発注の変更・取消はどこまで許されるか——費用を負担せずに動かせる 2 つの場合 | newji

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投稿日:2026年9月6日

発注の変更・取消はどこまで許されるか——費用を負担せずに動かせる 2 つの場合

この記事のポイント(結論先出し)

客先の都合で数量や仕様が動き、いったん出した発注を変えたい、あるいは止めたい。このとき問われるのは「変えてよいかどうか」ではない。取適法は、発注の変更も取消しも禁じていない。禁じているのは、相手の責めに帰すべき理由がないのに、費用を負担せずに変更させることである(第 5 条第 2 項第 3 号)。しかも発注の取消しは、この号だけでなく受領拒否(第 5 条第 1 項第 1 号)にも同時に当たる。取適法テキストは、発注側の一方的な都合による発注内容の変更や発注の取消し、生産の打切りの場合について、既に完成している製品を全て受領しなければ受領拒否として問題となり、仕掛品の作成費用や部品代を含む発生費用を全額負担しなければ不当な給付内容の変更として問題となると書いている。つまり止めるときは、受け取る義務と払う義務が二段でかかる。決めるべきは「いくら払うか」と「変更後の内容をどう明示して記録するか」の 2 つになる。

発注は「出したあと」に動かすと、条文が二重にかかる

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受発注の現場で発注を動かす理由は、たいてい自社の外側にある。客先が数量を落とした、設計が変わった、案件そのものが飛んだ。社内では「キャンセル」「数量訂正」「納期リスケ」と呼ばれる操作で、システム上はステータスをひとつ戻すだけのことも多い。ところがこの操作は、取適法(中小受託取引適正化法)の上では複数の禁止行為に同時に触れうる。

骨格になるのは第 5 条第 2 項第 3 号である。委託事業者は「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、中小受託事業者の給付の内容を変更させ、又は中小受託事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること」によって、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない[2]。第 2 項の各号は、第 1 項と違って「〜してはならない」ではなく「〜することによって利益を不当に害してはならない」という形になっている。行為そのものが一律に禁止されているわけではない、という条文の作りをまず押さえておきたい。

取適法テキストはこの号の「給付の内容を変更させること」を、給付の受領前に、4 条明示されている給付の内容を変更し、当初委託した内容とは異なる作業を行わせることだと説明している[1]。そのうえで発注を取り消すこと(契約の解除)も「給付内容の変更」に該当すると明記している[1]。一方、第 5 条第 1 項第 1 号の受領拒否の側でも、「受領を拒む」に発注を取り消すことにより発注時に定められた納期に受け取らないこと、納期を延期することにより発注時に定められた納期に受け取らないことが原則として含まれる、とされている[1]。同じ「取消し」が両側から数えられている。

調達現場で押さえるポイント

「取り消す」と「変更する」を社内で別の手続にしていると、この二重の適用を見落とす。実務では数量をゼロにする変更が取消しであり、どちらも同じ判断——完成品を受け取るか、発生費用をいくら持つか——に行き着く。

本記事は発注を出したあと、納品までの間に発注側から動かす場面を扱う。納品されたものを受け取らない、受け取ったものを返す、受け取ったあとに直させる、という受領以後の線引きは受領拒否・返品・やり直しはどこまで許されるかにまとめてあるので、そちらを参照してほしい。

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発注を動かす 6 つの操作と、効いてくる条文

納品前に発注側から起こす操作を、実務で使う呼び方のまま並べる。同じ「変更」でも、当たる号と手当てが違う。

納品前にする操作 効いてくる条文 やるべき手当て
1. 発注を全部または一部取り消す(数量を減らす) 第 5 条第 1 項第 1 号
+第 5 条第 2 項第 3 号
完成品は全て受領し、発生費用を全額負担
2. 仕様・図面を変える 第 5 条第 2 項第 3 号 無駄になった作業と追加作業の費用を負担
3. 作業を追加する(工程を足す・等級を上げる) 第 5 条第 2 項第 3 号
+第 5 条第 1 項第 5 号
費用を負担し、単価の見直しを協議
4. 納期を後ろにずらす 第 5 条第 1 項第 1 号
(費用が生じれば第 5 条第 2 項第 3 号)
完成分は当初の納期に受領。保管費等を負担
5. 納期を前に詰める 第 5 条第 1 項第 5 号 増える費用を考慮して代金の額を決める
6. 数量を増やす 第 4 条第 1 項(新たな発注) 増量分について改めて 4 条明示

