる。
分納の取り決めそのもの(発注を分けるのか、納入だけ分けるのか、4 条明示や支払期日がどう動くのか)は発注の分割と分納をどう管理するかで詳しく扱っている。この記事は、その取り決めを Excel とメールで回している職場が、どこで詰まり、システムに移すときに何を決めればよいかに絞る。
どこで詰まるか
残数を上書きすると、経緯が消える
「入荷済数」と「残数」の列を入荷のたびに書き換えると、台帳に残るのは最新の値だけになる。残数 300 という値から、400 と 300 が別々の日に届いたのか、700 が一度に届いたのかは読み取れない。誰かが誤って 700 と打ち、後から 400 に直したとしても、直した事実は残らない。月末に仕入先から「2 回目の 300 は納めたはず」と言われたとき、台帳だけでは答えられず、納品書の紙かメールを探しにいくことになる。
受領日が 1 列に入らない
取適法の対象となる取引では、代金の支払期日は、検査をするかどうかを問わず、委託事業者が給付を受領した日から起算して 60 日以内で、かつできる限り短い期間内に定めることになっている[1]。分納であれば、受領した日は回の数だけある。1 行 1 発注の台帳には「納品日」の列が 1 つしかないので、最終回の日付を書くか、空欄のまま残すかのどちらかになる。最終回の日付から支払を組むと、最初に受け取った分の支払が遅れる。
念のため付け加えると、ここで「受領日から 60 日」を暦の日数で数え直す必要はない。公正取引委員会は「受領後 60 日以内」を「受領後 2 か月以内」として運用しており、毎月末日納品締切・翌月末日支払の締切制度で受領から 61 日目や 62 日目の支払になる場合も、支払遅延として問題とはしていない[1]。問題になるのは日数の数え方ではなく、どの回をどの締めに入れたかが台帳から分からなくなることである。
納品書と台帳がつながらない
分納では納品書も回の数だけ届く。請求書は月にまとめて来ることが多く、そこには納品書の番号が並ぶ。国税庁のQ&Aは、納品書と月まとめの請求書のように複数の書類で適格請求書の記載事項を満たす場合について、書類相互の関連が明確で、取引内容を正確に認識できる方法(例えば請求書に納品書番号を記載するなど)で交付されていればよいとしている[3]。これは売り手の側の話だが、受け取る側から見れば、請求書の納品書番号を台帳のどの回と照らすかという問題になる。台帳に回ごとの行が無ければ、照らし合わせる先がない。
日程の変更がメールに埋まる
「2 回目を 1 週間後ろにずらせないか」「3 回目は今回いらない」といった変更は、メールか電話で決まり、台帳には反映されないか、希望納期の列が黙って書き換わる。取適法の 7 条記録は、給付の内容を変更させた場合にはその内容と理由を記録事項に含め、記載は事実が生じたときに速やかに行うこととしている[1]。変更の扱いそのものは発注後の変更とキャンセルを記録に残すに譲るが、分納は回の数だけ変更の機会が増えるので、メールに埋もれる量も増える。
回の合計が、元の発注と合わなくなる
回ごとの数量を備考欄に手で書いていると、合計が元の発注数量と一致しているかを誰も確かめない。400+300+300 のつもりが、変更の途中で 400+300+200 になっていても、残数の列は 100 のまま止まっている。発注残(JIS Z 8141 の定義では「発注済みであるがまだ手元に届いていない在庫量」[6])を数える段で初めて合わないことに気づく。発注残の数え方そのものは発注残の数え方と追い方で扱っている。
法令と帳簿の側から見た「回ごとに残すもの」
分納で回ごとに残すものを、出どころ別に並べると次のようになる。取適法の欄は対象取引の場合の話で、資本金や従業員数の基準に当たらない取引には適用されない。
| 回ごとに要るもの | 1 行 1 発注の Excel で起きること | 出どころ |
|---|---|---|
| 受領する期日と数量(予定) | 希望納期の列が 1 つしかなく、回の予定は備考欄かメール | 4 条明示の「給付を受領する期日」[1] |
| 受領した給付の内容と受領した日(実績) | 残数の上書きで消える | 7 条記録[1] |
| 検査を完了した日と結果 | 回ごとの合否を書く列がない | 7 条記録[1] |
| 支払期日 | 最終回の日付で組まれやすい | 取適法第 3 条(受領日から起算)[1] |
| 納品書の番号 | 紙の綴りにしか無い | 請求書との照合(納品書番号で関連づける例)[3] |
