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ファインセラミックス部品を発注するとき指定すること——材料・強度の試験条件・寸法

この記事のポイント(結論先出し)
ファインセラミックスの「曲げ強さ」は、JIS R 1601 で 3 点曲げか 4 点曲げか、どの試験片か、支持具が回転形か固定形かまで決まって初めて比べられる値で、支持具が回転しないと測定値は実際の材料強度より理論的に高くなる[2]。しかも試験片は上下面を 0.20 μmRa 以下に仕上げた角柱で[2]、部品の強さではない。研削した面の下には微細なき裂の層ができ[4]、加工の方向によって曲げ強さが 2 倍以上違った例もある[5]。発注側は、材料の銘柄や純度に加えて、強さを何で保証させるか、研削する面と仕上げの条件、稜の面取りとチッピングの許容、密度・気孔の測り方を図面と仕様書に書く。
目次
ファインセラミックスは「材料を買う」のではなく「加工品を買う」
アルミナ、ジルコニア、窒化けい素、炭化けい素などのファインセラミックス部品は、粉を成形し、焼結し、多くの場合さらに研削して作る。精密工学会誌の論文は、焼結面のまま加工せずに使うのが理想だが、現在の焼結技術では寸法のコントロールに限界があり、何らかの機械加工を施すのが一般的だと書いている[5]。JIS R 1600(ファインセラミックス関連用語)も、焼結体を加工するのは一般的に時間と費用がかかるので、成形体の段階で最終製品に近い形状・寸法まで仕上げておく「成形体加工」が行われると説明している[1]。
つまり、同じ材質の名前でも、どこまでを成形体の段階で作り、どの面を焼結後に研削するかで、寸法・強さ・価格が変わる。図面に「材質 アルミナ 99.5 %、図示公差」と書いただけでは、仕入先はそれぞれの工程で作り、出てくる品の性質が仕入先ごとに違うことになる。加工委託の一般的な進め方はファインセラミックスの加工委託の注意点でも扱われているが、この記事は、図面と仕様書に何を書き、受入で何を確かめるかに絞る。
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カタログの「曲げ強さ」は、条件をそろえないと比べられない
仕入先のカタログや材料データには、曲げ強さが載っている。比べる前に、その値がどの条件で測ったものかを確かめる必要がある。JIS R 1601(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)は、機械部品や構造材料などに使うファインセラミックスの室温(5〜35 ℃)での 3 点曲げ強さと 4 点曲げ強さの試験方法を定めている[2]。試験ジグは 4 種類あり、次の表はそのうち 2 つを抜き出したものである。全体は規格を参照してほしい。
| 試験ジグ名 | 曲げ方式 | 試験片 | 外部支点間距離 | 内部支点間距離 |
|---|---|---|---|---|
| 3p-30 | 3 点曲げ | 標準試験片 I | 30±0.1 mm | - |
| 4p-40/20 | 4 点曲げ | 標準試験片 II | 40±0.1 mm | 20±0.1 mm |
試験片は断面が長方形の角柱で、幅 4.0±0.1 mm、厚さ 3.0±0.1 mm、全長は標準試験片 I が 36 mm 以上 45 mm 未満、II が 45 mm 以上とされ、上下面の平行度は 0.02 mm 以下、上下面の粗さは通常 0.20 μmRa 以下、稜は丸めるか面取りし、試験片の数は 10 個以上とされている[2]。荷重はクロスヘッド速度 0.5 mm/min で加える[2]。
この規格で特に注意したいのは支持具である。規格は、支持具は測定中に回転可能な円柱状のもの(回転形)が望ましいとし、支持具が固定されて回転しない場合には、得られる測定値は実際の材料強度よりも理論的に高くなるため注意が必要だと書いている[2]。そのため、報告には支持具が固定形か回転形かを記載することになっている[2]。報告項目には、規格番号、材料の名称と種類、試験片の寸法(I か II か)、試験機、支持具の形式、試験条件(3 点曲げか 4 点曲げか・温度・湿度など)、試験片の表面粗さ、個数、曲げ強さ、標準偏差などが並ぶ[2]。
したがって、2 社のカタログの曲げ強さを比べるときは、少なくとも「3 点か 4 点か」「試験片 I か II か」「支持具は回転形か固定形か」「試験片の数と標準偏差」をそろえて出してもらう。数字だけの比較は、条件の違いを比べているだけになりうる。
ばらつきを見る
セラミックスの強さは、平均値だけでなくばらつきが大事になる。JIS R 1600 は、ワイブル分布を最弱リンク説に基づく破壊確率分布の一種とし、その形状母数 m(ワイブル係数)は、破壊源の形状・寸法を反映した強さの測定値のばらつきの程度を示すと説明している[1]。同じ平均の曲げ強さでも、ばらつきが大きい材料は弱い個体が混じる確率が高い。仕入先に、平均値だけでなく標準偏差やワイブル係数を求めるのはこのためである。
試験片の強さは、部品の強さではない
