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有償支給材と金型代——発注側が踏みやすい 4 つの禁止行為

この記事のポイント(結論先出し)
材料を有償で支給する、金型を預けたままにする、自社製品を買ってもらう、図面を無償でもらう。製造業の調達では珍しくないこれらの行為が、取適法ではそれぞれ別の禁止事項として並んでいる。共通するのは、代金そのものではなく代金以外のところで取引先に負担が移っていないかを見る点である。令和 7 年度の勧告 39 件のうち 31 件が不当な経済上の利益の提供要請で、違反類型として突出して多い。金型を 1 年以上動かさずに保管させているなら、その時点で該当している可能性がある。
目次
代金の外側にある 4 つの禁止行為
取適法(中小受託取引適正化法)は委託事業者の禁止事項を 11 項目定めている[1]。そのうち、代金の額そのものではなく、材料・型・物品・労務といった現物のやりとりを通じて取引先に負担が移る場面を扱うのが次の 4 つである。
| 禁止行為 | 条文 | 製造業で起きやすい形 |
|---|---|---|
| 有償支給原材料等の対価の早期決済 | 第 5 条第 2 項第 1 号 | 支給材の代金を、製品の代金より先に相殺する |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | 第 5 条第 2 項第 2 号 | 金型を無償で保管させる/図面を無償で出させる |
| 購入・利用強制 | 第 5 条第 1 項第 6 号 | 自社製品・指定リース・指定保険を買わせる |
| 買いたたき | 第 5 条第 1 項第 5 号 | 納品物が増えたのに単価を据え置く |
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有償支給材——先に回収してはいけない
発注側が半製品・部品・附属品・原材料を有償で購入させた場合、取引先の責めに帰すべき理由がないのに、その材料を用いる給付の代金の支払期日より早い時期に、材料の対価の全部または一部を代金から控除したり支払わせたりすることは禁じられている[1]。
ねらいは資金繰りの保護にある。有償で支給した材料の対価を早期に決済すると、取引先が受け取るべき代金が減り、支払遅延と同じように資金繰りが苦しくなるためである[1]。
ここでいう「控除」は、代金から材料の対価を差し引く事実上の行為を指し、その結果として支払期日に代金を全く支払わないことも含まれる。民法上の相殺が成立したかどうかとは関係がないため、「相殺」ではなく「控除」という一般的な語が使われている[1]。相殺契約を結んでいるかどうかは、判断に影響しない。
見合い相殺になる設計にする
早期決済にならないようにするには、有償支給材を使って製造し納入される製品の支払制度、検査期間、取引先の加工期間を考慮して、代金の支払と材料の対価の決済が見合い相殺になる仕組みにしておくことが要る[1]。
違反行為事例として挙げられているのは、原材料を加工して納品するまでの期間を考慮せず、その材料を使った物品が納品される前に材料の対価を代金から控除していた事例である[1]。支給と納品の間にリードタイムがあるにもかかわらず、支給の翌月に一律で控除する設定になっていれば、これに当たる。控除の時期を判断する基準になるのは製品側の支払期日で、こちらは受領日から 60 日以内に定めることが別途義務づけられている。その数え方は支払期日と遅延利息で整理した。
支給材の在庫と加工品の在庫がどこにあるかを把握できていないと、この設計はできない。実地棚卸の進め方で預け在庫の扱いを整理しているが、支給材は自社の帳簿にも取引先の帳簿にも現れ方が変わるため、決済のタイミングを設計する前に現物の所在を押さえておきたい。
認められる場合と、適用されない場合
取引先の責めに帰すべき理由として想定されているのは、支給された材料を毀損または損失したため納入すべき物品の製造が不可能となった場合、支給された材料で不良品や注文外の物品を製造した場合、支給された材料を他へ転売した場合である[1]。
また、この規定は「自己から購入させた場合」に適用される。取引先が必要な材料を発注側以外から購入した場合には適用されない[1]。ただし購入・利用強制の規定のほうは、発注側から購入させた場合だけでなく発注側以外から購入させた場合にも適用されるため、指定業者からの購入を求める運用は別の条文で見られることになる[1]。
取引先の希望で発注側が代わりに材料を調達した場合であっても、委託に係る給付に必要な分については早期決済が禁止される。取引先が独自に使用する分は受託取引と関係がないため、その分には適用されない[1]。
