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カチオン電着塗装の指定——膜厚を測る場所、下地のりん酸塩、日光に当たる部品の上塗り

この記事のポイント(結論先出し)
電着塗装は、部品を電極にして水性の塗料から塗膜を析出させる塗装で、鋼の部品の防錆には主にカチオン電着が使われる[2][4]。袋の内側まで塗れるのが強みだが、膜厚は場所で大きく違う。自動車の車体の例では、ドアなどの外板が 30〜39 μm なのに対して、フレームの内面や袋構造、板の合わせ部は 20〜10 μm あるいはそれ以下だった[2]。だから注文書には膜厚の数字だけでなく、どこで測った値を判定に使うか(内側・合わせ部を含むか)を書く。下地のりん酸塩処理の種類も決める[4][5]。電着の塗膜は光で劣化しやすいので[6]、日光の当たる部品で電着を仕上げの塗装にするかは、上塗りの要否まで含めて決める。
目次
電着塗装は「部品を電極にする」塗装
電着塗装は、水性の塗料の槽に部品を沈め、部品を電極にして直流を流し、塗料の粒子を部品の表面に析出させる塗装である。JIS B 0122(加工方法記号)では、塗装(SPA)の下に電着塗装(SPAED)が置かれている[1]。
部品を陰極にするのがカチオン電着、陽極にするのがアニオン電着である。自動車の電着塗料の開発を報告した論文は、大部分の自動車の車体が防錆と塗装の下地調整を目的にカチオン電着塗装を施していると書いている[2]。化成処理の解説論文も、1970 年代の融雪塩による塩害を受けて、電着塗料がアニオン電着から防食性に優れるカチオン電着に切り替わったと述べている[4]。
一方、アルミサッシなどの建材は、陽極酸化皮膜の上にアニオン電着塗装をした複合皮膜が大半である。建材向けの解説は、カチオン電着が使われない理由として、防食性には優れるが耐候性が劣ることと、アルミを陰極にすると陽極酸化皮膜が崩れるおそれがあることを挙げている[3]。図面に「電着塗装」とだけあるときは、カチオンかアニオンかを、素材と使う場所から確かめる。
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膜厚は場所で違う。判定に使う場所を決める
電着塗装が袋の内側まで塗れるのは、析出した塗膜が電気の絶縁体になって通電を遮るため、電流が塗膜のまだない部分へ移って新しい塗膜を析出させ、陽極に向き合っていない内部にまで連続して塗膜ができるからである[2]。ただし、塗膜は対極に近い外側から先に析出し、内側へ順に移っていくので、外側は厚く、内側や合わせ部は薄くなる[2]。先の論文が示した車体の膜厚の分布から、部位が読み取れるものを抜き出す。外板は 35〜30 μm、内側は 20〜10 μm あるいはそれ以下というのが論文の本文の記述である[2]。
| 場所(車体の例) | 電着の膜厚 | 区分 |
|---|---|---|
| ドア・床の外側 | 30〜39 μm | 外板 |
| ルーフ | 28〜31 μm | 外板 |
| 床の室内側 | 19〜25 μm | 内面 |
| サイドシルの内側 | 12〜19 μm | 袋構造の内側 |
| フレームの内面・袋構造・板の合わせ部(本文の記述) | 20〜10 μm あるいはそれ以下 | 内側 |
同じ論文は、車体の防錆については発錆までの時間と電着の膜厚との依存性が明確で、内板部の防錆性能を保つには薄くなりがちな内板部の膜厚を確保しなければならないこと、通常 10 μm 以下の膜厚では良好な耐食性を保つのが難しいことを書いている[2]。電圧を下げて外板の膜厚だけを減らすと、内側が薄くなって耐食性が確保できないとも報告している[2]。これは自動車の車体の塗料と工程での話だが、形の複雑な部品を発注するときの考え方としてそのまま使える。
注文書で「膜厚 20 μm 以上」とだけ書くと、仕入先は測りやすい外側で測って合格にできてしまう。さびが問題になるのは、たいてい内側や合わせ部である。そこで次を決めておく(発注側の提案)。
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1. 判定に使う場所
外側の代表点と、内側・合わせ部のうち錆びると困る場所を図面に示す。
2. 場所ごとの下限
外側と内側で別の下限にするか、内側の下限で判定するかを決める。
3. 測り方
