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投稿日:2026年10月1日

表面粗さの指定と測定条件——Ra・Rzを仕入先と同じ物差しで測る

この記事のポイント(結論先出し)

表面粗さは「Ra 1.6」のように数値を書いただけでは、仕入先と同じ物差しで測れる状態にならない。測る方向、測る場所、基準長さと評価長さ、フィルタ、触針、測定機の方式のどれかが違えば、同じ面でも値が変わる。規格は測定条件の標準を示しているが、それから外れる条件で測るなら図面や仕様書に書けばよいとされている[4]。発注前に「どのパラメータを、どの条件で、どこを測り、何を報告するか」を決め、古い図面の Rz や旧記号はどの版の定義で書かれたものかを確かめる[1][2]。値が合わないときは、同じ部品を双方で測り、条件の違いを一つずつ潰していく。

粗さの指示は「数値」と「測り方」の組で決まる

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表面粗さの図示方法を定める JIS B 0031 は、その適用範囲を図面だけでなく、仕様書・契約書・報告書などの製品技術文書に表面性状を指示する方法としている[1]。目次を見ると、パラメータ記号の指示に加えて、「評価長さ ln の指示」「通過帯域及び基準長さの指示」「許容限界値の指示-片側又は両側許容限界値」「筋目の指示」「表面処理前後の表面性状の指示」といった項目が並ぶ[1]。粗さの指示は、数値だけでなく、どの長さで、どの波長の範囲を、どちら向きに評価するかまで含めて組み立てる作りになっている。

実務で困るのは、図面には「Ra 1.6」だけが書かれ、残りは規格の標準に任されていることである。標準に任せること自体は問題ではない。問題になるのは、発注側と仕入先が「標準」として思い浮かべている条件が違う場合や、そもそも測定機の設定が標準と違っている場合である。精密工学会誌の解説は、ISO/JIS の方法は工業上の取引を円滑にするための共通の取り決めであって、絶対に従わなければならないものではなく、取引の両者で評価方法を明確にして同意を取り、仕様書や測定の手順書、図面に記載することを求めている[4]。逆にいえば、書いていなければ同意も無い。

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測定値が仕入先と合わない主な原因

同じ部品を発注側と仕入先で測って値が違うとき、原因はおおむね次のどれかに当たる。発注前に決めておけば防げるものが大半である。

違いが出る条件 何が起きるか 発注前に決めること
測る方向 加工の筋目に沿って測ると凹凸を拾いにくい。規格は筋目を横切る向きを推奨している[4] 筋目に対する向き。筋目の向き自体を指示するかどうか
測る場所 面の中で粗さはばらつく。解説は最悪と考えられる場所を選ぶとしている[4] 測定位置と本数(図で示す)
基準長さ・評価長さ 評価長さは標準では基準長さ(カットオフ値)の 5 倍で、測る長さは基準長さの 6 倍以上要る[4]。短い面では確保できない 標準と違う長さで測るなら、その長さを書く
フィルタ 短い側の波長をどこまで含めるか(λs)の選び方で、精密研削やラッピング面では結果に大きな差が出る[5] 通過帯域を標準に任せるか、指定するか
触針の先端 標準は先端半径 2 μm・頂角 60° の円すい形。これより細かい凹凸は捉えきれない[4] 細かい仕上げ面では触針の仕様
測定機の方式 スキッド方式の簡易型は、凹凸の周期との干渉で値が倍になったり零に近くなったりすることがある[5] 使う測定機の方式。簡易型なら上位機との比較の有無
パラメータの定義の版 1994 年版と現行版でパラメータの記号が違う[2] 図面の記号がどの版の定義によるか

測る方向と場所

精密工学会誌の解説は、表面の凹凸に方向性があれば変化の大きな方向へ触針を走らせるように置くこと、そして ISO/JIS 規格では加工の筋目があればその直角方向、つまり筋目を横切るように測ることを推奨していると説明している[4]。測る場所については、測定対象面の中で表面粗さが最悪の値になると考えられる場所を選ぶとしている[4]。

