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マスタの棚卸しをどう回すか——消せるもの、消せないもの、置きっぱなしにできないもの

この記事のポイント(結論先出し)
品目マスタと取引先マスタが膨らんでいるのに誰も手を付けられないのは、「消すと何が壊れるか」が誰にも分からないからである。ここは経験や度胸で決める場所ではなく、外側から先に答えが決まっている。取適法の第 7 条記録は、中小受託事業者を識別できる符号を記録事項に含み、その符号で検索できる状態のまま 2 年間保存することを求める。電子取引のデータは、取引年月日その他の日付・取引金額・取引先の 3 項目で検索できることが要件になっている。つまり過去の取引に紐づくマスタは、消すのではなく無効にして残すしかない。逆に、取引先マスタに入っている担当者個人の氏名や携帯番号は、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努める側の情報である。マスタの棚卸しとは、削除する作業ではなく、「消せない」「消してよい」「むしろ消す」の 3 つに仕分けて、消せないものを新規入力から外す作業である。
目次
先に用語をそろえる——この記事は在庫の棚卸しの話ではない
「棚卸し」という言葉は、製造業では 2 つの意味で使われる。1 つは決算のために現物の数量を数える実地棚卸で、もう 1 つはここで扱う登録データの見直しである。日本語が同じなので社内でも会話がすれ違う。この記事は後者だけを扱う。前者、つまり仕掛品や預け在庫を含めた現物の数え方と差異の処理は棚卸とは|製造業のやり方と手順、仕掛品と預け在庫の扱いに、評価方法と税務上の扱いは棚卸資産とは|評価方法の選び方と、届け出をしない場合の扱いに分けてある。
対象にするのは、品目マスタ・取引先マスタ・単価や図面のような付随情報である。典型的な症状は決まっている。品目を検索すると同じものが 3 件出てくる。取引先を選ぶ画面のリストが数百行あり、そのうち実際に発注しているのは数十社だけ。廃番になった品番が生きたまま残っていて、新人がそれを選んで見積を出してしまう。誰も消さないのは怠慢ではなく、消した瞬間に何が読めなくなるかを説明できる人がいないからである。
調達現場で押さえるポイント
棚卸しの会議を「これは要るか、要らないか」から始めると必ず止まる。要る・要らないは主観だが、過去の取引に紐づいているかどうかは事実として調べられる。紐づいているものは、要らなくても消せない。この 1 本の線を先に引くと、議論の対象は一気に小さくなる。
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消せないものは、法令の側から先に決まっている
取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)第 7 条は、委託事業者に対し、製造委託等をした場合は公正取引委員会規則で定めるところにより、給付・給付の受領・代金の支払その他の事項を記載し又は記録した書類又は電磁的記録を作成し、保存しなければならないと定めている[2]。公正取引委員会・中小企業庁のテキストは、この書類等を「7 条記録」と呼び、2 年間保存しなければならないものとして解説している[1]。制度が置かれたねらいも明記されていて、受託取引に係るトラブルを未然に防止するとともに、行政機関の検査の迅速さ・正確さを確保するためである[1]。
マスタの棚卸しにとって決定的なのは、記録規則の書きぶりである。記録規則(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則)第 1 条第 1 項は、記録すべき事項を第 1 号から第 13 号まで並べており、その第 1 号が「中小受託事業者の商号、名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって中小受託事業者を識別できるもの」である[3]。つまり取引先コードで記録してよい。よいのだが、それは同時に、そのコードが誰を指すのかが分からなくなった瞬間に記録が識別機能を失うということでもある。
