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銅めっきの発注で指定すること——下地・厚さ・用途を JIS H 0404 の記号で書く

この記事のポイント(結論先出し)
銅めっきには、亜鉛やニッケルのような「銅めっき単独」の JIS 製品規格が見当たらない。JIS H 0404 が関連規格に挙げる電気めっきの規格の中にも無く[1]、銅は主にニッケル・クロムめっきの下地として JIS H 8617 や JIS H 8630 に出てくる[2][3]。だから発注では、JIS H 0404 の記号で素地・銅の最小厚さ・タイプ・上に重ねるめっきまで書き、用途(下地・導電・電磁波シールド・配管内面など)を添える。鉄鋼素地に銅だけを付けると、皮膜が傷ついたところで素地の腐食を強めるおそれがある[5]。高強度の鋼では、同じ銅めっきでも浴の種類で水素ぜい化の起きやすさが大きく違うと報告されている[6]。
この記事は、工業部品に付ける電気銅めっき(銅メッキと書かれることも多い)を、部品を発注する側がどう指定し、受入で何を確かめるかに絞る。めっきの発注全般で書くこと(有効面、膜厚の測り方、密着性の試験方法など)はめっきの発注で指定することで扱ったので、ここでは銅ならではの指定に絞る。
目次
銅めっきには「単独の JIS」が見当たらない
JIS H 0404(電気めっきの記号による表示方法)は、関連規格として電気亜鉛めっき(H 8610)、カドミウムめっき(H 8611)、工業用クロムめっき(H 8615)、ニッケル及びニッケル-クロムめっき(H 8617)、電気すずめっき(H 8619)、工業用金めっき(H 8620)、工業用銀めっき(H 8621)、プラスチック上の装飾用電気めっき(H 8630)などを挙げている。この中に銅めっきだけを対象にした規格は無い[1]。
では銅はどこに出てくるか。JIS H 8617 は、鉄鋼素地の上の「銅-ニッケルめっき」を 1 級から 5 級の等級で定め、銅とニッケルそれぞれの膜厚は受渡当事者間の協定による、としている[2]。JIS H 8630 は、プラスチックとニッケルめっきの密着性を改善するために施す銅または柔軟性ニッケルの下地めっきを対象に含め、その種類と最小厚さは受渡当事者間の協定による、としている[3]。つまり規格の上では、銅は多くの場合「下地」で、その厚さは発注者と仕入先が決めるものとして残されている。
自動車部品の電気めっき通則である JIS D 0201 は、鉄素地の銅めっきを Ep-Fe/Cu 3 と Ep-Fe/Cu 10(最小厚さ 3 μm と 10 μm)として挙げ、適用部品の例に燃料パイプ内面とブレーキパイプ内面を載せている[4]。ただし同じ規格の耐食性試験時間の表では、この 2 つの欄は「-」で、試験時間が決められていない[4]。銅めっきの品質を耐食性の時間で受け入れることは、規格の側では想定されていない。
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記号で書く:素地・銅の厚さ・タイプ・上のめっき
銅めっきに単独の規格が無い以上、発注書では JIS H 0404 の記号で中身を書くのが確実である。JIS H 0404 の表示は「めっきを表す記号-素地の記号/めっきの種類と厚さとタイプ/後処理:使用環境」の順で、多層めっきは素地に近い順に左から並べる[1]。めっき厚さの数字は有効面での最小厚さ(μm)である[1]。
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規格の例には、鉄鋼素地に銅めっき 20 μm 以上、光沢ニッケルめっき 25 μm 以上、普通クロムめっき 0.1 μm 以上を重ね、腐食性の強い屋外で使う場合の「Ep-Fe/Cu 20, Ni 25b, Cr 0.1r/ : A」がある[1]。プラスチック素地の例では「PL*1/Cu 10b, Ni 15d, Cr 0.1mp/」で、注に素地を ABS 樹脂と書いている[1]。b は光沢めっきのタイプの記号で、銅めっきにも使える[1]。
発注側の実務としては、次の 4 点を記号でそろえる。
1. 素地
鉄鋼(Fe)、銅合金(Cu)、亜鉛合金(Zn)、アルミニウム合金(Al)、プラスチック(PL)のどれか。材質や加工の条件を示す必要があれば、素地記号に印を付けて注に材質記号を書く[1]。
2. 銅の最小厚さ
下地なら、上に重ねるめっきとの合計ではなく銅の層の厚さとして書く。JIS H 8617 の銅-ニッケルめっきの等級は合計の厚さで決まり、銅とニッケルそれぞれの膜厚は協定によるので[2]、等級だけ書くと銅をどれだけ付けるかが仕入先任せになる。
3. タイプ
光沢(b)か無光沢(m)か。外観部品の下地と、はんだ付けや導電を目的にした銅では求めるものが違う。
4. 上に重ねるめっきと後処理
