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亜鉛フレーク皮膜(ダクロ・ジオメット)の指定——JIS B 1046 の表示記号と酸洗浄の禁止

この記事のポイント(結論先出し)
「ダクロ」「ジオメット」は処理の商品名で、規格の呼び名は非電解処理による亜鉛フレーク皮膜(JIS B 1046)である[1][4]。注文では「ダクロ処理」ではなく、規格の表示記号で flZn/nc/720h のように、基層皮膜・六価クロムの有無・中性塩水噴霧試験の時間(赤さびなし)を書く[1]。この皮膜は処理中に水素が生成されない性質があり、高強度の締結部品に使われるが[1]、硬さ 390 HV 以上や強度区分 12.9 以上の部品は前処理で酸洗浄をしてはならない[1]。焼付け温度は 320℃ に達することがあり、部品の焼戻し温度を超えてはならない[1]。厚い皮膜を細かいねじに付けると、ねじがはまらなくなることもある[1]。
目次
「ダクロ処理」と書いた注文で、何が決まっていないか
ボルト・ナットの防錆で「ダクロ」「ジオメット」と呼ばれている処理は、亜鉛のフレーク(薄片)をバインダーで素地に固定した皮膜である。腐食の研究論文は、この皮膜を焼付け型亜鉛フレーク処理皮膜(通称:ダクロタイズド® 処理皮膜)と呼び、厚さ 1 μm 以下・長さ約 10 μm の亜鉛やアルミニウムのフレークをバインダーで素地金属に固定化させた防錆皮膜だと説明している[4]。「ダクロ」は商標に由来する呼び名で、「ジオメット」も処理の商品名として使われている呼び名である。商品名は特定の会社の処理を指すので、注文書には規格の呼び名で書くほうがよい。
規格は JIS B 1046(締結用部品-非電解処理による亜鉛フレーク皮膜システム)で、2018 年の ISO 10683 と技術的内容が一致している[1]。鋼製の締結用部品が対象で、六価クロムを含むもの・含まないもの、表層皮膜があるもの・ないもの、潤滑剤を含むもの・含まないもの、のいずれにも適用できる[1]。規格は、皮膜の形成について、アルミニウムフレークを添加した処理液の中で亜鉛フレークを積層させ、加熱(焼付け)によってフレーク同士とフレークと下地を結合させ、陰極防食に十分な導電性をもつ無機の表面皮膜にする、と説明している[1]。
「ダクロ処理」とだけ書いた注文では、六価クロムを含むか、表層皮膜や潤滑剤があるか、どれだけの耐食性を求めるかが決まらない。規格は、六価クロムの有無を指定しなければ納品時の有無は供給者が選んでよい、としている[1]。
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注文は表示記号で書く
JIS B 1046 は、注文時の皮膜の表示を、締結用部品の表示(JIS B 1010 の呼び方)に続けて、決まった順番でスラッシュで区切って書くとしている[1]。
| 表示の順番 | 記号 | 意味 |
|---|---|---|
| 1. 基層皮膜 | flZn / flZnL | 含有形潤滑剤なし/あり |
| 2. 六価クロム | yc / nc | 含む/含まない。記号を書かなければ、納品時の六価クロムの有無は供給者が選んでよい |
| 3. 表層皮膜 | TL / Tn | 表層皮膜に含有形潤滑剤あり/なし |
| 4. 追加の潤滑剤 | L | 後から潤滑剤を施したもの |
| 5. 耐食性 | 例:480h | 中性塩水噴霧試験で赤さびが出ない時間 |
| 6. トルク-締付け力関係 | C | ある場合。摩擦係数かトルク係数の範囲を注文時に指定 |
規格の例には、六価クロムを含まない亜鉛フレーク皮膜で 720 時間の耐食性を求める六角ボルトを「JIS B 1180-ISO 4014-M12×80-10.9-flZn/nc/720h」と書くものがある[1]。六角ボルトの呼びの書き方は六角ボルト・六角ナットの規格で扱った。