加工前の製品を買わせる形
加工を委託するにあたり、加工前の製品を自社または関連会社から購入させ、加工後に買い戻す形をとることがある。この場合、加工前の製品を有償で支給することは、給付の内容の均一性を維持する等の正当な理由があれば購入・利用強制には該当しない[1]。ただし正当な理由がなく、取引先が自ら調達しても均一性を維持できる場合であって、購入する意思がないと表明したにもかかわらず重ねて購入を要請すれば、購入・利用強制として問題になる[1]。
金型・治具・検具の保管費用
部品等の製造委託に関し、その発注を長期間行わない等の事情があるにもかかわらず、製造に用いる型等の保管費用を支払わずに取引先に保管させることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当する[1]。
ここでいう型等には、金型、木型、治具、検具、製造設備等が含まれる。保管費用とは、自社倉庫の使用料相当額、外部倉庫の使用料、倉庫等への運送費、メンテナンス費用等を指す[1]。
所有権の所在は関係ない。発注側が所有する場合のほか、取引先が所有していても発注側が事実上管理しているとき、たとえば廃棄等に発注側の承認を要する事情が認められるときも同様に扱われる[1]。「あの金型は先方の資産だから」という整理では逃げられない。
「長期間行わない等の事情」の 4 類型
取適法テキストは、どのような場合が「その発注を長期間行わない等の事情」に当たるかについて、次の例を挙げている[1]。
1. 部品等の発注を長期間行わない場合
金型等を用いて製造する製品の発注を 1 年間以上行わないにもかかわらず、無償で保管させていた場合。
2. 取引先が型等の廃棄や引取りを希望している場合
廃棄や引取りの希望を伝えられていたにもかかわらず、引き続き無償で保管させていた場合。
3. 次回以降の具体的な発注時期を示せない場合
今後 1 年間の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず、引き続き無償で保管させていた場合。
4. 型等の再使用が想定されていない場合
木型等を用いて製品が製造された後、改めて使用する予定がないにもかかわらず、引き続き無償で保管させていた場合。
1 年という目安が示されている点は、実務の点検基準として使いやすい。品目マスタから、直近 1 年間で発注が発生していない品目を抽出し、その品目に型があるかを確認すれば、対象は機械的に洗い出せる。
取引先からの請求がなくても支払う
発注を長期間行わない等の事情がある型等を保管させる場合、発注側は取引先からの請求の有無にかかわらず、型等を廃棄・回収するか保管を継続するかも含めて協議したうえで、保管期間中に発生した保管費用を支払わなければならない[1]。保管期間とは、その型等を用いる部品等の発注が行われていない期間を指す[1]。
稼働状況を常に把握することが双方にとって過度な負担となる場合には、協議のうえ、年度ごとに保管させている型等を用いる部品等の発注状況を確認し、その年度の保管期間に応じた保管費用をまとめて支払うことも許容されている[1]。毎月の按分計算をしなくてもよい、という現実的な逃げ道が用意されている。
違反とされた事例
取適法テキストの違反行為事例には、量産終了から一定期間が経過した後も型を保管させ、取引先からの破棄申請に対して「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず、保管とメンテナンスに要する費用を考慮せず無償で保管させた事例が挙げられている[1]。返答を保留し続ける対応が、そのまま違反行為として記録されている。
ほかに、自社所有の型・治具を貸与していて大量発注の時期を終えた後、発注を長期間行わないのに無償で保管させた事例、取引先所有の金型・治具の廃棄に自社の承認を要することとしたうえで、発注を長期間行わないのに無償で保管させた事例がある[1]。
図面・データを無償で出させること
金型の製造委託を行った際、4 条明示した給付の内容に金型の図面が含まれていないにもかかわらず、金型の納入に併せて図面を納品するよう要請することは、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがある[1]。
図面も欲しい場合は、別途対価を払って買い取るか、あらかじめ発注内容に図面を含むことを明らかにし、図面を含んだ対価を十分な協議のうえで設定して発注する必要がある[1]。発注書の 4 条明示 12 項目のうち「給付の内容」に何を書くかが、そのまま無償要請かどうかの分かれ目になる。