銅の上にニッケル、クロム、すずなどを重ねるのか、銅のままで終えるのか。銅のまま終える場合は変色を防ぐ処理(JIS H 0404 の記号では AT)をするかどうかも書く[1]。
用途によって、決めるところが変わる
| 用途 | 規格・資料にある数値や記述 | 発注で決めること |
|---|---|---|
| 鉄鋼素地の銅-ニッケルめっき | 合計の最小厚さ 1 級 3 μm・2 級 5 μm・3 級 10 μm・4 級 15 μm・5 級 20 μm(JIS H 8617 表 1)[2] | 銅とニッケルそれぞれの厚さ(規格では協定) |
| 鉄素地の銅めっき(自動車部品) | 最小厚さ 3 μm・10 μm、例は燃料パイプ内面・ブレーキパイプ内面(JIS D 0201 表 6)[4] | 有効面(内面か外面か)と測る位置 |
| プラスチック上の下地 | 銅または柔軟性ニッケルの下地は種類・最小厚さとも協定(JIS H 8630)[3] | 下地の種類と厚さ、上のニッケル・クロムの等級 |
| プラスチック筐体の電磁波シールド | 数ミクロン厚の銅めっきで数十 MHz から数 GHz を防ぐが、100 kHz にはほぼ無力と解説されている[7] | 遮りたい周波数と、そのための膜の構成 |
| プリント配線板・放熱基板 | 硫酸銅めっきが配線形成や厚膜の用途に使われている[8] | 基板の規格・クラスで決める(基板の記事を参照) |
電磁波シールドに銅めっきを使う場合は、膜があるかどうかより、遮りたい周波数で効くかどうかが問題になる。表面技術協会の誌上の解説は、プラスチック表面に数ミクロン厚の銅めっき薄膜を施すとシールド性能を付与でき、数十 MHz から数 GHz の電磁波を防御する性能を備えている一方、電気自動車のインバーターやモーターが出す 100 kHz の電磁波に対してはほぼ無力だと書いている[7]。仕様書に「シールド用銅めっき」とだけ書くと、低い周波数の対策として効かないものが届くことがある。周波数を書き、必要なら評価の方法まで仕入先と決める。
プリント配線板の銅は、めっきの単独発注ではなく、基板の発注の中で決める事柄である。基板材料、表面処理、クラスの指定はプリント基板の発注で指定することで扱った。
鉄鋼素地に銅だけを付けるときの注意
銅めっきを錆止めのつもりで鉄鋼部品に付けるのは、注意が要る。締結用部品の電気めっきの規格 JIS B 1044 は、亜鉛・亜鉛合金・カドミウムのような皮膜は素地の鋼より電位が低く、陰極防食を行う条件を備えている一方、ニッケル・銅・銀のように素地の鋼より電位が高い皮膜は陰極防食を行うことができないため、皮膜が損傷したり孔食を受けたりした場合に、締結用部品の腐食を強めるおそれがある、と書いている[5]。
この記述は締結用部品の規格のものだが、理屈は鉄鋼部品一般に当てはまる。鉄鋼素地に銅めっきだけを付けて屋外や湿った環境に置くと、傷やピンホールのところで素地が先に腐食する。防食が目的なら、亜鉛系のめっきを選ぶか、銅を下地にしてニッケル・クロムなどを十分な厚さで重ねる構成にする。銅のまま使う部品(配管の内面、導電部など)では、何のために銅を付けるのかを仕様書に書いておくと、仕入先が構成の誤りに気づける。亜鉛系のめっきを選ぶときの指定は亜鉛ニッケル合金めっきの指定で扱う。
高強度の鋼では、浴の種類まで確かめる
めっきの前処理(酸洗)やめっき中に発生する水素が鋼に吸蔵されると、高強度の鋼で水素ぜい化(遅れ破壊)が起きることがある。表面技術協会の論文誌の解説は、鉄鋼材料の水素ぜい性の感受性は強度の上昇とともに高まると述べたうえで、デルタゲージ法で測った各種めっきの水素脆化率の表を載せている。その表では、銅めっきはシアン浴が 48 %、ピロリン酸浴が 1 % 未満で、同じ銅めっきでも浴の種類によって水素脆化率が大きく異なる、と書いている[6]。
ただし同じ解説は、試験の条件によって水素ぜい性の評価結果が大きく異なることにも注意を促している[6]。表の数字は「この浴なら安全」という保証ではない。発注側としては、熱処理した鋼や高炭素鋼の部品に銅めっきをするとき、仕入先にめっき浴の種類と、めっき後の水素ぜい性除去(ベーキング)をするかどうかを確かめ、浴の変更を事前連絡の対象にする。JIS D 0201 も、熱処理された鋼製品・高炭素鋼製品は、めっき後に原則として水素ぜい性除去処理を行う、としている(受渡当事者間の協定で省略できる)[4]。締結用部品なら JIS B 1044 の水素ぜい化の扱いに従う[5]。
受け入れるときに確かめること
JIS D 0201 は、自動車部品のめっきの外観試験を、背景色を黒にし、有効面に約 300 ルクス以上の均一な照度を与え、約 50 cm の距離から目視で行うとしている[4]。厚さ試験は JIS H 8501 の顕微鏡断面試験方法、電解式試験方法、蛍光 X 線試験方法などから選ぶ[4]。どの方法で測るかを決めておかないと、仕入先の成績書と受入で測った値がそろわない。
