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振興基準の改正で、発注側の調達は何を変えるか

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の整理である。下請中小企業振興法は 2026 年 1 月 1 日に受託中小企業振興法(振興法)となり、同法に基づく「振興基準」も同じ日に改正版が施行された[1]。さらに経済産業省は 2026 年 6 月 24 日、知的財産取引、型の無償保管、調達担当者の人事評価の 3 点を加える改正を公表している[5]。振興基準に違反しても行政処分や罰則はないが、主務大臣による指導・助言・勧奨の根拠になる[4]。発注側がやることは、振興基準の規定を語尾で読み分け、「〜するものとする」とされた規定(年 1 回以上の価格協議、協議の記録の保存、支払と検査の条件の事前協議など)を自社の調達手順に写すことである[6]。
目次
振興法は取適法と何が違うのか
中小企業庁は、受託中小企業振興法を「受託中小企業を育成・振興する支援法」と説明し、規制法である中小受託取引適正化法(取適法)と対比している[2]。取適法は禁止行為を定めて違反に勧告や罰則で臨む法律で、振興法は委託事業者と中小受託事業者が「よるべき一般的な基準」を国が示し、それに沿うよう促す法律である。
振興法の柱は 5 つある。振興基準の策定とそれに基づく指導・助言・勧奨、委託事業者の協力を得て作る振興事業計画、複数の中小受託事業者が連携して特定の取引先への依存を下げる特定連携事業計画、受託中小企業の取引機会を創出する事業者の認定、そして受託中小企業振興協会の充実である[2]。発注側の調達実務に直接かかわるのは、このうち 1 つ目の振興基準である。
見落とされやすいのが、振興法の対象の広さである。取適法テキストに収録された振興法の条文では、「委託事業者」を、法人であれば資本金の額か常時使用する従業員の数が自己より小さい中小企業者に製造委託等をすることを業として行うものと定めている[6]。取適法のように資本金や従業員数の区分で線を引くのではなく、相手が自社より小さい中小企業者かどうかで決まる。取適法の対象外となる取引でも、振興基準は関係しうる。取適法の対象かどうかの判定そのものは自社の取引は取適法の対象かにまとめてある。
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2026 年に起きた 2 回の改正
1 回目:法律の改正にあわせた改正(2026 年 1 月 1 日施行)
「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」は 2025 年 5 月 16 日に成立し、同月 23 日に公布された。この改正で「下請中小企業振興法」は「受託中小企業振興法」となり、2026 年 1 月 1 日から施行されている[1]。法改正にあわせて振興基準も一部の規定の改正・追加が必要になり、改正後の振興基準(令和 7 年 10 月改正)は改正振興法と同じ 2026 年 1 月 1 日に施行された[1]。取適法の側で何が変わったかは下請法は取適法になったで扱っている。
2 回目:施行後の状況を踏まえた改正(2026 年 6 月 24 日公表)
経済産業省は 2026 年 6 月 24 日、振興基準を改正したと公表した。背景として、知的財産取引の実態調査で幅広い業種から問題事例が報告されたこと、型の無償保管に対して取適法に基づく勧告が相次いでいること、調達担当の現場への価格転嫁・取引適正化の意識の浸透が課題とされていることを挙げている[5]。改正のポイントは次の 3 点である[5]。
知的財産取引の適正化:同じ日に公表された「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」に基づいて知的財産権等の取引を行う旨を示し、同指針が問題となりうる事例として掲げる行為を行わない旨と、知財に係る多様な対価設定方法を参照する旨を加えた。
型等の無償保管への対応:「型等の保管に関する望ましくない事例」を明記し、それらをはじめとする型等の無償保管要請を行わないことを徹底する旨を規定した。
価格転嫁の浸透を後押しする人事評価制度の整備:適切な価格転嫁・取引適正化に取り組んだ調達部門等の担当者が正当に評価される人事評価制度の整備に努める旨を新たに規定した。
