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ポリカーボネート(PC樹脂)部品の発注——JIS K 6735 の板の記号と許容差、薬品割れを防ぐ指定

この記事のポイント(結論先出し)
ポリカーボネート(PC 樹脂)の部品は、板で買うか、成形品で買うかで指定の仕方が変わる。押出成形した PC 板は JIS K 6735 が平板・型板の種類と、一般用(G)・耐候用(W)・耐摩耗用(H)の用途記号を定め、厚さの許容差は 1.5〜5 mm で ±10 %、5 mm を超えると ±5 % としている[1]。一方で外観の限度、難燃性、食品に触れる用途の要求は受渡当事者間の協定に任されており、受渡検査も外観・色相と寸法だけを挙げている[1]。成形材料の JIS の呼び方は、同じ呼び方でも同じ性能を示すとは限らないと注記している[2]。耐衝撃で選ばれる PC でも、油・溶剤・洗剤が付いた状態で力がかかると、降伏よりはるかに小さいひずみで割れることがある(環境応力割れ)[3]。発注では、板の種類と記号、部品が触れる薬品と組立のしかた、割れたときの試験方法を、発注の時点で書いて渡す。
目次
「PC 板 3t」「材質 PC」では決まらないこと
ポリカーボネートは、透明で割れにくい樹脂として、機械のカバーやのぞき窓、照明のカバー、電気機器の筐体などに使われる。購買の現場では「PC 板 3t」「材質 PC」とだけ書かれた図面や見積依頼が多い。だが PC には、押出成形した板と、射出成形などで作る成形品があり、それぞれで規格が決めていることと決めていないことが違う。
板については JIS K 6735(ポリカーボネート板及び波板)がある。この規格は押出成形した一般用、耐候用及び耐摩耗用向けの PC の板(平板及び型板)と波板を対象にしている[1]。成形材料については JIS K 6719-1(ポリカーボネート成形用材料及び押出用材料の呼び方のシステム)があり、粘度数、メルトボリュームフローレイト、シャルピー衝撃強さの範囲を示す記号と、用途や添加剤の情報で材料を区分する[2]。この記事は、これらの規格を手がかりに、発注するときに何を書き、受け取るときに何を確かめるかを扱う。樹脂のグレード(銘柄)の指定と代替品の承認の一般論は樹脂材料をグレードで指定し、代替グレードを承認する手順で書いたので、ここでは PC に固有の点に絞る。
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PC 板(JIS K 6735)で指定すること
種類と用途の記号
JIS K 6735 は、板を表面の形状で平板(1 種)と型板(2 種、表面に型模様がある板)に分け、用途で一般用(G)、耐候用(W)、耐摩耗用(H)に分けている。W と H は組み合わせて使える[1]。屋外で日光を受けるカバーに一般用の板を使うと、規格が耐候用に求めている人工暴露試験の要求はかかっていない。板には、用途の記号にかかわらず、紫外線吸収剤を多く含む保護層や耐摩耗性の保護層を片面または両面に設けてもよいとされている[1]。
規格は PC 特有の光による劣化にも触れており、促進暴露試験の結果は光源、とくに紫外線の領域の影響を強く受けると注記している[1]。屋外で使う部品は、図面に「耐候用(W)」と書き、保護層がある面をどちらに向けて取り付けるかまで決めておく。保護層がある板なら、保護層が片面だけのものを裏返して取り付ければ、耐候用の板を選んだ意味がなくなる。
厚さ・長さ・幅の許容差
板の厚さは 1.5 mm 以上とされ、許容差は厚さ 1.5 mm 以上 5 mm 以下で ±10 %、5 mm を超えるもので ±5 % である[1]。3 mm の板なら ±0.3 mm の幅があることになる。のぞき窓をパッキンで挟む構造や、溝にはめ込む構造では、この幅が組み付けに効く。板の許容差より狭い厚さが必要なら、図面に厚さの許容差を書き、規格の許容差では足りないことを仕入先に伝える。
長さと幅の許容差は、プラス側だけに取られている。1,000 mm 以下で +3 mm/0、1,001〜2,000 mm で +6 mm/0 のように、規格の板は呼びの寸法より小さくならない[1]。そのまま部品として使う場合は、板を寸法どおりに切って納めてもらうのか、規格の板を買って自社で切るのかを決める。切断して納める場合の寸法と許容差は、板の規格ではなく図面で指定する。