さらに第 2 条第 3 項は、記録を電磁的記録で残す場合に満たすべき要件を 3 つ挙げている[3]。第 1 号は、記録事項について訂正又は削除を行った場合にその事実および内容を確認することができること。第 2 号は、記録した事項を画面に表示し、書面に出力できること。第 3 号は検索機能で、こちらはさらに 2 つに分かれ、イが第 1 条第 1 項第 1 号の事項(=中小受託事業者を識別できる符号)を検索の条件として設定できること、ロが製造委託等をした日について範囲を指定して条件を設定できること、である[3]。そして第 3 条が、記載又は記録をすべき事項の全部の記載又は記録をした日から 2 年間保存することを求める[3]。
ここから、マスタに対する具体的な制約が 2 つ出てくる。1 つ目は、取引先コードを別の会社に使い回してはいけないこと。同じコードが期間によって別の会社を指すと、そのコードで検索したときに 2 社ぶんの記録が混ざり、第 2 条第 3 項第 3 号イの検索が「識別できる」条件として働かなくなる。2 つ目は、マスタの取引先名を上書きで書き換えるのは危ないこと。社名変更や統合で名称だけを置き換えると、過去の記録を画面に出したときに、当時交付した書面と違う名前が出る。訂正や削除の事実と内容を確認できることが電磁的記録の要件になっている以上、いつ何をどう変えたのかを残さない上書きは、そもそも設計として合っていない。
記録に何を書くのか、2 年をいつから数えるのかは取適法が求める記録——何を書いて、2 年間どう残すかに整理してある。マスタ側の話に絞ると、押さえるべきは「識別できる符号を保存期間中ずっと一意に保つ」の一点である。なお 2026 年 1 月の施行にあわせて記録規則そのものが全部改正されており、条文の建て付けが変わっている。法令改訂の前後で自社の運用のどこを直すのかを一覧で確認したい場合は、法令・規格 改訂対応パック(中小受託取引適正化法)に、条文・記録事項・社内の作業の対応表をまとめてある。
税務側の要件も、実は取引先マスタを縛っている
もう 1 つの縛りは電子帳簿保存法から来る。国税庁の一問一答【電子取引関係】は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存にあたって確保が必要な検索機能を 3 つ挙げている。⑴ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができること、⑵ 日付又は金額に係る記録項目についてはその範囲を指定して条件を設定することができること、⑶ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること、の 3 つである[4]。
注目すべきは、条件項目に「取引先」が入っていることである。専用のソフトを使っていない場合の満たし方も同じ一問一答に示されていて、取引データのファイル名に日付・金額・取引先を統一した順序で入力しておく方法や、取引先ごとにフォルダを分けたうえでファイル名に日付と金額を入れる方法、表計算ソフトで一覧表を作る方法が挙げられている[4]。いずれも取引先の呼び名が安定していることが前提になっている。同じ会社を「株式会社◯◯製作所」「◯◯製作所」「マルマル製作所」と 3 通りに書いていれば、検索の条件として設定できても、条件に入れた 1 つの表記でしか引けない。
ちなみに、判定期間に係る基準期間における売上高が 5,000 万円以下の事業者などについては、税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合に検索要件の確保が不要とされる措置がある[4]。ただしこれは「取引先の表記が乱れていてよい」という話ではなく、検索機能を自前で用意しなくてよいという話である。書類そのものを何年残すのかは税法・会社法の側で別に決まっており、その年数の数え方は注文書・見積書は何年保存するか——法人税法・会社法・電帳法の違いに分けてある。
逆に、置きっぱなしにしてはいけないものもある
