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パーカー処理(りん酸塩処理)の指定——JIS K 3151 の皮膜質量と水素ぜい化の注意

この記事のポイント(結論先出し)
「パーカー処理」は現場の通称で、規格の呼び名はりん酸塩処理(化成処理の一つ)である[1]。図面の記号 SCHP は処理の名前しか決めないので[2]、何のためのりん酸塩皮膜か(塗装下地・防錆油との併用・塑性加工の潤滑など)と、皮膜の量(g/m²)を注文書に書く。塗装下地用の処理剤は JIS K 3151 が主成分と皮膜質量で 5 種に分けており[3]、皮膜の量の言い方はこの区分を借りると話が通じやすい。りん酸塩処理は酸性の液で行い、素地の溶解に伴って水素が発生する[4][5]。焼入れした高強度のボルトやばねにかけるときは、水素ぜい化への対策を仕入先と決めてから発注する。
目次
「パーカー処理」と書いた図面では、何が決まっていないか
現場で「パーカー処理」「パーカライジング」と呼ばれているものは、JIS H 0400(電気めっき及び関連処理用語)でいう化成処理の一つ、りん酸塩処理である。規格は化成処理を、化学的・電気化学的な処理によって金属表面に安定な化合物を生成させる処理と定義し、その例にりん酸塩処理、クロメート処理、黒染処理を挙げている[1]。図面に書く加工方法記号は JIS B 0122 で、表面処理の化成処理(SCH)の下にりん酸塩処理(SCHP)が置かれている[2]。
ただし、通称でも記号でも、決まるのは「りん酸塩の皮膜を付ける」ことだけである。どのりん酸塩(亜鉛系・マンガン系・鉄系など)か、皮膜をどれだけ付けるか、処理の後に油を含ませるのか塗装するのか、硬い部品の水素ぜい化をどう扱うかは、記号からは読み取れない。仕入先は自社の慣行でそれを埋めるので、仕入先が替わると同じ図面から別の皮膜が出てくる。
黒染めとの選び分け(黒い外観・寸法を変えたくない用途は黒染め、塗装下地や油の保持を求めるならりん酸塩)は黒染めの指定で、表面処理全体の地図と図面記号の読み方は表面処理の種類と図面の記号で扱った。この記事は、りん酸塩処理に絞って、発注書に何を書き、受け取るときに何を確かめるかをまとめる。
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まず「何のためのりん酸塩皮膜か」を書く
同じりん酸塩処理でも、目的によって求める皮膜が違う。鋼構造の研究論文は、りん酸塩処理を古くから塗装下地や塑性加工の潤滑剤の保持材として使われてきた安定した処理だと紹介し、さらに溶融亜鉛めっき面の摩擦接合面の処理に応用できるかを検討している[7]。用途を整理すると、発注で確かめることは次のように分かれる。
| 目的 | 皮膜に求めること | 注文書で決めておくこと(提案) |
|---|---|---|
| 塗装下地 | 塗膜の付着と、塗膜下の腐食を抑えること | 皮膜の種類(JIS K 3151 の種類で言うと通じやすい)、皮膜質量、処理から塗装までの時間 |
| 防錆油と併用した防錆 | 油を保持すること | 油の種類と、油を含ませるところまでを処理に含めるか |
| 塑性加工の潤滑 | 潤滑剤を保持すること | 加工する側(鍛造・引抜き)の条件と合わせて仕入先が決める範囲かを確かめる |
| 摩擦接合面の処理 | すべり係数を確保すること | 設計・構造の評定で決まっている処理から変えない |
表の右の欄は規格の要求ではなく、発注側として確かめておきたいことの提案である。摩擦接合面については、溶融亜鉛めっき高力ボルトの採用にあたり、ボルトメーカー各社がすべり面の処理法(ブラスト処理)と一括して一般建築評定を取得してきた経緯がある[7]。りん酸塩処理が有効だという研究結果があっても、評定で決まった処理を発注側の判断だけで置き換えない。
塗装下地のりん酸塩は、JIS K 3151 の種類で話すと通じる
JIS K 3151(塗装下地用りん酸塩化成処理剤)は、鉄鋼表面の塗装下地に使う処理剤の規格で、主成分・処理方法・膜厚によって 1 種から 5 種に分けている[3]。部品そのものの規格ではなく処理剤の規格なので、部品の受入基準として丸ごと使うものではない。ただ、皮膜の種類と量の言い方が決まっているので、仕入先との会話の共通語として使える。
| 種類 | 主成分(促進剤併用) | 皮膜質量 g/m² | 主な用途(規格の表 1) |
|---|---|---|---|
| 1 種(1Z-1〜1Z-4) | りん酸二水素亜鉛 | 薄膜 1.5 未満/中膜 1.5〜3.5/厚膜 3.5 を超える | 一般塗装下地。薄膜は意匠性と付着性、厚膜は防食性能を求める用途 |
| 2 種(2Z-1〜2Z-4) | りん酸二水素亜鉛+ニッケル・コバルト・マンガンのいずれか一つの金属塩 | 1 種と同じ区分 | 一般塗装下地又は電着塗装下地。1 種より防食性能を重視する用途 |