1. 構成
銅の上に何が重なっているか、記号どおりか。下地の銅が抜けていないかは、厚さを層ごとに測れる方法でないと分からない。
2. 銅の厚さ
有効面の最小厚さを満たしているか。測る位置は協定による(JIS D 0201 の 5.2)[4]。めっき後に曲げやかしめをする部品は、厚さの扱いも協定になる[4]。
3. 外観と変色
銅のまま納める部品は、保管中の変色をどこまで許すかを限度見本で決めておく。
4. 高強度鋼の部品
浴の種類とベーキングの記録。
注文書の書き方の例
決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を一つの例にまとめる。
「表面処理:Ep-Fe/Cu 10b, Ni 15b, Cr 0.1r(JIS H 0404 による表示。銅の最小厚さ 10 μm、ニッケルの最小厚さ 15 μm、有効面は図面に示す範囲)。厚さは JIS H 8501 の蛍光 X 線試験方法で、図面に示す 3 か所を測定し、層ごとの厚さを成績書に記載すること。素地は熱処理鋼のため、めっき浴の種類とめっき後のベーキング条件を事前に提出し、変更する場合は事前に承認を得ること。」
よくある質問
図面に「銅めっき 5 μm」とだけあります。これで発注してよいですか
銅のまま納めるのか、上に何かを重ねるのか、タイプは光沢か無光沢か、どの面の厚さかが決まっていない。JIS H 0404 の記号で素地・厚さ・タイプ・上のめっきを書き[1]、用途を一行添えてから発注する。
銅-ニッケルめっきの等級を指定すれば、銅の厚さも決まりますか
決まらない。JIS H 8617 の銅-ニッケルめっきの等級は合計の最小厚さで、銅とニッケルそれぞれの膜厚は受渡当事者間の協定による[2]。銅の厚さが必要なら別に書く。
銅めっきは錆止めになりますか
鉄鋼素地に銅だけを付けた場合、銅は素地より電位が高く陰極防食ができないので、皮膜が損傷したところで腐食を強めるおそれがある[5]。防食が目的なら、構成を見直す。
まとめ
銅めっきには単独の JIS 製品規格が見当たらず[1]、規格の上では主に下地として扱われ、厚さは協定に残されている[2][3]。発注では JIS H 0404 の記号で素地・銅の最小厚さ・タイプ・上のめっきを書き、用途を添える。電磁波シールドは遮りたい周波数を書く[7]。鉄鋼素地に銅だけを付けると傷のところで腐食を強めるおそれがあり[5]、高強度の鋼では浴の種類とベーキングを確かめる[6]。受入では層ごとの厚さを、決めた方法と位置で測る[4]。
同じ束では、亜鉛ニッケル合金めっきのほか、曲げ試験、疲労試験、X 線 CT 検査の指定も扱う。上に重ねるニッケルの等級はニッケルめっきの指定を参照してほしい。
出典・参考資料
- JIS H 0404:1988 電気めっきの記号による表示方法(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1988 年 3 月 1 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 8617:1999 ニッケルめっき及びニッケル-クロムめっき(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1999 年 8 月 20 日改正・2023 年 10 月 20 日確認)
- JIS H 8630:2006 プラスチック上への装飾用電気めっき(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2006 年 3 月 25 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS D 0201:1995 自動車部品-電気めっき通則(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/1995 年 2 月 1 日改正・2025 年 10 月 20 日確認)
- JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 2 月 20 日改正)
- 日野実・平松実・堀川敬太郎「Zn 系めっきによる高強度鋼の水素脆性」表面技術 71 巻 5 号(表面技術協会/2020 年 5 月)
- 杉山敦史・蘇奕達「低周波電磁波のシールドめっき」表面技術 70 巻 11 号(表面技術協会/2019 年)
- 鈴木陽平ほか「噴流式めっき装置を用いた高速硫酸銅めっきにおける流体シミュレーションの活用」表面技術 70 巻 11 号(表面技術協会/2019 年)
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