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相見積・見積合わせ・入札の違いと、談合になる線

この記事のポイント(結論先出し)
相見積・見積合わせ・入札は、呼び方の違いではなく根拠となる制度が違う。官公庁の契約は会計法で公告して競争に付すのが原則とされ、随意契約による場合でも「なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならない」と政令に書かれている。ここで重要なのは、公正取引委員会が指名見積り合わせを競争入札と同様のものとして扱っているという点である。つまり見積合わせも入札談合の対象になる。談合は独占禁止法の不当な取引制限に当たり、課徴金は原則として売上額の 10%、実行した者には 5 年以下の拘禁刑または 500 万円以下の罰金、法人には 5 億円以下の罰金が科され得る。
目次
3 つの言葉は、どこが違うのか
相見積、見積合わせ、入札は、いずれも複数の相手から金額を出させて比べる手続きである。実務では混ぜて使われることが多いが、制度としての位置づけは異なる。整理の起点は、官公庁の契約を定めた会計法にある。
会計法第 29 条の 3 第 1 項は、契約担当官等が売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合には、原則として公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないと定めている[1]。これが一般競争入札である。同条第 3 項は、契約の性質または目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争に付する必要がない場合と、一般競争に付することが不利と認められる場合には、指名競争に付するものとしている[1]。同条第 4 項は、競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合、競争に付することが不利と認められる場合に、随意契約によるものとしている[1]。
そして同条第 5 項は、予定価格が少額である場合その他政令で定める場合には、指名競争または随意契約によることができるとしている[1]。この政令が予算決算及び会計令、通称の予決令である。
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随意契約でも「なるべく二人以上」から見積を取る
予決令第 99 条は、会計法第 29 条の 3 第 5 項により随意契約によることができる場合を 25 号にわたって列挙している。金額に関するものは、国の行為を秘密にする必要があるときに続いて、予定価格が 400 万円を超えない工事または製造をさせるとき、予定価格が 300 万円を超えない財産を買い入れるとき、工事または製造の請負・財産の売買・物件の貸借以外の契約でその予定価格が 200 万円を超えないものをするときなどが挙がっている[2]。
随意契約になっても、金額を 1 社だけで決めてよいわけではない。予決令第 99 条の 6 は「見積書の徴取」という見出しで、契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、なるべく二人以上の者から見積書を徴さなければならないと定めている[2]。これが官公庁でいう見積合わせの根拠条文である。あわせて第 99 条の 5 が、随意契約によろうとするときはあらかじめ予定価格を定めなければならないとしている[2]。相手を選ぶ前に、こちらの価格の目安を先に固めておく建付けになっている。
地方公共団体も同じ構造をとっている。地方自治法施行令第 167 条の 2 第 1 項第 1 号は、予定価格が別表第五に掲げる額の範囲内で普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするときに随意契約によることができるとしており、別表第五の上限は、工事または製造の請負が都道府県および指定都市で 400 万円、市町村で 200 万円、財産の買入れが同じく 300 万円と 150 万円と定められている[3]。
| 方式 | 根拠 | 相手の集め方 | 最低社数 | 談合の対象 |
|---|---|---|---|---|
| 一般競争入札 | 会計法第 29 条の 3 第 1 項 | 公告して申込みをさせる | 定めなし(公告に応じた者) | 対象 |