板の性能は、何がロットごとに確かめられているか
JIS K 6735 は、引張降伏応力 55 MPa 以上、ビカット軟化温度 145 ℃以上、荷重たわみ温度 130 ℃以上(厚さ 3 mm 以上の板)などの基本性能を表で定めている[1]。ただし規格の検査は、形式検査と受渡検査に分かれている。形式検査には引張・衝撃・ビカット軟化温度・荷重たわみ温度などが並ぶが、受渡検査に挙がっているのは外観・色相検査と寸法検査の 2 つだけである[1]。
つまり「JIS K 6735 適合品」と書いて買っても、その納入ロットの機械的性質を測った記録が付いてくるとは限らない。荷重を受ける部品や、温度の高い場所で使う部品で、ロットごとの値が必要なら、試験の項目と頻度を発注書に書いて試験成績書を求める。樹脂の物性値は測り方の条件で変わるので、試験の規格と条件まで書かないと、仕入先の値と自社の値は比べられない。
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規格が当事者に任せていること
JIS K 6735 は、多くの項目を受渡当事者間の協定に任せている。外観(きず・異物・反り)の限度、色相の違いの限度、耐候性(屋外暴露は耐候用の板でも協定で、表 7 の要求で決まるのは耐候用の板の人工暴露だけ)、難燃性、再試験の扱いなどである[1]。食品に触れる用途に使う場合も、必要な要求事項について当事者間で合意しなければならないとしている[1]。規格に「協定」と書いてある項目は、こちらが何も書かなければ何も決まっていない項目である。
| 項目 | JIS K 6735 での扱い(平板・型板) | 発注で書くこと |
|---|---|---|
| 厚さ | 1.5 mm 以上。1.5〜5 mm は ±10 %、5 mm 超は ±5 % | 足りなければ図面に許容差を書く |
| 長さ・幅 | 1,000 mm 以下で +3 mm/0 など、プラス側だけ | 切断して納めるなら図面寸法と許容差 |
| ビカット軟化温度 | 145 ℃以上(形式検査) | 使用温度と、ロットごとの試験の要否 |
| 荷重たわみ温度 | 130 ℃以上(厚さ 3 mm 以上・形式検査) | 同上 |
| 外観・色相 | 限度は受渡当事者間の協定(受渡検査の項目) | 限度見本と見る条件 |
| 難燃性・食品用途 | 受渡当事者間の協定・合意 | 必要な規格・等級と証明書 |
外観の限度を決める手順は外観の合否基準を仕入先と決める方法で扱っている。難燃性で UL94 の等級を求める場合は、等級と厚さの関係をUL94 V-0 の樹脂選定と肉厚で確かめてから書く。
「割れにくい」が成り立たない条件——厚さとノッチ
PC は耐衝撃性の高い樹脂として選ばれるが、その性質は形状に左右される。JIS K 6735 は衝撃試験の方法を板の厚さで分けており、4 mm 以上はノッチ付きのシャルピー衝撃強さ、4 mm 未満は引張衝撃強さで測る。その理由として、押出 PC 板はノッチ付きの試験片では厚さ約 2.5〜3.5 mm の範囲でじん性からぜい性への転移を示し、測定結果に大きな誤差が出るためだと注記している[1]。
規格の注記は試験方法の説明だが、発注側が読み取れることもある。切欠きのような鋭い角があると、同じ PC でも厚さによって粘る壊れ方と脆い壊れ方が入れ替わる、ということである。穴あけや切断で角に小さな欠けや鋭い切欠きが残ると、カタログの「耐衝撃」の性質はそのままでは期待できない。図面では穴の縁や入隅の角に R を指示し、切断面の仕上げ(バリ・欠けの有無)を外観の基準に入れておく。
環境応力割れ——油・溶剤・洗剤と力が重なると割れる
何が起きるか
PC の部品で多い不具合が、取り付けてしばらくしてから入る割れである。大阪府立産業技術総合研究所(現・大阪産業技術研究所)の技術資料は、プラスチックの割れについて同所に持ち込まれる相談のうち、環境応力割れ(ESC)が発生件数の 8 割以上を占めると述べている[3]。環境応力割れは、プラスチックに力が加わっているときに、ある種の外部の物質(とくに有機溶剤)があると、クラックやクレイズが発生・伝播して破壊する現象である[3]。
