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投稿日:2026年10月17日

SPFC・SAPH(JIS G 3135・G 3113)の発注——記号の数字の意味、成分を規定しない点とミルシート

この記事のポイント(結論先出し)

SPFC は JIS G 3135(冷延の高張力鋼板)、SAPH は JIS G 3113(自動車構造用の熱延鋼板)で、熱延の高張力鋼板には別に SPFH(JIS G 3134)がある。記号の数字は引張強さの下限(N/mm²)で、SPFC590 なら 590 N/mm² 以上である[1]。見落としやすいのは、SPFC と SPFH は化学成分を規定していないこと[1][3]。記号だけでは溶接やめっきの前提になる成分は決まらない。強さが上がるほど曲げ試験の内側半径は大きくなり(SPFC980Y は厚さの 4.0 倍)[1]、厚さの許容差も広がる。成績書は注文時に求めた場合に出るので[1][2][3]、記号・エッジ・寸法と一緒に注文書に書く。

SPFC・SAPH・SPFH はどの規格の記号か

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自動車部品や家電の筐体まわりで「ハイテン(高張力鋼板)」と呼ばれる鋼板は、JIS では三つの規格に分かれている。冷間圧延の SPFC は JIS G 3135(自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板及び鋼帯)、熱間圧延の SPFH は JIS G 3134(自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板及び鋼帯)、SAPH は JIS G 3113(自動車構造用熱間圧延鋼板及び鋼帯)である[1][2][3]。三つとも 2025 年 4 月に改正されており、適用範囲は「主に自動車,電気機器,建築材料など」に用いる加工性の良い鋼板と書かれている[1][2][3]。名前に「自動車」と付くが、自動車部品専用の材料ではない。

ここで混同しやすいのが、SAPH の規格名に「高張力」が入っていないことである。JIS G 3113 は「自動車構造用」の熱延鋼板で、SAPH310 から SAPH440 までの 4 種類を持つ[2]。熱延で高張力鋼板を名乗るのは SPFH490〜SPFH590Y の 5 種類のほうである[3]。社内で「SAPH440 はハイテン」と呼んでいても、規格上は別の系統なので、置き換えを検討するときは規格番号ごとに規定を見比べる。

この記事は、これらの記号を図面や注文書に書くとき、何を補えば仕入先の見積がそろうかを扱う。普通鋼の冷延・熱延(SPCC・SPHC・SECC)の指定は SPCC・SPHC・SECC の指定で扱ったので、そちらと違うところに絞る。

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記号の数字と末尾の Y・H の意味

数字は引張強さの下限

JIS G 3135 の表 2 は、SPFC340 の引張強さを 340 N/mm² 以上、SPFC590 を 590 N/mm² 以上、SPFC980Y を 980 N/mm² 以上としている[1]。記号の数字はそのまま引張強さの下限で、上限は規定していない。SAPH・SPFH も同じで、SAPH440 は 440 N/mm² 以上、SPFH590 は 590 N/mm² 以上である[2][3]。

上限が無いということは、規格の範囲内でも、仕入先やロットによって強さが下限より大きく上に振れることがある。プレス条件を詰めた後に材料の仕入先を替えるときは、強さの実績値(成績書の値)を前後で比べる。これは規格の要求ではなく、発注側の確認の提案である。

Y は低降伏比型、H は焼付硬化型

JIS G 3135 は SPFC を区分しており、SPFC490Y・540Y・590Y・780Y・980Y を「低降伏比型鋼板」、SPFC340H を「焼付硬化型鋼板」としている[1]。同じ引張強さで比べると、降伏点(または耐力)の下限は、SPFC590 が 355 N/mm² 以上、SPFC590Y が 265 N/mm² 以上である[1]。Y の付く鋼種は、引張強さに比べて降伏点が低く抑えられた材料ということになる。図面に「SPFC590」とあるのを「SPFC590Y」で受けると、引張強さは同じでも降伏点の保証値が 90 N/mm² 下がる。設計が降伏点で強度を見ているなら、末尾の 1 文字の違いで前提が崩れる。