取り消すときは、受け取る義務と払う義務が同時にかかる

いちばん重いのが 1 の取消しである。取適法テキストは、いわゆる必要な時に必要な量だけ納入させる生産方式についての解説の末尾で、次のように書いている。製品仕様の変更等、委託事業者側の一方的都合による発注内容の変更もしくは発注の取消しまたは生産の打切り等の場合には、中小受託事業者が既に完成している製品全てを受領しなければ受領拒否として問題となり、仕掛品の作成費用や部品代を含む中小受託事業者に発生した費用を全額負担しなければ不当な給付内容の変更として問題となる[1]

この一文は二段になっている。完成しているものは引き取る。まだ完成していない仕掛品と、そのために手配した部品・材料の費用は払う。片方だけでは足りない。完成品だけ引き取って仕掛品を放置する処理も、費用だけ払って完成品の受領を断る処理も、それぞれ別の号で問題になる。実際の違反行為事例にも、部品の製造を委託し相手が既に原材料等を調達しているのに、輸出向け製品の売行き不振と製品在庫の急増を理由に、要した費用を支払うことなく発注した部品の一部の発注を取り消した例が挙がっている[1]

増やすのは「変更」ではない

逆方向は扱いが変わる。テキストの Q&A は、発注後に当初の発注数量を増加させることは給付内容の変更ではなく、増量分についての新たな発注をしたと認められるとしており、したがって改めて 4 条明示することが必要になる[1]。増量は費用負担の問題ではなく、明示義務の問題になる。明示すべき項目そのものは発注書とは|取適法の「4 条明示」12 項目で整理している。

あわせて、当初の委託内容と異なる作業を要請することが新たな製造委託等をしたと認められる場合には、委託内容や代金の額等の明示事項を改めて明示する必要がある、と運用基準にも書かれている[1]。仕様の変更が「作業の追加」ではなく「別物の発注」と評価される水準なら、変更の連絡ではなく発注のやり直しになる。

費用を負担せずに変えられるのは、受領前の 2 つの場合だけ

第 5 条第 2 項第 3 号は「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに」という条件つきの禁止である[2]。では、その理由があるとして費用を全く負担せずに変更させられるのはどういう場合か。テキストと運用基準は、これを限定列挙している[1]

場面 時点 費用を負担せずに要請できるか
相手からの要請で給付の内容を変更する 受領前 できる
内容を確認したところ、4 条明示した委託内容と異なること等があると合理的に判断される 受領前 できる
給付の内容が 4 条明示した委託内容と異なること等があるため、やり直させる 受領後 できる
明確化の求めがあったのに正当な理由なく仕様を明確にせず作業を続けさせ、後で「委託内容と違う」とする 受領前・受領後 できない
相手が提案して確認を求め、こちらが了承した内容で作られたのに「委託内容と違う」とする 受領前・受領後 できない
検査基準を恣意的に厳しくして「委託内容と違う」とする 受領前・受領後 できない
直ちに発見できない不適合について、受領後 1 年を経過している(ただし、委託事業者の保証期間が 1 年を超え、相手ともそれに応じた保証期間を定めている場合を除く) 受領後 できない

できる側が 3 つ、できない側が 4 つである。ここで納品前の発注変更に使えるのは、上の 2 行だけ。3 行目は受領後のやり直しの話で、4 つの「できない」のうち最後の 1 行も受領後 1 年という時点の話になる。納品前に発注側の都合で内容を動かす場面は、この表のどの行にも当たらない。客先の設計変更も、案件の中止も、在庫の積み上がりも、相手の責めに帰すべき理由ではないからである。

ただし裏を返せば、費用を負担すれば違反にならない。テキストは、給付内容の変更またはやり直しのために必要な費用を委託事業者が負担するなどにより、中小受託事業者の利益を不当に害しないと認められる場合には、不当な給付内容の変更および不当なやり直しの問題とはならない、と明記している[1]止めることも変えることも禁じられていない。無償で押し付けることが禁じられている

相手が着手していたら、いくら払うのか

実務でいちばん判断に迷うのが、相手が既に人と設備を押さえている場合の金額である。テキストにはこの点を正面から扱った Q&A がある。中小受託事業者が目的物の作成に必要な機器と人員を手配している場合に、解約可能な範囲は解約してもらい、解約できずやむを得ず負担することとなった部分を負担すれば問題ないかという問いに対し、結果として中小受託事業者が負担することとなった費用を委託事業者が全て負担すれば、不当な給付内容の変更には該当しない、と答えている[1]

