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グリーン調達基準を改定するとき——必須と依頼の分け方、適用時期、費用協議

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 10 月時点の整理である。グリーン調達基準(仕入先に環境面で守ってほしいことをまとめた社内基準)を見直す理由が、この 1 年で重なっている。国のグリーン購入法の基本方針は 2026 年 2 月に変更され、24 品目でカーボンフットプリントの算定・開示が判断の基準や配慮事項に入った[2]。含有化学物質の情報伝達では、2026 年 10 月 1 日に新しいプラットフォーム「CMP」の提供が始まり[3]、chemSHERPA の物質リストの改訂時期も変わった[4]。改定で大事なのは中身より手順である。①項目ごとに「必須」か「依頼」かを分ける、②適用を新しい発注から始め、発注済みの品には遡らせない、③仕入先の費用増を協議の対象にする、の三つを守らないと、改定そのものが取適法上の問題を生みうる[6]。
目次
なぜ今、見直すのか
グリーン調達基準は、多くの会社で「含有禁止物質の一覧と、非含有の証明の出し方」を中心に作られてきた。その前提が、いくつかの方向から同時に動いている。
一つ目は、国の基準である。グリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)は、国などの機関に環境物品等の調達を義務づけ、地方公共団体や事業者・国民にもグリーン購入に努めることを求めている[1]。その基本方針は 2026 年 2 月 3 日に閣議決定で変更され、41 品目の判断の基準等の見直し、3 品目の新規追加、共通の配慮事項の設定が行われた[2]。主な変更点として、トイレットペーパー等 24 品目でカーボンフットプリントの算定・開示を判断の基準または配慮事項にしたこと、文具等 130 品目でマスバランス方式によりバイオマス由来の特性を割り当てたプラスチックを判断の基準にしたこと、分野横断の共通の配慮事項として非化石電力で作った鋼材を設定したことなどが挙げられている[2]。
二つ目は、化学物質の情報伝達の仕組みである。CMP コンソーシアムは 2026 年 10 月 1 日から、原料から完成品までのサプライチェーン上の取引関係と製品含有化学物質の情報をひもづけ、指定した相手にだけ伝える情報基盤「CMP」の提供を始めた[3]。電機・電子と自動車の業界から始め、今後は部品のリユース情報や再生材料の情報(含有率・純度・由来)へと対象を広げることをめざすとしている[3]。あわせて、chemSHERPA の物質リストの定期改訂(年 2 回)の基準日は、2026 年度から欧州化学品庁の高懸念物質(SVHC)の更新日ではなく、自動車業界の物質リスト(GADSL)の改訂日に変わった[4]。最新の SVHC の反映はこれまでより 2 か月程度遅くなる一方、次の SVHC 候補の段階で「管理対象物質の候補物質」として収載するとしている[4]。
三つ目は、温室効果ガスである。環境省のエンゲージメント実践ガイド(令和 7 年度改訂版)は、調達方針や取引先に示す基本要件にサステナビリティや気候変動対策の項目を入れ、取組を進める取引先を優遇する方針を示している企業があると紹介し、脱炭素の調達基準を示すことで、中小企業を含む取引先が「取り組めば取引を続けられる」という予見性を持てると書いている[5]。
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基準に入れる項目と、それぞれの頼み方
見直しでは、項目ごとに「何を根拠に求めるか」と「必須か依頼か」を分けて書く。根拠が法令や顧客の要求にあるものと、自社の方針として求めるものを混ぜると、仕入先はどこまで本気で求められているのか判断できない。
| 項目 | 求める中身の例 | 扱いの目安 | 見直しの論点(2026 年) |
|---|---|---|---|
| 含有化学物質 | 管理対象物質の含有情報、非含有の証明 | 法令・顧客要求に基づくものは必須 | 物質リストの版の指定方法、情報伝達の手段(CMP の開始) |
| 温室効果ガス | Scope1・2 の算定・開示の状況、品目ごとの排出量 | 当面は依頼から始める | 顧客の開示や国の基本方針で CFP が求められ始めた |
