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投稿日:2026年10月16日

高力ボルト F10T・S10T(トルシア形)の指定——JIS B 1186 のセットと大臣認定、建築と機械の違い

この記事のポイント(結論先出し)

鉄骨・橋の摩擦接合に使う高力六角ボルトは、ボルト 1 個・ナット 1 個・座金 2 個の「セット」として JIS B 1186 で規格化されている。現行の 2013 年版が定めるのは F8T(1 種)と F10T(2 種)の 2 等級で、セットはさらにトルク係数値の範囲で A と B に分かれる。一方、丸頭でピンテールを持つトルシア形の S10T には JIS がなく、日本鋼構造協会の規格(JSS II 09)や日本道路協会の基準、建築ではメーカーごとの国土交通大臣認定によって使われている。機械の締結に使う強度区分 10.9 のボルト(JIS B 1051)とは規格の体系が別なので、発注書では「高力ボルト」という言葉に頼らず、規格番号・種類・トルク係数値の種類・ねじの呼び×長さを書き、S10T なら認定番号と製造業者まで指定する。

高力ボルトは「セット」で買う——JIS B 1186 の構成

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建築鉄骨や鋼橋の現場継手では、ボルトの締付け力で鋼材どうしを強く押し付け、接触面の摩擦で力を伝える摩擦接合が広く使われている。この用途の高力六角ボルトを定めているのが JIS B 1186(摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット)で、2013 年 6 月 20 日に改正され、2023 年 10 月 20 日に確認されている。適用範囲は「主として鋼構造に使用する」セットで、対応する国際規格は制定されていない[1]。

この規格の単位は部品ではなくセットである。セットはボルト 1 個、ナット 1 個、座金 2 個で構成し、種類は構成部品の機械的性質によって 1 種と 2 種、さらにトルク係数値によってそれぞれ A と B に分けると定めている。1 種のボルトは F8T、2 種のボルトは F10T で、ナットは F10、座金は F35 の等級を組み合わせる[1]。ボルトの「F」は摩擦接合用、数字は引張強さを表し、F10T のボルト試験片は耐力 900 N/mm² 以上、引張強さ 1 000〜1 200 N/mm² と決められている[1][3]。

セット単位で規格化されている理由は、締付け時のトルクと軸力の関係(トルク係数値)をロットとして保証しているからである。鋼構造用ボルトの用鋼材を解説した 2002 年の論文は、高力ボルトが一般のボルトと違う点として、ボルト・ナット・座金のセットで種類・形状・機械的性質を規格化し、トルク係数値が一定になるように製造管理していることを挙げ、トルク係数値は他の機械的性質と違って、ボルト・ナット・座金のセットとして取り扱わなければならない性質のものだと書いている[6]。トルク係数値の数値や締付けトルクの決め方は締付けトルクの記事で扱っているので、ここでは発注・受入の側から見る。

現行の JIS B 1186 にあるのは F8T と F10T

JIS B 1186:2013 の表 1(セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ)に並んでいるボルトの等級は F8T と F10T の二つである[1]。前述の 2002 年の論文は、当時の JIS が F8T・F10T・F11T を規格化し、F11T は遅れ破壊の危険性から括弧付きで「なるべく使用しない」とされていたと記している[6]。古い図面や社内標準に F11T の記載が残っていても、現行の JIS B 1186 の種類としては発注できない。国土技術政策総合研究所の用語解説も、F13T と F11T では実橋で突然破断する遅れ破壊が起き、鋼道路橋では 1980 年から F11T 以上の高力ボルトの新規採用を見送っているとしている。同じ解説は、遅れ破壊の対策を施した F11T 以上の高力ボルトが開発され、建築分野で使用実績があることも付け加えている[3]。

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S10T(トルシア形)には JIS がない

トルシア形高力ボルトは、頭が丸く、ねじ部の先にピンテールと呼ぶ突起があり、専用の締付け機でナットを回すと所定の締付け力に達したところでピンテールの根元が破断する。国総研の用語解説は、こうした種類のボルトには一般に S の記号を付けて S10T などと表記し、トルシア形高力ボルトについては JIS の規定がなく、道路橋では日本道路協会の「摩擦接合用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット」によることが一般的だと説明している[3]。2002 年の論文は、建築を含む鋼構造向けには日本鋼構造協会の規格 JSS II 09(構造用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金のセット)があり、S10T(1 000〜1 200 N/mm²)の 1 等級、M16〜M30 が規格化されていると書いている[6]。