JIS R 1601 の試験片は、上下面を 0.20 μmRa 以下に仕上げ、稜を面取りした小さな角柱である[2]。JIS R 1600 は面取りの説明の中で、曲げ強さ試験片では稜に欠けが残っていると曲げ強さが低下するので、面取りを行うことが規定されていると注記している[1]。逆にいえば、実際の部品の稜や加工面がこの試験片のように仕上がっていなければ、部品は材料データより弱くなりうる。
研削した面の下には、見えないき裂の層ができる
精密工学会誌の研究は、ダイヤモンド砥石でジルコニア、窒化けい素、アルミナ、炭化けい素を研削し、研削面の表層部に微細なき裂の層が生じること、この層は窒化けい素とアルミナで大きく、ジルコニアと炭化けい素で小さいことを報告している[4]。粒度の粗い砥石(#60〜80)で研削した窒化けい素では、微細き裂層の最大値が 11 μm、平均値でも約 7.5 μm だった一方、窒化けい素とアルミナでは砥粒の粒径が小さいほど層は小さくなり、#325〜400 の砥石で平均約 2.4 μm、1.7 μm まで小さくなった[4]。同じ研究は、こうした微細き裂の集合箇所は強度・耐摩耗性・耐食性で母材より劣り、材料の信頼性が低下すると指摘されていることにも触れている[4]。
加工の方向で、曲げ強さが変わる
同じ学会誌の別の研究は、セラミックスを超仕上げしたときの加工面の損傷と曲げ強さの関係を調べ、#1000 の砥石でフェライトを加工した例で、条痕の向きを変えると平均曲げ強さが 98 MPa と 145 MPa に分かれたと報告している[5]。アルミナを平面研削した例では、加工物の長手方向に加工したものの強度が、長手に垂直な方向に加工したものの 2 倍以上になった[5]。結論として、超仕上げした材料でも強度は加工方向に依存し、加工条痕を開く向きの曲げモーメントに対して小さくなることから、加工表面に現れない損傷の影響を考えなければならない、と書いている[5]。また、#2000 程度の砥石で仕上げると面粗さを改善でき、材料の曲げ強度も焼結面の強度に回復できたとしている[5]。
発注側にとっての意味は 3 つある。
- 面粗さの指定だけでは、加工のダメージは管理できない。同じ Ra でも、き裂層の深さは砥石と条件で違う[4][5]
- 力のかかる向きと、研削の向きの関係が強さを変える。曲げや引張を受ける面は、研削の方向を図面か仕様書で指示する余地がある[5]
- 強さが効く部品は、部品か、部品と同じ加工をした試験片で確かめる。材料データの値を部品の保証値にしない
図面と仕様書に書くこと
1. 材料の特定
材質名(アルミナなど)と純度だけでは、焼結助剤や製法による違いが残る。JIS R 1600 は焼結助剤の例として、酸化アルミニウムに対する酸化マグネシウムや二酸化けい素、窒化けい素に対する酸化イットリウムなどを挙げ[1]、焼結の方法にもホットプレス、HIP、ガス圧焼結などがあることを用語として整理している[1]。図面には、仕入先の材料の銘柄(品番)を書くか、銘柄を指定しない場合は求める特性値と試験方法を書き、銘柄や製法を変えるときは事前連絡とする。材料の置き換えの考え方は同等材の指定と承認と同じで、承認したものだけを使わせる。
2. 強さを何で保証させるか
次のどれで保証させるのかを書く。
- 材料の曲げ強さ(JIS R 1601、曲げ方式・試験片・支持具の形式・個数を指定)
- 部品と同じ加工をした試験片での曲げ強さ
- 部品そのものでの試験(荷重をかけて割れないことの確認など。方法と合否値を指定)
受入で毎ロット破壊試験をするのは現実的でないことが多いので、試作と初回量産の承認時に行い、以後は工程(砥石・条件)を変えないことを取り決める、という組み立てが多い。承認の段階で何を出させるかは量産前に仕入先に出させて承認するもので整理している。
3. 研削する面と、仕上げの条件
図面で、研削で仕上げる面と、焼結面のまま残す面を分ける。研削面には面粗さに加えて、必要なら仕上げの方向や、最終仕上げの砥石の粒度・取り代などを、仕入先と合意した工程条件として仕様書に残す。焼結面のまま残す面は、寸法のばらつきが大きくなることを前提に公差を決める。
4. 稜の面取りとチッピング
JIS R 1600 は、チッピングを加工時にセラミックス製品や試験片の稜が局所的に欠けたり離れたりする現象と定義している[1]。前出の研究でも、炭化けい素では研削時のチッピングが激しかったと報告されている[4]。セラミックスでは、金属の部品のように「エッジは糸面取り」と書いただけでは、許容する欠けの大きさが決まらない。稜の面取りの形と寸法を指定し、チッピングについては、許容する大きさ(長さ・深さ)、数、見る倍率と照明を決め、限度見本で合意する。エッジの指示の考え方はエッジ・バリ・面取りの指示を参照してほしい。
5. 密度と気孔
