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見積回答が返ってこないときの督促と期限管理

この記事のポイント(結論先出し)
見積の回答が期限になっても返ってこないとき、まずやることは督促ではなく「返ってこない理由の切り分け」である。着手されていないのか、こちらの情報不足で止まっているのか、受注する気がないのに辞退を言い出せずにいるのか、値上げを申し出たいが切り出せずにいるのか——理由が違えば打ち手が逆になる。督促そのものを禁じる条文はないが、断りにくい立場を利用して当初依頼していない作業を無償で重ねて求めれば独占禁止法上の問題になり、督促が価格の押し付けに変われば取適法の買いたたきや協議に応じない一方的な代金決定に触れる。そして、揃わないまま発注に進む場合でも、単価を空欄のまま出してよい条件は法令で決まっている。
目次
「返ってこない」を、一つの状態として扱わない
複数社に見積を依頼して、期限になっても半分しか揃わない。比較表が埋まらないので発注先を決められず、社内の日程だけが先に進む。この場面で最初に起きがちなのが、全社に同じ文面の督促を一斉送信することである。返ってこない理由は会社ごとに違うのに、同じ打ち手を当てるので、返る会社は督促がなくても返り、返らない会社は督促しても返らない。
返ってこないという一つの見え方の裏には、別々の状態がある。下の表に切り分けをまとめた(このうち最後の「担当者不在」は、相手の事情なので打ち手が他と違う)。切り分けの順序を決めておくと、督促の文面はほとんど自動的に決まる。
1. まだ着手していない
依頼メールが担当者の受信箱に埋もれている、あるいは受け取った人が見積担当へ回していない。相手の会社が小規模なほど、依頼の窓口と積算をする人が同じで、現場に出ていると数日単位で止まる。この状態なら、短い確認の一報で動く。
2. こちらの情報が足りなくて止まっている
図面の改訂記号が読めない、材質の指定と表面処理の指定が矛盾している、数量の前提が「年間」なのか「初回」なのか分からない。相手は聞き返すか、自社の前提を置いて出すかを迷っている段階で止まっている。質問が来ていないからといって、疑問が無いとは限らない。取引履歴の浅い相手ほど、聞き返すこと自体をためらう。
3. 社内で優先度が下がった
受注確度の高い案件の積算が先に入り、こちらの依頼が後回しになっている。相手にとっては合理的な判断であり、督促で順番が上がるかどうかは、こちらの発注確度をどれだけ伝えられるかで決まる。「参考までに」と書いて依頼したものが後回しになるのは、書いたとおりに扱われているだけである。
4. 受注する気がないが、辞退を言い出せない
設備が空かない、材料の手当てがつかない、あるいは条件が合わない。それでも「今回は辞退します」と伝えるのは、次の依頼が来なくなる不安を伴う。結果として、返事をしないまま時間が過ぎる。依頼側から見れば最も待ち損になる状態で、しかも督促を重ねても状況は動かない。
5. 値上げを申し出たいが、切り出せずにいる
従来と同じ単価では合わないが、値上げした金額を出せば落とされると考えて、見積そのものを止めている。これは想像上の話ではない。公正取引委員会と内閣官房の指針には、長年取引している零細規模の受注者が一向に取引価格の引上げを求めてこないため状況を問い合わせたところ、「どのようにして値上げをしたらいいのか分からない」との答えだったので見積書の作成方法を指導した、という発注者側の取組事例が載っている[4]。同じ指針は、多くの場合に発注者の方が取引上の立場が強く、コストの中でも労務費は特に価格転嫁を言い出しにくい状況にあることを明確に認識したうえで行動することを求めている[4]。
この五つ目を見落とすと、発注側は自分の認識だけで話を閉じてしまう。公正取引委員会が令和 7 年度に実施した価格転嫁の特別調査では、公正取引委員会が示す独占禁止法 Q&A に該当する行為が認められた発注者 4,334 名に注意喚起文書が送られている[6]。その送付対象となった発注者が、協議をしなかった理由として多く選んだのは、引上げの要請が受注者から来なかったから、というものだった[6]。見積書にはコスト上昇分が最初から織り込まれているはずで、相談が無いなら協議は要らない、という発注者側の意見も同じ調査に記録されている[6]。並べてみると、発注側が「返ってこないのは相手の都合」と見ている間に、相手は「出しても通らない」と見て止まっている、という構図になる。要請が来ないことと、上げる必要がないことは別である。
見分けるための一手
| 状態 | 現れ方 | 確かめる一手 | 効く打ち手 |
|---|---|---|---|
| 未着手 | 開封も質問もない | 依頼が届いているかだけを聞く | 短い再送。窓口の付け替え |