建築に使う場合の扱いはさらに違う。建築基準法第 37 条は、構造上重要な部分に使う指定建築材料について、国土交通大臣の指定する日本産業規格に適合するもの、または大臣が定める技術的基準に適合することについて大臣の認定を受けたもののどちらかでなければならないと定めている[4]。日本建設業連合会の鉄骨工事 Q&A は、トルシア形高力ボルトは建築と土木(橋梁)で規格の内容(すべり係数の取り方:土木 μ=0.40、建築 μ=0.45)が違うため統一規格にするのが難しく、建築基準法では JIS 適合品の代わりにメーカーごとに大臣の一般認定を得たものが使えると説明している。同じ Q&A には、大臣認定を取得した製造業者と認定番号の一覧も載っている[7]。

形状にも JIS 品との違いがある。日建連の別の Q&A によれば、トルシア形高力ボルトの 1 組は丸頭のボルト、座金 1 枚、ナットで構成し、座金はナット側に使う。丸頭の座面を同径のナットの座面より大きくすることで頭部側の座金が不要になったもので、そのためボルトの首下長さは JIS 規格適合品に比べて一般的に 5 mm 短い[8]。F10T から S10T に設計変更したときに長さを読み替えないと、注文した長さで届いても使えない。

建築基準法施行令が決めている高力ボルト接合の条件

建築物に使う場合は、部品の規格のほかに、建築基準法施行令が接合の方法そのものを決めている。第 67 条は、構造耐力上主要な部分である鋼材の接合を、炭素鋼なら高力ボルト接合・溶接接合・リベット接合(またはこれらと同等以上の効力を持つとして大臣認定を受けた接合方法)によらなければならないとしている。ただし、軒の高さが 9 m 以下・張り間が 13 m 以下などの小規模な建築物では、ボルトが緩まない措置を講じたボルト接合によることができる[5]。

第 68 条は孔と間隔を決めている。高力ボルト・ボルト・リベットの相互間の中心距離は径の 2.5 倍以上、高力ボルト孔の径は高力ボルトの径より 2 mm を超えて大きくしてはならず、径が 27 mm 以上で構造耐力上支障がない場合は 3 mm まで大きくできる。普通のボルトの孔は、ボルトの径より 1 mm(径 20 mm 以上で支障がなければ 1.5 mm)を超えてはならない[5]。鋼材の孔あけを外注するときは、ボルトの種類ごとに孔径の上限が違うことを加工図に反映させる。第 92 条の 2 は、高力ボルト摩擦接合部の許容せん断応力度を、高力ボルトの品質に応じて大臣が定める基準張力をもとに計算すると定めている[5]。設計で使った基準張力の前提と、納入されるボルトの規格・認定が一致していることが、発注で確かめるべき点である。

機械用の強度区分 10.9 とは別の体系

機械や装置の締結に使うボルトの機械的性質は、JIS B 1051(ISO 898-1 に一致)が強度区分で定めている。この規格は炭素鋼・合金鋼製のボルト、小ねじ、植込みボルトに適用し、一般用メートルねじの M1.6〜M39 の並目ねじなどを対象とする[2]。強度区分 10.9 のボルトは引張強さの水準では F10T に近いが、規格の目的が違う。JIS B 1051 は部品単体の機械的性質を決めていて、ナットや座金と組んだときのトルク係数値は保証していない。また、強度区分 12.9 の製品を使う場合は注意が必要で、製造業者の技量、使用環境及び締付け方法を考慮しなければならず、環境によってはめっきをしていなくても遅れ破壊を生じるおそれがあると注記している[2]。

現場で「ハイテンボルト」「高力ボルト」と呼ばれるものには、JIS B 1186 のセット、トルシア形の認定品、機械用の強度区分 10.9 のボルトが混在しやすい。機械の締結部品の強度区分の指定は強度区分の記事で扱っている。鉄骨の継手に機械用のボルトを流用することも、機械部品に JIS B 1186 のセットをばらして使うことも、それぞれの規格の前提から外れる。

三つのボルトの違い(比較表)