ここから、支払う額の決め方は 2 段になると読める。第一に、相手に解約可能なものは解約してもらう。第二に、それでも残った負担を全額持つ。「全額負担」とは相手の当初見積額をそのまま払うことではなく、相手の手元に最終的に残った損失を埋めることである。逆に、こちらの都合で減らせるものを減らさないまま概算で丸めて払うと、多すぎても少なすぎても後で説明できない。

算定に必要なのは、取消しの連絡を入れた時点で相手がどこまで進んでいたかという事実である。材料は発注済みか、切削は何個まで進んでいるか、外注に出した工程はあるか、キャンセル料が発生する手配はどれか。これを口頭でやり取りすると、あとで金額の根拠が残らない。数字を出してもらう場を先に作ってから連絡を入れる順序が要る。

調達現場で押さえるポイント

取消しの連絡と、費用の申告依頼を同じ連絡でまとめて出す。取消しだけ先に伝えると、相手は作業を止めた後で費用をまとめることになり、着手状況の証跡が薄くなる。止めた時点の仕掛数と手配済みの材料を、その場で回答してもらう。

変更したら、明示と記録をやり直す

費用の話がついても、手続はもう一段ある。運用基準は、取引の過程で明示された委託内容が変更され、または明確化されることもあるので、このような場合には委託事業者はこれらの内容を中小受託事業者に明示する必要があり、法第 7 条の規定に基づき作成・保存しなければならない書類等の一部として保存する必要があるとしている[1]。変更の連絡は、明示のやり直しであると同時に、記録の対象でもある。

記録の側は規則に具体的な項目がある。第 7 条の書類等の作成及び保存に関する規則第 1 条第 1 項は、記載または記録しなければならない事項を 13 号にわたって定めており、その第 4 号が「中小受託事業者の給付の内容を変更させ、又はその給付の受領後に給付をやり直させた場合には、その内容及びその理由」である[3]。第 5 号は「製造委託等代金の額及び支払期日並びにその額に変更があった場合は増減額及びその理由」で、変更の事実だけでなく理由まで書くことが求められている[3]

書く時期も決まっている。同規則第 2 条第 1 項は、これらの事項の記載または記録は、それぞれその事項に係る事実が生じ、または明らかになったときに、速やかに行わなければならないとしている[3]。月次でまとめて台帳に転記する運用は、この「速やかに」を満たさない。保存期間は、記載または記録をすべき事項の全部の記載または記録をした日から 2 年間である[3]。記録全体の作り方は取適法が求める記録——何を書いて、2 年間どう残すかにまとめている。

明示の側は、第 4 条の明示に関する規則が定める項目を、変更後の内容で出し直すことになる[4]。同規則第 1 条第 1 項第 2 号は「製造委託等をした日、中小受託事業者の給付の内容並びにその給付を受領する期日及び場所」を挙げており、給付の内容も受領期日もここに含まれる[4]。仕様を変えても納期を動かしても、明示した事項が変わるという点では同じである。

条番号は 2026 年 1 月の施行で動いており、旧下請法の「3 条書面」は 4 条明示、「5 条書面」は 7 条の記録になっている。社内規程・購買基本契約書・変更連絡書の様式に旧法の条番号が残っている場合は差し替えが要る。条文の対応関係と改訂箇所をまとめた法令・規格 改訂対応パック(中小受託取引適正化法)が、その点検に使える。

変更が単価に跳ねるとき

作業を追加する変更では、費用を負担するだけでは足りないことがある。テキストは買いたたきに該当するおそれのある代金の決め方として、中小受託事業者に見積りをさせた段階より発注内容が増えたのにもかかわらず、代金の額の見直しをせず、当初の見積価格を代金の額として定めることを挙げている[1]。短納期発注を行う場合に、中小受託事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価より低い代金の額を定めることも、同じ列挙に入っている[1]

さらに、相手が単価の見直しを求めてきた場合には第 5 条第 2 項第 4 号が効く。給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、代金の額に関する協議を求められたにもかかわらず、協議に応じず、または求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、一方的に代金の額を決定することは禁じられている[2]。テキストは「その他の事情」に従来の納期の短縮、納入頻度の増加や発注数量の減少等による取引条件の変更が含まれるとしており[1]、発注の変更はこの事情に正面から当たる。

