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原価管理とは——材料費・労務費・経費をどう分けて、何に配るか

この記事のポイント(結論先出し)
原価管理は原価計算そのものではなく、原価計算が果たす複数の役割のうちの一つである。原価計算基準は第 1 章 1 に五つの目的を掲げ、その三番目に経営管理者の各階層に対して原価管理に必要な原価資料を提供することを置いている。製造原価はまず材料費・労務費・経費という形態別の三区分で捉え、そのうえで直接費と間接費に分ける。法人税法施行令も自己の製造による棚卸資産の取得価額を原材料費・労務費・経費の額としており、この三区分は会計の慣習であると同時に税務上の枠組みでもある。実務の難所は、製品にひもづかない間接費をどの製品にどんな基準で割り当てるか、つまり配賦にある。
目次
「原価管理」と「原価計算」は同じ言葉ではない
原価管理という言葉は、原価を計算することと同じ意味で使われることが多い。だが両者を並べて定義した文書がある。昭和 37 年(1962 年)11 月に大蔵省企業会計審議会が中間報告として公表した原価計算基準である。この基準は公表から長期間にわたって一度も改正されないまま、わが国の原価計算制度の実践規範として機能してきた[2]。
原価計算基準は、第 1 章の 1 において原価計算に課せられる目的として次の五つを掲げている[1]。
1. 財務諸表の作成に必要な真実の原価を提供すること
決算で棚卸資産と売上原価をいくらで計上するかという、外部に出す数字のための計算である。
2. 価格計算に必要な原価資料を提供すること
売価や見積単価を決めるための計算である。買う側から見れば、相手の提示額が妥当かを判断する材料でもある。
3. 経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価資料を提供すること
ここが原価管理である。目的の一つとして位置づけられており、原価計算全体と同義ではない。
4. 予算ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること
5. 経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること
この五つが並んでいることの意味は大きい。決算のために作った原価と、値決めのために作った原価と、現場を管理するために作った原価は、同じ数字である必要がない。目的が違えば、計算されるべき原価の内容も変わるからである[1]。自社の原価計算がうまく機能していないと感じるとき、最初に確かめるべきは計算方法の巧拙ではなく、どの目的のために計算しているのかが決まっているかどうかである。
制度としての原価計算と、その外側
原価計算基準は、断片的に行われる原価の統計的・技術的な計算や調査ではなく、財務会計機構と有機的に結びつき常時継続的に行われる計算体系を原価計算制度と呼ぶ。基準が対象とするのはこの制度としての原価計算であり、これは実際原価計算制度と標準原価計算制度に分かれる[1]。一方で、経営の基本計画や予算編成における選択的事項の決定に必要な差額原価などの特殊な原価は、制度の外側にあるものとして扱われる[1]。
実務でいえば、毎月締めて帳簿とつながる計算が制度、ある案件の採否を判断するために一回だけ行う試算は制度の外、という区別になる。両者を混ぜて一つの表で管理しようとすると、どちらの用途にも使えない数字ができあがる。
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製造原価は材料費・労務費・経費に分かれる
原価計算基準の第 2 章第 2 節は費目別計算を定めている。項目 9 は、費目別計算とは一定期間における原価要素を費目別に分類測定する手続をいい、財務会計における費用計算であると同時に原価計算における第一次の計算段階であるとする[2]。
ここで言う原価要素とは、費目に分類する前の原価の構成要素を指す。製鉄業を例にとれば、消費した鉄鉱石や石炭、溶鉱炉や圧延機の減価償却、人が働いたことに対する賃金、動かすために使った電力といったものが原価要素であり、それが材料費・減価償却費・賃金・電力料といった費目に分類される[2]。
三区分は税法の側でも同じ