項目 F10T(JIS B 1186 の 2 種) S10T(トルシア形) 強度区分 10.9(JIS B 1051)
根拠 JIS B 1186:2013 JIS なし。JSS II 09・日本道路協会の基準、建築はメーカーごとの大臣認定 JIS B 1051:2014(ISO 898-1:2013)
購入の単位 ボルト 1・ナット 1・座金 2 のセット ボルト 1・ナット 1・座金 1 のセット(座金はナット側) 部品単体(ナットは別規格)
引張強さ 試験片で 1 000〜1 200 N/mm² 1 000〜1 200 N/mm²(JSS II 09) JIS B 1051 の表で規定
締付けの管理 トルク係数値の種類 A(平均 0.110〜0.150)・B(0.150〜0.190)を保証 専用締付け機でピンテールが破断するまで締める トルク係数値の保証なし
主な用途 鋼構造の摩擦接合 建築鉄骨・鋼橋の摩擦接合 機械・装置の締結全般

JIS B 1186 は、ボルト製品の引張荷重(最小)も、ねじの呼びごとに表 3 で決めている。F10T では M16 が 157 kN、M20 が 245 kN、M22 が 303 kN、M24 が 353 kN で、表 3 の値未満で破断せず、頭とびもしてはならない[1]。全サイズの値は規格の表 3 を見る。

施工の管理は道路橋・鉄道・建築で基準が違う

締付けの手順や検査は部品の規格ではなく、用途ごとの施工基準が決めている。鋼橋技術研究会の高力ボルト継手施工部会が 2020 年にまとめた調査は、道路橋示方書・鉄道構造物等設計標準・日本建築学会の高力ボルト接合設計施工ガイドブックなどを比べている。それによると、2016 年版の建築の基準は F8T を削除して F10T と S10T を対象にしている。トルシア形の締付けは各基準とも専用締付け機で行い、ピンテールの切断を全数目視で確認し、マーキングによる外観検査も行うことになっている[9]。

同じ調査は保管の扱いもまとめていて、いずれの基準も、工場での検査成績書と照合して品質の保証されたものであることを確認すること、工場包装のまま湿気を与えないよう保管庫に保存すること、出荷から施工までの期間を短くすることを求めている。道路橋の施工便覧と鉄道の標準は、保管期間を 6 か月を目安とするなど、より具体的な期間まで書いている[9]。セットのトルク係数値は潤滑と表面の状態で決まるので、包装を開けて小分けにしたり、長く置いたりすると前提が崩れる。購買としては、使う時期に合わせて納入を分けることが品質の管理にもなる。

発注書・購入仕様に書くこと

JIS B 1186 は製品の呼び方を、規格番号又は規格名称、セットの機械的性質による種類、トルク係数値による種類、ねじの呼び×ボルトの長さ、指定事項の順に書くと決めていて、例として「JIS B 1186 1 種 B M16×50」を挙げている[1]。これを基本に、次の項目をそろえる。

1. 規格と種類
F10T なら「JIS B 1186 2 種」。トルク係数値の A・B は締付け機の調整や施工要領に影響するので、施工側の指定に合わせる。

2. ねじの呼びと長さ
ねじは JIS B 0205-3 のメートル並目ねじで、M12〜M30 が規格の範囲である[1]。S10T に替える場合は首下長さの違いを施工側に確かめる。

3. トルシア形の場合の製造業者と認定
建築に使う S10T は、メーカーごとの大臣認定品である[7]。認定番号と製造業者を指定し、同等品への切り替えは設計者の了承を条件にする。

4. 表面処理
F10T・S10T のセットに、購買の判断でめっきを追加で指定しない。鋼橋技術研究会の調査によれば、道路橋・鉄道の基準では、溶融亜鉛めっき高力ボルトは F8T で、日本規格協会による規格化はされておらず JIS B 1186 を準用している。道路橋示方書や鉄道構造物等設計標準はトルク法を基本とし、溶融亜鉛めっき高力ボルト(F8T)のみナット回転法を適用している[9]。めっきが要る箇所なら、設計者に等級・認定品かどうか・締付け方法を確かめてから手配する。建築で使う溶融亜鉛めっき高力ボルトの扱いは溶融亜鉛めっきの記事でも触れている。