内側の膜厚は通常の膜厚計が届かないことがある。初回は部品を切って測るのか、試験用の板を同時に塗るのかを決める。乾燥膜厚の測り方そのものは塗装の仕様の決め方で扱った。
袋構造・合わせ部・吊り具の跡
建材向けの解説は、電着塗料の大部分(80% 程度)が水であるため入り組んだ内部形状へも浸入できると書く一方で、電着後の水洗が不足すると水洗むらのような外観異常が出たり、析出していない塗料成分が重力で下へ移って下部の膜厚が厚くなったりすることがあるとしている[3]。液が入ること、空気が抜けること、液が抜けることは、部品の形で決まる。袋構造の部品を電着で発注するときは、液の出入りする穴の位置を設計と仕入先で確かめておく(提案)。
電着は通電して塗るので、部品を吊るすジグとの接点には跡が残る。アルミの陽極酸化塗装複合皮膜の規格(JIS H 8602)は、注文者が加工業者に渡す情報の一つに、接点(通電させるためのジグとの接触面)の跡の望ましい位置と許容される大きさを挙げている[7]。鋼の部品のカチオン電着でも同じことが起きるので、外観面に接点の跡が出てよいかを決めておく。
下地のりん酸塩処理を指定する
カチオン電着の下には、ふつう化成処理の皮膜がある。自動車の塗膜の構成を示した論文では、素地の上にりん酸塩(Phosphate)、その上に電着の層が重なっている[2]。塗装下地用のりん酸塩化成処理剤の規格(JIS K 3151)は、りん酸二水素亜鉛・ニッケル・マンガンの 3 成分を主成分とする 3 種を、カチオン電着塗装下地の用途に分けている[5]。
下地の効き方は大きい。化成処理の解説論文は、化成皮膜の上にカチオン電着塗装をした冷延鋼板の耐食性を比べ、化成処理の皮膜がないと塩温水試験や複合サイクル試験で塗膜が著しく膨れ、塩温水試験では塗膜が剥離したことを示している[4]。同じ論文は、りん酸亜鉛処理に替わる処理としてジルコニウム化成処理が開発され、ナノオーダーの連続した非晶質の皮膜で、表面調整が要らず工程を短くできると紹介している[4]。
どちらを使うかは仕入先のラインで決まっていることが多い。発注で押さえるのは次の 2 点である(提案)。一つは、下地の種類(りん酸亜鉛系か、ジルコニウム系か)を仕入先に明示させ、承認した仕様として記録すること。もう一つは、下地の処理剤や工程を変えるときは事前に連絡させ、変更の前後で耐食性の確認をやり直すことである。下地のりん酸塩処理の指定は同じ束のりん酸塩処理(パーカー処理)の指定で扱う。
日光の当たる部品では、上塗りの要否まで決める
電着の塗膜は防錆の層で、日光には強くない。自動車の電着塗装の光劣化を調べた論文は、電着塗装材料は耐候性において光劣化しやすい特徴があると書き、電着塗料は一般にビスフェノール基をもつエポキシ樹脂を主成分としていて、その化学結合の解離エネルギーが紫外線の放射エネルギーに相当すると説明している[6]。車体では、電着の上の中塗りが光を遮る役を担っており、中塗りを省くと電着への光の透過が増え、上塗りがはがれる可能性が高まるという[6]。
部品でいうと、電着だけで仕上げた部品を屋外の日光の当たる場所に使うと、塗膜が早く劣化することがある。電着を最終の塗装にしてよいのは、屋内や日光の当たらない場所か、劣化を承知のうえで使う場合である。日光が当たるなら、上塗りを指定するか、塗装の系を変えるかを設計と決める(提案)。外装のアルミ建材のように、アニオン電着で耐候性を規格の種類として指定する例もある。JIS H 8602 は複合皮膜を耐食性・促進耐候性・複合耐食性で A1・A2・B・C の 4 種類に分け、適用環境の参考として A1 を過酷な環境で紫外線露光量の多い地域の屋外、C を屋内としている[7]。
焼付けの温度は、組み込まれた部品と照らす
電着塗装は、析出させた塗膜を焼き付けて硬化させる。建材向けのアクリル/メラミン系のアニオン電着塗料について、解説は一般的な焼付条件を 160〜200℃で 20〜40 分と比較的高温だとしている[3]。焼付けの条件は塗料で決まるので、カチオン電着でも、使う塗料の焼付条件を仕入先に出させる。
電着は部品をまるごと槽に沈めて焼き付けるので、樹脂部品・ゴム・接着した部品・熱に弱い表示が組み込まれた状態で出すと、その部分がもたないことがある。組立品のまま塗装に出すのか、塗装してから組むのかは、焼付条件を見てから決める(提案)。
受け取るときに確かめること
1. 膜厚
決めた場所(内側・合わせ部を含む)で、決めた下限を満たしているか。どの場所で何点測ったかの記録。
