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相見積を依頼するときに伝えること・伝えてはいけないこと

この記事のポイント(結論先出し)
相見積の依頼は、1 社への依頼を宛先の数だけ複製する作業ではない。複数社を同時に走らせると、情報・時間・工数の 3 つに偏りが生まれ、そのまま比較すると偏りごと数字に乗る。依頼の場で伝えるべきなのは仕様と数量だけではなく、途中で追加した情報を全社へ返すこと、結果をいつ知らせるか、評価で何を見るかまで含まれる。逆に、他社の金額と社名、動かせない条件としての予算、応じなければ次はないという示唆は出さない。相手が見積を無償で作っているという前提も、依頼の重さを決める材料になる。
目次
相見積の依頼は、1 社への依頼を複製することではない
見積依頼のひな型が整っている会社でも、相見積になると運用が崩れることがある。原因は文面ではなく、複数社を同時に相手にすると生じる偏りにある。
偏りは 3 種類ある。1 つ目は情報の偏りで、途中の質問に個別に答えた結果、A社だけが図面の意図を知っている状態が生まれる。2 つ目は時間の偏りで、送信のタイミングや催促の頻度が相手ごとに違えば、検討に使える日数が変わる。3 つ目は工数の偏りで、既に取引のある会社は前提を知っているぶん短時間で回答でき、初めての会社は同じ精度を出すのに何倍も手を動かす。
この 3 つを均さないまま集めた数字を横に並べても、差の原因が価格競争力なのか偏りなのかを切り分けられない。相見積の依頼で伝えるべきことは、この偏りを埋める情報だと考えると整理しやすい。相見積そのものの制度的な位置づけと、2026 年 1 月に施行された取適法との関係は相見積の運用と取適法の関係で扱っている。何社に声をかけるかという論点も、この記事では扱わない。官公庁の見積合わせには随意契約の金額基準や「なるべく二人以上から見積書を徴す」という条文上の目安があり、そこから民間の社数を考える筋道は相見積・見積合わせ・入札の違いにまとめてある。
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情報を揃える——途中で答えたことは、全社に返す
依頼後に届く質問は、たいてい依頼書の不備を教えてくれる。材質の指定が曖昧だった、公差の基準が書かれていない、検収の場所が分からない。ここで質問した 1 社にだけ回答すると、その会社は正確な条件で計算し、他社は自社の推測で計算する。数字は揃って見えても、中身は別物になる。
運用としては、質問と回答をまとめて全社へ配る形にする。誰が質問したかは伏せてよい。回答を配ったら、必要に応じて回答期限を後ろへずらす。条件が変わったのに期限だけ据え置くと、追加情報を織り込む余地がなくなる。
公正取引委員会の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」は、対価の一方的決定の想定例のひとつとして、発注量や配送方法などの取引条件に照らして合理的な理由がないのに特定の相手を差別して扱い、他の相手より著しく低い、あるいは著しく高い額を一方的に定めることを挙げている[1]。情報の配り方に差をつけたまま価格を決めれば、差別的な取扱いだったのではないかという問いを自分で招くことになる。
時間を揃える——期限と、結果を知らせる日
依頼文に回答期限を書く会社は多いが、結果をいつ知らせるかまで書く会社は少ない。受け取る側にとっては後者のほうが重い。決裁の見通しが立たないと、生産枠を空けておくべきかどうかを判断できないからである。
伝える日付は 3 つある。回答をもらいたい日、こちらが決裁する見込みの日、結果を連絡する日。3 つ目を書いておけば、その日が来たときに連絡する動機が社内に生まれる。書かなければ、決まった案件の処理に追われて不採用の連絡だけが後回しになる。
検討が長引いて予定日を過ぎるときは、決まっていないという連絡を入れる。内容がなくても、状況が動いていることは伝わる。採用しなかった相手への具体的な伝え方は相見積の断り方と文例にまとめてある。この記事はその入口にあたる。
工数を揃える——見積は相手が無償で作っている
相見積で最も見落とされるのが、回答を作る側の負担である。図面を読み、工程を割り付け、材料を引き当て、外注先に問い合わせる。この作業は通常、代金を受け取らずに行われている。
ここには法律上の線もある。ガイドラインは、協賛金や従業員の派遣の要請以外であっても、優越した地位にある事業者が正当な理由なく、発注内容に含まれていない金型等の設計図面、特許権等の知的財産権、その他の経済上の利益を無償で出すよう求めた場合に、相手が今後の取引を気にしてそれを断れない状況にあれば、優越的地位の濫用の問題になるとしている[1]。さらに注記で、無償の場合だけでなく、正常な商慣習に照らして不当に低い対価で提供させる場合も同じ扱いになると補っている[1]。
見積そのものは通常この類型に直結しないが、依頼の中身が試作品の製作、詳細設計、専用治具の検討にまで及ぶと、性格が変わってくる。関連する例として、公正取引委員会中部事務所の解説は、金型だけを納める取引から、金型に加えて受託側のノウハウを含む設計図面等の技術資料まで納める取引に変えたのに、代金を見直さず従来どおりに据え置くことを、買いたたきの具体例として挙げている[2]。求める成果物が増えたのに対価が動かない、という構図は見積の段階から始まっている。