5. 検査成績書と納入の単位
セットロットごとの検査成績書を求め、包装単位のまま納入させる。

受入で確かめること

JIS B 1186 は表示も決めている。ボルトの頭部上面には機械的性質による等級(F8T または F10T)と製造業者の登録商標又は記号を、ナットの上面には等級の表示記号(F10)を、浮き出し又は刻印で表示しなければならない。座金には等級を示す記号を表示しない。包装には、規格名称、セットの機械的性質による種類、トルク係数値による種類、ねじの呼び×長さ、数量、指定事項、製造業者名又は登録商標、セットのロット番号、セットの検査年月を明瞭に表示しなければならない[1]。受入では、包装の表示と検査成績書のロット番号・検査年月を突き合わせ、頭部の刻印が発注した等級と一致していることを見る。

JIS B 1186 のセットロットは、ボルト・ナット・座金がそれぞれ一つの製造ロットから構成されることを基本とする[1]。現場で余った部品を別の箱のものと組み合わせると、検査成績書のトルク係数値は当てにできない。鉄骨の溶接部を含む部材を外注するときの指定は溶接の指定の記事で扱っている。

よくある質問

Q. F10T と S10T は同じ強さなので、図面を読み替えて置き換えてよいか。
A. 発注側だけで判断しない。S10T は JIS がなく、建築ではメーカーごとの大臣認定品であり、締付けの方法も首下長さも違う。設計者と施工者の了承を得てから切り替える。

Q. 機械用の強度区分 10.9 のボルトを「高力ボルト」として買ってよいか。
A. 用途による。鉄骨の摩擦接合なら JIS B 1186 のセットか認定品が前提で、10.9 のボルトはトルク係数値を保証していない。機械の締結なら JIS B 1051 の強度区分で指定するのが正しい。

Q. 古い図面に F11T と書いてある。
A. 現行の JIS B 1186 の種類には F11T がない。遅れ破壊の問題で使用が控えられてきた経緯があるので、設計者に現行の等級への読み替えを確認する。

ねじそのものの互換性で迷うものは、インチ系のユニファイねじの記事、薄板の片側から留める部品はブラインドリベットの記事、鋼材に植え込んで使うボルトは植込みボルトの記事で扱っている。設備の配管まわりの部品は、管用ねじの記事と油圧ホースの記事を参照してほしい。

まとめ

摩擦接合用の高力六角ボルトは JIS B 1186 のセットで、現行の等級は F8T と F10T、トルク係数値で A・B に分かれる。トルシア形の S10T は JIS ではなく、JSS II 09・日本道路協会の基準や、建築ではメーカーごとの大臣認定によって使われ、座金の数や首下長さも JIS 品と違う。建築では施行令が孔径や中心距離まで決めている。機械用の強度区分 10.9 とは目的も保証の範囲も別なので、発注書には「高力ボルト」ではなく規格番号・種類・トルク係数値の種類・ねじの呼び×長さを書き、認定品なら認定番号と製造業者を指定し、受入では刻印・包装・検査成績書のロットを突き合わせる。

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出典・参考資料

  1. JIS B 1186:2013 摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2013 年 6 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
  2. JIS B 1051:2014 炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-強度区分を規定したボルト,小ねじ及び植込みボルト-並目ねじ及び細目ねじ(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2014 年 9 月 22 日改正)
  3. 土木用語解説「S10T」「F10T」の規格(国土技術政策総合研究所 橋梁研究室/一般財団法人土木研究センター「土木技術資料」2015 年)
  4. 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  5. 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  6. 鋼構造に使用されるボルト用鋼材(並村裕一/鉄と鋼 Vol.88 No.10・日本鉄鋼協会/2002 年)
  7. 鉄骨工事 Q&A B-2-14 何故トルシア形高力ボルトは JIS 規格化されないのか?(日本建設業連合会 鉄骨専門部会/2016 年 7 月改訂)
  8. 鉄骨工事 Q&A B-2-15 トルシア形高力ボルトの丸頭側には、座金は何故不要なのか?(日本建設業連合会 鉄骨専門部会/2016 年 7 月改訂)
  9. 高力ボルト継手施工部会 報告書 Ⅰ.ボルト施工に関する調査(鋼橋技術研究会/2020 年)

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