SPFC340H の塗装焼付硬化量(BH 量)は 30 N/mm² 以上で、規格はこれを、予ひずみ 2% を与えた後に 170 ℃・20 分加熱したときの降伏応力の上昇量として定義している[1]。さらに SPFC340H は、製造後に常温で保管した場合、少なくとも 3 か月間、ストレッチャーストレイン(加工時に表面に出る模様)が発生してはならないとされ、受渡当事者はこの期間内に使用できるよう努めることが望ましい、と書かれている[1]。外観部品に使うなら、発注量と在庫期間をこの 3 か月に合わせて決める。

化学成分を規定していない、という点

JIS G 3135 と JIS G 3134 は、箇条 5 で「化学成分は,規定しない」と書いている。化学成分分析が必要な場合は試験の箇条による、という扱いである[1][3]。SAPH の JIS G 3113 はりんと硫黄の上限(どちらも 0.040% 以下)だけを定め、炭素やマンガンは規定していない[2]。比べると、普通鋼の冷延の JIS G 3141 は SPCC に炭素 0.15% 以下、マンガン 1.00% 以下、りん 0.100% 以下、硫黄 0.035% 以下を定めている[6]。

つまり、SPFC・SPFH は記号だけでは成分が決まらない材料である。製造業者は機械的性質を満たすように成分を選ぶので、同じ SPFC590 でも製造業者によって成分の組み立てが違うことがありうる。溶接、めっき、塗装の条件を材料の成分に合わせて決めている部品で、仕入先を替える、または製造業者を指定せずに記号だけで購入する場合は、この点を前提に置く。

ここで一つ、使ってはいけない置き換えを書いておく。溶接の条件を決めた後で、成分の規定が無い高張力鋼板を「同じ記号だから」と別の製造業者の材料に替え、溶接の確認をしないまま量産に入ることは避ける。規格は成分を保証していないので、溶接性を記号から判断する根拠が無い。替えるなら、成分を含む成績書を両方で取り寄せ、溶接部の確認(試作での断面確認など)をしてから切り替える。これは規格の要求ではなく、発注側の進め方の提案である。溶接の方法や検査の指定は溶接を含む部品の発注で指定することで扱った。

強さと曲げ・厚さの許容差の関係

次の表は、三つの規格から発注で効く項目を抜き出したものである。曲げは内側半径(厚さの倍数)、厚さの許容差は代表の区分の値で、ほかの区分は各規格の表で確かめる。

項目 SPFC(JIS G 3135) SPFH(JIS G 3134) SAPH(JIS G 3113)
圧延 冷間 熱間 熱間
適用厚さ 0.6〜2.3 mm(780Y・980Y は 0.8〜2.0 mm) 1.6〜6.0 mm(540Y・590Y は 2.0〜4.0 mm) 1.6〜14 mm
化学成分 規定しない 規定しない P・S だけ 0.040% 以下
曲げの内側半径の例 SPFC440 密着、SPFC590 厚さの 1.0 倍、SPFC980Y 厚さの 4.0 倍 SPFH590 厚さの 1.5 倍(全厚さ区分) SAPH440 厚さ 2.0 mm 未満で 1.0 倍、2.0 mm 以上で 1.5 倍
厚さの許容差の例 厚さ 1.00〜1.25 mm 未満・幅 630 mm 未満で、引張強さ下限 780 未満は ±0.08 mm、780 以上は ±0.10 mm 厚さ 2.00〜2.50 mm 未満・幅 1 200 mm 未満で ±0.18 mm 厚さ 2.00〜2.50 mm 未満・幅 1 200 mm 未満で ±0.17 mm
厚さを測る位置 ミルエッジは縁から 25 mm 以上内側、カットエッジは 15 mm 以上内側 同左 同左
塗油の既定 特に指定のない限り塗油 スケール除去材は塗油、圧延のままは塗油しない 同左

表の値は JIS G 3135 の表 1〜3・表 5、JIS G 3134 の表 1〜3、JIS G 3113 の表 1〜4 による[1][2][3]。

曲げの欄で分かるとおり、同じ SPFC でも強さが上がると、割れずに曲げられる内側半径の規定は大きくなる。SPFC340〜490 は密着曲げだが、SPFC540 は厚さの 0.5 倍、SPFC590 は 1.0 倍、SPFC780Y は 3.0 倍、SPFC980Y は 4.0 倍である[1]。強度を上げて板厚を下げる設計変更をするとき、曲げ R を変えずに材料だけ上げると、この規定から外れる。曲げの R の決め方は板金の曲げ加工でできないことで扱った。