実務では、依頼を重さで段階に分けるのが早い。相場観をつかむだけなら概算を求め、図面の読み込みまでは求めない。工程設計や試作を伴う検討を依頼するなら、その分の費用をどう扱うかを先に決めてから声をかける。段階を分けずに毎回いちばん重い依頼を出し続けると、回答の精度ではなく回答の速度だけが落ちていく。
数量の前提は、言い方まで決めておく
依頼書に書く条件のうち、書き方ひとつで法律の評価が変わるのが数量である。
取適法テキストは、買いたたきに当たるおそれのある代金の決め方を列挙しており、その冒頭に、まとまった数量が出ることを前提に単価を提示させておきながら、実際には少ない数量しか発注せず、その単価をそのまま代金として使う形を置いている[3]。中部事務所の解説も、これを発注数量に関する具体例として同じように紹介している[2]。
したがって依頼書には、示した数量が確定値なのか年間の見込みなのかを書き分ける。見込みであれば、その旨と、算定の根拠となった期間を添える。あわせて、実績が見込みを下回った場合に単価を見直すこと、逆に上回った場合も同様に扱うことを 1 行入れておく。この 1 行があるだけで、後から数量が動いたときに協議を切り出す根拠になる。
量産が終わって発注が細り、補給品として少量だけ出す段階に入ったときも同じである。テキストは、発注数量が大きく減っているのに単価を見直さず、量産時の大量発注を前提とした単価のまま定めることを、別の類型として挙げている[3]。
評価で何を見るかを、先に伝える
依頼書に評価の観点を書かない会社は多い。書かなければ、受け取った側は価格だけで決まると考える。そうすると各社は価格を下げる方向にだけ努力を集中し、検査や梱包、予備の在庫といった、書かれていない部分から削っていく。集まった数字は安くなるが、比較しているのは削り方の違いでしかない。
伝える内容は複雑でなくてよい。価格のほかに何を見るのか、絶対に満たしてほしい条件は何か、同程度の価格なら何を優先するのか。この 3 点を書くだけで、回答の作り方が変わる。何を列に並べて評価するかの立て方は見積比較表の作り方で扱っている。
実際に評価してみて基準を変えたくなったときは、変えた事実と理由を残す。集まった数字を見てから重み付けを動かすと、結論を先に決めて理由を後から付けた形になり、社内でも社外でも説明できなくなる。
伝えてはいけない 3 つ
1. 他社の見積金額と社名
受け取った見積書には、単価の内訳や工数の見立てなど、相手が社外に出さない前提で書いた情報が含まれている。不正競争防止法は、営業秘密を、秘密として管理されている生産方法や販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないものと定義しており、営業秘密を示された者が不正の利益を得る目的や保有者に損害を加える目的でこれを使用または開示する行為を、不正競争の類型として挙げている[4]。相場の水準を伝えたいだけなら、自社で整理した価格帯の情報で足りる。他社の金額を口頭で持ち出す場合と、見積書そのものを見せる場合とで評価が分かれる点は相見積を他社に見せるのは違法かで整理した。
2. 動かせない条件としての予算
取適法テキストは、十分な協議をしないまま単価を言い渡す、いわゆる指値によって通常の対価より低い額に定めることを、買いたたきに当たるおそれのある行為として扱っている[3]。ガイドラインにも、自分の予算単価だけを基準にして一方的に著しく低い単価を定める想定例がある[1]。参考として予算感を共有すること自体を禁じる規定はないが、相手の回答を受け取る前から動かせない数字として提示すれば、協議の余地がなかったという評価に近づく。
3. 応じなければ次はない、という示唆
ガイドラインは、要請に応じない場合に取引を減らしたり打ち切ったりすることをほのめかし、協議をしないまま著しく低い額を定めることを想定例に挙げている[1]。相見積の場では「他社に切り替える」という言い方でこれが現れやすい。競争があること自体は事実として伝えてよいが、条件を飲ませる手段として使うと性格が変わる。
| 情報 | 依頼時の扱い | そうする理由 |
|---|---|---|
| 数量が確定値か見込みか | 書き分けて伝える | 多量を前提に出させた単価を少量に使う形は買いたたきの類型 |
| 評価で見る項目 | 伝える | 伝えないと書かれていない部分から削られる |
| 結果を知らせる日 | 伝える | 相手が生産枠の判断をできない |
| 追加の質問への回答 | 全社へ配る | 特定の相手を差別して扱う形を避ける |
| 他社の見積金額・社名 | 出さない | 営業秘密を示された者の使用・開示に当たり得る |
| 自社の予算額 | 動かせない条件としては出さない | 指値・予算単価のみを基準とする決め方に近づく |
| 取引を減らす示唆 | 出さない | 協議を経ない対価決定の想定例に該当し得る |
依頼したあとに条件が変わったとき
図面が差し替わる、数量が動く、納入場所が変わる。依頼を出した後の変更は避けられない。ここで守ることは 2 つある。