この三区分は会計上の慣習にとどまらない。法人税法施行令第 32 条第 1 項第 2 号は、自己の製造等に係る棚卸資産の取得価額を、当該資産の製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額と、その資産を消費または販売の用に供するために直接要した費用の額の合計額と定めている[3]。仕掛品や製品を決算でいくらに評価するかという計算が、この三区分を前提に組み立てられている。
同条第 2 項には、実務にとって重要な規定がある。法人が算定した製造等の原価の額が第 2 号イおよびロの合計額と異なる場合でも、その原価の額が適正な原価計算に基づいて算定されているときは、その原価の額をもって取得価額とみなすという定めである[3]。自社の原価計算が適正であれば、その結果が税務上の評価額として通用する。逆に言えば、原価計算の作り方そのものが問われる。
直接費と間接費——分ける基準は「製品にひもづくか」
費目別計算における分類の仕方は、原価計算基準の項目 10 に示されている。原則として形態別分類を基礎とし、これを直接費と間接費に大別し、さらに必要に応じて機能別分類を加味する、というのがその建て付けである[2]。基準が例示している分類を整理すると次のようになる。
| 形態別の区分 | 直接費(製品にひもづく) | 間接費(ひもづかない) | 製品原価への入り方 |
|---|---|---|---|
| 材料費 | 主要材料費(原料費)、買入部品費 | 補助材料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費 | 直接分は賦課、間接分は配賦 |
| 労務費 | 直接賃金 | 間接作業賃金、間接工賃金、手待賃金、休業賃金、給料、従業員賞与手当、福利費 | 同上。工数の記録が前提 |
| 経費 | 外注加工賃 | 減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、厚生費、福利施設負担額 | 外注分は賦課しやすい。設備関係は配賦 |
この表で注目したいのは、外注加工賃が直接経費として例示されていることである[2]。買った部品は買入部品費として直接材料費に入り、加工だけ外に出したものは直接経費に入る。調達で外注比率が高い会社ほど、直接費として把握できる範囲が広く、配賦に悩む部分が相対的に小さくなる。逆に内製比率が高いほど、設備と間接工の費用をどう配るかが原価の精度を左右する。
「賦課」と「配賦」の違い
直接費は、どの製品のために使ったかが分かるので、その製品に直接割り当てる。これを賦課という。間接費は、どの製品のために使ったかを個別に追えないため、何らかの基準を決めて割り当てる。これが配賦である。なお、製造原価に販売直接費の賦課額と一般管理及び販売間接費の配賦額まで加えた額を「総原価」と呼ぶ考え方がある。これは戦時の価格決定のために置かれた概念で、原価計算基準にはない——基準を作る際に総原価の概念と計算手続は意図的に外された[1][2]。基準の立場では、販売費および一般管理費はその発生額をそのまま期間の費用とするのが原則である[2]。
配賦は「正しい答え」が一つに決まらない
配賦の基準としてよく使われるのは、直接作業時間、機械稼働時間、直接労務費、直接材料費、生産数量である。どれを選ぶかで製品ごとの原価は動く。段取りに時間がかかるが材料が安い製品と、材料が高いが加工が短い製品を同じ会社で作っている場合、直接労務費を基準にするか材料費を基準にするかで、どちらが儲かっているように見えるかが入れ替わる。
ここで押さえておきたいのは、税務の側は配賦の厳密さを一律には求めていないことである。法人税基本通達 5-1-5 は、法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品または仕掛品に配賦することが困難である場合には、その製造間接費を半製品および仕掛品の製造原価に配賦しないで製品の製造原価だけに配賦することができるとしている[4]。仕掛品まで細かく配らなくてよい、という簡略化が明文で認められている。
原価に入れなくてよい費用がある
同じ款の通達 5-1-4 には、製造原価に算入しないことができる費用が列挙されている。創立記念賞与のように特別に支給されることが明らかな賞与、基礎研究および応用研究の費用、事業税および特別法人事業税の額、事業の閉鎖や事業規模の縮小のため大量に整理した使用人に支給する退職給与、生産を相当期間にわたり休止した場合のその休止期間に対応する費用、借入金の利子などである[4]。