曲げ試験は、三つの規格とも、製造業者の判断で省略してもよいが、注文者の指定がある場合は行わなければならない、とされている。省略しても曲げ性は規定を満足しなければならない、という注記付きである[1][2][3]。成績書に曲げの結果を載せてほしいなら、注文時に指定する。

厚さの許容差も強さで変わる。SPFC の表 5 は引張強さの規格下限で 780 N/mm² 未満と以上に分け、同じ厚さ・幅でも 780 以上の側を広くしている[1]。プレス・板金品の寸法公差と板厚の関係はプレス・板金品の公差の指定で扱った。熱延の SAPH・SPFH は自分の規格に厚さの許容差の表を持っていて、一般の熱延鋼板の JIS G 3193 の表とは値が違う。この違いは鋼板の板厚公差 JIS G 3193で比べた。

熱延(SAPH・SPFH)で注文者が決めること

JIS G 3113 と JIS G 3134 は、スケール(熱延で表面に付く酸化物)の除去の要否と方法を注文者の指定によるとし、除去する場合は酸洗かショットブラストによるとしている[2][3]。塗油は、特に指定のない限り、スケールを除去した板は塗油し、圧延したままの板は塗油しない[2][3]。外観は JIS G 3193 によるが、鋼板の溶接補修は行ってはならない、とされている[2][3]。

鋼帯(コイル)で買う場合の注意もある。両規格とも、鋼帯の圧延時の先端部と尾端部の非定常部には、引張強さなどの機械的性質と厚さの許容差を適用しないとし、商習慣上この不安定部を切除せずに出荷する場合がある、と注記している[2][3]。コイルから自社やコイルセンターで切板を取るなら、先端と尾端の扱いを決めておく。

SAPH の降伏点にも条件がある。SAPH310 は降伏点を規定しておらず、参考値として 185 N/mm² 以上(厚さ 6.0 mm 未満)などが受渡当事者間で協定されることがある、という注記になっている[2]。SAPH440 の降伏点の下限は、厚さ 6.0 mm 未満で 305 N/mm²、6.0 mm 以上 8.0 mm 未満で 295 N/mm²、8.0 mm 以上で 275 N/mm² だが、それぞれ協定で 275・265・255 N/mm² に下げてもよいとされている[2]。成績書の降伏点が規格表の値より低くても、協定でそうしていれば適合である。発注時にどちらの値で受けるかを書いておく。

めっき鋼板にしたいとき

電気亜鉛めっき鋼板の JIS G 3313 は、SPFC を原板にした SEFC340〜SEFC980Y・SEFC340H の種類を持ち、熱延側でも SPFH を原板にした SEFH、SAPH を原板にした SEPH を持っている[4]。SPFC の板を買って後からめっきするのか、めっき済みの SEFC を買うのかで、注文先も成績書の内容も変わる。めっき付着量など、電気亜鉛めっき鋼板で指定する項目は SPCC・SECC の記事、溶融亜鉛めっき鋼板はSGCC の発注で扱う。

注文時に提示する事項と成績書

JIS G 3135 は、注文者が注文時に少なくとも、鋼板か鋼帯かの別、種類の記号、エッジの種類(ミルエッジかカットエッジか)、寸法を製造業者・加工業者・中間業者へ提示しなければならない、としている[1]。JIS G 3113 と JIS G 3134 はこれにスケール除去の要否と方法が加わる[2][3]。

検査文書は、三つの規格とも「あらかじめ注文者の要求がある場合」に製造業者が提出するもので、種類は特に指定のない場合は JIS G 0415 の検査証明書 3.1 による[1][2][3]。検査証明書 3.1 は、受渡検査の試験結果を載せて注文書の要求に合っていることを製造業者が宣言する文書で、その妥当性は製造部門から独立した権限のある検査代表者が確認する、と JIS G 0415:2024 は定めている[5]。一次製品を購入して自らの製品に用いる製造業者が試験結果を転記してもよい条件(トレーサビリティの確保と、元の検査文書を提供できること)も定めている[5]。コイルセンターなどの中間業者から買う場合について、同じ規格は、注文者の要求があるときに製造業者の検査文書の原本か複製を提出し、修正や追加を一切行ってはならないとしている。切断や寸法の変更など、製品の識別・寸法・数量を変えた場合は、新しい条件に適合する旨の追加文書を出す[5]。切板で買うなら、材料メーカーの検査文書(原本か複製)と、切断後の寸法についての追加文書の両方を求める。成績書の区分の考え方はミルシート Type 3.1 を出せない仕入先を見抜くで扱った。