| 3 種(3Z-1・3Z-2) | りん酸二水素亜鉛・ニッケル・マンガンの 3 成分 | 薄膜 1.5 未満(スプレー)/中膜 1.5〜3.5(浸せき) | カチオン電着塗装下地 |
| 4 種(4Z-1〜4Z-3) | りん酸二水素亜鉛・りん酸二水素カルシウム | 中膜 1.5〜3.5/厚膜 3.5 を超える | 高温焼付塗装下地 |
| 5 種(5F-1・5F-2) | りん酸二水素ナトリウム又はアンモニウム | 0.2 以上 | 屋内用の一般塗装下地(脱脂兼用を含む) |
規格は 2 種と 3 種が亜鉛や亜鉛合金めっき材にも使えるとしている(参考)[3]。また、皮膜の色は 1〜4 種が灰色又は黒色、5 種が金色又は青紫色で、5 種の皮膜はりん酸鉄と酸化鉄の混合の非晶質だとしている[3]。屋外で使う塗装品の下地に、屋内用とされる 5 種が使われていないかは、ここで見分けがつく。
自動車ボディーのりん酸亜鉛処理を解説した論文によると、りん酸亜鉛処理の液は亜鉛とりん酸を主成分とする pH 3.0〜3.5 の酸性水溶液で、処理の前に表面調整を行うと緻密な結晶皮膜になる[4]。皮膜の腐食抑制効果は、結晶の凹凸によるアンカー効果と、腐食の初期に溶解して塗膜下の pH の変化を緩和する緩衝作用によると考えられている[4]。塗装まで含めた仕様は塗装の仕様の決め方で、電着塗装の下地としての話は同じ束のカチオン電着塗装の指定で扱う。
皮膜の量は「g/m²」で決め、測り方も決める
JIS K 3151 は皮膜の量を厚さではなく皮膜質量(g/m²)で表し、測り方も決めている。処理した試験片の皮膜を除膜液ではがし、前後の質量差を表面積で割る方法で、除膜液には三酸化クロムの水溶液を 75±5℃で使う[3]。りん酸塩皮膜は結晶の集まりで凹凸があるため、膜厚計で測った値を「皮膜の量」として扱うと、測る人と測り方で値が変わる。注文書には g/m² で書き、何で測るかを決めておく。
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規格の測定は鋼板(SPCC-SD)の試験片で行う方法である[3]。複雑な形の部品を直接測るのは難しいので、部品と同時に処理した試験片で管理するのか、部品の一部を切り出すのかを、発注のときに仕入先と合意しておくとよい(実務の提案)。除膜に六価クロムの液を使うことも、試験を外部に頼むかどうかの判断材料になる。
焼入れした高強度の部品は、水素ぜい化を前提に指定する
りん酸塩処理は酸性の液で素地を溶かしながら皮膜を作る処理で、先の論文は、溶解で生じた電子が素材の界面で水素イオンを還元し、水素が発生する反応を示している[4]。締結用部品の亜鉛フレーク皮膜の規格(JIS B 1046)も、前処理としてりん酸塩処理を使う場合について、この工程で水素が生成されることもあると書いている[5]。
焼入焼戻しした硬いボルトやばね、浸炭した部品にりん酸塩処理をかけると、吸蔵した水素によるぜい性破壊(遅れ破壊)の危険がある。締結用部品の電気めっきの規格(JIS B 1044)は、硬さが 390 HV を超えて焼入焼戻しした締結用部品にはベーキング(水素を追い出すための加熱)が必要だとしている[8]。これは電気めっきの規格で、りん酸塩処理にそのまま適用される規定ではない。それでも、同じく酸と水素が絡む処理なので、硬い部品にりん酸塩処理を指定するときは、次の 3 点を仕入先と決めてから発注する(発注側の提案)。
1. 部品の硬さを伝える
図面の硬さ(HV・HRC)と、焼戻し温度を仕入先に渡す。ベーキングをするなら、その温度が焼戻し温度を超えないことも確かめる。
2. ベーキングの要否と条件
処理後にベーキングをするか、するなら温度・時間・処理からの経過時間をどうするかを決める。
3. 確認の試験
水素ぜい化の検出には JIS B 1045 の予荷重試験がある。ただしこの試験は工程内の管理に適したもので、製造工程の最終段階から 24 時間以降に始めると検出の可能性が著しく下がるため、通常は受入検査には適さないと規格に書かれている[6]。受け取った後に試すのではなく、仕入先の工程の中で行わせ、その記録を出させる。
規格はまた、水素ぜい化に対する感受性そのものは、製造工程の後のベーキングによって減らしたり無くしたりはできないとしている[6]。ベーキングは水素を減らすための処置であって、もともと割れやすい硬さの部品を安全にするものではない。強度区分の高いボルトの表面処理の選び方はボルトの強度区分と規格の指定も参照してほしい。水素の心配を避けたい締結部品では、同じ束の亜鉛フレーク皮膜も候補になる。
受け取るときに確かめること
JIS K 3151 は処理剤の品質として、皮膜が連続的で均一かつ平滑で、さびその他の有害な欠陥を生じないこと、を外観の要求にしている[3]。部品の受入でも、この言い方を借りて外観の基準を書くと話が通じる。受入では次を見る。
1. 外観と色