工場で発生した支出をすべて製造原価に放り込むと、休止期間の費用や特別賞与まで製品の原価に混ざり、月ごとの単価が理由なく跳ねる。原価管理の観点でも、こうした費目は分けておいたほうが読みやすい。
製造の後に発生する費用の扱い
通達 5-1-3 は、製造等の後に要した検査、検定、整理、選別、手入れ等の費用、製造場等から販売所等へ移管するために要した運賃や荷造費、特別の時期に販売するため長期にわたって保管するために要した費用について、これらの合計額が製造原価のおおむね 3% 以内であれば取得価額に算入しないことができると定めている[4]。3% という具体的な目安があるので、自社の後工程費用がこの水準に収まるかを一度測っておくと、扱いを決めやすい。
また通達 5-1-7 は、製造工程から副産物、作業くず、仕損じ品が生じた場合に、総製造費用から副産物等の評価額を控除して製品の製造原価を計算するとしている[4]。歩留まりの悪い工程を持つ会社では、この控除を入れるかどうかで製品原価がはっきり変わる。
費目別 → 部門別 → 製品別という三段階
原価計算基準の第 2 章は、費目別計算のあとに部門別計算、製品別計算、販売費および一般管理費の計算を置いている[2]。この順序が原価管理の設計図になる。
| 段階 | 何を出すか | 必要になる記録 | 分かること |
|---|---|---|---|
| 費目別 | 一定期間の原価要素を費目ごとに集計 | 仕訳、購買記録、給与、外注請求 | 工場全体で何にいくら使ったか |
| 部門別 | 費目を部門・工程に割り当て | 部門コード、設備の所属、面積や電力の按分根拠 | どの工程が費用を食っているか |
| 製品別 | 部門費を製品・ロットへ配賦 | 製造指図、実績数量、工数の実績 | どの製品が赤字か |
費目別計算が対象とする期間について、原価計算基準は特に規定を置いていない。ただし 1 か月を原価計算期間とするのは定着した慣行であり、費目別計算の期間も 1 か月とみるのが妥当だとされている[2]。また費目別計算の単位は、部門別計算の対象となる各種の部門を総括した一つの工場全体と考えるべきものとされ、工場が複数ある場合には複数工場を単位とする費目別計算があってもよいと論じられている[2]。
製品別まで到達している会社は多くない
三段階のうち、どこまで行けているかは会社によってかなり違う。宮城県内の食品製造業 15 社を対象とした調査では、80% にあたる 12 社で製品別原価計算が行われていなかったと報告されている。さらに数社の協力を得て製品ごとの利益率を評価したところ赤字製品の存在が確認され、ある企業では利益率がマイナスの製品が売上構成比の 2% を占めていた[5]。
会社全体では黒字なのに製品別に見ると赤字がある、という状態は珍しくない。ここで大事なのは、製品別まで行っていないこと自体が誤りではない、という点である。製品別原価計算には製造指図ごとの実績数量と工数の記録が要る。その記録が取れない状態で製品別の数字だけ作ると、配賦の仮定が結果を決めてしまい、見かけの精度と実際の信頼度が乖離する。
原価の数字は社外との交渉にも使われる
原価管理は社内の話にとどまらない。取引の場面でも原価の裏づけが問われる。
中小受託取引適正化法(取適法)は、第 5 条第 1 項第 5 号で買いたたきを禁じている。条文は、中小受託事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い製造委託等代金の額を不当に定めることを禁止する、というものである[6]。ここでいう通常支払われる対価とは、同種または類似の給付について当該事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価、すなわち市価を指す[6]。
公正取引委員会は違反行為の例として、自己の目標を達成するために半年ごとに加工費の一定率の原価低減を要求し、十分な協議をすることなく一方的に通常の対価を大幅に下回る代金の額を定めた事例を挙げている[6]。原価の根拠を持たない一律の低減要求は、それ自体が問題になりうる。買う側にとっても、原価の内訳を理解していることは価格の妥当性を説明する土台になる。
よくある質問
原価管理は決算のためにやるものか