| 指名競争入札 | 会計法第 29 条の 3 第 3 項 | 発注者が指名する | 政令の定めによる | 対象 |
| 指名見積り合わせ | 予決令第 99 条の 6(随意契約) | 発注者が指名して見積を徴収 | なるべく二人以上 | 対象(競争入札と同様に扱う) |
| 民間企業の相見積 | 法令上の定めなし | 発注者が自由に決める | 定めなし | 対象(独占禁止法第 3 条) |
見積合わせは、入札と同じ扱いを受ける
ここが実務で最も誤解されている点である。公正取引委員会が発注機関職員向けに作成しているテキスト「入札談合の防止に向けて」は、入札談合の対象となる発注方法について、総合評価落札方式を含む一般競争入札および指名競争入札のほか、随意契約のうち、複数の事業者を指名して見積りを徴収し、当該見積りで示された金額を比較して契約先を決定する形態のもの、いわゆる指名見積り合わせ等が含まれると明記している。理由も書かれており、このような契約は実質的に競争入札と変わるところがなく、公正取引委員会においても従来から競争入札と同様のものとして取り扱っている、とされている[4]。
入札という手続きを踏んでいないから談合とは無関係、という整理は成り立たない。複数社に声をかけて金額を比べ、安いところに出すという形をとっている限り、それは競争の場である。
談合が成立する条件
談合を禁じているのは独占禁止法第 3 条の後段、不当な取引制限である。その定義は同法第 2 条第 6 項に置かれており、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとされている[5]。
条文を分解すると、成立には 3 つの要素が必要になる。1 つ目は他の事業者と共同して行うこと。1 社の判断で高い金額を出しても談合にはならない。2 つ目は相互にその事業活動を拘束すること。誰が受注するか、いくらで出すかを申し合わせ、互いにそれに従う関係が要る。3 つ目は一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。参加者の一部だけの申し合わせでも、その範囲で競争が実質的に失われれば要件を満たし得る。
重要なのは、条文のどこにも国や地方公共団体が発注者であることが条件として書かれていない点である。民間企業が実施する相見積であっても、参加した供給者の間で受注予定者や価格を申し合わせれば、同じ条文が適用される。公正取引委員会のテキストも、入札談合といえば公共工事を思い浮かべがちだが、あらゆる調達物件で起こり得るとして、医薬品、コンピュータ機器、警察官用制服類、机やいすなどの什器類、豚熱ワクチンといった過去の事件を並べている[4]。
実際にどうやって受注予定者を決めていたか
同テキストは、過去に確認された受注予定者の決め方として、入札前に研究会などの名目で会合を開いて決めていた事例、点数制や順番制によって決めていた事例、当番幹事が指名業者間の話合いの司会を行い受注希望の有無を聴取していた事例、発注機関職員から落札予定者となった旨の連絡、いわゆる「天の声」を受けた者を受注予定者としていた事例を挙げている[4]。点数制は、構成事業者の指名実績や受注実績をもとに算出した点数の順で受注予定者を定める方式、順番制はあらかじめ定めた順番で定める方式と説明されている[4]。
発注側から見ると、これらは金額の水準だけでは検知しにくい。毎回どこか 1 社だけが極端に安く、他は形式的に高い数字を出してくる、受注する会社が順番に入れ替わる、といった結果の並び方に現れる。
談合に科される制裁の重さ
制裁は行政・刑事・民事の 3 つの経路にまたがる。
行政上は課徴金納付命令が出る。テキストは、入札談合が受注予定者が決めた価格で落札できるよう協力するものであり、対価に係るカルテルとして課徴金の対象になると説明したうえで、課徴金の額は違反行為に係る期間中の対象商品または役務の売上額等と密接関連業務の対価の額を合計したものに算定率を掛け、談合金等の財産上の利益に相当する額を加えて算定されるとしている。期間の始期は調査開始日から最長 10 年前まで遡及する[4]。算定率は基本 10%で、違反行為を繰り返した場合または主導的な役割を果たした場合はそれぞれ 1.5 倍、両方に当たる場合は 2 倍になる[4]。課徴金は税務上損金に算入することができない点も明記されている[4]。