つまり発注内容を変えたあとに単価を据え置くと、変更そのものの費用負担とは別に、代金の決定の側でも問題になりうる。要請と協議の線引きはコストダウン要請はどこまで言ってよいかで扱っている。

頻繁に変えること自体に、別の法律の努力義務がある

一回ごとの費用を払っていれば、何度変えてもよいわけではない。取適法テキストは、不当な給付内容の変更の解説の末尾に留意事項として、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成 4 年法律第 90 号)を挙げている[1]。同法第 2 条第 4 項は、事業主は他の事業主との取引を行う場合において、著しく短い期限の設定及び発注の内容の頻繁な変更を行わないこと、当該他の事業主の講ずる労働時間等の設定の改善に関する措置の円滑な実施を阻害することとなる取引条件を付けないこと等、取引上必要な配慮をするように努めなければならないと定めている[6]

これは努力義務であって罰則はない。ただし公正取引委員会は、働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当な行為の事例を公表しており、そこには不当な給付内容の変更・やり直しの想定例として、受領前に自己の一方的な都合で仕様を変更したのにその旨を伝えないまま作業を続けさせ、納入時に仕様に合致していないとしてやり直しをさせた結果、相手が長時間労働を余儀なくされた例が挙げられている[1]変更の頻度と伝え方が、そのまま相手の労働時間に出るという見方が行政の側にある。

執行の実態——勧告は少なく、指導が桁違いに多い

この領域がどれくらい摘発されているかも見ておきたい。公正取引委員会が公表した令和 7 年度の運用状況によれば、勧告件数は 39 件で、対象となった違反行為類型の内訳は次のとおりである[5]

項目 令和 7 年度
勧告件数 39 件
 うち 不当な経済上の利益の提供要請 31 件
 うち 製造委託等代金の減額 6 件
 うち 返品 6 件
 うち 不当な給付内容の変更等 1 件
 うち 買いたたき 1 件
指導件数 8,261 件
取適法に関する相談 34,810 件
原状回復の総額 25 億 5,698 万円
原状回復を行った委託事業者数/受けた中小受託事業者数 177 名/5,165 名

内訳の 5 つを足すと 45 で、勧告件数の 39 を上回る。1 件の勧告に複数の類型が計上されるためである。この表から読めることは 2 つある。ひとつは、不当な給付内容の変更等での勧告は 1 件しかないこと。もうひとつは、指導が 8,261 件と勧告の 200 倍以上あることである。公表される勧告に至る事案は氷山の一角で、実際の是正は指導の側で大量に行われている。勧告の少なさを「あまり問題にならない領域だ」と読むと、判断を誤る。

発注を動かす前に決めておく 6 項目

変更や取消しの連絡を出す前に、社内で答えを持っておくべき項目を挙げる。ここが空欄のまま連絡すると、費用の話が後追いになり、結局は相手に負担が残る。どの状態まで戻せるかは、社内で持っている状態の設計そのものに依る。並べ方は発注ステータスは誰が動かすかを見てほしい。

項目 1:完成品・仕掛品・手配済みの材料を、連絡と同時に聞く形になっているか

完成しているものは受け取る義務があり、仕掛品と材料は費用負担の対象になる[1]。この 3 つの数量が分からないまま止めると、どちらの義務も果たせない。

項目 2:解約できる手配と、できない手配を分ける手順があるか

解約可能な範囲は解約してもらい、それでも残った負担を全額持つ、というのがテキストの示す整理である[1]。最初から総額だけを聞くと、この分離ができない。

項目 3:費用の申告を受けて支払を決める権限が、現場にあるか

取消しの判断は現場が早く、費用の決裁は上位というずれがよく起きる。決裁が遅れると、相手は費用を回収できないまま作業だけ止めることになる。

項目 4:変更後の内容を、いつ・誰が・どの形で明示するか

変更や明確化をした内容は相手に明示する必要がある[1]。増量のように新たな発注と評価される場合は、明示事項を改めて出し直す[1]

項目 5:変更の内容と理由が、7 条記録に落ちる経路があるか

記録規則は変更の内容とその理由、代金の額に変更があった場合の増減額とその理由を求め、事実が生じたときに速やかに記録することを求めている[3]。発注システムの更新履歴が理由まで残す作りになっているかを確認する。