耐食性は「時間」で指定し、厚さは目安として扱う
JIS B 1046 は、中性塩水噴霧試験(JIS Z 2371)で、表の試験時間のあいだ素地金属に視認できる赤さびがあってはならないとし、時間ごとの参照皮膜厚さを示している[1]。
| 中性塩水噴霧試験の時間(赤さびなし) | 参照皮膜厚さ |
|---|---|
| 240 h | 4 μm |
| 480 h | 5 μm |
| 600 h | 6 μm |
| 720 h | 8 μm |
| 960 h | 10 μm |
規格の注は、この参照皮膜厚さは単なる目安であり、受入れの判定には耐食性を用いる、としている[1]。厚さを注文の条件にするのではなく、時間で注文する。また、試験は皮膜処理後 24 時間以上たってから、選別・梱包・組付けの前の「皮膜を施したまま」の状態で、部品単体について行うとされている[1]。規格は、六価クロムを含まない皮膜は自己修復性が低く表層皮膜が衝撃や摩耗に敏感なため、バルク品の取扱いや自動供給・選別・輸送で耐食性が大きく下がるおそれがあるとし、必要なら試験時間の短縮や皮膜厚さの増加などを取り決めるよう勧めている[1]。試験の時間と、組付け後の実物の耐食性は同じではない。塩水噴霧試験の読み方は塩水噴霧試験の条件の指定で扱った。
研究論文では、平均膜厚 8 μm の焼付け型亜鉛フレーク皮膜が塩水噴霧試験で最大 3 000 時間赤さびを生じなかったとする先行研究が紹介されている[4]。この論文の皮膜はバインダーにクロム化合物(三酸化クロムを含む)を使っており[4]、六価クロムを含む皮膜についての報告で、一般値ではない。六価クロムを含まない皮膜(nc)に同じ時間を期待しない。注文では、規格の時間の区分で必要な性能を書く。
水素ぜい化:処理そのものは水素を出さないが、前処理に注意する
JIS B 1046 は、この皮膜を、内因形水素ぜい化のリスクを避けるため特に高強度締結用部品(1 000 MPa 以上)に適用されるものとしている[1]。亜鉛フレーク皮膜は皮膜を付ける工程中に水素が生成されない特性があり、アルカリ性や溶剤系の洗浄の後に機械的洗浄をする前処理なら水素が生成されないため、内因形水素ぜい化のリスクは全て回避される、と規格は書いている[1]。
危ないのは前処理である。規格は、機械的洗浄が向かない場合(座金組込み部品、めねじのある部品、ラック式で処理する部品など)に酸洗浄を使ってもよいとしつつ、硬さが 390 HV 以上、又は強度区分が 12.9 以上の締結用部品は酸洗浄を行ってはならないと定めている[1]。陰極洗浄の工程も使ってはならない[1]。りん酸塩処理を機械的洗浄の代わりに使うことは認められていて、この前処理で水素が生成されることもあるが、焼付けの工程で外部へ拡散される、と説明されている[1]。
12.9 のボルトに亜鉛フレークを指定するのは、まさに水素ぜい化を避けたいからである。そのときに仕入先が前処理で酸洗浄をしていたら意味がない。注文書には部品の強度区分と硬さを書き、前処理の方法(機械的洗浄か、りん酸塩処理か)を提出させる(提案)。りん酸塩処理の前処理については同じ束のりん酸塩処理(パーカー処理)の指定で扱う。
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比べると、電気めっきの規格(JIS B 1044)は、硬さが 390 HV を超えて焼入焼戻しした締結用部品にはベーキングが必要だとしている[2]。強度区分ごとのめっきの扱いは六角穴付きボルトの規格でも扱った。水素ぜい化を確かめる予荷重試験(JIS B 1045)は工程内の管理に適した試験で、製造工程の最終段階から 24 時間以降に始めると検出の可能性が著しく下がるため、通常は受入検査には適さないとされている[3]。
焼付け温度は部品の焼戻し温度を超えてはならない