「最悪と考えられる場所」は、面を見た人によって選び方が変わる。受入で揉めないためには、測定位置を図や写真で指定し、何本測るか、複数本の結果をどう扱うか(最大値で判定するか、平均で判定するか)まで決めておく。複数本の扱いは規格の判定の規則に関わるので、規格に従うなら「規格による」と書き、独自に決めるならその方法を書く。

基準長さと評価長さ

粗さの値は、どの長さを評価したかで変わる。解説によれば、基準長さはカットオフ値 λc に等しく、粗さ曲線の評価長さはカットオフ値の 5 倍を規格の標準としている[4]。フィルタの端の影響や測定開始時の駆動系の安定を考えると、実際に測る長さは基準長さの 6 倍以上が必要になる[4]。小さな部品の狭い面では、この長さが取れないことがある。その場合は、評価長さが標準より短くなることを図面や手順書、仕様書に明記すればよいとされている[4]。

基準長さの選び方には目安の表がある。下は、精密工学会誌の解説に再録された、粗さの値の範囲と基準長さ・評価長さの関係である(解説は JIS B 0633:2001 を出典としている)[4]。

Ra の範囲(μm) 粗さ曲線の基準長さ(mm) 粗さ曲線の評価長さ(mm)
(0.006)< Ra ≦ 0.02 0.08 0.4
0.02 < Ra ≦ 0.1 0.25 1.25
0.1 < Ra ≦ 2 0.8 4
2 < Ra ≦ 10 2.5 12.5
10 < Ra ≦ 80 8 40

この表で読み取れるのは、Ra 0.1 μm を超え 2 μm 以下の範囲では基準長さ 0.8 mm、評価長さ 4 mm が目安になる、ということである。面の長さがこれに届かない部品では、標準どおりに測れないことを発注の段階で見込んでおく。なお基準長さの決め方には、仮の値で測って表と照らし、合わなければ基準長さを変えて測り直す手順が定められている[4]。測定者が手順を省いて 0.8 mm で固定していると、粗い面や細かい面で値の前提が崩れる。

フィルタと触針

粗さ曲線を取り出すフィルタは、1997 年以前は 2CR フィルタと呼ばれる電気的なフィルタが使われ、ISO では 1997 年以降、ガウシアン位相補償型のフィルタが採用されたと解説されている[5]。古いフィルタでは、急峻な凹凸があると実際には無い突起成分が出力されることがあった[5]。古い測定機の記録と新しい測定機の値を並べて比べるときは、この違いも疑う。

短い波長の側を区切る λs も結果に効く。デジタル式の測定機では測定点数をいくらでも増やせるため、測定機や触針の先端の半径によって測定値が違ってしまう。そこで λs により、解析に含める短い波長の範囲を定めている[5]。精密研削やラッピング、ポリッシングの面では、この選び方で測定結果に大きな差が生じるとされている[5]。触針の先端は、先端半径 2 μm・頂角 60° の円すい形の単結晶ダイヤモンドが標準で、それより小さな砥粒や工具で仕上げた面では、より細い触針を選ぶ必要があると考えられている[4]。

測定機の方式

小型の簡易型の粗さ測定機には、スキッドと呼ばれる部品を面に当てて、その位置を基準に触針の高さを測る方式がある。解説は、この方式では突起がある面でスキッドが持ち上がって実際とは違う曲線を取り込むことがあり、スキッドと粗さの周期が干渉すると値が実際の倍になったり、粗さが測れなかったりする例を示している[5]。そのうえで、この種類の測定機を使う場合は、測定機の内部に基準面を持つデータム方式の測定機と比較してから使うべきだとしている[5]。仕入先が簡易型で測っているなら、上位機との比較をしたことがあるかを聞いておく。