刑事上は、独占禁止法第 89 条により、第 3 条に違反して不当な取引制限をした者は5 年以下の拘禁刑または 500 万円以下の罰金に処せられる[5]。テキストは、両罰規定である第 95 条により、実際に行った者のほかに事業者および事業者団体に対しても 5 億円以下の罰金が科されると説明している[4]。これとは別に、法人の代表者や事業者団体の役員が違反行為の計画を知りながら防止に必要な措置を採らなかった場合等については、第 95 条の 2 および第 95 条の 3 が置かれており、当該代表者や役員に対しても 500 万円以下の罰金が科される[4]。
民事上は、排除措置命令等が確定した場合、違反行為により損害を被った被害者に対して無過失損害賠償責任を負う。確定した命令がなくても、被害者は民法第 709 条等により損害賠償を求めることができるとされている[4]。近年は発注機関が請求する例のほか、地方公共団体の住民が住民訴訟を起こす例もある[4]。
先に自己申告した 1 社は課徴金が全額免除される
談合が長く続かない理由の 1 つが課徴金減免制度である。テキストによれば、調査開始前に申請した 1 位は全額免除、2 位は 20%、3 位から 5 位までは 10%、6 位以下は 5%の減免率が適用され、これに実態解明への協力度合いに応じた減算率が最大 40%まで付加される。調査開始後でも最大 3 社までは 10%と最大 20%の減算が適用される[4]。申請者数の上限はなく、申請の方法は電子メールとされている[4]。
減免申請の件数は、テキストの推移表では平成 30 年度 72 件、令和元年度 73 件、2 年度 33 件、3 年度 52 件、4 年度 22 件、5 年度 156 件、6 年度 109 件と推移している[4]。申し合わせに加わった 1 社が抜ければ、残りは減免の順位を争う立場に置かれる。
発注側の職員が関与すると、別の法律がかかる
発注機関の職員が談合に関与する、いわゆる官製談合には、入札談合等関与行為防止法が適用される。同法第 2 条第 4 項は入札談合等を、国等が入札等により行う契約の締結に関し、当該入札に参加しようとする事業者が他の事業者と共同して落札すべき者もしくは落札すべき価格を決定するなどして独占禁止法第 3 条または第 8 条第 1 号に違反する行為と定義している[6]。
同法は、公正取引委員会が調査の結果、入札談合等関与行為があると認めるときは、各省各庁の長等に対し改善措置を講ずべきことを求めることができるとし、求めを受けた側は必要な調査を行い、結果と講じた改善措置の内容を公表しなければならないとしている[6]。さらに、関与行為による国等の損害の有無について調査する義務、職員が故意または重大な過失により損害を与えたと認めるときは速やかに賠償を求める義務、懲戒処分をすることができるか否かについて調査する義務も定めている[6]。
公正取引委員会の解説によれば、同法は官製談合が発生していた状況を踏まえて発注機関に組織的な対応を求めるために制定され、平成 15 年 1 月 6 日から施行されている。平成 18 年の改正で職員による入札等の妨害の罪が創設され、平成 19 年 3 月 14 日から施行された[7]。
発注側が談合を疑ったときにできること
公正取引委員会が審査を開始する端緒は 5 つある。一般の人からの報告、いわゆる申告(第 45 条第 1 項)、公正取引委員会が自ら発見する職権探知、課徴金減免制度を利用した報告、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第 10 条に基づく発注機関からの通報、中小企業庁からの請求である[4]。申告は誰でも行うことができるとされている[4]。
民間企業の相見積で不自然な並びに気づいた場合も、申告の経路は同じである。確証がなくても、疑いがあるとの情報提供という位置づけで受け付けられる。
発注側が談合を起こしにくくする設計
制度の話を実務に落とすと、発注側でできることは限られるが、効果は分かれる。
1. 見積依頼先を固定しない
同じ数社に毎回声をかける運用が続くと、参加者の顔ぶれが安定し、申し合わせの前提が整う。定期的に候補を入れ替える、既存に加えて新規を混ぜるといった運用が、結果として競争の実質を保つ。
2. 参加者に他の参加者を知らせない
誰に声をかけたかを伝えると、参加者同士が接触する余地を作る。一斉送信のメールで宛先が見えてしまう形も同じである。集めた見積の金額を別の参加者へ持ち出す場合の線引きは相見積を他社に見せるのは違法かで整理している。
3. 予定価格に相当する社内の目安を先に決める
予決令第 99 条の 5 が随意契約でもあらかじめ予定価格を定めることを求めているのは、集まった数字に判断を委ねないためである[2]。民間でも、過去実績や積み上げ原価から自社の目安を先に置いておけば、全社が一様に高い場合に気づける。