| 受け取った納品書そのもの | メールで来た PDF が個人の受信箱に残る | 電子取引データの保存[2]・書類の 7 年保存[5] |
電子メールで受け取った納品書や請求書の PDF は電子取引に当たり、令和 3 年度の税制改正後は、データを出力した書面を保存してもデータの保存に代えられない[2]。法人税の側でも、取引に関して作成または受領した書類は、確定申告書の提出期限の翌日から 7 年間保存することになっている[5]。分納で回の数だけ書類が増えると、どの回の書類かを台帳から引けることの意味が大きくなる。
具体的な数字で見ておく。1,000 個を 3 回に分け、毎月末日納品締切・翌月末日支払で取引しているとする。
| 回 | 予定 | 受領日と数量 | 入る締め | 支払日 |
|---|---|---|---|---|
| 1 回目 | 4 月 10 日・400 個 | 4 月 10 日・400 個 | 4 月末締め | 5 月末 |
| 2 回目 | 4 月 24 日・300 個 | 5 月 1 日・300 個(1 週間遅れ) | 5 月末締め | 6 月末 |
| 3 回目 | 5 月 22 日・300 個 | 5 月 22 日・300 個 | 5 月末締め | 6 月末 |
1 行 1 発注の台帳では、この 3 行が「入荷済 1,000・残 0・納品日 5 月 22 日」の 1 行に縮む。2 回目が 1 週間遅れて締めをまたいだことも、1 回目の支払が 5 月末に来ることも、台帳からは読めない。
システムに移す前に決めること
1. 回をどこに持つか
持ち方は二つある。一つは、発注そのものを回ごとに分け、それぞれに発注番号と納期を付ける形。もう一つは、1 本の発注の下に「納入予定」の行を回の数だけ持たせる形である。前者は、回ごとに状態(送付済み・出荷・入荷)を追いやすく、入荷の記録も回ごとに付けられる。後者は、発注書が 1 枚のまま済み、仕入先から見て 1 本の注文として扱える。どちらを選ぶかは、使うシステムが何を持てるかと、仕入先との取り決めで決まる。取り決めの側の考え方は分割と分納の記事を見てほしい。
大事なのは、どちらにするかを品目や担当ごとにばらばらにしないことである。ある担当は発注を分け、別の担当は備考欄に回を書く、という状態でシステムに移すと、Excel の頃と同じ崩れ方をする。
2. 分けた発注どうしをどう結ぶか
発注を回ごとに分けるなら、元の発注との関係を残す。「元の発注番号から分けた何本目か」が分かる番号の付け方にするか、分けた発注に元の番号を持たせる。分けた数量の合計が元の数量と一致することを、分ける時点で確かめる仕組みがあるとよい。7 条記録を別々の書類や電磁的記録に分けて残す場合は、相互の関係を明らかにすることが求められている[1]。分けた発注が互いにつながっていないと、この関係を後から説明できない。
3. 一部だけ届いたときの扱いを決める
予定の 400 個のうち 350 個しか届かなかったとき、その 350 個をどう記録するかは、使う仕組みによって答えが変わる。入荷を発注の数量どおりにしか記録できない仕組みなら、残り 50 個のために発注をさらに分けるか、仕入先と回の予定を組み直す必要がある。部分的な入荷を記録できる仕組みなら、残りは発注残として数え続ける。どちらでもよいが、移す前に「一部だけ届いたらどうするか」を決めておかないと、現場で備考欄に戻ってしまう。不合格品が出たときの扱いは受入と検査の結果を記録に残すで扱う。
4. 回の予定の変更を、誰がどこに残すか
回の日程が動いたら、台帳の値を黙って書き換えるのではなく、変更したこと・誰が受けたか・理由を残す。7 条記録を電磁的記録で作る場合は、記録事項を訂正または削除したときにその事実と内容を確認できることが要件になっている[1]。Excel のセルを上書きする運用は、この要件と相性が悪い。
5. 移行の時点で分納の途中にある発注をどうするか
移行で一番扱いに困るのが、1 回目は届いたが 2 回目以降が残っている発注である。旧の台帳で最後の回まで完結させるか、残っている回だけを新しい仕組みに移すかを、発注ごとに決める。残っている回だけを移すなら、既に受け取った回の受領日と数量を旧の台帳で確定させてから、残りの数量と予定を移す。移行全体の進め方は受発注システムへのデータ移行とExcel の購買業務をシステムに移す順番に書いた。
Excel のままでよい場合と、続けるなら変えること
分納が月に数件で、発注も入荷も同じ 1 人が見ているなら、Excel のままでも回る。そのかわり、台帳の作り方を一つ変える。1 行を「発注 1 本」ではなく「発注×回」にすることである。発注番号の列に枝番を付け、行ごとに予定日・予定数量・受領日・受領数量・納品書番号・検査結果を持たせる。残数は行の合計から計算で出し、手で書き換えない。