密度や気孔は、強さやガスの透過、汚れの残り方に効く。JIS R 1634(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)は、見掛密度・かさ密度・開気孔率の測定方法を定めているが、開気孔率が 10 % を超えるファインセラミックスには適用しない[3]。規格は、かさ密度を試料の質量を外形容積(閉気孔と開気孔を含む全容積)で割った値、見掛密度を質量を見掛容積(外形容積から開気孔を除いた容積)で割った値と定義している[3]。仕様で「密度 ○ g/cm³ 以上」と書くなら、かさ密度か見掛密度かを書く。どちらかで値は変わる。
6. 寸法と測り方
セラミックス部品は硬く、測定で傷を付けにくい一方、エッジが欠けやすい。測定の基準面、測定機、検査の抜取りを、量産前に仕入先と合わせる。三次元測定機の測定データを求める場合の決め方は三次元測定のデータを仕入先に求めるときで、内部の欠陥を非破壊で確かめる方法の指定は非破壊検査の指定で扱う。図面の一般注記にまとめて書く場合は図面の一般注記に何を書くかを参照してほしい。
| 項目 | 書かないとどうなるか | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 材料 | 助剤・製法が仕入先ごとに違う | 銘柄(品番)又は特性値と試験方法。変更は事前連絡 |
| 強さ | 材料データの値しか分からない | JIS R 1601 の方式・試験片・支持具・個数、又は部品での試験 |
| 研削面 | 加工のダメージが管理されない | 研削面の指定、面粗さ、合意した仕上げ条件 |
| 稜・チッピング | 欠けの許容で揉める | 面取りの形と寸法、欠けの大きさ・数・見る条件、限度見本 |
| 密度・気孔 | どの密度か分からない | かさ密度又は見掛密度、JIS R 1634 |
| 工程 | 砥石や条件を黙って変えられる | 承認後の工程変更は事前連絡 |
基準は発注のときに出す
セラミックスの部品は、届いてから「欠けが多い」「割れた」となりやすい。そのときに、許容する欠けの大きさも強さの保証方法も決めていなければ、不合格の根拠が無い。取適法のテキストが受領を拒めない場合の一つに挙げているのが、検査基準が明確でなく、委託内容と違うのかどうかがはっきりしない場合である[6]。チッピングの限度と強さの保証方法は、発注の時点で書面にする。
よくある質問
2 社の曲げ強さの値がかなり違います。強い方を選べばよいですか
まず試験条件をそろえる。3 点曲げか 4 点曲げか、試験片の種類、支持具が回転形か固定形かで値は変わり、固定形では値が高く出る[2]。条件をそろえた値と、そのばらつき(標準偏差など)を出してもらってから比べる。
面粗さを良くすれば、強さも上がりますか
仕上げで加工のダメージを取り除けば強さが回復した例はある[5]。ただ、面粗さの数値はき裂層の深さを直接表さない[4]。強さが効く部品は、面粗さに加えて、合意した仕上げ条件を工程として固定する。
焼結面のまま使える面を増やすと、何が変わりますか
研削の工数が減る一方、寸法のばらつきは焼結の段階の精度で決まる[5]。どの面を焼結面のまま残すかは、機能と公差を設計部門と確かめてから決める。
納入品の稜に小さな欠けがあります。不良ですか
許容する欠けの大きさと見る条件を決めていたかどうかで答えが変わる。決めていなければ、まず限度見本を作って合意し、以後の判定に使う。
まとめ
ファインセラミックス部品は、材料の名前を書いても、強さも寸法も決まらない。曲げ強さは JIS R 1601 の条件(曲げ方式・試験片・支持具の形式・個数)をそろえて初めて比べられ、試験片の値は部品の値ではない。研削面の下にはき裂の層ができ、加工の方向で強さが変わるので、研削面と仕上げ条件を決めて工程として固定する。稜の面取りとチッピングの許容、密度の種類と測り方、強さの保証方法を、図面と仕様書に書いて発注する。
出典・参考資料
- JIS R 1600:2011 ファインセラミックス関連用語(JIS 検索で閲覧)(日本産業標準調査会/2011 年改正、2022 年 10 月 20 日に追補で改正)
- JIS R 1601:2008 ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法(JIS 検索で閲覧)(日本産業標準調査会/2008 年 3 月 20 日改正、2022 年 10 月 20 日確認)
- JIS R 1634:1998 ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法(JIS 検索で閲覧)(日本産業標準調査会/1998 年 1 月 20 日制定、2022 年 10 月 20 日確認)
- 張壁・戸倉和・吉川昌範「ダイヤモンド砥石によるセラミックス研削面の表面性状」精密工学会誌 Vol.54 No.8(精密工学会/1988 年)
- 上田隆司・大野誉洋・坂本智「ファインセラミックスの超仕上加工――加工表面損傷の曲げ強さへの影響」精密工学会誌 Vol.62 No.7(精密工学会/1996 年)
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
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