| 再生材・資源循環 | 再生材の使用率、由来の証明 | 製品の仕様として決めるものは図面・仕様書へ | 情報基盤で再生材料情報を扱う構想が出てきた |
| 包装材 | 材質、再生材の使用、簡素化 | 輸出先の規制に合わせるものは必須 | EU の包装規則など輸出先の規制 |
| 環境管理の体制 | 環境方針、担当者、規制情報の入手手段 | 認証の取得を一律に必須にしない | 認証取得の要請と費用の扱い |
表の「扱いの目安」は購買側の実務の提案で、法令が定めているものではない。見直しの論点は、グリーン購入法の基本方針の変更[2]、CMP の提供開始[3]、chemSHERPA の物質リストの改訂時期の変更[4]、エンゲージメント実践ガイド[5]に基づく。
含有化学物質——リストの「版」を書く
含有禁止物質や管理対象物質を基準に書くときは、物質名の一覧を基準本体に貼り付けるより、参照するリストとその版を書くほうが改定に強い。chemSHERPA の物質リストは年 2 回改訂され、外部リストの版番号の体系も変わった[4]。基準本体に物質名を貼り付けていると、リストが改訂されるたびに基準の改定が必要になる。調査の頼み方や回答の確かめ方は 含有化学物質の調査を仕入先に頼むとき、RoHS の適合の確かめ方は RoHS 適合を仕入先からどう確かめるか で扱った。
CMP については、提供開始の時点で電機・電子と自動車の業界が中心で、CMP と chemSHERPA は当面相互補完的に運用すると CMP コンソーシアムは説明している[3][4]。基準に「CMP で回答すること」と書くのは、主要な仕入先の利用状況を確かめてからでよい。当面は「chemSHERPA 形式または CMP による回答」のように、手段を並べておく書き方が無難である。
温室効果ガス——必須にする前に、依頼から
温室効果ガスの項目を入れるとき、いきなり品目ごとの排出量の提出を必須にすると、多くの仕入先は応えられない。エンゲージメント実践ガイドは、データ連携の対応事例として、取引先向けの要請事項をガイドラインにまとめて遵守の誓約書の提出を求める例や、調達基準でサプライヤーが Scope1・2・3 の全部または Scope1・2 の情報を公開していることを要件にする例を紹介している[5]。そのうえで、取引先の排出量を統一された基準で横並びに比べられるようになるには時間がかかるため、まずは取組への意識や取組状況などの定性的な情報で優遇を検討している企業もあるとしている[5]。
排出量データの頼み方の具体論は 仕入先に CO2 排出量(CFP・Scope3)のデータを頼むとき、顧客がなぜ数字を求めるのかは サステナビリティ開示基準(SSBJ)と、サプライチェーンのデータ で扱う。
再生材と包装——仕様書に書くものは基準から外す
再生材の使用率や包装の材質のように、製品ごとに決まる条件は、グリーン調達基準ではなく図面・購買仕様書・発注書に書く。基準は全仕入先に共通の考え方を書くもので、品目ごとの数値を書くと、どの品目にどの値が適用されるのかが曖昧になる。再生材の調達そのものは 再生材の使用を求める規制の動きと、再生材の調達、EU 向けの包装材は EU 包装・包装廃棄物規則(PPWR)と、輸出品の包装材 で扱う。
官公庁に納める品目がある場合
自社の製品を国や独立行政法人などに納めている場合は、グリーン購入法の特定調達品目の判断の基準を確かめる。環境省は、特定調達物品等の製造事業者等は、自らが製造・輸入・販売する物品等の判断の基準への適合を適切に確認する必要があるとし、表示の信頼性確保に関するガイドラインを示している[1]。基本方針の変更で CFP の算定・開示が判断の基準に入った品目[2]を納めているなら、その部材の仕入先にも排出量の情報が必要になる。
改定の進め方
1. 現行の基準を棚卸しする。
どの項目が、どの法令・顧客要求・自社方針に基づくかを一覧にする。根拠が分からなくなっている項目は、削るか自社方針として書き直す。
2. 項目ごとに「必須」と「依頼」を決める。
必須は取引の条件、依頼は協力のお願いである。依頼の項目は、応じないことで不利益な扱いをしないことを明記する。
3. 適用の時期を決める。
新しい基準は改定後の新しい発注から適用し、経過期間を置く。発注済みの品について、新しい基準で受入の可否を判断しない。
4. 仕入先に周知し、受け取りを確認する。
説明会や文書で変更点を伝え、受領の確認を取る。変更点だけを抜き出した対照表を付けると、仕入先は読みやすい。
5. 費用の増える項目を協議する。