2. 外観
水洗むら・たれ・塗りむら・接点の跡が、決めた範囲に入っているか。外観の合否基準の決め方は外観の合否基準を仕入先と決めるで扱った。
3. 下地の記録
承認した下地処理(種類・処理剤)で処理されているか。変更の連絡がないか。
4. 耐食性
求めているなら、試験の種類と時間、判定の方法が注文どおりか。塩水噴霧試験の条件の書き方は塩水噴霧試験の条件の指定を参照してほしい。
注文書の書き方の例
決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を例にまとめる。
「表面処理:カチオン電着塗装(SPAED)。下地:りん酸亜鉛系化成処理(種類と処理剤を事前に提出し承認を得ること)。膜厚:外面 15 μm 以上、図面に示す内面の測定点で 12 μm 以上(初回は部品を切断して測定し記録を提出)。外観面(図面の指示箇所)に接点の跡を残さないこと。使用環境:屋内。下地処理・塗料・焼付条件の変更は事前承認を要する。」
例の数字は書き方の例で、規格の値ではない。車体の例では 10 μm 以下だと良好な耐食性を保つのが難しいとされているので[2]、内面の下限をその境目ちょうどにしない。部品の使い方から設計が決める。
よくある質問
電着塗装なら、内側まで同じ厚さに塗れるのですか
内側まで塗膜が付くのが電着の強みだが、同じ厚さにはならない。外側から先に析出するため、車体の例では外板が 35〜30 μm なのに対して、フレームの内面や袋構造、板の合わせ部は 20〜10 μm あるいはそれ以下だった[2]。判定に使う場所と下限を決めておく。
屋外で使う部品を電着塗装だけで仕上げてよいですか
電着の塗膜は光で劣化しやすいと報告されている[6]。日光が当たるなら、上塗りの要否を設計と決める。外装のアルミ建材のように、耐候性を規格の種類で指定する例もある[7]。
アルミの部品にカチオン電着を指定してもよいですか
アルミ建材では、陽極酸化皮膜の上にアニオン電着をするのが一般的で、カチオン電着は陽極酸化皮膜が崩れるおそれがあることなどから使われていないと解説されている[3]。アルミの部品で電着を求めるときは、陽極酸化の有無と電着の種類を仕入先と確かめる。
まとめ
電着塗装は部品を電極にして塗膜を析出させる塗装で、鋼の部品の防錆には主にカチオン電着が使われる。内側まで塗れるが、膜厚は外側で厚く内側で薄い。注文書には膜厚の数字に加えて、判定に使う場所と場所ごとの下限、内側の測り方を書く。下地のりん酸塩処理(またはジルコニウム系)の種類を明示させ、変更は事前に連絡させる。電着の塗膜は光で劣化しやすいので、日光の当たる部品では上塗りの要否まで決める。焼付けの温度は、組み込まれた樹脂・ゴム・接着部と照らして、組立の順番を決める。
同じ束では、りん酸塩処理(パーカー処理)、粉体塗装、亜鉛フレーク皮膜、フッ素樹脂コーティングの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS B 0122:1978 加工方法記号(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1978 年 2 月改正・2023 年 10 月確認)
- 上村純二ほか「つき廻り性能の高い電着塗料の開発」Honda R&D Technical Review 8 巻(本田技術研究所/1996 年)
- 平野浩司・溝口佳孝「アルミ建材向け電着塗装」色材協会誌 85 巻 6 号(色材協会/2012 年)
- 迫良輔「自動車ボディーおよび家電用亜鉛めっき鋼板の化成処理技術」色材協会誌 88 巻 11 号(色材協会/2015 年)
- JIS K 3151:1996 塗装下地用りん酸塩化成処理剤(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1996 年 8 月改正・2021 年 10 月確認)
- 小島圭介ほか「電着塗装の光劣化挙動研究」Honda R&D Technical Review 25 巻 2 号(本田技術研究所/2013 年 10 月)
- JIS H 8602:2025 アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2025 年 12 月改正)
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