この形にすると、受領日ごとに締めを判定でき、請求書の納品書番号から行を引ける。財務報告の内部統制の基準も、統制活動の例として「継続記録の維持」と「適時の実地検査」を挙げている[4]。月末に台帳の受領数量の合計と、倉庫の入荷の記録を突き合わせる手順を一つ置けば、上書きで消える事故はかなり減る。
Excel では足りなくなる目安は、次のどれかに当てはまったときである。分納の発注が常に十数件以上並んでいる。入荷を受ける人と台帳を書く人が別である。同じ台帳を複数の担当が同時に開く。回の予定の変更が週に何度も来る。こうなると、枝番の付け忘れや、同時に開いた台帳の上書きが避けられなくなる。最新版がどれか分からなくなる問題は購買のファイルの最新版問題で扱っている。
よくある質問
分納の各回に、別々の注文書を出し直す必要がありますか
取適法のテキストの Q&A は、デザインと印刷を同時に発注する場合について、4 条明示を 1 つにまとめられるなら発注内容ごとに分けなくてよいと答えている[1]。分納を直接扱った問答ではないが、同じ考え方を当てはめれば、回ごとの受領期日と数量が特定できる形で書かれている限り 1 枚で足りると考えられる。書けない場合の扱いは分割と分納の記事を参照してほしい。システムで発注を回ごとに分ける場合は、分けた発注書を取引先にどう届けるかも決めておく。
最後の回が届いてからまとめて支払ってもよいですか
取適法の対象取引では、支払期日の起算日は回ごとの受領日である[1]。最後の回を待ってまとめると、先に受け取った分の支払が期日を過ぎるおそれがある。締切制度を使っているなら、回ごとの受領日でどの締めに入るかを決め、その締めの支払日に払う。
納品書の紙を綴じておけば、台帳に受領日を書かなくてもよいですか
紙の納品書は受領の事実を示す手がかりになるが、7 条記録は受領した日と受領した給付の内容を記録することを求め、書類でも電磁的記録でも取引先別に記載または記録することになっている[1]。綴りから毎回拾い出すのでは、検査のときにも月末の照合のときにも時間がかかる。台帳の回の行に受領日と納品書番号を書いておけば、綴りは原本の保管場所として使える。
仕入先の都合で 1 回分が遅れたとき、台帳には何を書けばよいですか
予定日は消さずに残し、実際の受領日を別の列に書く。予定と実績を同じセルで上書きすると、遅れたこと自体が記録から消える。遅れの扱い(督促や納期の再設定)は納期を過ぎた発注の一覧の作り方に書いた。
まとめ
分納が Excel で崩れるのは、台帳の 1 行が発注 1 本で、回を持つ場所がないからである。残数の上書きで経緯が消え、受領日が 1 列に入らず、納品書と台帳がつながらない。法令の側は、受領日・受領した給付の内容・検査の結果・支払期日を回ごとに求めている。システムに移すときは、回を「分けた発注」で持つか「1 本の発注の下の予定」で持つかを決め、分けた発注どうしの関係、一部だけ届いたときの扱い、予定の変更の残し方、移行時点で途中にある発注の扱いを先に決める。分納が少なく担当が 1 人なら、行を発注×回に変えた Excel で十分に回る。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(国税庁 軽減税率・インボイス制度対応室/平成 30 年 6 月・令和 8 年 5 月改訂)
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- No.5930 帳簿書類等の保存期間(国税庁)
- JIS Z 8141:2022 生産管理用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
分納の回を、分けた発注として持つ
Newji one は、製造業の見積依頼から発注までを扱う見積・発注クラウドです。この記事で扱った項目のうち、Newji one では 1 本の発注を、品目ごとの数量の合計を元の発注と揃えたまま複数の発注に分け、それぞれに希望納期を付けられます(合計が合わないと分けられません)。分けた発注には元の発注番号が残り、ステータスも分けた発注ごとに進みます。入庫は分けた発注ごとに全数で記録する形で、1 本の発注の一部だけを入荷として記録する機能や、分納の回ごとの納品書を発行する機能はありません。
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