型の件は数字にも表れている。中小企業庁の令和 7 年度の改善指導では、不当な経済上の利益の提供要請が 120 件あり、そのうち型等の無償保管が 109 件だった。令和 6 年度は 32 件(うち 28 件)である[7]。型の預け方と費用の扱いは有償支給材と金型代で詳しく扱っている。なお、6 月公表の改正がいつから適用されるかは、公表資料の本文で確かめてから社内に周知したい。
規定の語尾で重さが違う
振興基準は、前文のあと、振興法第 3 条第 2 項が掲げる 8 つの事項(生産性の向上、発注方法の改善、設備導入・技術向上、対価の決定方法や検査方法などの取引条件の改善、連携の推進、自主的な事業運営、紛争解決、取引機会の創出)を順に定めている[4]。規定の数は多いが、中小企業庁は語尾ごとに位置づけを整理している[4]。
| 規定の語尾 | 中小企業庁の整理 | 発注側の扱い方(実務の提案) |
|---|---|---|
| 〜するものとする | 規範性が高く、個別事案の問題の大きさなどによって指導・助言・勧奨の対象となりうる | 調達規程・手順書に義務として書き込む |
| 〜するよう努めるものとする | すべての事業者が必ず行う取組ではなく、ベストプラクティスとして目指してほしい取組。直接の指導等の根拠とすることは想定していない | 中期の改善目標として扱い、取組の有無を記録する |
| 〜することを徹底する | 取適法の対象取引では取適法で既に規律されている行為の確認規定。対象外の取引では「〜するものとする」と同じ位置づけ | 取適法の対象外の取引先にも同じ運用を当てる |
中小企業庁は、指導・助言・勧奨は行政指導であって、振興基準に違反した場合の行政処分や罰則はないと明記している[4]。一方で振興法第 4 条は、主務大臣が必要と認めるときに振興基準に定める事項について指導・助言を行い、具体的措置をとるよう勧奨すると定める[6]。罰則がないから無視してよい、とはならない。価格交渉促進月間のフォローアップ調査で状況が芳しくない発注者に大臣名で指導・助言が行われる流れは、価格交渉促進月間とフォローアップ調査で扱う。
調達部門が読むべき規定(令和 7 年 10 月版)
以下は、取適法テキストに収録された令和 7 年 10 月 1 日付の振興基準から、調達の手順に直結する規定を拾ったものである[6]。
価格の協議
委託事業者と中小受託事業者は、毎年 9 月と 3 月の価格交渉促進月間の機会をとらえるなどして、少なくとも年に 1 回以上の協議を行うものとされる。委託事業者は発注の都度協議を行うほか、継続的な発注について申出があれば定期的な協議に応じ、労務費・原材料費・エネルギー価格などが上昇した場合や発注内容を変えた場合に申出があれば、定期協議以外の時期でも遅滞なく協議に応じるものとされている[6]。
協議の進め方については「取引対価の協議に関する望ましくない事例」が 4 つ挙げられている。目標価格や価格帯だけを示してそれに合う見積りを求めること、過度に詳細な見積りを求めて作れないことを理由に協議を拒むこと、転注するつもりがないのに転注を示唆して危機感を与えること、競合他社が見直しを求めていない・納入先が認めないといった理由で協議を拒むことである[6]。仕入先から値上げの申し入れが来たときの受け方は仕入先から値上げの申し入れが来たらで手順にしてある。
原価低減の要請と、協議の記録
原価低減要請については、具体的な根拠を示さず目標数値だけを示すこと、応じることが発注継続の前提だと示唆すること、口頭で削減幅を示唆して記録を残さずに見積書を出させることが「望ましくない事例」とされる[6]。あわせて、委託事業者と中小受託事業者の双方が取引対価の協議の記録を保存するものとするとされている[6]。取適法上どこから違反になるかはコストダウン要請はどこまで言ってよいかで扱っている。
支払と検査
代金は受領日から 60 日以内に定める支払期日までに支払うことを徹底し、取適法で手形払が禁止されていることに鑑みてできる限り現金で支払い、少なくとも賃金に相当する金額は全額を現金で支払うものとされる。振込手数料を中小受託事業者に負担させて代金から差し引いてはならないことも明記されている[6]。検査については、発注しようとする段階で、検査の実施方法・時期・検査基準・不合格品の扱い・納品の過不足の処理を、あらかじめ協議して定めるものとされている[6]。支払手段の切り替えは紙の約束手形の廃止に向けてで扱う。
社内の体制
委託事業者は、調達に係る責任者から担当者に至るまで、独占禁止法・取適法・フリーランス法・振興基準と、宣言している場合はパートナーシップ構築宣言について理解を深めるよう、社内の研修・啓発・教育を実施する体制を整備するものとされる[6]。宣言をしている会社の調達で何を守るかはパートナーシップ構築宣言を出した会社の調達にまとめる。