分析・認証・算定など仕入先の費用が増える項目は、価格の協議の対象にする。
6. 評価と記録に反映する。
仕入先の評価項目に入れるなら評価基準として事前に示し、基準の版と適用開始日を記録に残す。評価の作り方は サプライヤー評価の項目と点数化 で扱った。
取適法の対象取引で、改定が問題になる場面
取適法の対象取引では、基準の改定のしかた次第で違反の問題が生じうる。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、受領を拒むことが認められない場合として、発注後に検査基準を恣意的に厳しくして、従来の検査基準で合格とされたものを不合格とする場合を挙げている[6]。やり直しについても、検査基準を恣意的に厳しくして委託内容と異なるとする場合は、委託事業者が費用の全額を負担せずにやり直しを求めることは認められないとしている[6]。新しいグリーン調達基準を発注済みの品に当てはめて受入を拒むことは、この形に当たりうる。受領拒否・やり直しの考え方は 受領拒否・返品・やり直しのルール で詳しく扱っている。
価格の面では、同じテキストが買いたたきの事例として、仕入先が環境対策に係る法規制などに対応するためのコストが増大したとして代金への反映を求めたのに、十分な協議をせず一方的に代金を据え置いた例を挙げている[6]。また、仕入先に ISO の品質マネジメントシステムの認証取得を要請し、応じなければ取引を停止すると通知する一方で、取得に多額の費用がかかることが明らかなのに、その費用を考慮せず一方的に代金を据え置いた例も挙げている[6]。グリーン調達基準で認証の取得や分析の実施を求めるときは、同じ構図にならないよう、費用の扱いを協議の対象に入れておく。
エンゲージメント実践ガイドも、取引先に一方的な依頼をすると関係が悪化するだけでなく、独占禁止法・下請法・下請振興法に抵触する可能性があると注意している[5]。2026 年 1 月からは下請法が取適法に変わっているので、社内の規程や基準に旧法の名前や条番号が残っていないかも、改定の機会にあわせて確かめておく。
よくある質問
Q. 顧客のグリーン調達基準が改定された。自社の基準もすぐ変えるべきか。
顧客の要求のうち、自社の仕入先に伝えなければ満たせないものから順に反映する。全部を一度に写すと、仕入先にとって関係のない項目まで増える。
Q. 依頼の項目に応じない仕入先を、取引先から外してよいか。
依頼として示した項目で不利益な扱いをすると、依頼ではなく強制になる。外す判断の材料にしたいなら、その項目を必須として、適用時期と費用の扱いを示したうえで改定する。
Q. ISO 14001 の認証を必須にしてよいか。
取引の条件にすること自体は可能だが、取得に費用がかかることを前提に、価格の協議や経過期間を設ける。環境ではなく品質マネジメントシステムの認証についてだが、取得の費用を考慮せず代金を据え置いた例が買いたたきの事例に挙がっており[6]、構図は同じである。
まとめ
グリーン調達基準を見直す理由は、国の基本方針の変更[2]、含有化学物質の情報伝達の基盤の変化[3][4]、温室効果ガスへの要求の広がり[5]と重なっている。中身は、項目ごとに根拠と「必須か依頼か」を分け、品目ごとの数値は仕様書へ、物質の一覧はリストの版の指定へ移すと改定に強くなる。手順では、新しい発注から適用して発注済みの品に遡らせないこと、費用の増える項目を協議の対象にすることが、取適法の受領拒否・やり直し・買いたたきの問題を避ける要点になる[6]。
出典・参考資料
- グリーン購入法について(環境省/2026 年 10 月 1 日閲覧)
- グリーン購入法基本方針の閣議決定及び意見募集(パブリックコメント)の結果について(環境省/2026 年 2 月 3 日)
- 製品含有化学物質・資源循環情報プラットフォーム「CMP」のサービス提供を開始(CMP コンソーシアム/2026 年 10 月 1 日)
- chemSHERPA物質リストの定期改訂タイミング変更と外部リストのバージョン体系変更(CMP コンソーシアム/2026 年 6 月 5 日)
- バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド(令和 7 年度改訂版)(環境省/2026 年 3 月)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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