ここまでは「消せない」側の話だが、取引先マスタには反対向きの要請がかかる項目が混ざっている。個人情報の保護に関する法律第 22 条は、個人情報取扱事業者に対し、利用目的の達成に必要な範囲内において個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならないと定めている[5]。努力義務ではあるが、方向は明確である。
取引先マスタに入っている情報のうち、法人としての商号・所在地・法人番号・銀行口座は法人の情報である。一方で、担当者の氏名、担当者個人のメールアドレス、担当者の携帯番号、名刺画像は個人データになりうる。前者は取引の記録に紐づくので残すしかなく、後者は担当が替わった時点で利用する必要がなくなる。同じ「取引先マスタ」という 1 枚の表に、残す義務と消す努力義務が同居している。棚卸しの設計としては、会社の情報と担当者の情報を最初から別の入れ物にしておき、担当者側だけを短い周期で見直すのが素直である。
やってはいけない整理のしかた
「使っていない取引先を消す」という指示だけを出すと、担当者は行の削除で片付ける。行が消えると、その会社に出した過去の発注の相手が読めなくなり、取適法の記録側でも電帳法の検索側でも困る。逆に「消すな」とだけ言うと、担当者の個人情報が退職後も残り続ける。指示は「行を消す・消さない」ではなく、項目ごとに出す。
3 つに仕分ける——判断の表
実際の棚卸しは、この表の左から順に当てはめていくだけの作業になる。「使っているか」ではなく「紐づいているか」で分ける点が肝である。品目側で「何を持つか」から迷っているなら、品目仕様をどこまでマスタに持つかを先に読むと切り分けが早い。
| レコードの例 | 過去の取引に紐づくか | 主な根拠 | 行の削除 | 実務での扱い |
|---|---|---|---|---|
| 直近 2 年に発注のある取引先 | 紐づく | 記録規則 第 1 条第 1 項第 1 号・第 3 条 | 不可 | 有効のまま。棚卸しの対象外 |
| 2 年より前に取引が終わった取引先 | 紐づく | 帳簿書類の保存年数(税法・会社法) | 不可 | 無効にして残す |
| 見積だけ取り、発注していない取引先 | 電子で受け取った見積に紐づく | 電子取引データの検索要件(取引先) | 不可 | 無効にして残す |
| 登録しただけで一度も使っていない取引先 | 紐づかない | — | 可 | 削除してよい |
| 同じ会社が 2 件(重複登録) | 片方だけ紐づく | 記録規則 第 2 条第 3 項第 3 号イ | 紐づく方は不可 | 使っていない方を無効にし、統合先を記録 |
| 退職した担当者の氏名・携帯番号 | 個人データ | 個人情報保護法 第 22 条 | むしろ消す | 遅滞なく消去するよう努める |
| 過去に発注した廃番の品目 | 紐づく | 記録規則 第 1 条第 1 項第 2 号(給付の内容) | 不可 | 廃止として残し、新規選択から外す |
| 図面改訂で置き換わった旧品番 | 紐づく | 同上 | 不可 | 無効にし、後継品番への関係を残す |
| 見積用に作ったまま発注していない品目 | 紐づかない | — | 可 | 削除してよい |
| テスト登録・入力ミスのレコード | 紐づかない | — | 可 | 削除してよい。作られた原因も直す |
3 行目の「見積だけ取った取引先」だけは補足が要る。国税庁の一問一答は、電子取引の取引情報を「注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項」と説明したうえで、保存の範囲は紙で保存する場合と変わらないとしている[4]。同じ問の中で、取引を希望する会社から一方的に送られてくる見積書などは保存の必要がないものと考えられるとも書かれている[4]。自社が依頼して受け取った見積は前者、頼んでいないのに届いた見積は後者、という線になる。紙で受け取った不採用の見積書の年数の考え方は注文書・見積書は何年保存するかに整理してあるので、そちらとあわせて自社の線を決めるとよい。