同じ資料は、一般にプラスチックは 2 % 前後のひずみで塑性変形を始めるが、環境応力割れでは 0.1 % 程度のひずみで破壊に至るとし、ポリスチレン・ポリカーボネート・アクリル樹脂といった透明な非晶質のプラスチックで研究されてきたと説明している[3]。資料の表では、PC の溶剤クレイズが出るひずみを、n ヘプタン中で 0.84 %、四塩化炭素中で 0.245 % としている[3]。数字は溶剤の種類で 3 倍以上違い、どの薬品に触れるかで割れやすさが変わることが分かる。
原因になりやすいもの
資料は、使う側で起きる原因として、潤滑油・溶剤・洗剤の付着、洗浄剤・接着剤・めっき液・化学薬品・食品・スプレー式殺虫剤との接触(液体だけでなくガスも影響する)、可塑剤を含む軟質塩化ビニルのシートやホースとの接触を挙げている[3]。対策としては、接触する金属部品の脱脂、無溶剤型の接着剤や塗料の使用、アニーリングなどによる残留応力の低減、外部からの負荷の低減を挙げている[3]。また、輸送中や保存中など製造からかなり時間がたってから割れる(遅れ破壊)ことがあるとしている[3]。
製造業の部品に当てはめると、思い当たる場面が多い。機械のカバーを止めるねじに付いた切削油、組立で使うねじ緩み止め剤、清掃に使うアルコールや洗浄剤、配線に沿って触れる軟質の塩化ビニル、成形品に圧入したインサート金具の周りの応力などである。樹脂の銘柄が正しくても、使われ方で割れるので、仕入先に材料だけを指定しても防げない。
発注で書くこと
発注側が書けるのは、その部品が触れるものと、力のかかり方である。仕様書には、触れる可能性のある薬品(洗浄剤・潤滑油・接着剤・緩み止め剤の品名)、組立の方法(ねじ締め・圧入・接着の別と、ねじの締付けトルク)、使用温度の範囲を書く。仕入先から「この洗浄剤で割れることがある」と回答があれば、材料ではなく工程を変える判断になる。
割れの試験方法を決めておくと、議論が早くなる。JIS K 7108 は、化学薬品の存在下でプラスチックに一定の引張荷重を掛けた場合の環境応力き裂を求める方法(定引張応力法)で、ISO 6252 を翻訳した規格である。成形や機械加工で作った試験片に適用でき、いろいろな環境にさらしたプラスチック材料の評価に使えるとしている[4]。同じ規格は、定ひずみの試験方法は ISO 4599 と ISO 4600 にあると備考に書いている[4]。どの方法で、どの薬品で、何時間で判定するかは製品で決めることで、規格は合否の値を決めていない。試験条件を当事者で合わせることが先である。
成形品で買うとき——残留応力と寸法
射出成形の PC 部品では、成形時の残留応力が割れの起点になりうる。環境応力割れの資料も、対策の 1 つにアニーリングなどによる残留応力の低減を挙げている[3]。ただし、アニーリング(成形後に一定の温度で保持する処理)を指定するかどうか、どの条件で行うかは、材料メーカーの推奨と部品の形状で決まる。発注側が条件の数値を決め打ちするより、「成形条件と後処理を変更するときは事前に承認を得る」と仕様書に書き、量産前に薬品をかけた確認を一緒に行うほうが現実的である。
寸法の公差は、金属の普通公差をそのまま当てはめられない。成形品の寸法許容差の考え方、収縮や吸湿の影響、測る状態の指定は樹脂成形品の寸法公差の決め方で扱っている。PC 板の規格も、長さと幅は 23 ℃±2 ℃で測り、それ以外の温度で測ったときは線膨張係数 65×10−6/℃を使って 23 ℃の寸法に換算するとしている[1]。1,000 mm の板なら、10 ℃の違いで約 0.65 mm 伸び縮みする計算になる。夏の工場で測った寸法と、冬の受入で測った寸法が合わないのは、この差であることが多い。
材料の指定では、JIS の呼び方だけで足りないことに注意する。JIS K 6719-1 は、この規格の呼び方が同じ材料であっても必ずしも同一の性能を示すとは限らず、呼び方は特定の用途や加工方法に必要な材料を特定するものではないと注記している[2]。成形品の材料は、材料メーカーとグレードで固定するか、必要な特性を試験方法とともに書く。
食品に触れる PC 部品
PC は食品機械の部品や容器にも使われる。食品用の容器等は食品衛生法で規制されており、厚生労働省のビスフェノール A についての Q&A(平成 22 年 1 月更新)は、ポリカーボネート製の器具・容器包装からのビスフェノール A の溶出試験規格を 2.5 μg/mL(2.5 ppm)以下と制限していると説明している[5]。同じ Q&A は、ポリカーボネートは主に電気機器、OA 機器、自動車・機械部品などに使われ、食器・容器への使用量はそれに比べて少ないとも述べている[5]。