| 情報不足 | 1 社だけ質問が来ている、または全社から同じ質問 | 未確定の項目を自分で数える | 確定分を全社へ配り、期限を後ろへ動かす |
| 優先度低下 | 「来週には」が繰り返される | 回答が要る日と、その理由を伝える | 発注予定日と数量の確度を具体的に示す |
| 実質辞退 | 連絡が途切れる。電話には出るが話が進まない | 辞退という選択肢を、こちらから言葉にする | 辞退を受け取って候補から外す。次の依頼は続ける |
| 値上げを切り出せない | 従来品の再見積だけが遅れる | コスト上昇の有無を、こちらから問う | 内訳の様式を渡し、協議の場を設ける |
| 担当者不在 | 不在通知だけが返る | 代理の窓口を尋ねる | 依頼先を個人から部署宛に切り替える |
調達現場で押さえるポイント
回答が返らない案件で最初に見るべきなのは、督促の履歴ではなく依頼書の未確定欄である。相手が黙っている案件の多くは、こちらの側に「相手の裁量に落ちたまま放置された項目」が残っている。督促の前に、依頼した内容を自分でもう一度読む。
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期限は一つでは足りない——先に決めておく五つの日付
回答期限だけを書いた依頼は、期限を過ぎた瞬間に打ち手が無くなる。過ぎた後に動けるようにするには、期限の前後に別の日付を置いておく必要がある。何を依頼書に書くかという話ではなく、返ってこなかったときの手順を先に決めておくという話である。依頼の時点で相手に何を伝えるかについては、相見積を依頼するときに伝えること・伝えてはいけないことで扱っている。
| 日付 | 置く位置の目安 | この日付が無いと何が起きるか |
|---|---|---|
| 質問の締切 | 依頼日から 3〜5 日 | 期限の前日に仕様の確認が集中し、全社が遅れる |
| 回答期限 | 依頼日から 10〜14 日(新規の相手は 14 日以上) | 積算の工数を見誤り、辞退か概算しか返らない |
| 辞退の連絡期限 | 回答期限と同じ日 | 受注する気のない相手を待ち続け、比較開始が遅れる |
| 結果の通知日 | 回答期限から 5〜10 日 | 選ばれなかった会社が結果を知らず、次の依頼で優先度が下がる |
| 発注予定日 | 結果の通知日から 3〜5 日 | 相手が案件の確度を測れず、積算の優先順位を上げられない |
日数はいずれも実務上の目安であって、法令に定めがあるものではない。品目の難度と、相手が新規か既存かで動く。要点は数字そのものではなく、五つのうち二つ——結果の通知日と発注予定日——が「回答が来なかった後」に置かれているという点にある。
辞退の受け皿を、依頼側から作る
四つ目の状態——受注する気がないのに辞退を言い出せない——を放置しないための唯一の方法は、辞退という返事を依頼側が正式な選択肢として扱うことである。「今回お受けできない場合は、その旨だけご連絡ください。理由は差し支えのない範囲で構いません」と依頼書に一行入れておくと、無言のまま消える相手が減る。辞退の連絡が早ければ、その工数を残りの候補に回せる。
受注側から見た返信の組み立て方は、見積依頼への返信の書き方——回答・お礼・辞退の 3 パターンで扱っている。相手が何を書きにくいと感じているかが分かると、依頼側の文面も変わる。
督促は、どこから問題になるのか
先に整理しておくと、見積の回答を促すこと自体を禁じる条文は無い。期限を伝え、経過を確認し、判断のために回答を求めることは、通常の取引の一部である。問題になるのは、二つの経路に入ったときである。
経路 1:断りにくい立場を利用して、無償の作業を重ねて求める
見積の作成は、発注内容に含まれない作業である。原価の内訳、条件を変えた複数パターン、工程別の積み上げ——督促のたびに求めるものが増えていくと、相手は無償で作業を積み増すことになる。
公正取引委員会のガイドラインは、独占禁止法第 2 条第 9 項第 5 号ロが「継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」を対象としていることを示したうえで、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、正当な理由がないのに、発注内容に含まれていない金型等の設計図面、知的財産権、従業員等の派遣以外の役務提供その他経済上の利益の無償提供を要請する場合であって、相手方が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるとしている[2]。想定例には、発注内容に金型の設計図面を提供することが含まれていないにもかかわらず、取引の相手方に無償で提供させることが挙げられている[2]。