JIS B 1046 は、皮膜処理工程が締結用部品の機械的性質や物理的性質に悪影響を及ぼしてはならないとし、亜鉛フレーク皮膜システムによっては焼付け温度が 320℃ に達することがあり、焼付け温度は焼入焼戻しした締結用部品の焼戻し温度を超えてはならない、と定めている[1]。研究論文の試料も 300℃ で焼き付けて作られている[4]。
規格はさらに、焼付け(特に通常より高温・長時間のもの)が熱処理後にねじ転造したボルトの疲労限度に影響するおそれがあると警告し、焼付け温度が焼戻し温度を上回ると、浸炭窒化したタッピンねじやドリルねじ、クリップのような部品の性能に影響するおそれがある、と注意している[1]。非金属のインサート付きのナットでは、焼付け温度による影響を考える必要がある[1]。注文時の要求事項の一つに「皮膜工程の影響を受けるおそれのある締結用部品の材料の性質、すなわち焼戻し温度、硬さ、又はその他の性質」が挙がっている[1]。焼戻し温度を知らない部品なら、まず部品の製造元に確かめる。
ねじの部品は、隙間と皮膜の厚さを両立させる
亜鉛フレーク皮膜は浸せき-振切り式で処理されることが多く、規格は、局部の皮膜厚さが大きく変動し、本来の皮膜厚さを 1/3〜1/2 程度超えることもあるとしている[1]。皮膜はおねじでは基準の山形を超えてはならず、めねじでは下回ってはならない[1]。皮膜厚さ t のとき、おねじの有効径は 4t 増える[1]。
規格の例では、M12(ピッチ 1.75 mm、公差域クラス 6g)のボルトで 480 時間を求める場合、参照皮膜厚さ 5 μm にばらつきを加えた 8 μm の 4 倍=32 μm が最小隙間 34 μm 以下なので両立する。一方、M6(ピッチ 1 mm、6g)で 600 時間を求めると、9 μm の 4 倍=36 μm が最小隙間 26 μm を超えて両立しない。公差域クラスを 6f にすれば最小隙間が 40 μm になり両立する[1]。細いねじに高い耐食性を求めると、ねじがはまらなくなる。そのときは、皮膜を薄くして耐食性を下げるか、ねじの公差を変えるか、別の皮膜にするかを設計と決める[1]。ピッチ 1 mm 未満の部品は、特別な取決めが必要とされている[1]。
皮膜を施したねじは、おねじは公差位置 h、めねじは公差位置 H の通りゲージで判定し、最大ねじ込みトルクは 0.001d³(N・m)まで許容される[1]。ねじの公差の指定はねじの公差域クラスの指定で扱った。
締付け・接触する相手・電気の扱い
潤滑剤を含む皮膜の場合、規定があればトルク-締付け力関係を求め、試験方法と要求は受渡当事者間で取り決める。摩擦係数かトルク係数の範囲は注文時に指定する[1]。皮膜を変えると同じトルクでも締付け力が変わるので、締付けトルクを決めている部品では、皮膜を指定するときに摩擦係数の範囲も一緒に指定する。締付けトルクの考え方は締付けトルクの決め方で扱った。
附属書(参考)は、皮膜を施した締結用部品と、ステンレス鋼・マグネシウム・銅・銅合金などの皮膜のない被締結部材との直接の金属接触は避けるのがよいとし、有機表層皮膜には絶縁の効果があるとしている[1]。また、無機表層皮膜を施したものは通常、電着塗装や静電気防止用途に適しているが、亜鉛フレーク皮膜システムは電気の接地用途には適さないとしている[1]。アース線を締めるボルトに亜鉛フレークを指定するのは避ける。
試験と、注文時に渡す情報
規格は試験を 3 つに分けている[1]。
1. 各ロットに必須の試験
ねじのゲージ検査と外観検査。
2. 工程内管理のための試験
中性塩水噴霧試験、耐熱性(部品本体の温度で 150℃・3 時間加熱した後でも耐食性の要求を満たすこと)、皮膜厚さ又は質量、密着性。ロットごとではなく必要に応じて行う。
3. 購入者が指定した場合に行う試験
中性塩水噴霧試験、皮膜厚さ、トルク-締付け力関係、延性、陰極防食、六価クロムの有無。