決算のためだけではない。原価計算基準の五つの目的のうち、財務諸表の作成は一つ目にすぎず、価格計算・原価管理・予算統制・基本計画の設定が並んでいる[1]。決算だけが目的なら、期末に棚卸資産を評価できる粒度があれば足りる。値決めや工程改善に使うのであれば、部門別や製品別の数字が要る。
材料費・労務費・経費のうち、どこから手をつけるべきか
把握が確実な順に進めるのが現実的である。材料費と外注加工賃は、購買記録と請求書という外部証憑があるので数字が固い。労務費は工数の記録がなければ按分に頼ることになり、経費のうち設備関係は配賦基準の設計が要る。外部証憑で押さえられる範囲を先に固め、そのうえで工数の記録を足していく順序が崩れにくい。
間接費の配賦基準は途中で変えてよいか
変えること自体は避けられないが、変えた時期と理由を記録し、変更前後で比較する期間を用意しておく必要がある。基準を変えると過去との比較ができなくなるため、変えた月をまたいで「原価が下がった」と読むと誤る。原価計算制度は常時継続的に行われる計算体系だとされている[1]のは、継続することで初めて比較が意味を持つからである。
標準原価は中小企業でも必要か
原価計算制度は実際原価計算制度と標準原価計算制度に分かれる[1]が、標準原価を持つには、材料の標準消費量と標準単価、作業の標準時間と標準賃率をあらかじめ決める作業が要る。品目数が多く仕様変更が頻繁な受注生産では、標準の維持そのものが負担になる。まず実際原価を月次で締められる状態を作り、繰り返し生産する主力品目だけ標準を持つ、という段階的な進め方がとりやすい。
製品の原価に一般管理費まで入れるべきか
原価計算基準の立場では、販売費および一般管理費は製品に配賦せず、その発生額をそのまま期間の費用とするのが原則である[2]。一方で値決めの実務では、製造原価に販売直接費と一般管理及び販売間接費まで加えた額を「総原価」と呼んで下限の目安にすることがある。ただしこれは基準の概念ではない(基準の策定時に外された)[1][2]。製造現場の管理には製造原価が向き、値決めの下限を考えるときは販売費・一般管理費まで見る。どちらの数字を見ているのかを明示せずに議論すると、同じ製品について食い違う結論が出る。
まとめ
原価管理を始めるときにやるべきことは、いきなり製品別の原価を出すことではない。原価計算基準が掲げる五つの目的のうち、自社が何のために計算するのかを一つ決める。次に、製造原価を材料費・労務費・経費の形態別に分け、それぞれを直接費と間接費に分ける。直接費は賦課、間接費は配賦であり、配賦基準の選択で製品別の見え方が変わることを理解しておく。税務の側は小規模な法人について配賦の簡略化を認めており、製造原価に算入しないことができる費用も列挙されている。細かく取ることが常に正解ではない。
そのうえで、費目別 → 部門別 → 製品別という段階を、記録が取れる範囲から順に上がっていく。記録の裏づけがない段階を飛ばすと、配賦の仮定が結論を作ってしまう。原価の内訳を持っていることは、社内の改善だけでなく、価格の妥当性を社外に説明する場面でも効いてくる。
原価管理が、受発注・購買・生産管理とどこで線を引いているかは受発注・購買・生産管理・原価管理の守備範囲で整理している。仕組みとして持つときの粒度の決め方は原価管理システムの選び方、表計算で回す場合の限界は原価管理をエクセルでやるにまとめてある。
調達側の実務との接点は、見積比較表の作り方や買いたたきと価格転嫁の協議応諾義務もあわせて確認しておきたい。棚卸資産の評価と金額の出し方については、棚卸資産とは・評価方法で扱っている。
出典・参考資料
- 『原価計算基準』の解明(諸井勝之助/原価計算研究 第 23 巻第 2 号・日本原価計算研究学会)
- 「原価計算基準」制定 50 年(諸井勝之助/LEC 会計大学院紀要 第 10 号・2012 年)
- 法人税法施行令(昭和 40 年政令第 97 号)(e-Gov 法令検索・デジタル庁)
- 法人税基本通達 第 5 章第 1 節第 2 款 製造等に係る棚卸資産(国税庁)
- 中小食品製造業での製品別原価計算の必要性(宮崎淳子ほか/経営情報学会 全国研究発表大会要旨集・2014 年)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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