古い図面の Rz と旧記号の読み方

流用図面で特に注意が要るのが、パラメータの記号である。JIS B 0601:2013 の序文は、この規格で用いた用語とパラメータの記号は 1994 年に発行された JIS B 0601 および 1998 年に発行された JIS B 0660 のものとは異なっていると明記し、我が国で用いてきた十点平均粗さを参考の附属書に、1994 年以前の規格による算術平均粗さを別の附属書に記述したとしている[2]。同じ「Rz」という記号でも、図面がいつ描かれたかによって指している中身が違いうる、ということである。

図示方法の側でも同じことが起きている。JIS B 0031:2003 は、1980 年代の規格を大幅に変えた 1996 年と 1997 年の表面性状の規格を用いるために改正したもので、大幅な改正であるため図示された表面性状の解釈が新しいものになることがあると断っている[1]。そして、旧規格を適用した図面指示は、その時点の規定に従い、解釈もそれによるとしている[1]。附属書には旧規格による図示も載っている[1]。

国際規格の側は、さらに先へ進んでいる。JIS B 0601:2013 が対応する ISO 4287:1997 は廃止され、新しい版として ISO 21920-2:2021 が示されている[3][2]。JIS 側の改正状況は日本産業標準調査会か日本規格協会で確かめる必要があるが、海外の仕入先は新しい国際規格の用語で答えてくる可能性がある。

古い図面を流用して発注するときは、次の順で確かめる。

  1. 図面の作成年と、注記にある規格の番号・年号を確認する
  2. 粗さの記号(Rz、旧来の仕上げ記号など)が、どの版の定義で書かれたものかを設計部門に確かめる
  3. 現行の定義に書き換えるなら、図面を改訂するか、発注書・購買仕様書で読み替えを明示する
  4. 仕入先にも、どの定義で測ってほしいかを書面で伝える

発注前に決めて書面に残すこと

ここまでの原因を踏まえ、発注前に決める項目を整理する。以下は規格の要求ではなく、受入で揉めないための実務の提案である。

1. 面ごとの機能と、指示の要否

粗さの指示が要る面は、摺動・シール・接着・外観など、機能を持つ面に限られる。機能の無い面にまで指示が付いていないかの見直し方は、過剰仕様の外し方で扱っている。精密工学会誌の解説も、表面性状の機能を、接触の無い単独の面と、複数の部品が接触する面に分けて整理している[4]。

2. パラメータと許容限界の向き

Ra と Rz は凹凸の大小を表すには十分だが、気密性や摺動特性などの機能を持たせたい面では、ほかのパラメータを使ったり組み合わせたりする必要があるとされる[4]。上限だけを指示するのか、上下限の両方を指示するのかも決める[1]。

3. 測定条件のうち、標準から外すもの

測る向き、測定位置と本数、評価長さ、通過帯域のうち、規格の標準どおりでよいものと、外すものを分ける。外すものだけを図面か仕様書に書く。標準に任せたものも、仕入先が標準どおりの設定で測っているかを初回に確かめる。

4. 処理の前か後か

めっきや塗装をする部品では、粗さを処理の前で見るのか後で見るのかで、測る工程と責任を持つ仕入先が変わる。JIS B 0031 は表面処理の前後の表面性状の指示を項目として持っている[1]。めっきの仕様の決め方は、同じシリーズのめっきの仕様の決め方で扱う。

5. 報告の様式

成績書に、測定値だけでなく、使った測定機、触針、評価長さ、カットオフ値、測定位置を書いてもらう。判定だけの成績書では、条件が合っていたかを後から確かめられない。成績書の記載項目は試作部品の試験成績書の記事にまとめてある。

粗さの指示では決められないもの

キズ・打痕・くぼみのような表面の欠陥は、粗さのパラメータでは規定できない。JIS B 0031 も、表面性状パラメータによって規定することができない表面欠陥(くぼみ、きずなど)の指示は、表面欠陥を規定している ISO 8785 を参照するとしている[1]。外観の合否基準は粗さとは別に決める必要があり、その決め方は同じシリーズの外観の合否基準を仕入先と決めるで扱う。