つまり、塩水噴霧試験の結果をロットごとに欲しいなら、注文で指定しなければならない。規格は注文時に提供する情報として、規格の引用、皮膜の表示、焼戻し温度や硬さなどの材料の性質、トルク-締付け力関係の要求、その他の要求(耐薬品性・導電性など)、行う試験、抜取方式、シルバーグレー以外の色ならその色、外観の要求を挙げている[1]。皮膜の本来の色はシルバーグレーで、ほかに合意がない限り色のばらつきを理由に不合格としてはならない、ともしている[1]。
注文書の書き方の例
決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を例にまとめる。
「六角ボルト JIS B 1180-ISO 4014-M12×80-10.9-flZn/nc/720h(JIS B 1046)。部品の焼戻し温度:○○℃。前処理の方法(機械的洗浄又はりん酸塩処理)を事前に提出すること。酸洗浄・陰極洗浄は行わないこと。中性塩水噴霧試験の結果をロットごとに提出すること。トルク-締付け力関係:摩擦係数 ○○〜○○(JIS B 1084)。処理液・工程・処理業者の変更は事前承認を要する。」
よくある質問
図面に「ダクロ」とあります。そのまま発注してよいですか
商品名に由来する呼び名なので、規格の表示記号(例:flZn/nc/720h)に直して発注する[1]。六価クロムの有無を書かないと、供給者が選んでよいことになる[1]。
亜鉛フレークなら 12.9 のボルトでも水素ぜい化の心配はありませんか
皮膜を付ける工程では水素は生成されないが、前処理の酸洗浄は水素を生む。規格は 390 HV 以上・12.9 以上の部品の酸洗浄を禁じている[1]。前処理の方法を確かめ、焼付け温度が焼戻し温度を超えないことも確かめる[1]。
皮膜を厚くすれば耐食性は上がりますか
参照皮膜厚さは目安で、受入は耐食性(試験時間)で判定する[1]。細いねじでは、厚い皮膜はねじのはめ合いと両立しないことがある[1]。必要な時間を決め、ねじの公差と両立するかを確かめる。
まとめ
ダクロ・ジオメットは商品名で、規格の呼び名は非電解処理による亜鉛フレーク皮膜(JIS B 1046)である。注文は flZn/nc/720h のような表示記号で書き、六価クロムの有無を必ず指定する。耐食性は中性塩水噴霧試験の時間で注文し、厚さは目安として扱う。皮膜の処理では水素は生成されないが、390 HV 以上・12.9 以上の部品の酸洗浄は禁じられている。焼付けは 320℃ に達することがあり、焼戻し温度を超えてはならない。細いねじでは皮膜とはめ合いの隙間を両立させ、締付けトルクを決めている部品では摩擦係数の範囲も指定する。塩水噴霧試験の結果がロットごとに欲しければ、注文で指定する。
同じ束では、りん酸塩処理(パーカー処理)、カチオン電着塗装、粉体塗装、フッ素樹脂コーティングの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS B 1046:2020 締結用部品-非電解処理による亜鉛フレーク皮膜システム(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2020 年 1 月改正)
- JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月改正)
- JIS B 1045:2001 締結用部品-水素ぜい化検出のための予荷重試験-平行座面による方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2001 年 12 月制定・2026 年 6 月確認)
- 徳武皓也ほか「塩化ナトリウム水溶液における焼付け型亜鉛フレーク処理皮膜の長期防食性能」材料と環境 60 巻 2 号(腐食防食学会/2011 年)
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