この表で「不可」が付いた行が全体の何割を占めるかは会社によるが、たいていの現場では過半になる。だからこそ、棚卸しの目的を「レコードを減らすこと」に置くと成果が出ず、途中で止まる。目的は「選ばせない」に置くのが正しい。新規に選べる候補が数十件まで絞れていれば、裏に何千件あっても現場は困らない。
「使っていない」をどう判定するか
紐づきの有無は機械的に分かるが、「もう使わない」は判定が要る。使う項目は次の 4 つで足りる。
| 見る項目 | どこから取るか | 目安 | 誤判定しやすい例 |
|---|---|---|---|
| 最終取引日 | 発注・入庫の履歴 | 24 か月以上動きがない | 年 1 回の定期品、保守部品 |
| 参照件数 | 見積依頼・部品表・単価表 | どこからも参照されていない | 上位の部品表からのみ参照される部材 |
| 有効な単価・図面の有無 | 単価の有効期限、図面のリビジョン | 期限切れのまま更新がない | 都度見積の品目(そもそも単価を持たない) |
| 窓口の生死 | 送信したメールの不達、電話の不通 | 連絡手段がすべて途絶 | 担当者が替わっただけの会社 |
誤判定しやすい例の列を見れば分かるとおり、4 項目のいずれも単独では決め手にならない。運用としては 2 段階にする。第 1 段階は機械で候補を出すところまで。第 2 段階で、候補一覧を調達・設計・品質の各部門に回し、残す理由がある行だけ理由を書いて戻してもらう。「消してよいか」を聞くのではなく「残す理由があるか」を聞くのが要点で、前者は答えないという選択肢が生まれるが、後者は無回答が「理由なし」になる。
なお、この候補出しを画面の絞り込みだけで済ませようとすると行き詰まりやすい。「直近 24 か月で発注が発生していないもの」は、品目マスタの側だけを見ても出てこないからである。品目や取引先の一覧と、発注の明細をそれぞれ書き出して表計算ソフトで突き合わせる前提で段取りを組むほうが、使える機能を探しているより早い。
無効にするのか、行ごと消すのか
整理の手段は 2 つある。1 つは行を残したまま状態を変える方法、もう 1 つは行そのものを消す方法である。実務で使うのはほぼ前者になる。
無効化(状態を変える)は、新規の入力・選択の候補から外す一方で、過去の伝票からはこれまでどおり参照できる状態を作る。取引先を選ぶ画面には出てこないが、2 年前の発注書を開けば相手の名前は正しく出る。記録規則が求める「識別できる符号で検索できること」も保たれる[3]。棚卸しで動かす行の大半はこれで足りる。
行の削除は、その行を指している伝票が 1 枚もないことを確認できたときだけ使う。テスト登録、入力ミス、登録したが使わなかった候補先が該当する。逆に言えば、削除の前に「参照が 0 件であること」を確認する手順が要る。この確認を省くと、伝票の相手が空欄で表示される、あるいはコードだけが残って誰か分からない、という形で後から表面化する。
品目については、無効と有効の 2 値では足りないことが多い。生産は終わったが在庫は売り切る、という段階があるからである。状態を「通常」「廃止(在庫の販売は継続)」「廃止(販売停止)」の 3 段に分けておくと、廃止の判断と在庫処分の判断を別々に進められる。同じ理屈は購買側にも当てはまり、「新規発注はしないが、返品や不良対応の伝票は起こしうる」段階を 1 つ挟むと、現場が例外運用に逃げなくて済む。
変更の履歴を残す
記録規則が電磁的記録に求めている「訂正又は削除を行った場合に、その事実および内容を確認することができること」は、7 条記録そのものへの要件であってマスタへの要件ではない[3]。ただし設計の考え方としてはそのまま使える。誰が・いつ・どの項目を・何から何に変えたかを残しておくと、棚卸しで無効にした行を戻すときにも、後から経緯を説明するときにも困らない。上書きだけの仕組みでは、間違えて無効にしたこと自体に気づけない。
重複をどう見つけ、どう寄せるか
重複は、表記のゆれから生まれる。「株式会社」の前後、旧社名と新社名、本社と工場、担当者が違うので別に登録した、といったところが典型である。名前で突き合わせても、ゆれているから当たらない。