調達の手順に写すときの点検表
振興基準そのものを読み合わせるだけでは、現場の運用は変わらない。規定ごとに、社内のどの手順に落とすかを決めておくとよい。次の表は実務の提案であり、振興基準の文言そのものではない。
| 振興基準の規定 | 社内で決めること | 残す記録 |
|---|---|---|
| 年 1 回以上の協議・申出時の遅滞ない協議 | 主要な仕入先ごとの協議の時期(3 月・9 月など)と、申出を受けてから一次回答までの社内期限 | 協議の日付・出席者・提示資料・結論 |
| 原価低減要請の望ましくない事例 | 要請は根拠を添えて書面で出す、口頭で削減幅を示さない | 要請文と根拠資料 |
| 賃金相当額は全額現金・振込手数料を差し引かない | 支払手段と手数料の負担を取引先マスタで管理する | 支払条件の合意書 |
| 検査条件の事前協議 | 検査方法・基準・不合格品の扱いを発注前に示す | 仕様書・検査基準書の版 |
| 型等の無償保管要請をしない(2026 年 6 月の改正) | 仕入先に預けている型の一覧と、保管費用・廃棄の取り決め | 型の台帳と覚書 |
| 調達担当者の人事評価(2026 年 6 月の改正・努力規定) | 価格転嫁に応じたことが評価で不利にならない評価項目 | 評価基準の改定記録 |
人事評価の規定は「努める」形の規定であり、表の 1 段目のような義務と同じ重さではない[4][5]。ただ、購買部門の目標が「前年比の単価引下げ率」だけで組まれていると、現場の担当者は協議の申出を先送りしやすい。協議の記録を残す運用と、評価の物差しは組で見直したほうが続く。
この点検表は、ほかの制度に備えるときにも土台になる。同じ規定を、宣言を出している会社は宣言の柱ごとに(パートナーシップ構築宣言を出した会社の調達)、価格交渉促進月間に合わせて年間のどの時期に何をするかは(価格交渉促進月間とフォローアップ調査)、取引Gメンが受注側に聞くテーマからは(取引Gメンの聞き取りに備える)、それぞれの切り口で見直している。
よくある質問
取適法の対象にならない取引先でも、振興基準を気にする必要がありますか
あります。振興法の委託事業者・中小受託事業者は、資本金か従業員数が自社より小さい中小企業者かどうかで決まり[6]、取適法の区分とは一致しない。中小企業庁の整理でも、「〜することを徹底する」とされた規定は、取適法の対象外の取引では「〜するものとする」と同じ位置づけになる[4]。
振興基準はいつ作られたものですか
中小企業庁によれば、振興基準は昭和 46 年 3 月 12 日に策定・公表され、その後の経済情勢の変化などを踏まえて改正を重ねている[3]。2026 年は 1 月施行の改正と 6 月公表の改正の 2 回が重なった。
違反すると社名が公表されますか
振興基準そのものに罰則や行政処分はない[4]。ただし、振興基準に掲げられた行為の多くは取適法の禁止行為とも重なっており、そちらは勧告・公表の対象になりうる。取適法違反の扱いは違反するとどうなるかを参照してほしい。
まとめ
2026 年は振興法と振興基準が 2 回動いた。1 月 1 日に法律の名称が受託中小企業振興法に変わり、改正版の振興基準が施行された[1]。6 月 24 日には、知的財産取引、型の無償保管、調達担当者の人事評価を加える改正が公表された[5]。振興基準に罰則はないが、指導・助言・勧奨の根拠であり、「〜するものとする」とされた規定は指導の対象となりうる[4]。年 1 回以上の協議、協議の記録の保存、賃金相当額の現金払い、検査条件の事前協議、型の無償保管をしないこと——これらを語尾で読み分けたうえで、自社の調達手順と記録の様式に写しておくことが、発注側に求められている。
出典・参考資料
- 受託中小企業振興法(令和8年1月1日施行)について(中小企業庁)
- 受託中小企業振興法(中小企業庁)
- 振興基準(中小企業庁)
- 振興基準に関するよくある質問(中小企業庁)
- 受託中小企業振興法に基づく「振興基準」を改正しました(経済産業省/2026 年 6 月 24 日)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 令和7年度における取適法およびフリーランス法に基づく取組(中小企業庁/2026 年 6 月 10 日)
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