督促そのものがこれに当たるわけではない。線を分けているのは、要請の中身が当初の依頼を超えているか、そして相手が今後の取引を懸念して断れない状況にあるかである。同じ「もう一度お願いします」でも、期限の確認と、追加の積算依頼はまったく別の行為として扱われる。督促のたびに求めるものが増えていないかを、自分の送信履歴で確かめる価値がある。
経路 2:督促が、価格の押し付けに変わる
もう一つの経路は、督促の中身が金額の話になったときである。ここからは取適法(中小受託取引適正化法)の領域に入る。ただし取適法の遵守事項は、委託事業者が中小受託事業者に対し製造委託等をした場合を対象としている[3]ので、見積を集めている段階そのものではなく、集めた見積をもとに代金の額を決める場面が中心になる。公正取引委員会のテキストは、買いたたきは発注する時点で生ずるものであり、いったん決定された代金を事後に減ずる減額とは区別されると説明している[1]。
買いたたきは第 5 条第 1 項第 5 号に置かれ、給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めることを禁じている[3]。該当するおそれのある方法として挙げられているものの中に、督促と直結するものがある。短納期発注を行う場合に、中小受託事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い代金の額を定めること[1]。回答が遅れた分を納期の圧縮で取り戻そうとするとき、この一文が効く。
そして 2026 年 1 月 1 日の施行で加わったのが、協議に応じない一方的な代金決定の禁止(第 5 条第 2 項第 4 号)である[3]。給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合に、中小受託事業者が代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、協議に応じず、または求めた事項について必要な説明や情報の提供をせず、一方的に代金の額を決定することが禁じられた[3]。公正取引委員会のリーフレットは、協議を明示的に拒む場合だけでなく、協議の求めを無視したり、協議を繰り返し先延ばしにしたりして協議を困難にさせる場合も違反になると明記している[5]。
見積の督促という文脈で決定的なのは、「協議を求めた」の解釈である。テキストは、書面か口頭かを問わず明示的に協議を求める場合のほか、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含むとし、その例として、中小受託事業者が従来の単価を引き上げて計算した見積書等を提示した場合を挙げている[1]。つまり、待たされた末に従来より高い見積が返ってきたとき、その見積書の提示自体が協議の求めに当たり得る。遅れたことを理由に扱いを後回しにする、あるいは従来単価での再提出だけを求めるという対応は、この条文の正面に立つ。
逆に、必要な説明を尽くしても同じ質問が反復される場合や、求められた事項が代金の額に関する協議との関連性を欠く場合、こちらの営業秘密の開示を求めるものである場合には、その事項に応じなくとも「必要な説明若しくは情報の提供をせず」とは言えないとされている[1]。応じる義務は無限ではない。ただし、引上げの求めに対して合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、その提示を協議に応じる条件とすることは、一方的な代金決定に該当する方法として挙げられている[1]。「内訳を全部出さないと話は聞かない」は、この線を越える。
なお、2026 年 1 月の施行に伴って条番号と用語が動いている。旧下請法の 3 条書面は取適法の 4 条明示に、5 条書面は第 7 条の書類等の作成保存になった。社内の購買規程や発注書式に旧法の条番号が残ったままなら、そこから直す作業が要る。条番号の差し替えを自社の書類でやるなら、NEWJI総研の法令改訂対応パック(中小受託取引適正化法)に、どの書式のどこを直すかまで落とした資料を用意している。
督促の書き方——返る督促と、返らない督促
切り分けと線引きを踏まえると、督促の文面に何を入れるべきかは絞られる。返らない督促に共通するのは、相手が動くために必要な情報が一つも増えていないことである。「その後いかがでしょうか」だけの再送は、相手の判断材料を何も変えていない。
入れるもの
回答が要る日と、その日である理由。理由が言えないと、相手は「本当は動かせる期限だ」と読む。次に、こちらの案件の確度。数量が確定なのか予定なのか、発注時期はいつを見ているのか。前述のとおり、多量の発注を前提に単価を見積らせて少量の発注しかしない場合の単価として代金の額を定めることは買いたたきに該当するおそれがあると示されている[1]ので、確度を盛って伝えるのは督促としても法令の側からも成立しない。