ここで使えるのが法人番号である。国税庁法人番号公表サイトによれば、法人番号は株式会社などの法人等が持つ 13 桁の番号で、利用範囲の制約がなく、誰でも自由に利用できる[7]。国税庁長官が指定し、指定した法人等の基本 3 情報——商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号——が同サイトで公表される[7]。取引先マスタに法人番号の欄を作り、まずそこを埋めてから同じ番号を持つ行を突き合わせると、社名の書き方に関係なく重複が出る。埋める作業自体は手間だが、一度入れておけば以後の重複登録も入口で止められる。
寄せ方には順番がある。過去の伝票の取引先を付け替えてはいけない。当時交付した書面と、システム上の記録が食い違うからである。やることは次の 3 つだけになる。第 1 に、これから使う側(残す行)を決める。第 2 に、使わない側を無効にして、新規の候補から外す。第 3 に、無効にした行に「どの行へ統合したか」を記録する。過去の伝票はそのまま、無効になった側にぶら下げておく。統合先の記録を残すのは、後から「この会社の取引を全部見たい」と言われたときに、2 つの行を足して見る必要があると分かるようにするためである。
品目の重複も理屈は同じだが、判定はもう少し難しい。同じ形状でも材質や表面処理が違えば別品目であり、逆に社内の別部署が別品番を振っただけで実体は同じ、ということもある。突き合わせの鍵になるのは図面番号とリビジョン、そして取引先側の品番である。自社品番と相手品番の対応の持ち方そのものは別の論点なので、ここでは深入りしない。棚卸しの場面では、「図面番号が同じで品番が違う」行を先に洗い出すところまでで十分な当たりが付く。
誰がやるか——監査の側から見た位置づけ
マスタの維持管理は、担当者の几帳面さの問題として扱われがちだが、内部統制の枠組みでは明確に統制活動の一部に位置づけられている。金融庁の企業会計審議会がまとめた「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」は、IT に係る業務処理統制の具体例として、入力情報の完全性・正確性・正当性等を確保する統制、例外処理(エラー)の修正と再処理、マスタ・データの維持管理、システムの利用に関する認証・操作範囲の限定などアクセスの管理を挙げている[6]。
評価する側の記述はもっと直接的で、監査人が留意する評価項目の例として「仕入先、販売先等のマスタ・データの維持管理が適切に行われているか」が挙がっている[6]。同じ実施基準の業務プロセスの例示では、販売管理システムの受注入力は「得意先マスタに登録されている得意先の注文のみ入力することができる」という統制が示されている[6]。マスタは入力の門番として働いている、という前提である。門番を消せば通れなくなるのは当然で、だからこそ無効にする前に、未完了の取引が残っていないかを見る手順が要る。
誰がやるかについては、同じ基準が統制活動に「権限及び職責の付与、職務の分掌等の広範な方針及び手続」が含まれるとし、財務報告の信頼性に関して明確な職務の分掌と内部牽制を整備することの重要性を述べている[6]。マスタに当てはめると、登録・変更を申請する人と、承認する人を分けるのが最小限の形になる。発注する担当者が自分で取引先を新規登録して自分で発注できる状態は、棚卸しの前に直す対象である。実務的な割り振りは、申請が調達・設計の各部門、承認と実際の登録操作がマスタの管理担当、年次の棚卸しの取りまとめが同じ管理担当、というのが回りやすい。
頻度は、全件を年 1 回まとめて見るより、入口と差分に分けるほうが続く。入口は新規登録のとき——既存に同じ会社・同じ図面番号がないかを登録の手前で確認する。差分は四半期ごとに、その期間に動きがなかった行と、新しく登録された行だけを見る。全件棚卸しは、部門の再編や仕組みの入れ替えのように「どのみち全部を触る」タイミングに合わせるのが現実的である。
よくある質問
取引先コードを詰めて振り直したいのですが
過去 2 年の取引がある取引先については避けたほうがよい。記録規則は中小受託事業者を識別できる符号を記録事項とし、その符号を検索の条件として設定できることを電磁的記録の要件としている[3]。振り直すと、記録に残っている旧コードと現在のマスタの対応が失われる。どうしても振り直すなら、旧コードと新コードの対応表を保存期間中ずっと引ける形で残し、旧コードを別の会社に再利用しないことが最低条件になる。