項目 6:単価の見直しが要る変更かどうかを、誰が判断するか

発注内容が増えたのに見積価格を据え置くと買いたたきのおそれがあり[1]、相手から協議を求められて応じなければ第 5 条第 2 項第 4 号の問題になる[2]。変更の連絡と単価の再協議を、別々の担当が別々に扱わない設計にする。

よくある質問

取引先が「今回は構いません」と言ってくれた場合も、費用を負担する必要がありますか

第 5 条第 2 項第 3 号は「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに」変更させることによって利益を不当に害することを禁じている[2]。相手が費用を負担せずに変更させることが認められる場面は、テキスト上、相手からの要請による変更と、受領前に確認して委託内容と異なることが合理的に判断される場合に限られている[1]。発注側の都合による変更をその場で了承してもらったという事実は、この限定列挙のどちらにも当たらない。負担の話は同意の有無と切り離して進めるのが安全である。

まだ着手していないと言われました。それでも払うのですか

問題になるのは、変更や取消しによってそれまでに行った作業が無駄になり、または当初の委託内容にはない追加的な作業が必要となった場合に、その費用を負担しないことである[1]。相手に実質的に損害が生じていなければ、不当な給付内容の変更には該当しない。テキストの Q&A も、合意のうえで給付内容を変更する場面について、中小受託事業者に実質的に損害が生じなければ不当な給付内容の変更には該当しないと答えている[1]。ただし「着手していない」は相手の申告なので、材料の手配や外注の予約まで含めて確認する。

客先都合の変更なので、当社も被害者です。それでも当社が費用を持つのですか

持つ。違反行為事例には、取引先からの発注内容が変更されたことを理由として中小受託事業者にやり直しをさせ、それによって生じた費用を負担しなかった例、取引先からの要請により当初の発注から仕様を変更したため大幅に増加した人件費の負担を求められたことを理由に、その費用を負担せず発注を取り消した例がいずれも挙げられている[1]上流の事情は、下流に費用を転嫁してよい理由にならないという整理である。

数量を減らすのは「変更」ですか「取消し」ですか

実務上は区別する意味が小さい。発注を取り消すこと(契約の解除)は給付内容の変更に該当するとされ[1]、同時に、発注を取り消すことにより発注時に定められた納期に受け取らないことは受領拒否に原則として含まれる[1]。一部の取消しも「給付の全部又は一部を納期に受け取らないこと」に当たる。どちらの呼び方でも、完成分を受け取り、発生費用を負担するという手当ては同じになる。

変更のたびに発注書を出し直す必要がありますか

明示すべき事項が変わるなら、その内容を相手に明示する必要がある[1]。ただし明示の方法は書面に限られず、第 4 条第 1 項は書面または電磁的方法によると定めている[2]。また 4 条明示の規則は、一定期間における製造委託等について共通である事項をあらかじめ明示したときは、その期間内の明示は「あらかじめ明示したところによる旨」を明示すれば足りるとしている[4]。変更のたびに全項目を再発行する必要はないが、変わった項目が相手に伝わり、記録に残る形にはしておく必要がある。

まとめ

出した発注を変える・止めるという操作は、取適法上、禁止されていない。禁じられているのは、相手の責めに帰すべき理由がないのに費用を負担せずにそれをやることである[2]。そして発注の取消しは、給付内容の変更にも受領拒否にも当たるため、完成しているものは全て受け取り、仕掛品と部品代を含む発生費用は全額負担するという二段の手当てが同時に要る[1]

費用を負担せずに変更させられるのは、受領前の 2 つの場面だけである[1]。客先の設計変更も案件の中止も、そこには入らない。金額は、相手に解約できるものを解約してもらったうえで、残った負担を全額持つ[1]。そのうえで、変更後の内容を明示し、変更の内容と理由を第 7 条の記録に速やかに残す[3]。発注内容が増えたのに単価を据え置けば買いたたきのおそれがあり[1]、協議を求められて応じなければ別の号に触れる[2]

勧告の統計では不当な給付内容の変更等は令和 7 年度に 1 件だが、同じ年度の指導は 8,261 件ある[5]。数の少なさは、この領域が問われないことを意味しない。発注を動かす操作を、費用の申告・明示のやり直し・記録の 3 点とセットにした手順にしておくことが、いちばん確実な備えになる。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  3. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  4. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  5. 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
  6. 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(e-Gov 法令検索(デジタル庁))

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