むら・さび・素地の露出がないか。皮膜の種類に対して色が合っているか(灰色〜黒色か、金色〜青紫色か)。
2. 皮膜質量の記録
注文した g/m² の範囲に入っているか。同時処理の試験片で測ったのか、部品で測ったのか。
3. 後処理
油を含ませる指定なら、指定した油が使われているか。塗装下地なら、処理から塗装までの時間が守られているか。
4. 硬い部品の記録
ベーキングの実施記録と、工程内で行った水素ぜい化の試験の記録。
出荷までのさびを防ぐ包装の条件は出荷時の防錆の指定で扱った。
注文書の書き方の例
決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を例にまとめる。
「表面処理:りん酸亜鉛処理(化成処理 SCHP)。目的:焼付塗装の下地。皮膜:JIS K 3151 の 2 種相当、皮膜質量 1.5〜3.5 g/m²(同時処理した試験片で測定し、ロットごとに記録を提出)。処理から塗装までの時間を記録すること。部品は焼入焼戻し品(硬さ ○○ HV、焼戻し温度 ○○℃)のため、ベーキングの条件を事前に提出し承認を得ること。処理液・処理工程の変更は事前承認を要する。」
よくある質問
図面に「パーカー処理」とだけ書いてあります。そのまま発注してよいですか
処理の名前しか決まっていないので、目的と皮膜質量を確認してから発注する。規格の呼び名はりん酸塩処理で[1]、記号の SCHP も処理の名前を示すだけである[2]。塗装下地なのか、油を含ませて防錆に使うのかで、求める皮膜が変わる。
りん酸塩処理だけで屋外のさびを防げますか
皮膜の効果は、塗装と組み合わせたときのアンカー効果や緩衝作用として説明されている[4]。屋外で使う部品では、塗装や防錆油とどう組み合わせるかまで含めて仕様にする。
強度区分 10.9 のボルトにりん酸塩処理をしたいのですが
水素の発生を伴う処理なので[4][5]、部品の硬さを伝え、ベーキングの要否と条件、工程内での水素ぜい化の試験(JIS B 1045)を仕入先と決めてから発注する[6]。規格の要求として決まっているのは電気めっき(JIS B 1044)の場合で[8]、りん酸塩処理については発注側が条件を決める必要がある。
まとめ
パーカー処理は、規格の呼び名ではりん酸塩処理で、図面の記号 SCHP は処理の名前しか決めない。発注では、塗装下地・防錆油との併用・塑性加工の潤滑といった目的と、皮膜の量を g/m² で書く。塗装下地の皮膜は JIS K 3151 の 1〜5 種の区分で話すと通じやすく、5 種は屋内用の区分である。皮膜質量の測り方(同時処理の試験片か、部品か)も決めておく。りん酸塩処理では水素が発生しうるので、焼入れした高強度の部品では、硬さと焼戻し温度を伝え、ベーキングの条件と工程内の試験を決めてから発注する。
同じ束では、カチオン電着塗装、粉体塗装、亜鉛フレーク皮膜、フッ素樹脂コーティングの発注も扱う。
出典・参考資料
- JIS H 0400:1998 電気めっき及び関連処理用語(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1998 年 11 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS B 0122:1978 加工方法記号(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1978 年 2 月改正・2023 年 10 月確認)
- JIS K 3151:1996 塗装下地用りん酸塩化成処理剤(JIS 検索)(日本産業標準調査会/1996 年 8 月改正・2021 年 10 月確認)
- 迫良輔「自動車ボディーおよび家電用亜鉛めっき鋼板の化成処理技術」色材協会誌 88 巻 11 号(色材協会/2015 年)
- JIS B 1046:2020 締結用部品-非電解処理による亜鉛フレーク皮膜システム(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2020 年 1 月改正)
- JIS B 1045:2001 締結用部品-水素ぜい化検出のための予荷重試験-平行座面による方法(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2001 年 12 月制定・2026 年 6 月確認)
- 小端高行・佐藤正康「溶融亜鉛めっき摩擦接合面へのりん酸塩処理の適用に関する研究」鋼構造論文集 5 巻 18 号(日本鋼構造協会/1998 年 6 月)
- JIS B 1044:2024 締結用部品-電気めっき皮膜システム(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2024 年 2 月改正)
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