値が合わないときの進め方

受入で測った値が仕入先の成績書と合わないときは、どちらが正しいかを先に決めようとしない。次の順で条件の違いを潰す。

1. 同じ部品を双方で測る
ロットの別の部品ではなく、同じ 1 個を往復させて測る。測定位置に印を付けると、位置の違いを切り分けられる。

2. 測定条件を並べて照合する
測定機の方式、触針、カットオフ値、評価長さ、測った向きを表にして見比べる。上の表の 7 つの条件が手がかりになる。

3. 標準と違う条件を、どちらが使っていたかを確かめる
規格の標準から外れていた側が条件を戻して測り直す。標準から外れる条件が必要だったなら、それを図面か仕様書に追記する。

4. 決めた条件を記録に残す
次のロットから同じ照合を繰り返さないよう、合意した条件を手順書に書く。

条件を決めないまま発注し、納品後に厳しい条件で測り直して不合格にする流れには注意が要る。取適法の対象になる取引では、同法のテキストによれば、検査基準があいまいなせいで、納品物が発注内容と違うのかどうかがはっきりしないときは、違いを理由に受け取りを拒めない[6]。発注した後で基準を一方的に厳しくし、それまでなら合格だったものを不合格にすることも、同じく認められていない[6]。測定条件は検査基準の一部であり、発注の時点で決めておく。受領拒否とやり直しの線引きは受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかで整理している。

よくある質問

図面に Ra しか書いていないが、測定条件は仕入先に任せてよいか

規格の標準どおりに測ってもらうのであれば任せてもよいが、「規格の標準で測る」ことを書面に残し、初回に設定を確認する。任せた結果、仕入先が簡易型の測定機で筋目に沿って測っていた、ということは起こりうる。

評価長さが取れない狭い面はどうするか

評価長さが標準より短くなる場合は、図面や手順書、仕様書に明記すればよいとされている[4]。短い長さで測った値は標準の長さで測った値とは前提が違うので、どの長さで測るかを書いたうえで、その長さで判定することを合意する。

海外の仕入先が新しい国際規格で答えてくる

国際規格は ISO 21920 系に移っている[3]。どの規格で測るのかを規格番号と発行年まで含めて書き、こちらが意図している定義を明示する。

まとめ

表面粗さの指示は、数値と測り方の組で決まる。JIS B 0031 は評価長さ、通過帯域、許容限界の向き、筋目、処理前後といった項目を持ち、図面だけでなく仕様書や契約書でも使える指示の方法を定めている。測定値が仕入先と合わない原因は、向き・場所・長さ・フィルタ・触針・測定機の方式・定義の版のどれかにあることが多い。規格の標準から外れる条件は書けばよいとされているので、発注前に外すものを決めて書面に残す。古い図面の記号は、いつの版の定義で書かれたものかを確かめてから使う。

出典・参考資料

  1. JIS B 0031:2003 製品の幾何特性仕様(GPS)―表面性状の図示方法(無料プレビュー)(日本規格協会/平成 15 年 9 月 20 日改正)
  2. JIS B 0601:2013 製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ(無料プレビュー)(日本規格協会/平成 25 年 3 月 21 日改正)
  3. ISO 4287:1997 Geometrical Product Specifications (GPS) — Surface texture: Profile method — Terms, definitions and surface texture parameters(廃止)(国際標準化機構(ISO)/1997 年 4 月発行)
  4. 吉田一朗「表面粗さ―その測定方法と規格に関して―」精密工学会誌 Vol.78, No.4(精密工学会/2012 年)
  5. 宮下勤「もう一度復習したい表面粗さ」精密工学会誌 Vol.73, No.2(精密工学会/2007 年)
  6. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)

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