4. 結果の並び方を記録に残す
1 回の見積合わせでは分からない。誰が最安値だったか、金額の差はどれくらいだったかを品目ごとに蓄積して初めて、順番に入れ替わっているといった傾向が見える。
見積依頼の条件の揃え方は相見積の運用と取適法の関係で、依頼文そのものの書き方は見積依頼メールの書き方と例文で扱っている。参加者ごとに情報や検討時間の量が変わらないようにする運用は相見積を依頼するときに伝えることにまとめた。
よくある質問
民間の相見積でも談合は成立するか
成立する。独占禁止法第 2 条第 6 項の不当な取引制限の定義に、発注者が国や地方公共団体であるという限定はない[5]。参加した供給者が共同して受注予定者や価格を決め、相互に事業活動を拘束していれば、要件の判断は公共調達の場合と同じ枠組みで行われる。
1 社しか見積が集まらなかった場合はどうすればよいか
官公庁の場合、予決令第 99 条の 6 は「なるべく二人以上」という書き方であり、二人以上が絶対の要件ではない[2]。ただし同令第 99 条の 5 により予定価格はあらかじめ定める必要がある[2]。民間でも、比較対象がないときほど、過去の単価や原価の積み上げといった別の基準を用意しておくことになる。
総合評価落札方式なら談合の心配は減るか
減らない。公正取引委員会のテキストは、入札談合の対象となる発注方法に総合評価落札方式を含む一般競争入札を明示的に含めている[4]。価格以外の評価項目が入っても、参加者間で受注予定者を決めれば談合である。評価項目そのものの立て方は見積比較表の作り方で扱っている。
見積を出す側が、他社と金額を相談するのは常に違法か
共同して対価を決め、相互に事業活動を拘束し、一定の取引分野における競争を実質的に制限すれば第 2 条第 6 項に当たる[5]。一方で、業界団体が官公庁や民間の調査機関等が公表した入札に関する一般的な情報、たとえば労務賃金や資材の物価動向に関する客観的な調査結果情報を収集・提供することは、公正取引委員会の整理では原則として違反とならないものに分類されている[4]。個別の案件の価格や受注意思に踏み込むかどうかが分かれ目になる。
相見積を取ると伝えずに複数社へ依頼してもよいか
法令上、相見積であることを告げる義務はない。ただし参加者が単独指名だと考えたまま金額を出せば、条件の前提が食い違ったまま比較することになる。伏せることで得られるのは短期の価格差であって、比較の精度ではない。
まとめ
相見積・見積合わせ・入札は、根拠となる制度が違うだけで、複数社の金額を比べて相手を決めるという実質は同じである。公正取引委員会は指名見積り合わせを競争入札と同様のものとして扱っており、入札という名前を使っていなくても談合の対象になる。談合は独占禁止法第 3 条の不当な取引制限であり、課徴金は原則として売上額の 10%、実行者には 5 年以下の拘禁刑または 500 万円以下の罰金、法人には 5 億円以下の罰金があり得る。発注側にできる対策は、依頼先を固定しないこと、参加者同士を接触させないこと、自社の価格の目安を先に持つこと、そして結果を記録して並びの傾向を見ることである。
出典・参考資料
- 会計法(昭和 22 年法律第 35 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 予算決算及び会計令(昭和 22 年勅令第 165 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 地方自治法施行令(昭和 22 年政令第 16 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 入札談合の防止に向けて 独占禁止法と入札談合等関与行為防止法(令和 7 年 10 月版)(公正取引委員会事務総局/令和 7 年 10 月版)
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和 22 年法律第 54 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(平成 14 年法律第 101 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 入札談合等関与行為防止法について(公正取引委員会)
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