そして、辞退という選択肢。相手が四つ目の状態にいるなら、これが最も早い解決になる。
入れないもの
他社の見積金額。相見積であること自体を伝えるのは構わないが、他社の数字を出して急がせるのは、その会社との守秘の問題であり、価格の押し付けにも近づく。次に、期限を過ぎたことへの詰問。相手が値上げを切り出せずに止まっている場合、責める文面は口をさらに閉じさせる。最後に、当初依頼していない追加資料の要求。前節のとおり、督促のたびに要求が増えるのが最も危うい形である。
頻度と、経過日数ごとの打ち手
| 時点 | 送るもの | 狙い |
|---|---|---|
| 依頼から 3〜5 日 | 着信確認(督促ではない) | 埋もれと窓口違いを、ここで潰す |
| 質問締切の翌日 | 回答した質問の全社共有 | 情報不足で止まっている相手を動かす |
| 回答期限の 2〜3 日前 | 期限の再確認と、辞退の受付 | 期限当日の未着を減らす |
| 回答期限の翌日 | 状況の確認と、いつなら出せるかの確認 | 待つか落とすかを決めるための材料を取る |
| 期限から 3〜5 日 | 候補から外す旨の連絡 | 関係を切らずに、案件を前へ進める |
同じ相手に一日に何度も送るのは、督促ではなく圧力として受け取られる。時点を決めて一度ずつ送り、送ったことを記録する。この五段のうち三段は期限前にあり、実際に「督促」と呼べるのは最後の二段だけである。
なお、返ってこない相手が「そもそも電子では受け取れない」と言っている場合は、督促の問題ではなく手段の問題である。その切り分けは取引先に「システムは使えない」と言われたらで扱った。
期限を過ぎたときの三択
待つ
その会社でなければならない理由があるとき——専用の型を持っている、認証を持っているのがそこだけ、といった場合——は待つ判断が正しい。ただし、待つと決めたら社内の日程を先に動かす。待った結果として製造のリードタイムだけが削られるなら、それは待ったことにならない。
落とす
比較に足る社数が既に揃っているなら、期限を過ぎた 1 社を外して先に進める。外すときに連絡を省くと、次の依頼で回答が返らなくなる。落とす連絡は、督促の最後の一通ではなく、関係を続けるための一通として書く。
条件を変えて再依頼する
三つ目が最も注意を要する。回答が集まらないので納期を詰める、あるいは数量を減らして再依頼する場合、条件が変われば適正な価格も変わる。短納期発注で相手に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い代金の額を定めることは、買いたたきに該当するおそれがある方法として明示されている[1]。また、従来の納期の短縮、納入頻度の増加や発注数量の減少等による取引条件の変更は、協議に応じない一方的な代金決定の条文にいう「その他の事情」に含まれると説明されている[1]。条件を動かした側が、協議に応じる側になる。
再依頼するときは、変えた条件を明示し、前回の見積をそのまま使わないことを伝える。前回の金額を据え置いたまま条件だけ厳しくするのは、この三択の中で唯一、法令の側から明確に問題になる進め方である。
揃わないまま発注に進むとき——単価は空欄で出せるのか
期限を過ぎても発注を止められない案件はある。このとき「金額が決まっていないから発注書は後で出す」という運用を選びがちだが、それは最も危ない。取適法は、製造委託等をした場合は直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日および支払方法その他の事項を書面または電磁的方法で明示しなければならないと定めている[3]。テキストは、電話のみによる発注は明示義務違反になると明記している[1]。
そのうえで、逃げ道は条文の中に用意されている。第 4 条第 1 項のただし書は、明示すべき事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては明示を要しないものとし、その事項の内容が定められた後直ちに明示しなければならないと定める[3]。実務ではこれを「当初の明示」と「補充の明示」と呼ぶ[1]。
当初の明示に、必ず二つを書く
未定の項目を空欄にしたまま出す場合、当初の明示には、その内容が定められない理由と、内容を定めることとなる予定期日を書く必要がある[1]。理由は簡潔で足り、「ユーザーの詳細仕様が未確定であるため」といった書き方が示されている[1]。