違反行為事例には、外国で製造したほうが金型の製造単価が安いことから、取引先が作成した金型の図面や加工データを外国の事業者に渡して製造させるため、対価を支払わずに提出させた事例が挙げられている[1]。委託内容にない金型設計図面等を無償で譲渡させた事例も併記されている[1]。
一方、後から代金だけ据え置くのも別の問題になる。金型のみを納品する取引から、金型に加えてノウハウを含む設計図面等の技術資料を納品する取引に変更したにもかかわらず、代金の額を見直さず従来どおりに据え置くことは、買いたたきに該当するおそれがあるとされている[1]。見積段階より発注内容が増えたのに見積価格のまま据え置く行為は、下請法当時から買いたたきの典型例として挙げられてきたものである[5]。納品物が増えたときは、無償要請の側と単価据え置きの側の両方を見る必要がある。据え置きが問題になる条件は買いたたきの判断基準にまとめた。
購入・利用強制——「お願い」でも該当する
給付の内容を均質にし、またはその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、または役務を強制して利用させることは禁じられている[1]。
対象は自社製品に限らない。「自己の指定する物」には発注側または関連会社等が販売する物で、取引先の購入の対象として特定した物が全て含まれ、「役務」には保険、リース、通信サービスなども含まれる。自社の取引先である特約店や卸売店、子会社・関係会社等の製品やサービスも対象になる[1]。
「強制して」の解釈も広い。取引の条件とする場合や、購入・利用しないことに対して不利益を与える場合のほか、取引関係を利用して事実上購入等を余儀なくさせていると認められる場合も含まれる[1]。任意の依頼のつもりでも、取引先が断れない立場にあれば違反になる。
該当するおそれのある要請の仕方として、購買・外注担当者等の取引に影響を及ぼす者が要請すること、取引先ごとに目標額や目標量を定めて要請すること、購入しなければ不利益な取扱いをする旨を示唆して要請すること、購入の意思がないと表明したのに重ねて要請すること、購入の申出がないのに一方的に物を送付することが挙げられている[1]。
実際の違反行為事例には、指定するリース会社との工作機械のリース契約を、取引先が同等の性能の機械を保有していて断ったにもかかわらず再三要請して締結させた事例、指定する通信事業者と契約しなければ今後製造委託をしない旨を示唆して既存契約を解除させた事例などがある[1]。
協賛金・労務・システム利用料
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、取引先の利益を不当に害すれば違反になる[1]。ここでいう経済上の利益には、協賛金や従業員の派遣等の名目を問わず、代金の支払とは独立して行われる金銭の提供や作業への労務の提供が含まれる[1]。
提供が販売促進につながるなど直接の利益になるものとして、取引先が自由な意思で提供する場合は、利益を不当に害するとはいえない。ただしこの直接の利益には、将来の取引が有利になるという間接的な利益は含まれない[1]。決算対策を理由とした協賛金の要請のように直接の利益にならない場合や、負担額と算出根拠、使途、提供の条件が明確になっていない場合は問題になる[1]。
違反行為事例には、年度末の決算対策として協賛金を提供させた事例、製品カタログ製作のための協賛金を提供させた事例、催事の抽選会の景品として無償で商品を提供させた事例、ショールームに展示するため展示用製品を無償で提供させた事例、納品する商品と同一の商品をサンプルとして無償で提供させた事例が挙げられている[1]。返品に係る送料を取引先に負担させた事例も含まれる[1]。この最後の事例は、送料の負担だけでなく返品そのものが違反にあたる例でもある。引き取らせてよい場面がどこまでかは受領拒否・返品・やり直しの線引きで扱っている。
受発注のためのシステム利用料についても整理がある。取引先に電磁的記録の提供を行うため、システム開発費等の発注側が負担すべき費用を取引先に負担させることは違反となるおそれがあるが、取引先の利用状況に応じて追加的に発生する費用について、取引先が得る利益の範囲内で負担を求めることはこの限りでない[1]。無償での技術指導や試作品の製造等を行わせて利益を不当に害する場合も、同じ条文で問題になる[1]。
令和 7 年度の勧告は 31 件がこの類型