1 つ目は、変更を全社へ同じタイミングで流すこと。片方にだけ先に伝えれば、そのぶん検討時間の差になる。2 つ目は、変更後の見積を取り直すこと。取適法テキストのQ&Aは、見積を出させた段階より作業の中身が増えたのに当初の単価のまま発注すれば、十分な協議があったとはいえず、買いたたきに当たるおそれがあるとしている。そのうえで、相手から申出があるかどうかにかかわらず、最終的な内容を反映した再見積りを取って単価を見直す必要があると述べている[3]。
運用としては、変更通知を出す手順と再見積を依頼する手順を 1 つにまとめてしまうのが確実である。図面を差し替えたら見積も取り直す、という順番を固定しておけば、担当者が判断する余地がなくなる。
依頼の前に、相手が取適法の対象かを見ておく
ここまで挙げた線のうち、取適法に基づくものは適用対象の取引にだけ直接かかる。テキストによれば、物品の製造委託などの場合、発注する側の資本金が 3 億円を超えていて、受ける側がそれ以下なら対象に入る。発注する側の資本金がそれより小さくても、1 千万円を超えていれば、受ける側が 1 千万円以下のときに対象となる。受ける側には個人事業者も含まれる[3]。
2026 年 1 月 1 日に施行された改正では、常時使用する従業員の数による区分が加わった。物品の製造委託などでは、委託側が 300 人超で受託側が 300 人以下という組み合わせが該当し、この従業員基準は資本金基準が適用されない場合に用いられる[3]。公正取引委員会の説明ページも、従業員の大小関係がある委託事業者を適用対象に追加したこと、そして取適法の対象外となる取引についても支援や指導・助言の対象とすることを挙げている[5]。
対象から外れる取引でも、優越的地位の濫用として独占禁止法の問題になり得る点は変わらない。同法は第 19 条で事業者が不公正な取引方法を用いることを禁じており[6]、取適法テキスト自身も、この法律が独占禁止法の補完法として作られたものだと説明している[3]。区分の外側だから何をしてもよい、という読み方はできない。
よくある質問
質問への回答を全社に配ると、質問した会社が損をしないか
質問の内容が相手固有のノウハウに踏み込む場合は、その部分を伏せて共有する。多くの質問は依頼書の記載不足に対するもので、共有しても質問者の不利にはならない。むしろ、聞かなければ分からない条件を放置したまま比較すると、後で条件を揃え直す手戻りが起きる。
依頼の途中で候補を追加してよいか
追加すること自体に問題はないが、検討期間は先に依頼した会社と揃える。後から入った会社だけ期限が短ければ精度が落ち、逆に全体の期限を延ばせば先に依頼した会社を待たせる。追加するなら、期限を延ばしたうえで、延ばした理由を全社に伝える。
依頼した会社から辞退の連絡が来たら
理由を 1 つだけ聞いておく。設備が合わないのか、時期が合わないのか、条件そのものが合わないのかで、次回の依頼先の選び方が変わる。条件が合わないという回答が複数社から続く場合は、依頼書の条件が市場から外れている可能性がある。
過去に取った見積の条件を、次回の依頼にそのまま使ってよいか
数量と時期は必ず更新する。前回の依頼書を複製して数量だけ残すと、実態と違う前提で単価を出させることになり、まさに買いたたきの類型で挙げられている形に近づく[3]。材料価格が動く品目では、前提とした相場の時点も書き換える。
口頭で見積を依頼してもよいか
見積の依頼自体を書面に限る規定はない。ただし取適法テキストは、口頭による発注は取引条件が不明確でトラブルが生じやすく、そのために発注の都度、条件を明示させる規定が設けられたと説明している[3]。見積の段階で口頭のまま進めれば、その不明確さは発注の内容にそのまま引き継がれる。
相見積であることは伝えたほうがよいか
告げる義務はない。伝えると、各社は価格を意識した数字を出す一方で、条件の確認が丁寧になる傾向がある。伝えないまま複数社に出すと、単独で指名されたと考えた相手と、競争を前提に計算した相手が混ざり、比較の土台が揃わない。伝えると決めたなら、結果連絡も含めて同じ扱いを全社に適用する。
まとめ
相見積の依頼で伝えるべきことは、仕様と数量の先にある。途中で答えた内容を全社へ返すこと、回答期限だけでなく結果を知らせる日を示すこと、評価で何を見るかを先に共有すること、そして相手が無償で工数を使っている前提に立って依頼の重さを決めること。数量については、確定値か見込みかを書き分け、実績が動いたときに見直す旨まで書く。逆に出してはいけないのは、他社の見積金額と社名、動かせない条件としての予算、応じなければ次はないという示唆の 3 つである。依頼を出したあとに条件が変わったら、全社へ同時に伝え、再見積を取り直す。
出典・参考資料
- 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(公正取引委員会/平成 22 年 11 月 30 日・令和 8 年 6 月 17 日改正)
- 下請法 知っておきたい豆情報 その12(公正取引委員会 中部事務所)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 不正競争防止法(平成 5 年法律第 47 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和 22 年法律第 54 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
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