予定期日は具体的な日が特定できるように書く。テキストの Q&A は、「○月○日」と「発注日から○日」は認められ、「納入月」は具体的な日が特定できないので認められない、「納期」は実際に納期まで決まらないのであれば認められるが、そのような実態がない場合や当初の明示で納期を明示していない場合には認められない、と整理している[1]。すべての発注で一律に「発注日から○日」と書くことは、実際に一律の時期に特定可能になるのであれば可能だが、通常そのような場合は考えにくいとされている[1]。なお、やむを得ず予定期日が守られなかったこと自体は、直ちに法律上の問題になるものではないとも示されている[1]。
仮単価についても答えがある。単価を定められないことについて正当な理由がある場合には、正式な単価でないことを示したうえで具体的な仮単価を明示したり「0 円」と表記したりすることも認められる。ただし単価が定められない理由と、単価を定めることとなる予定期日を明示し、単価が決定した後には直ちに補充の明示をしなければならない[1]。補充の明示は、当初の明示との関連が分かるようにする。同じ注文番号を使う、「本注文書は○年○月○日付けの注文書の明示事項を補充するものです」と付記するといった方法が挙げられている[1]。
ただし、算定方法が書けるなら未定にはできない
ここが実務で最も誤解されやすい。テキストは、代金の額として具体的な金額を定めることとなる算定方法を明示することが可能である場合には、代金の額について「その内容が定められないことについて正当な理由がある」とは言えないとしている[1]。ユーザーとの取引価格が決まっていないなど、決定できるにもかかわらず決定しない場合も同じである[1]。つまり「金額が出ないから空欄」は、算定方法が書けない場合に限られる。算定方法として何が認められるかは、参考見積と正式見積の違い——有効期限と価格変動の扱いで扱っている。
返ってきた見積が古いとき
待った末に届いた見積が、以前に取ったものの流用だったという場面がある。あるいは、督促を重ねているうちに、手元にある見積の有効期限が切れていた。期限切れの見積で発注に進むと、価格の前提が現在と合わないまま代金の額が決まる。材料相場が動く品目では、その差は交渉の余地ではなく、単なる前提の食い違いになる。有効期限の決め方と、期限切れの見積を使い続けたときに何が問題になるかは、前掲の参考見積と正式見積の記事で扱っている。
この記事の文脈で押さえておきたいのは、遅れて届いた見積が従来より高い場合の扱いである。前述のとおり、従来の単価を引き上げて計算した見積書等の提示は、協議を希望する意図が客観的に認められる場合の例として挙げられている[1]。遅れて届いたことと、その金額に応じるかどうかは別の判断であり、遅延を理由に協議を先送りすれば、それ自体が問題になる。
督促の記録は、何のために残すのか
取適法は第 7 条で、委託事業者に対し、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項について記載または記録した書類等を作成し保存することを義務づけている[3]。これは発注後の記録であって、見積段階の督促の記録そのものを法が求めているわけではない。
それでも督促の記録を残す理由は二つある。一つは価格交渉の記録として。指針は、発注者と受注者の共通の行動として、価格交渉を行う都度、協議内容を記録し双方が確認して残すことを挙げ、双方に人事異動が発生することから、記録があると次回以降の交渉をスムーズに開始できると説明している[4]。督促のやり取りの中で条件やコストの話が出れば、それは協議の一部になる。
もう一つは、次の期限設計のためである。どの会社が何日で返してくるかを案件ごとに残しておくと、次の依頼で置く回答期限が実態に合う。回答が遅れがちな会社に短い期限を置き続けても、遅れが減ることはない。記録は責任追及の材料ではなく、期限の見積り精度を上げる材料として使う。
道具で減らせる部分と、減らせない部分
ここまでの作業のうち、判断そのものは人がやるしかない。一方で、状態を見えるようにする部分は仕組みで持てる。当社が提供している受発注プラットフォームの Newji one では、見積依頼ごとに仕入先の状態——招待済み、閲覧済み、回答済み、辞退——が一覧で分かり、まだ回答していない相手を選んでリマインドのメールを送れる。送るのは人で、自動で送られるものではない。連続して送れないよう最短間隔が設けられており、回答済みや辞退済みの相手には送れない。
取引先の側は、アカウントを作らなくてよい。届いたメールのリンクからそのまま回答でき、その画面で辞退を選んで理由を書くこともできる。辞退は依頼元に通知される。前述した「辞退を言い出せずに消える」状態を減らすには、辞退の手続きを相手にとって軽くしておくのが一番効く。
よくある質問
督促は何回まで送ってよいか