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注文書の書き方の例

決まった様式があるわけではない。発注側として書いておきたい内容を一つの例にまとめる。

「材質:JIS G 3135 SPFC590、鋼板、カットエッジ、1.2 × 1 000 × 2 000 mm。特に指定のない限り塗油。曲げ試験を実施し、検査証明書 3.1 を添付すること(引張強さ・降伏点・伸び・曲げ・化学成分の分析値を記載)。種類の記号の変更(SPFC590Y などの Y 付きを含む)および製造業者の変更は事前承認を要する。」

化学成分は規格では規定されていないので、成績書に分析値を載せてほしい場合は、この例のように注文書に書く。載せる成分の範囲は仕入先と相談して決める。

受け入れるときは、成績書を次の順で見る。

1. 種類の記号と規格番号
末尾の Y・H まで注文と一致しているか。SAPH と SPFH の取り違えも、規格番号で分かる。

2. 引張強さと降伏点
引張強さは記号の数字以上か。降伏点は表の値(SAPH で協定した場合はその値)以上か。

3. 曲げ
注文で指定していれば、結果が載っているか。

4. 厚さ
許容差は縁から規定の距離より内側に適用されるので、受入で測る位置もそこに合わせる。

よくある質問

SPFC590 と SPFC590Y はどちらで注文すればよいですか

図面の指定どおりにする。引張強さの下限はどちらも 590 N/mm² だが、降伏点の下限は SPFC590 が 355 N/mm²、SPFC590Y が 265 N/mm² で、曲げの内側半径はどちらも厚さの 1.0 倍である[1]。置き換えるなら、降伏点で強度を見ているかを設計に確かめる。

SAPH440 は高張力鋼板ですか

JIS G 3113 の規格名は「自動車構造用熱間圧延鋼板及び鋼帯」で、名前に高張力は入っていない[2]。熱延の高張力鋼板の規格は JIS G 3134 の SPFH である[3]。社内の呼び方と規格の区分がずれていないか、置き換えのときに確かめる。

成分を規定していないのに、成績書に成分が載ることはありますか

規格は化学成分を規定せず、分析が必要な場合は試験の箇条によるとしている[1][3]。載せてほしいなら、注文時に分析値の記載を求めておく。

まとめ

SPFC は冷延、SPFH は熱延の高張力鋼板で、SAPH は規格名に高張力が入らない自動車構造用の熱延鋼板である。記号の数字は引張強さの下限で、末尾の Y は低降伏比型、H は焼付硬化型を表す。SPFC と SPFH は化学成分を規定していないので、溶接やめっきの条件を記号だけで決めない。強さが上がるほど曲げの内側半径の規定が大きくなり、厚さの許容差も広がる。熱延はスケール除去の要否と方法、鋼帯の先端・尾端の扱いを決める。成績書は注文時に求めた場合に出るので、記号・エッジ・寸法と一緒に注文書に書く。

同じ束では、溶融亜鉛めっき鋼板の SGCC、熱延鋼板の板厚公差 JIS G 3193、モーターの鉄心に使う電磁鋼板、電磁軟鉄 SUYの発注も扱う。

出典・参考資料

  1. JIS G 3135:2025 自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 4 月 21 日改正)
  2. JIS G 3113:2025 自動車構造用熱間圧延鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 4 月 21 日改正)
  3. JIS G 3134:2025 自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2025 年 4 月 21 日改正)
  4. JIS G 3313:2021 電気亜鉛めっき鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 2 月 22 日改正)
  5. JIS G 0415:2024 鋼及び鋼製品-検査文書(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2024 年 6 月 20 日改正)
  6. JIS G 3141:2021 冷間圧延鋼板及び鋼帯(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2021 年 4 月 20 日改正)

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