令和 8 年 6 月 10 日に公表された運用状況によると、令和 7 年度の勧告 39 件の違反類型別内訳は、不当な経済上の利益の提供要請が 31 件、代金の減額が 6 件、返品が 6 件、不当な給付内容の変更等が 1 件、買いたたきが 1 件だった[2]。1 件の勧告が複数の類型に当たることがあるため、内訳の合計は勧告件数を上回る。指導は 8,261 件、原状回復として 177 名の委託事業者が 5,165 名の中小受託事業者に総額 25 億 5,698 万円相当を返還している[2]。
件数が突出している理由は、この類型が継続的に発生し続ける状態を捉えるものだからである。金型を無償で保管させている状態は、指示を出した瞬間ではなく保管が続いている限り毎日成立している。単発の値引き要請と違い、気づかないうちに年単位で積み上がる。
2026 年 1 月からの変更点
取適法では、製造委託の対象物品に金型以外の型等が追加された[3]。取適法テキストの製造委託の定義では、金型、木型その他の物品の成形用の型、工作物を固定する道具である治具、目的物の製造に専ら用いられる切削工具などの特殊な工具が挙げられている[1]。型そのものの製造を委託する取引が、対象として明確になった。
適用対象も広がった。判定に使う基準として従業員基準が新設され、製造委託等は 300 人、それ以外の情報成果物作成委託等は 100 人という区分が新設された[3][4]。この従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用される[3]。さらに、発荷主が運送事業者に物品の運送を委託する取引が特定運送委託として対象取引に加わった[3]。運送を委託している場合、荷積みや荷下ろし、倉庫内作業といった運送以外の役務を無償で提供させることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当する[1]。
点検の手順
型の一覧と発注実績を突き合わせる。直近 1 年間の発注がゼロの品目に紐づく型を洗い出す。廃棄・回収するか、保管を継続して費用を払うかを協議する対象になる。
廃棄申請への回答期限を決める。取引先から廃棄や引取りの希望が出たときに、いつまでに回答するかを社内で決めておく。回答を保留し続ける対応そのものが違反事例になっている。
支給材の控除タイミングを確認する。支給日から製品の代金支払期日までの日数を計算し、控除がそれより先に来ていないかを見る。
発注内容に図面やデータが含まれているかを確かめる。含めるなら対価に反映させ、含めないなら要請しない。どちらでもない状態が問題になる。
購買・外注担当者が販売や勧誘に関わっていないかを確認する。取引に影響を及ぼす者からの要請は、任意の依頼として扱われない。
よくある質問
取引先が同意していれば型を無償で保管してもらってよいですか
発注を長期間行わない等の事情がある場合、請求の有無にかかわらず保管費用を支払わなければならないとされている[1]。取引先から請求が来ていないことは、支払わなくてよい理由にならない。
支給材の代金を相殺ではなく別途支払わせる方法は
別途支払わせる方法でもよいが、有償で支給した材料の代金を、それを用いて製造した製品の代金よりも早く支払わせてはならない[1]。
年末セールの手伝いに人を出してもらうのは
金銭・労働力の提供と取引先の利益との関係を明確にしないで要請することは、該当するおそれがある。派遣によってどれだけの利益が見込めるかを合理的根拠を示して明らかにし、それが不利益を上回ることを明確に示して同意を得るのでなければ、違反のおそれがある[1]。
不採用になったデザインの権利も譲ってもらいたい
当初の発注内容にない不採用デザインの譲渡を無償で要求することは、該当するおそれがある。譲渡対価を双方でよく話し合って決める必要がある[1]。
まとめ
有償支給材、型の保管、図面の提供、購入の要請。いずれも代金の額には現れないため、購買の実務では「取引条件」として扱われず、担当者の裁量で処理されやすい。しかし取適法では、これらが代金の減額や支払遅延と同じ重さの禁止行為として並んでおり、令和 7 年度の勧告では最も多い類型になっている[2]。
点検の起点は、型の一覧と発注実績を突き合わせられるかどうかにある。品目ごとの発注履歴が引ければ、1 年以上動いていない型は機械的に洗い出せる。受発注システムの選び方でも触れたとおり、必要なのは高度な機能ではなく、発注の履歴が品目単位で残っていることである。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
- 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
- 下請法 知っておきたい豆情報 その12(公正取引委員会 中部事務所)
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