回数を定めた法令はない。判断の基準になるのは回数ではなく中身である。求めているものが当初の依頼を超えていないか、相手が今後の取引を懸念して断れない状況で無償の作業を積み増していないか[2]。期限の確認を時点を決めて送るぶんには、回数そのものが問題になる場面は考えにくい。
回答が遅れた会社を、次回の依頼先から外してよいか
誰に見積を依頼するかは発注側の判断であり、遅延を理由に候補から外すこと自体は自由である。ただし、法令違反の事実を公正取引委員会や中小企業庁長官などに知らせたことを理由として取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすることは第 5 条第 1 項第 7 号で禁じられている[3]。また指針は、労務費の転嫁を求められたことを理由として取引を停止するなど不利益な取扱いをしないことを、発注者が採るべき行動として挙げている[4]。値上げの申し出があった直後に候補から外せば、理由が遅延であっても、そう見られない保証はない。
期限を過ぎた見積を受け取ってよいか
比較の公平さの問題として、社内の基準を先に決めておく。全社の回答が揃うまで開封しない運用にしているなら、期限後の受領を認めた時点でその前提が崩れる。認めるなら、認める旨を全社に同時に伝え、期限そのものを後ろへ動かすほうが筋が通る。
相手から「もう少し待ってほしい」と言われたら
いつまでなら出せるかを聞く。日付が返ってくるなら、その日を新しい期限として全社に共有できるかを検討する。日付が返ってこないときは、辞退に近い状態である可能性が高い。待つ判断をするなら、社内の後工程の日程を先に動かしておく。
値上げした見積が返ってきたので、従来単価で出し直してもらえるか
出し直しを求めること自体は交渉だが、従来の単価を引き上げて計算した見積書の提示は協議を希望する意図が客観的に認められる場合に当たり得る[1]。求めに応じず、必要な説明や情報の提供もせずに一方的に代金の額を決めれば、据え置きであっても一方的な代金決定に該当し得る[1]。まず協議の場を持ち、判断の根拠を示す。
相手が値上げの根拠を出せないと言ってきたら
指針は、発注者に対し、受注者からの申入れの巧拙にかかわらず協議を行い、必要に応じて労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案することを求めている[4]。取組事例として、算定式の例を案内する、協議用のフォーマットをあらかじめ共有して受注者に記載して提示してもらう、といった方法が挙げられている[4]。同指針の別添には、価格交渉の申込み様式の例として、原材料価格・労務費などの内訳欄を持つ見積書の書式が付いている[4]。根拠が出せないことを理由に協議を止めるのではなく、書ける形を渡す。
まとめ
見積の回答が返ってこないとき、督促の文面を工夫する前に、返ってこない理由を五つに切り分ける。着手されていないのか、こちらの情報不足なのか、優先度が下がったのか、辞退を言い出せずにいるのか、値上げを切り出せずにいるのか。後ろの二つは督促を重ねても動かず、依頼側から選択肢を差し出さない限り解けない。
期限は回答期限だけでは足りない。質問の締切、辞退の連絡期限、結果の通知日、発注予定日まで先に置いておくと、期限を過ぎた後に取る行動が決まる。督促そのものは自由だが、当初の依頼を超える無償の作業を、断りにくい立場を利用して重ねて求めれば独占禁止法上の問題になり[2]、督促が金額の押し付けに変われば買いたたきや、協議に応じない一方的な代金決定に触れる[3]。遅れを納期の圧縮で取り戻すときは、費用増を代金に反映する[1]。
そして、揃わないまま発注に進む場合も、単価を空欄で出してよい条件は決まっている。理由と予定期日を書き、確定したら直ちに補充する。算定方法が書けるなら、空欄にはできない[1]。返ってこないことへの対処は、督促の技術ではなく、依頼から発注までの日付と記録の設計である。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(公正取引委員会/平成 22 年 11 月 30 日・令和 8 年 6 月 17 日改正)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(内閣官房・公正取引委員会/令和 5 年 11 月 29 日・令和 8 年 1 月 1 日改正)
- トリテキ法の注意ポイント ー 代金編 ー(委託事業者向け)(公正取引委員会)
- 「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(公正取引委員会/令和 7 年 12 月 15 日)
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