食品に触れる部品を調達するときに確かめる制度の全体(ポジティブリスト制度・適合の確認の方法)は食品に触れる部品・容器・包材の調達で扱った。PC 板については、先に見たとおり JIS K 6735 も食品用途の要求を当事者間の合意に任せている[1]。「食品に使える PC」という口頭の説明ではなく、どの規格への適合を、どの書類で確かめるかを発注書に書く。
受入で確かめること
PC 板の受入では、規格の表示と包装から始める。JIS K 6735 は、板をプラスチックフィルムや紙で保護しなければならないとし、包装には名称・種類または記号などを表示するとしている[1]。耐候用の板は、保護層のある面と保護フィルムの表示がそろっているかを見る。
厚さを測るときの条件も規格にある。保護フィルムを外し、1/20 mm 以上の精度の測定器で、板の端から 10 mm 以上内側の両端と中央を含む 3 点以上を測る[1]。仕入先の測定と受入の測定が食い違ったら、まず測った位置と保護フィルムの有無をそろえる。
成形品では、外観と寸法に加えて、量産前に決めた薬品での確認の結果を初回品で受け取る。量産に入る前に何を承認するかは量産前に仕入先に何を出させて承認するかを参考にするとよい。
よくある質問
Q. 透明カバーを PC からアクリルに替えてもよいですか。
透明で似た用途に使われるが、性質は同じではない。環境応力割れの資料の表でも、溶剤クレイズが出るひずみは樹脂と溶剤の組合せで違う[3]。替える場合は、衝撃・使用温度・触れる薬品の条件で評価し直してから承認する。アクリル板の指定はアクリル板(PMMA)の規格と発注で扱う。
Q. 板の JIS 適合を求めれば、強度の記録も付いてきますか。
規格の受渡検査は外観・色相と寸法である[1]。機械的性質のロットごとの値が要るなら、試験項目と頻度を発注書に書く。
Q. 取り付けてから割れが出ました。材料の不良でしょうか。
材料の不良とは限らない。割れの面と位置、触れた薬品、締付けや圧入の状態を記録し、環境応力割れの可能性を先に確かめる[3]。原因を決めずに材料だけ替えても、同じ条件なら再び割れることがある。
まとめ
PC は「割れにくい透明な樹脂」として一言で選ばれやすいが、発注で決めることは多い。板なら JIS K 6735 の種類(平板・型板)と用途記号(G・W・H)、厚さの許容差(1.5〜5 mm は ±10 %、5 mm 超は ±5 %)を押さえ、規格が協定に任せている外観・難燃性・食品用途を自分で書く[1]。受渡検査は外観・色相と寸法だけなので、ロットごとの性能が要るなら別に求める。成形品なら材料をグレードで固定し、呼び方だけで指定しない[2]。そしてどちらでも、触れる薬品と力のかかり方を仕様書に書く。環境応力割れは降伏よりはるかに小さいひずみで起き[3]、試験方法も規格にある[4]。条件を発注の時点で書いて渡せば、割れが出たときに原因を一緒に追える。
同じ束では、梱包の指定を段ボール箱の規格と強度の指定で、設備の部材としての電線の選び方を電線・ケーブルの種類と仕様書での指定で、保管と輸送の荷姿をパレットのサイズと規格で扱う。
出典・参考資料
- JIS K 6735:2024 ポリカーボネート板及び波板(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2024 年 3 月 21 日改正)
- JIS K 6719-1:2011 プラスチック-ポリカーボネート(PC)成形用材料及び押出用材料-第 1 部:呼び方のシステム及び仕様表記の基礎(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/2011 年 12 月 20 日改正)
- 技術資料 No.98037「プラスチックの環境応力割れ」(大阪府立産業技術総合研究所 材料技術部/1998 年 12 月 15 日発行)
- JIS K 7108:1999 プラスチック-薬品環境応力き裂の試験方法-定引張応力法(JIS 検索の閲覧資料)(日本産業標準調査会/1999 年 8 月 20 日改正)
- ビスフェノール A についての Q&A(厚生労働省 食品安全部基準審査課/平成 20 年 7 月作成・平成 22 年 1 月更新)
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