社名が変わったとき、マスタは上書きでよいですか
上書きだけにしないほうがよい。変更前の名称・変更日・変更後の名称を履歴として残す。過去の書面には旧社名が書かれており、記録を画面に出したときに現在の社名しか出ないと、書面と記録が一致しない。あわせて、国税庁法人番号公表サイトでは指定を受けた法人等の基本 3 情報(商号又は名称・本店又は主たる事務所の所在地・法人番号)が公表されているので[7]、変更後の正式な商号はそこで確認してから登録するとよい。
退職した担当者の情報は、いつ消せばよいですか
個人情報保護法第 22 条は、利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去するよう努めることを求めている[5]。担当変更の連絡を受けた時点、あるいはメールが不達になった時点が「必要がなくなったとき」の目安になる。ただし、当時のやりとりを示すメールや書面そのものは取引の記録の側の話であり、マスタの担当者欄を消すことと、過去のメールを削除することは別に判断する。
使っていない品目を、システムが抽出してくれませんか
そこは期待しすぎないほうがよい。品目の一覧と発注の明細をそれぞれ書き出して突き合わせる前提で考えたほうが早い。抽出そのものより、抽出したあとに各部門から「残す理由」を回収する段取りのほうが時間を食う。ここに期限と担当を先に置いておくと、棚卸しは止まらない。
重複を統合したあと、過去の集計はどうなりますか
統合前の伝票はそれぞれの行にぶら下がったままなので、その会社の取引額を通しで見るときは 2 行を足す必要がある。無効にした行に統合先を記録しておくのは、この足し算が必要だと後から分かるようにするためである。集計の都合で過去の伝票を付け替えると、当時交付した書面と食い違う。集計は足し算で解く。
棚卸しの結果は、どこまで残せばよいですか
最低限、いつ・誰が・どの行を・どの状態に変えたかは残す。加えて、無効にした理由(最終取引日、後継品番、統合先)を 1 行で書いておくと、次の棚卸しで同じ調査を繰り返さずに済む。記録規則が 7 条記録に求めているのは訂正・削除の事実と内容を確認できることだが[3]、マスタ側でも同じ粒度で残しておくと、監査の質問にその場で答えられる。
まとめ
マスタの棚卸しが止まるのは、「消してよいか」という問いの立て方が悪いからである。問いを「過去の取引に紐づいているか」に置き換えると、判断は外側の要件で決まる。取適法の 7 条記録は、中小受託事業者を識別できる符号を記録事項に含み、その符号で検索できる状態のまま 2 年間保存することを求める[2][3]。電子取引のデータは、日付・金額・取引先の 3 項目で検索できることが要件になっている[4]。紐づくものは消せない。だから棚卸しの実体は削除ではなく、無効化と分類になる。
そのうえで、取引先マスタには反対向きの要請がかかる項目が混ざっている。担当者個人の情報は、利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去するよう努める側である[5]。会社の情報と担当者の情報を分けて持ち、後者だけを短い周期で見直す。重複は法人番号で突き合わせ、寄せるときは残す側を決めて、使わない側を無効にし、統合先を記録する——過去の伝票は動かさない[7]。
そして、この作業を誰がやるかは組織の問題である。マスタ・データの維持管理は監査人が見る評価項目であり、登録を申請する人と承認する人を分けることは統制の基本形である[6]。年 1 回の全件棚卸しを掲げて息切れするより、新規登録の入口で重複を止め、四半期ごとに差分だけを見るほうが続く。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- 法人番号とは(国税庁法人番号公表サイト)
消さずに整理する——品目を「廃止」にして、履歴を残したまま新規選択から外す
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